番外編:設定資料 経済と感染症
※今回はまだ第五章の途中ですが、時事ネタのようになってしまっているのでいったん間に設定解説を挟みます。この作品世界自体は2017年頃に書き始めて大まかな年表もその頃出来てましたが、まさか世の中がこんな状況になるとは・・・。
【経済】
この世界では銀行や保険制度はかなり古くからあります。
巡礼者達が多額の現金を持ち歩かずに済むように聖堂騎士団には金融部門があり、巡礼者の資産を預かって代わりに銀行券を渡し必要に応じて両替し各地で渡していました。
巡礼中でなくても使えるようになり、信用の高い聖堂騎士団に預かって貰えるとなるとますます資産が預けられるようになります。
騎士団金融部門側も現金が大量に余っていると有効活用する為に投資をするようになります。巡礼者保護以外にも土地、芸術品を買い漁ったり、神殿、聖堂をより豪華絢爛に飾り立てるようになりました。
第二帝国期に聖堂騎士団が利益を追及するような集団になり、神殿も神殿前に集まる人目当てにやってくる商人達から市場税を取るようになります。
神殿勢力があまりに強くなり皇帝の戴冠にも口を出すようになると、皇帝は民衆の支持を得て神殿勢力を潰し、領地を没収し、聖堂騎士団から金融部門を分離させました。
第三帝国期末期から第四帝国期になると汚職や貴族の増加で帝国の財政は悪化します。徴収した税金の半分は役人の懐に消えた為、政府は政府外の機関に一部の事業を委ねていきました。税収不足を補う為、さまざまな政策が実行されますが、国債の発行、運用は証券運用で成功していたポンテ・ミア―ム商会に任されました。
【内海貿易事件】
これは前述のポンテ・ミアーム商会が引き起こした事件であり、帝国や大陸各地、南方圏においては特に大勢の破産者、自殺者を産み出しました。
例年、貧困層の疫病や外死者が多発する外海側には被害が無く特に内海諸国に集中した為、内海貿易事件と呼ばれ南方候反乱の原因になりました。
国や軍と親しかったミアーム商会はいち早く各地の情報を収集し、先物取引で潤っていました。より大きな利益を求めて、大量の証券を発行し現金をかき集めてはさらに事業を拡大していきます。
一部の官僚は急激な事業拡大に危惧を覚えていましたが、好景気に沸く市場には受け入れられず、皇帝からの信用もなかった為、ポンテ・ミアーム商会を真似た証券企業が大量に起業されました。
金の産出量が低下しつつあった帝国では紙幣、証券の発行が奨励されて証券市場はさらに加速して投機的になっていきます。
客の囲い込みの為に、分割払いを許可し分割払いでも一定以上の購入で配当金を出すという商会も出てきました。
帝国のみならず大陸中の人々が借金をして証券を買い求めました。
が、それは長く続きませんでした。
交易権ではなく来年、再来年の農作物、まだ開発、研究もされていない医薬品、『未知の病気から優先的に治療する』証券すら発行され実態の無い取引に高値が付き、現金だけかき集めた後に廃業する業者が続出し破産者が出始めます。
競争激化で株価が一年で何倍にも上がり、客の取り込みが限界に達すると配当金を出すのも苦しくなりました。大店では資金繰りが悪化して廃業する事も出来ず、粉飾決算により銀行から資金を借りてその場しのぎを行い被害は帝国国営銀行にも拡大します。
ポンテ・ミアーム商会も自社が持つ資産の何万倍もの取引を行っていました。
帝国貴族の破産者が続出し、国営銀行への不渡りが発生するといよいよ帝国政府も対処に乗り出しますが、フリギア家と結びつきの強かったポンテ・ミアーム商会はさらなる粉飾決算を行い、癒着していた官僚のコネを使い政府の追及を逃れてさらに被害を拡大させました。
フリギア家が没落したカールマーン帝の時代になってようやく監査が入りましたが、この時には既に経営陣はいずこかへ逃亡してしまい、証拠も焼き捨てられて残ったのは借金を抱えた人々です。
この状況を収拾する能力は帝国政府にはなく、銀行業で成功していたアルビッツィ家は自家の為にも借金を抱えた顧客を守るためにポンテ・ミアーム商会の事業を引き継ぎ市場再建に乗り出しました。
政府もアルビッツィ家とガドエレ家の進言で世界各地の交易に規制を設けました。
東西南北の行政長官の監督権限は強化され、役人の負担が増えた分、各国への関税は引き上げる名目になりました。帝国商人は優遇され、白の街道を優先的に利用可能であり、平等な競争が行われない事から一部の国家、商人達は不満を覚えて海路開拓に乗り出します。
【感染症】
古代帝国が全大陸を制覇し、白の街道を敷設し、年中軍団兵が各地を往来した結果、一部の田舎でのみ蔓延していた風土病が全世界へ拡大するようになりました。
旧帝国の都が滅び、亡者の都となったのも伝染病が一因となります。
現在、発生している伝染病で特に厄介なものは西方諸国が労働力を確保する為より西の彼方にある島国から奴隷を連れてきた為発生したものです。
東方圏では定期的にペスト、コレラが発生し、西方圏からは奴隷から黄熱病が持ち込まれます。気候が近い東方圏南部に黄熱病が持ち込まれるとそれは大発生し大量の死者を出しました。
下水道があり、都市の河川の両岸も混凝土で固められている帝国では持ち込まれてもあまり被害は拡大していませんが、大衆には衛生学が及んでおらず、顕微鏡もまだ開発されたばかりで科学技術の研究に熱心な魔術師の趣味の産物に過ぎず細菌の研究には至っていません。
帝国では被害が及ばずとも未知の病気に恐怖し、体に良いとされるもの、医薬品への研究に投資が行われて、投資詐欺事件も発生しました。




