番外編:ヴィターシャさんの皇家解説
コンスタンツィア様がお父様に報告書を書く為に皇家の男どもの素行調査をしてきなさいとおっしゃるので仕方なくやりましたが、これがなかなかいい小遣い稼ぎになりました。
まず帝都の説明ですが、ここには帝国貴族が官僚として何十万人も集まっていて、子弟が通う貴族向けの学校もたくさんあります。でも皇家のお坊ちゃん達が通うのは基本マグナウラ院ですね。
身近にいらっしゃるので調査はしやすいです。
マグナウラ院は伝統的に外国の王族も親帝国教育を施す為に招き入れているので、在学中にかなり自然と顔が広くなります。お坊ちゃんたちがみなここに来たがるにも伝統だからという以外にもそんな理由があります。
帝国は役所の役割が明文化されていますが、外国の場合王様の命令一つで全部決まっちゃうような所もありますから、お近づきになってうまくいえば交易の独占権ももらえたりします。貴族も金儲けに走るご時世ですから今のうちに知己を得たいんですね、みんな。
他所の貴族達も皆、誰と誰が親しくて休日にはどんな事をしているのか何処に行くのか、趣味は何か、好物は何かとか知りたがるわけですね。集めた情報で気の利いた贈り物をしたり、偶然をかこつけて同じ盛り場に行ったりだとかして利用されています。
あ、そういえば皇家の紹介でしたね。
とりあえず皇家のお坊ちゃんたちの紹介でもしましょうか。
人について語る前に彼らの背景について説明しておかなければなりません。
帝国には主に皇帝属州(実質的には皇帝に委託された政府管轄)と皇家属州(私領)の二つがあり私達は皇帝属州ダルムント方伯領の貴族です。皇家属州は他の従属国と同じように帝国大法典、万国法は守らなくてはいけませんが自治法が働いています。
皇帝属州の帝国人からすると皇家の人はある意味外国みたいなものです。
旧帝国時代からずっと続いている皇家もあれば、軍人皇帝時代に旧皇族からお嫁さんを貰って皇家の仲間入りした家柄もあります。
前者が没落したフリギア家、後者が武闘派のオレムイスト家やラキシタ家です。
今の皇帝を出しているトゥレラ家っていうのは旧帝国時代は占星術師の役割を負っていた家系ですが、吉兆を占う為に全世界の天候情報をデータとして収集して蓄積していました。
あちこちに天文台を所有して、地形や星の動き、天候を熟知していた彼らは旧帝国が滅んだ後、再統一戦争でそのデータを生かして勝利しました。
では紙面の都合上全ては無理ですが主な皇家を紹介していきましょう。
■皇家属州(全285州)
★フォーンコルヌ家:70州
法の番人の異名を持ちモットーは『法に携わるもの高潔たれ』
1428年時に学院に通っているのはご長男のアルヴェラグス様のみ。
一年生で男子としては最優秀成績を残されました。まだ10歳ですよ?
よほどの英才教育を受けて来られたのでしょうね。
まだ小さいのに虐められているマヤさんを助けようとしたり義侠心のある少年です。
最大皇家のご長男で誠実なお人柄となると、将来議会から第一候補として上がってくる可能性が高いです。
でも1429年度では急に休学したとかなんとかで消息不明です。惜しい。
領都はフラリンガム。
高地ばかりの州を領有していてしかもあまり資源もないです。
僻地で一州あたりの人口も多くはありませんが、広大な領地を有しているだけあって人口は三千万人越えの最大皇家です。無駄に広いので統治を効率化する為に法治主義が発達したのかもしれません。
一族の有名人は蛮族領の奥地まで自ら進攻したセオフィロス帝、そしてマグナウラ院を建てたマグナウラ様です。
★ラキシタ家:45州
軍事力に秀でた家です。
過去、帝国ではなかなか後継者が定まらず各地に駐屯している軍団長の叛逆を防ぐ為に中央の軍人や帝国騎士から皇帝が選ばれた事があります。
この家はその帝国騎士の家系です。
他の皇家と組んで縁戚関係になり勢力を増すと選帝選挙時代になっても帝国議会から皇帝候補として指名されるようになりました。
四人兄弟のうち12歳のボロス様が学院に通っています。
まだまだ政治思想とかは無いようですし、下級生ですからインタビューするまでもないでしょう。
長男かせめて次男だったら選挙に出てくる可能性もありますけどねえ。
そのうちお兄さん達の話を聞きに行きたい所です。
兄弟仲は悪くないらしいので、ラキシタ家が候補を決めたら一族をあげて応援してくるでしょう。
★オレムイスト家:40州
武闘派皇家その二です。
騎士の家系のラキシタ家と違って古くからの職業軍人の御一族です。
ご長男のバンスタイン様は1428年の時点で二年生の12歳です。
バンスタイン様は友人の話ですと新しい兵器よりも古くて信頼性のあるものを好むようです。素行にも問題はなく、健全な思想の持ち主でご長男の為、まず間違いなく彼が選帝選挙に出てくるでしょう。
有名な御一族の方はオンスタイン帝。
唯一信教を国教化しようとしてたとか噂される方で、実現していたら宗教と軍事力を握るヤバい皇帝になる所でした。実現前に親衛隊によって暗殺されています。
★アイラグリア家:18州
内務大臣だったヴィキルート様の一族ですね。
この辺りから支配下の人口は一千万人を切って来ます。
東方の大国は人口一千万を越える国がいくつかあるので皇家といっても規模はこの通りさほど大きくありません。
学院にはヘンルート様が通っており、私達が一年生の時16歳の二年生でした。
レクサンデリ様やユースティア様とつるんでいるケースが多いです。
人を利益になるかどうかで見ているんじゃないかっていう冷たい視線を感じます。
レクサンデリ様と仲がいいのもお互いドライな関係を保てるからじゃないでしょうか。
有名な御一族は皇后エンスヘーデ様。
女性としてはマグナウラ様の次に有名な方で軍事作戦に口を出して味方を全滅させてしまったり、マグナウラ様のように女性の活躍を後押ししようとしていましたが、研究成果を自分が奪って名声を得ようとしたので段々嫌われていきました。
★ロットハーン家:17州
技術屋の御一族です。
私達が一年生の時に18歳で五年生のグリンドゥール様が通ってらっしゃいました。
金遣いが荒いようで実はレクサンデリ様に借金しているんじゃないかって噂されています。事実だった場合、今時の皇帝には相応しくないんじゃないですかね。
有名人としては南方総督だったウィルシュナ帝です。
古代帝国滅亡後に裕福な南方圏を領有し続け実質独立していた総督ですが、新帝国が発足して本土が再統一されると、帰順する代わりに当時の皇女を妻として迎えて新皇帝になりました。
近衛騎士サガやイシュトヴァーン帝の時代に作られた帝都もこの時代に再設計されて今の形に落ち着きました。
1000年以上前なのに当時の上下水道は今もきちんと稼働しています。
私費も投じて荒れ始めていた白の街道も再整備して全世界へ波及させたので結構偉大な皇帝だったと思います。
★センツィア家:12州
1428年時に三年生で16歳のガルバ様が通ってらっしゃいました。
家訓は『知恵に勝る力無し』ということで学者肌、魔術の研究に携わる方が多い一族です。そこそこ大きな皇家の割にあまり皇帝に一族を出してくる事は少ないですね。
ガルバ様もよく図書館でよく見かけます。
★フリギア家:8州
南方候反乱の討伐に失敗したり、万年祭の戦車競走や闘技大会で不正を行ったりしたのがバレて没落中です。一族内で殺し合いがあって一部の長老と二人の子供以外皆死んでしまいました。
家臣の貴族も実質独立諸侯状態。
一番上の男の子もまだ10歳になっていませんから当分学院で会う事はないでしょう。議会ではフリギア家の所領を没収して皇帝属州に組み込み統治を行う事が検討されています。
★トゥレラ家:7州
現在の皇帝陛下の御一族。
本編で詳しく出ていますから飛ばして行きましょう。
★ガドエレ家:3州
商業中心に活躍している御一族ですね。
外国にあちこち工場を作ったり活発に商人を送り込んでいるので議会の目の仇にされています。というのも収入を帝国に収めず外国で回しているからです。
保有資産はアルヴィッツィ家と合わせて帝国経済の三割を越えると言われています。
今年はまだマグナウラ院にご子息を送り込んでいませんが、10歳を越える男子がいますのでそろそろいらっしゃるでしょう。
★アルヴィッツィ家:2州
レクサンデリ様の御一族ですね。
皇家の男子で唯一女性を側近として学院に連れてきています。
皆愛人枠だろうなー、よくもまあ堂々と連れてくるなーと感心しています。
私は知己の間柄ですので突っ込んでみましたが、妹みたいに思われているそうで手を出していないそうです。ほんとは護衛を置くべきなんでしょうけど長旅を共にしてきたので今さら別の人間を傍に置くのも億劫なんですって。いちおうジュリアさんは護身術程度は使えるそうです。
コンスタンツィア様に報告して皆でどう思うか聞いてみたらやっぱり照れ隠しじゃないかっていうのが結論でした。
だってジュリアさんのレクサンデリ様を見つめる視線が時々熱いんですもの。
※他に二十家ほどの皇家がありますが、皆数州しか領有していないし特筆事項も少ないので省略します。
【その他】
選帝対象とならない皇家が他に二家ほどあります。
東西南北に副帝を置いていた時代の名残ですね。
西と南の副帝の家柄は断絶していますが、北と東は残って今は従属国と蛮族の監視役としての役割を担っています。
東方の監視役ドゥーカス家は二人の男子が同時にマグナウラ院に通っています。
今の所出番はありません。
皇帝属州と合わせて約500州、人口にして二億~三億人が帝国本土の全てです。
広大で人口も従属国より圧倒していますが、その力は分散されて内部でいがみ合う事も多々あり、いつか東方圏に追い抜かれる事が懸念されています。
現在の帝国では表立っては言いにくいですが有力皇家の旗の下に帝国の力を統一するか、皇家を廃して皇帝を象徴的な地位に据え、政府が一元管理するかという議論が水面下で続いています。
昨今話題のサウカンペリオンと旧スパーニア三大公国を併合すると政府が管轄する皇帝属州が皇家を上回り議会勢力が皇家に配慮せずとも力で上回る事が可能になってきます。
これまで帝国に次ぐ最大の王国だったスパーニアが98州、人口も2千万人くらいでした。現在の最大国家フランデアンはその半分くらいでしたが、スパーニアの2/5とウルゴンヌを取り込んでいるので一気に国力が上がっています。
そのフランデアン王子フィリップさんは1428年の時点で3年生13歳。
私達の捜索をしていたせいで留年しています。
相変わらずちっちゃいですが、顔つきや筋肉の付き方はもう大人なのでこういう種族なんですね。弟さんも入学可能年齢にさしかかりますが、同時に入学させると比較されて可哀そうだと遅らせる予定だそうです。
では、今回はこんな所で!




