番外編:蠢くものたち
「さて、お望みのものは全て準備した。これで我々とまた同盟を組んでくれるね?」
「まさか本当に一国をでっちあげるとはのう・・・。儂は構わんが、彼らが裏切者と再び盟約を結ぶとは限らんぞ。儂が約束したのは橋渡しをしてやる事だけじゃ」
某年某月某所である男女が密会をしていた。
男はまだ人類の中心領域ではあまりみかけないスーツ姿で、女は騎馬民族のようないでたちだ。
「それで十分さ。君の背後にいる方はかなりの知性があるとお見受けしている。オレムイストの連中は君達を勇あれど知なしというがとんでもない。君が学院で私の記録を抜けるか楽しみだ」
「頭が働くなら受けるだろうと儂から伝えて欲しいのか?そんな挑発をしても一顧だにするような奴ではないぞ。お前達とは見ている世界が違う」
「わかっているさ。先ほど裏切り者と言ってくれたが、僕らから見れば君達の方こそ裏切り者だったんだよ。途中で進軍を止めて繁殖活動を始めてくれたせいで先王の計画はご破算になってしまった。君達だけじゃあ長い戦争を戦い抜くのは不可能だ。いくら個として勇敢で優れていても、組織力も団結力も僕らには到底敵わない」
自分達と組む以外の選択肢は無い筈と男は確信していた。
「やはりわかっとらんな。彼女が見ている世界は文字通りの意味で違う。現象界の些細な出来事などどうでもいいのじゃ。子供達が生きようが死のうが心乱される事は無い。彼女は知っておるのじゃ。いずれお前達の時代は終わる」
「ふーん。まあいいさ。その時が来たら思い出して欲しいね。混血児を保護していたのは僕らだという事を」
「わかっとる、わかっとる。じゃから境界線に国家をでっち上げたのじゃろうが」
お互いに信頼関係は無いが、双方弱みがあり互いを必要としていた。
「では、君の任務を言ってくれ」
「儂の力で知り得た事は全てお主に教えてやる。そして連中を引っ掻きまわし、尻に火をつけてやろう」
「よろしい。だが、忘れないでくれ。今はまだ力を蓄える時期だ。君達も力を温存するように。やり過ぎれば敵は強固になる。失火くらいならいいが、大火を起こしてはならない」
「わかっとる、わかっとる、山火事は一度起きれば制御が出来ん。陥れやすい者に心当たりはあるか?」
男はいくつかの候補をあげた。
「君の一族は男を操るのに長けているそうだね。君もかい?」
「儂のようなちんまい者を好む男もいるのか?」
「良い趣味とはされないからこそ陥れやすい。だからこそ君の立場がうまく使えるのだよ、姫」
「ふーん。ま、よい。時が来るまでの暇つぶしとしよう。で、いつその時が来るんじゃ?」
「あと三十年」
姫君は長すぎる、と嫌そうな顔をした。
その忍耐力の無さこそが男にとって利用しやすい部分であった。