7時間目 あの子の手作り弁当
先に言っときます
今回は文字数やたら多いです
省略するか迷ったんですけど、あえて書きました
まあ…それでこの長さなんですから無様としか言いようは無いですが…
2036年9月17日
ふとスマホの時計に目をやる
今日はこもれび高校の創立記念日でお休みだ
だから今日はみゆきとデートの約束をしているのだ
しかし、約束の時間をすでに15分も過ぎている
元々約束事にはしっかりしている彼女ゆえに珍しい
家に行ってもいいのだが、それだと急かしてることになる
昔、俺は爺ちゃんに「女の子を急かすものではない」と教え込まれている
女の子は何かと準備に時間がかかるものだからだ
特に好きな男の子の前では普段よりかわいくありたいものだという
俺はそのまま待つことにした
その時だった
「うわっ!」
突如、俺のスマホが鳴り響く
画面を見ると、みゆきからメールが来ていた
俺がメールを開くと、そこには「もう15分も駅で待ってるんだけどなにかあったの?」とあった
「やっべ!待ち合わせ場所間違えた!」
実はみゆきとは駅で待ち合わせというふうに伝えていたのだ
にもかかわらず俺は延々とみゆきの家の前で待っていたのだ
つまり遅刻してるのは俺の方だ
俺はみゆきに連絡し、駅まで全力で走った
駅に着くと、そこには不機嫌そうにしたみゆきがいた
そりゃそうだ。この暑い中で20分近くも待っていたのだから
俺は電車に乗るまでの間ひたすら謝り、なんとか許しをもらえたが、次は絶対にやらかさないように気をつけないとな…
この怒りようだと、おそらく次は無いだろうから
俺はちらっとみゆきの顔を見た
なんか若干違和感がある
何かがちょっと違う気がする
俺は改めてみゆきを見てみる
「あ、もしかしてみゆき、軽くメイクした?」
「あ、気付いた?」
「うん。最初はなんかちょっと違うなって程度だったけどよく見たらね」
みゆきは普段メイクはしない
彼女のお父さんが「若いうちはメイクをしなくても勝負できる」という考えなのだ
女の子としてはしてみたいという気持ちもあるだろうからそういう考えの親に抵抗はあるだろう
しかし、彼女のお父さんはそれを彼女に対して結果という形で示している
実際、彼女はメイクをしていなくても、していると思わせてしまうくらいだから
しかし、化粧一つで女はどんなにでも変われるとはよく言ったものだ
普段のかわいさとは違った雰囲気を感じる
話を聞くと、彼女のお父さんは、メイクを全面否定しているわけではないらしく、時と場合によってはさせてくれるらしい
ただ、それもやり過ぎるとマナー的にもあまり良くなく、何より若いからこそ持つ良さを台無しにしてしまうから、それを知らないうちは自分でやらせたくないらしい
なんというか…すごく大事にされてるなと思う
「凄いな、みゆきのお父さん。俺に娘ができたとしても真似はできないかな…。嫌われそうで」
「意図が伝わってないと嫌われるかもね。特に、それくらい自由にさせてほしいって思う女の子には」
「ちなみにみゆきは?」
「んー…私は別にいいかな…。しなくても綺麗に見えるっていうのをここまで結果という形で見せられちゃったらね。その分他のことにお金を回せるし」
「なんというか…現実的だな」
「でもあかりは好きにさせてほしい派みたい」
「あー、確かにあかりちゃんの性格だとね」
あかりちゃんは、みゆきの妹だ
やりたいことがあるということで今は遠くの全寮制の女子校に通っているため、俺も最近会えてはいない
ただ、この間みゆきが会いに行った時は、家にいた時とはかなり変わっていたらしい
「ちなみにあかりちゃんはみゆきが化粧してないのは?」
「知らなかったみたいだよ。だから意外だったと同時にメイク無しでメイクした子と勝負できてるっていうのが相当羨ましいみたいだったよ」
「そりゃそうだろ。化粧なしなのに化粧してるんじゃないかって思うような見た目とか。俺、男だからよく知らないけど大変なんだろうしさ」
「最後は『お姉ちゃんばっかりずるい』ってお父さんに私がやってること聞いてたよ」
「結果は?」
「今結構頑張ってるみたいだよ」
なんというか…あかりちゃんらしいな
あかりちゃんはみゆきに対してビジュアルについては対抗意識が強かった
そしてそれは今でも変わっていないらしい
それに最近、あかりちゃんは俺に対して猛烈にアタックしてきている気がする
なんか女同士の戦いの縮図を見ているかのような感じだ
でもみゆきには争ってると思うような感じは全くない
強者の余裕なのか、それとも本人は争ってるつもりはないのか
ーーー次は、こもれび高校、こもれび高校、終点です
「あ、やっべ」
「?」
「ごめん!乗り過ごした」
「くすっ」
「え?」
「考え事してると電車乗り過ごすの、昔と全然変わってないね」
「うぐっ…」
俺は昔から何かを考え出すと周りが見えなくなる
そして、それを電車の中でやるとほぼ確実に乗り過ごすのだ
俺たちは終点まで乗り、目的地の駅まで折り返した
「みゆき、トイレ大丈夫?」
「え?突然何?」
「これからちょっと歩くからトイレ行くなら今のうちだよ」
「じゃあ…」
みゆきは俺に荷物を預けると、そそくさとトイレに行った
俺はスマホを開いて地図を確認する
距離はそこそこあるが、そこまで頑張って行くだけの価値はある
実は今日行く場所は、とある小さなスイーツショップだ
俺は女の子たちとの話題作りのためによくスイーツショップ巡りをしている
そして、女の子たちに美味しかったお店の情報を教える
その代わりに俺は女の子たちから今女の子たちの間で流行っているものとかの情報を仕入れる
そして今度はそれらをみゆきとのデートに活用しているのだ
今回行くお店も、女の子たちから情報を仕入れ、自分でリサーチもしたお店だ
最初、女の子たちは「あの店は行ったらダメ」と言っていたので相当不味いのかと思っていた
しかし、リサーチに行って、本当の意味は「美味しすぎるから食べ過ぎて体重がやばくなるからダメ」という意味だと分かったのだ
そして、一度デートでこの店に来ようと決心したのだ
少しして、みゆきがトイレから戻ってきた
俺たちはお店まで歩いて行った
「へいらっしゃい!」
「………」
みゆきは思わず言葉を失ってしまった
そりゃそうだろう
スイーツのお店に行こうと誘ったのにまるで寿司屋の大将みたいなセリフを言われたのだから
俺も最初は言葉を失ったから今のみゆきの気持ちはよく分かる
「みゆき、ここのオーナーはこういうノリってだけだから気にしたら負けだよ」
「そ、そうなんだ…」
分かる…。分かるよ、みゆき
現実を受け入れにくいっていうのは
でもこればかりは慣れだから
「おっ、今日は彼女さん連れてきたのかい?」
「かかか彼女!?」
「まあね。かわいいだろ?俺の彼女」
「ああ。これまでいろんなカップル見てきたけど幸二君の彼女さんはどの子よりもかわいいな」
「うぅ…」
みゆきは恥ずかし過ぎて完全に俯いてしまった
ちょっとやり過ぎたかな…
「嬢ちゃん、名前は?」
「あ…愛野…みゆき……です…」
「へー、いい名じゃねえか。みゆきちゃん、今日は好きなのたくさん食べてきな。お代はサービスするからよ」
「そ、そんな…悪いですよ…」
「なーに、気にすんな。俺はもう十分お代は貰ったからよ。ほら、座った座った」
俺たちは二人用の席に座り、メニューを開いた
「佐藤君、私のこと、彼女って…」
「ここだけの話、あのオーナー、若いカップルが自分のスイーツ食べていちゃつくのを肴に飯が美味いっていうタイプの人だから」
「何そのタイプ…」
「そこは考えたら負けなのがここのオーナーなんだ。まあ…そういうわけで、オーナーの前でいちゃつくだけで安くしてくれるんだよ」
「そ、そうなんだ…」
みゆきは誰が見ても分かるくらいに困惑していた
俺も初めて見た時はものすごく困惑したからその気持ちはよく分かる
「でも俺は、みゆきが本当に俺の彼女でもいいと思ってるけどね」
「え?」
「あ、いや、何でもない。それより何頼む?」
「うーん…」
みゆきはメニューを見ながら悩みだした
ここのメニューは全制覇したのだが、どれを頼んでも外れは無いのだ
「ちなみに一番のオススメはこれ」
「じゃあこれにしようかな…」
「分かった。オーナー、チョコショート2つとカフェラテ2つ」
「おう」
店長は店の厨房に入って行った
直後、みゆきが俺に話しかけてきた
「佐藤君、私、少し太ったように見える?」
「へ?そんなことはないと思うけど…誰かに言われたの?」
「昨日体重計に乗ったら増えてて…」
「ちなみに何キロ?」
「言うわけないでしょ…」
「まあ冗談はさておき、みゆき、少し身長伸びたんじゃない?たぶん体重増えたのはみゆきが縦に成長したからだと思うよ」
「そうかな…」
「だってさ、俺、最近そこそこ身長伸びてるけどそれでもみゆきの頭の高さ、ずっと俺の顎の辺りにあるもん」
「その表し方、ちょっと引っかかるんだけど…」
みゆきは昔から身長は他の女子と比べても低い方だ
それゆえに座席があまり後ろになると前の子の頭で見えないため前の方の席になることもよくあった
「佐藤君、私が小さいの気にしてること知ってるよね?」
「知ってるけど、俺的には今くらいの身長のほうが女の子らしくて好きだなって感じだね」
「確かに男子より身長の高い女子ってあまり聞かないけどさ…」
「へいお待ち!」
俺たちが話していると、突如店長が来て注文品を置いて行った
「さあ、みゆき。食べてみて」
「え?うん…。いただきます」
みゆきはケーキを口に運ぶと、そのままフォークを落として幸せそうな様子で悶え出した
その気持ちもよく分かる
この店のスイーツは、悶えるほどの美味しさなのだ
俺も初めて来た時はこのとんでもない美味さから今のみゆきみたいになった
その様子を見ながら、俺も自分の分のケーキを口に運ぶ
「!?!?〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!」
いや何だこれ!
前よりさらに美味くなってやがる!
「どうだ。恐れ入ったかー」
「ちょっ…オーナー、これはやばいって!この域はダメだろ」
「ハッハッハッ。俺はこうやってカップルが美味さに悶えてるとこを見るだけで白飯10杯は行けるんだよ」
「相変わらず変わった趣味してんなー…」
ふと周りを見ると、追加オーダーしてしまう女の子が何人もいた
これは確かに甘い物好きな女の子たちにはたまらないだろう
「みゆきは追加で何か頼む?」
「うーん…やめとこうかな…。ここで追加で頼んだら勢い任せで食べ過ぎて体重増えそうだし…」
「そ、そう…」
今のみゆきの何気ない一言に、俺たちの周りの女の子たちの手が止まった
そして、大きなため息が聞こえてきた
「本当に女の子たちって体重気にするな…。締まってる子よりは少しくらいは柔らかい子の方が男からのウケは良い傾向にあるんだけどな…」
「あはは…」
「そう考えるとみゆきちゃんの体は男の理想に近いかもね」
「体重気にはしてますけど落とし過ぎるのは健康面では良くないですからね」
「体重気にしてるわりには食べてる物見るとカロリーとか気にしてる感じ無いよね」
「そう見えるだけで、実は全体的に見ると3食で1日に摂るべき量しか摂ってないんだよ」
改めて考えてみると、確かにそうだ
みゆきのお昼ご飯はカロリーがわりと抑えられている
たぶん、友達付き合いでの飲食も考慮してカロリー調整しているのだろう
それだけでなく、デートの時に用意してるおやつや自分のお弁当も意外とカロリーは低めだ
女の子だからあまり食べないのかなと考えていたが、実はそんな計算をしていたとは…
「いやー、幸二君の彼女はなかなかに優秀だね」
「いや、俺も今日知ったから…。あ、オーナー、勘定」
そう言って俺はお金を出し、テーブルに置いた
直後、慌ててみゆきは財布を取り出そうとした
しかし、ここで女の子に財布を出させるのは男としてのプライドに関わる
俺がみゆきを止めた直後、店長はお釣りと白い箱を1つ持って来た
「はい、これみゆきちゃんが頼んだ分ね」
「ありがとうございます。えっと…おいくらですか?」
「ん?幸二君が一緒に払ってくれたからお代はもういらないよ」
「いや一声かけてよオーナー」
頼んだ物と数にしてはやけに高いと思ったらそういうことだったのか
お小遣いアップしてなかったら女の子に払わせるという情けないところを見せるとこだった
親父に感謝だな
店を出ると、すぐにみゆきが声をかけてきた
どうもこれは石川と牧野へのお土産として買ったものらしい
「それだったら別に俺の支払いで別にいいよ」
「でも…」
「今日は俺に払わせて。これは俺の男としてのプライドの問題だから」
「でもそれだと…」
「んー…じゃあこうしよう」
俺はみゆきに、今日のお金を俺が出す代わりに、明日から昼に美味い弁当を食わせてほしいと頼んだ
直後、みゆきの顔に笑顔が戻り、快諾してもらえた
彼女の作るご飯は美味いの一言で片付けられるものではない
正直、彼女の手料理を食べることが一種の贅沢と言ってもいい
彼女がお金は受け取らないと言うからタダで食べているが、本当ならそれなりの金を払ってやりたいくらいだ
俺たちはそれから3時間程デートを楽しみ、家に帰った
2036年9月18日
俺はいつものように石川と牧野を待つ
実は昨日、みゆきにケーキの箱を託されたのだ
弁当と一緒に持って行くと温まってしまうからという理由らしい
「よう」
「おう」
「昨日は相当お楽しみだったようで?しかも行きは乗り過ごしたとか」
「なんで知ってんだよ…」
「牧野から聞いたんだよ」
「お喋りな奴め…」
実は昨日のデートは牧野に案を考えるのを手伝ってもらったのだ
だから昨日の夜はデートの間の出来事を報告したのだ
その時、口止めはしたがやっぱり話しやがったか…
「ん?それ何だ?」
「あ、これ?昨日行った店で買ったスイーツってことしか分からん」
「は?」
俺は昨日のことを話した
正直、俺も昨日みゆきが何を買ったのかは知らない
なにせレシートに書いてある品目は、あのケーキたちの本来の商品名だからだ
だから実物を見ないことにはどんなものを買ったかは商品名からは分からないのだ
「お前なぁ…いくら愛野に財布出させたくなかったからって、自分が何に金出したか確認してないとかあり得ないだろ…」
「でもこれはみゆきのだから勝手に見るのも悪いかなって思って…」
「まあ俺がどうこう言えた話じゃないけどな」
そんな話をしていると、牧野が家から出てきた
「あ、来た。お喋り野郎」
「会っていきなり野郎呼ばわりは酷くない!?あたしだって女子なんだけど」
「言うなって言ったろ…」
「まあまあ…。てかそろそろ行かないと遅れるぜ」
俺たちは駅に向けて歩き出した
駅に着くと、普段よりやたら混雑していた
しかし、電車は定刻通りに動いているので何かが起きてるわけでは無さそうだ
俺たちはいつものごとく、特急に乗り込んだ
「そういやお前らのクラス、担任が小林先生に変わったんだってな」
「今更かよ」
そう。俺とみゆきのクラスの担任は2学期から小林先生に変わったのだ
元々5月下旬辺りから何かと前の担任は病気で休みがちで、よく小林先生が担任の代わりに来ていた
そして、担任は夏休みの終わりを待たずに亡くなってしまった
もちろん俺たちも葬式には参加したが、女子たちはみんな終始泣き通していた
さらに俺とみゆきはクラス代表としてその後の火葬とお骨上げまで立ち会わせてもらった
そして、今月の末にはご遺族のお願いで埋葬にも立ち会うことになっている
「いい担任だったんだけどな」
「ほー」
それから俺たちはこもれび高校に着くまで、前の担任の話で盛り上がった
教室に着くと、何やら騒がしかった
何があったんだろうか
しかし、その答えはホームルームですぐに分かった
どうやら来月から桜女子、水萌女学園、こもれび高校の3校での交換交流があるらしい
それに伴い、こもれび高校からも4人、女子生徒が2人ずつそれぞれの学園に行くようだ
ちなみに水萌女学園は、桜木学園都市から少し離れた地域にある、篠森グループが経営するお嬢様学園だ
以前みゆきから聞いたが、水萌女学園は桜女子よりも良家のお嬢様の在籍人数が多いらしい
みんながざわついていたのは、桜女子と水萌女学園から交換交流で来る子たちが学校見学に来るためらしい
ただ、校内を回るのは俺たちが授業を受けている間らしいので、俺たちは会うことができない
「それで案内役なんだけど、愛野さん、お願いしてもいいかしら?」
「え?私ですか?」
「本当は空いてる先生が案内すべきなんだけど、やっぱり生徒同士の方が気を遣わなくていいと思うってことでね」
「でも授業は…」
「今日の放課後にやるから大丈夫よ」
「分かりました」
「それじゃあホームルームが終わったら愛野さんは私と一緒に来てね」
その後、いくつかの連絡事項を伝え、小林先生はみゆきを連れて教室を出た
「くぅー…俺が案内してあげたかったなー」
「いやいや、俺だって案内したかったよ」
「お前らなぁ…」
「でもなんで愛野さんが選ばれたのかしら…」
あいつ、桜女子出身だからじゃないかな…」
俺がそう言った瞬間、クラスメイトたちが一斉に反応した
「いやいや、自己紹介の時に言ってたろ。桜女子中等部出身って」
「いや、出身校のこととかみんな覚えてねーよ」
「じゃあ愛野さんって、お嬢様?」
「いや、両親共に病院勤務の一般家庭だよ」
「へぇ…」
そんな話をしていると、小林先生が戻って来て1時間目が始まった
〜1時間目【数学1】〜
授業開始から数分後、廊下から足音が聞こえてきた
しかも一人の足音ではない
おそらくみゆきと例の交換交流生だろう
「こらそこ、何してるの?」
「す、すいません」
どうやら数名の男子生徒が廊下の方に意識を傾けていたようだ
小林先生が注意すると、彼らはすぐに謝った
それと同時に、女子たちがくすくすと笑い出した
直後、廊下から人の気配がなくなった
どうやら行ってしまったようだ
その後はみんな授業に集中した
2時間目終了後、すぐにみゆきが戻ってきた
どうやらみゆきたちも外でちょっと笑っていたらしい
「あ、そうそう。1時間目終わる直前くらいに、小林先生が3・4時間目、女子は臨時休講って言ってたよ」
「何かあったの?」
「体育の加藤先生、やっぱお休みするみたい」
「そうなんだ…。じゃあ女子はどうするって言ってたの?」
「2組の教室で相良教頭が監督で自習だとさ。で、みゆきはその時に1・2時間目の分の授業やるから1組の教室に残るように伝えてって伝言も預かってる」
「ありがとう」
「あ、ちなみにさっき授業ちゃんと聞いてなかった男子数名も補習ってことで居残りみたい」
「男子は普通に体育あるんじゃないの?」
「でも奴等その部分しっかり抜けてるってことが終了前演習でバレてな…」
「でも体育の授業は大丈夫なのかな…」
「問題ないように手配するらしい。よく分からんけど」
「はあ…。まあとりあえず私は教室に残ればいいんだよね?」
「そうそう」
「分かった。それより、あと5分で3時間目始まるよ」
「やっべ!みゆき、ちょっと後ろ向いてて。もうここで着替える」
「え?うん…」
俺はみゆきが後ろを向いた瞬間、急いで着替え出した
幸い他の女子たちは全員2組に移動していて、残りはみゆきだけだったので後ろを向いてもらうだけで済んだのだ
「よし、終わった」
「あ、そうだ。佐藤君、これ」
「あ、サンキュー」
俺はみゆきから水筒を受け取り、教室を飛び出した
プールに行くと、すでに全員整列していた
俺は慌てて水筒を所定の場所に置き、自分の場所に入った
〜3・4時間目【体育】〜
こもれび高校は、9月末までは水泳の授業が行われる
しかも屋内の温水プールなので天気や気温なんて関係ない
そしてこの学校の水泳の授業の一番の地獄は…
「今日はタイム測っていくぞ。ちなみに全員が1分切れなかったら今日の授業は終わらんからな」
そう。記録測定だ
しかも連帯責任なのだ
ここの体育の授業は少し変わっていて、基礎体力を身につけるだけでなく、他者との協調性も育成する
そのため記録の話に限れば全てが連帯責任なのだ
だからこそ全員が助け合い、一致団結して目標に向けて成長していく
これがこの学校の体育の授業のもう一つの目的なのだ
俺たちは準備体操の後、10分間の練習に入った
一方その頃、教室では…
〜3時間目【数学1】〜
「えー、この『sin^2 θ + cos^2 θ = 1』と『1 + tan^2 θ = 1 / cos^2 θ』はここまでの内容と三平方の定理から求められる式なんですけど、愛野さん、分かりますか?」
「はい。えっと…原点を中心とした………」
「(いきなりでこんなにスラスラとって…)」
「(すげー…)」
「………なので『1 + tan^2 θ = 1 / cos^2 θ』となります」
「さすがですね。そうしたら単位円での証明もやってみて下さい。今回は『sin^2 θ + cos^2 θ = 1』まで証明できれば大丈夫です」
「分かりました。単位円の円周上に………」
「(単位円での証明も答えられるの!?)」
「(あー、そういうことか)」
「………を代入すると『sin^2 θ + cos^2 θ = 1』となります」
「はい、正解です」
「おおー」
「はいそこ、ここは今日の授業の範囲よ。だから本来あなたたちは答えられないとおかしいのよ」
「うぐっ…」
キーンコーンカーンコーン…
「じゃあ今日はここまで。あ、そこの男子数名。次からはちゃんと授業を聞くように」
「はーい…」
プールでは…
「いやー、3時間目終わるまでに終わって良かったな」
「無限ループとか絶対嫌だったからな…」
俺たちはなんとかタイム測定の無限ループだけは回避できた
そのため今日の4時間目は完全に自由時間になってしまったのだ
しかも篠田先生に言えば教室や図書室に行くことも可能だ
俺はプールを出て篠田先生に申し出て制服に着替え、教室に行った
そこにはみゆきが一人で座っていた
黒板を見ると、今日の数学の授業の範囲の内容が書かれていた
「お疲れ、みゆき」
「え?佐藤君、なんで?体育の授業は?」
「完全自由時間になっちまってな。教室に行くのもOKってことで来たんだ」
「そうだったんだ…」
「次の授業、俺も一緒に受けようかな…。理解しきれなかった部分もあったから」
「体育の方が大丈夫ならいいんじゃない?」
「だな」
〜4時間目【化学基礎】〜
俺は自分の席に座り、みゆきと一緒に授業を受けた
もちろん一度は受けた授業なのである程度は分かっているので基本的には抜けた部分の知識の補完が主な目的だ
「じゃあ佐藤。共有結合結晶の特徴を3つ言ってみろ」
「はい」
俺は進藤先生の質問に答えた
ただ覚えるだけの項目は大したことはない
流石にこんなところで間違えるわけにはいかない
その後も進藤先生は俺を何度も指してきたが、全て完璧に答えてみせた
何とかみゆきの前で無様な姿を晒さずに済んで良かった
「よし、今日はここまでだが二人とも何か質問はあるか?」
「大丈夫です」
「私も大丈夫です」
「じゃあ佐藤はこれで終わりだ。愛野は今から小テストやるから」
そうしてみゆきは一人で小テストを受け始めた
俺はそれを横目にノートを広げ、今日の内容を再確認した
理解しきれなかった部分も今ではバッチリ理解できた
そして最後のページをめくろうとしたタイミングでチャイムが鳴り、みゆきの小テストも終わった
進藤先生が教室を出ると、1組のクラスメイトたちが一斉に教室に入ってきた
「佐藤君、これ」
「ありがとう」
みゆきは俺に弁当を渡し、自分の席に戻った
その直後、男子たちが集まってきた
「おいおい俺らがいる前で抜け駆けかよ」
「いや、抜け駆けじゃ…」
「じゃあこの弁当は何かなー?」
「いや、確かにみ…愛野が作ってくれた弁当だけどさ…」
「てか愛野さんのことを下の名前で呼ばせてもらってる地点で相当な抜け駆けなのによー」
「いやそれは俺たちは幼なじみだからで…」
「いくら幼なじみでも普通、弁当作ってもらうっていうのは無いよねー」
「あーもう分かったよ!お前らにも少し分けてやるから!」
「よっしゃあ!」
まあ少しならいいかと思い、俺は男子たちに弁当を差し出した
しかし、結局今日の弁当は全員に全て持っていかれてしまった
男子たちが解散した後、再びみゆきが俺の席まで来た
「予想通りだったね…」
「予想してたんだ…」
「うん…。だからもう一つ用意しておいたの」
「マジか」
俺はみゆきから空の弁当箱と引き換えに新しい弁当を貰った
「あれ?これ俺の弁当箱?」
「昨日、佐藤君のお父さんから預かったの。こっちならお母さんのお弁当って誤魔化せるでしょ?」
「ぐう有能…」
もう流石としか言いようがない
みゆきは自己紹介の日からクラスのアイドルとなっている
もちろんみゆき自身が男子に媚び売ったりしてではない
普通こういう場合、周りの女子たちからは不満の声が出たり、いじめが始まったりすることが多い
しかし、みゆきの場合は男子と女子、どちらからも人気なのだ
だからこそこういう特別扱いを受けるのはリスクがある
俺は弁当を受け取った
「おいみんな、佐藤がまた愛野さんから弁当貰ってるぞ」
「マジかよ…」
俺の周りには再び男子たちが集まってきた
これ、俺昼飯食えるかな…
「せっかくお母さんに作ってもらったのに忘れて行ったらかわいそうだよ」
「え?」
「何だよ、愛野さんの手作りじゃねえのかよ…」
男子たちは俺の周りから散って行った
なるほど。俺の弁当箱でならこの手が使えたのか
みゆきは再び自分の席に戻った
「さてと…いただきます」
俺は改めてみゆきの手作り弁当を食べ始めた
中には好きな物と嫌いな物と両方が含まれていた
もちろん栄養バランスを考えると嫌いな物も入ったっておかしくない
しかし、みゆきは俺の嫌いな物も俺が食べられるような形にしてくれていた
だからこそ、俺は体育祭の練習期間以来、彼女に胃袋を掌握されてしまったのだ
もし彼女が俺に気があるなら狙ってやってるとしか思えないほどだ
気付くと弁当箱は空になっていた
それだけ夢中になって食べていたのだろう
俺は弁当箱を片付け、次の授業の準備を始めた
放課後、俺は教室に残っていた
いち早くみゆきにお礼を言いたかったのだ
実は昼休み、俺が食べ終えた頃にはみゆきはおらず、戻ってきたのも授業開始ギリギリだった
「ん?佐藤、まだいたのか?」
「何だ石川と牧野か…。みゆきを待ってんだよ」
「みゆきならさっきシャワー室入って行くの見たけど…」
「マジかよ…」
「そんじゃ俺も一緒に待つかね…。久しぶりに一緒に帰るのも悪くないからな」
「だな」
「そうね」
40分後、教室にみゆきが戻ってきたので、俺たちは一緒に駅に向かった
道中、俺がみゆきに弁当のお礼を言うと、俺は石川と牧野から質問攻めに遭った
もちろん誤魔化すことはできず、俺は事のあらましを全て話さざるを得なかった
ある意味、俺がみゆきのことを好きと知ってるこの二人の方がクラスの男子より厄介なのかもしれない
そんなことを考えながら俺は三人と一緒に電車に乗って帰宅した
「女子は家事ができて当たり前」って今となっては古い考え方っていうのは分かっています
でも考えてみると、みゆきちゃんたちのおじいちゃんやおばあちゃんってそういう世代が親だった人たちだからそんな考えを持っててもおかしくないんですよね
それでも、料理のできる女の子の方がモテるっていう現実だけは変わらないんだよね…。ある意味、令和最大のミステリー?
ここだけの話、幸二君と正一君の幼なじみの女の子の設定考える時、やっぱり男子にモテる女の子にしたいなっていうのはあったんですよ
だけど男子の理想をガチガチに詰め込んだ女の子が二人もいてもなってことで、片方だけをそうして、もう一方は今どき女子にしようって決めたんです。まあ…料理の腕が壊滅的ってのは流石にやばいかなと思ったので自重しましたけど…
そうして生まれたのがみゆきちゃんと早織ちゃんなんです
さて、皆さんなら料理大得意でかわいいみゆきちゃんと、料理は凡人並みだけど美女な早織ちゃん、どっちを彼女にしたいですか?
ご意見お待ちしてます。




