5時間目 初めてのテストは気合いばっちり!!
2036年7月6日
今、俺たちは俺の家でみゆきに時間を測ってもらって模擬テストをしている
こもれび高校の期末試験は、難易度は特段難しくは無いが、制限時間が短いことで有名だ
「そこまで」
「マジか…」
「うっげ…」
「噂には聞いてたけど時間足りないわ…」
「知ってて対策しなかったの?」
「いや、赤点のボーダーが高いからまず基礎を固めないとさ…」
こもれび高校の試験の赤点ボーダーは70点とかなり高い
つまり、ペンを走らせるスピードも大事だが、正確さも求められる
これこそがこもれび高校の難関大学への高い進学率の理由とも言えるだろう
「みゆきは時間内に解けるの?」
「ギリギリね。私もこの時間は結構きついよ」
「1年生からこれだから2年生以降はどうなるんだか…」
「さあね。はい、終わり」
俺たちは解答用紙を受け取ると愕然とした
俺たちの点数は69、56、61と見事に赤点となってしまった
「試験明日なのに…」
「とにかく次だ、次」
「ちょっと待って」
「え?」
俺たちが新しい解答用紙を取ろうとすると、急にみゆきが呼び止めてきた
どうやら問題を解く様子を見ていて気になったことがあるらしい
「佐藤君と早織なんだけど、どっちも筆記速度が遅い」
「え?結構速く書いてるつもりなんだが…」
「二人とも解けた問題は全問正解だし、解けなかった問題も簡単に答えられるでしょ?」
「あ、うん…」
「だから二人はは知識はもう大丈夫だからスピードの練習を繰り返すしかないよ」
「なるほどな…」
「スピードかぁ…」
「次に石川君。石川君はスピードはいいんだけどうっかりミスが目立つかな…」
「へ?あ…本当だ…」
ただ解答用紙見ただけだと、普通の人はそれがその人の純粋な知識力としか思えない
お互いを知っている間柄であってもそれはあまり変わらない
しかし、みゆきはこの解答用紙の惨状を見ただけで俺たちの課題をしっかりと見抜いていた
もはや凄いの一言でしかない
「そういえばみゆきは対策できてるの?」
「え?うん…。えっと…はい」
「えーっと…へ?嘘だろ…」
俺たちがみゆきの練習用の解答用紙を見ると、初めこそは時間切れで60点台だったが、回数を重ねるごとに点数は上がっていた
そして最終的には90点台後半まで到達していた
しかし、点数とは裏腹に字そのものは汚くなってはいた
「ここまで崩してやっとか…」
「普段の愛野の字からすると結構意外だな…」
そう。普段のみゆきの字はかなり綺麗なのだ
それがこの解答用紙では小学校高学年の男子に近いくらいの汚さだった
すると石川が急に立ち上がった
「ちょっとトイレ」
「おう。じゃあ俺は飲み物おかわり持ってくる」
俺は空になった容器を持って下に降りた
正直、筆記速度に自信があるとは言えない
板書も大概速いがそっちは余裕だ
しかし、テストはそれ以上のスピードを要求される
問題数は普通のテスト程度だ
そして難易度も普通に解く分には何のことはない
しかし、制限時間が短いのだ
先生の話では、大学入試で時間に余裕を持たせる訓練として試験時間を厳しくしているらしい
確かにこれに慣れれば大学入試は余裕だろう
しかし、まさかこれを段階的にではなく1年生からいきなりだとは思わなかった
そんなことを考えながら俺は飲み物のおかわりを用意して部屋に戻った
「お待たせ」
「おかえり。あ、そうだ」
「ん?」
「魔法でスピードアップすればどうだ?」
「無理だろ。加速魔法は魔力の消費がそこそこ大きいから疲れるだろ」
「それに魔法を使えば穢れが溜まって自分が試験中に苦しい思いをして集中できなくなるよ」
「あ、確かに…。俺なんか下したりでもしたら地獄だなぁ…」
「俺も試験中に汗だらだらとかつらすぎる…」
穢れの発生量は魔力の消費量に依存する
そして加速魔法はそこそこ魔力を消費する
つまり試験で使えばもれなく試験中に代償の支払いになる
「じゃあ回数重ねるしかねえか…」
「だな。みゆき、もう一度頼む」
「うん」
それから俺たちは時間配分や解答順等であらゆる工夫をしていき、夕方には時間内に全問解けるようになった
「よし、この感覚を忘れないようにしないとな」
「ああ」
「でも緊張するなぁ…」
「とにかく明日はベストを尽くすのみだ。てかみゆき、お前もやらなきゃいけないのに今日ずっと計測係お願いしちゃって悪かったな」
「ううん、気にしないで。私もただ時間測ってたわけではないから」
「そっか」
「じゃあ、明日頑張ろうな」
「おう、お疲れ」
三人が帰宅した後、俺は授業ノートを開いた
いくらスピードが上がっても知識が無ければ意味が無い
今回の試験は試験範囲が広めな上にあの制限時間と問題数だ
やろうと思えばあの問題数の中にこの範囲全てを収めることだってできる
俺は寝る間際までノートに書いた内容を覚えていった
翌朝、着替えと朝食を済ませて外に出ると、ノートを見ながら歩くこもれび生がちらほらいた
試験のシーズンになるとこもれび生がこのようなことをしながら通学する
そのため普通に登校していても、制服を着ているだけで近所の人々から応援の言葉を貰う
俺は石川と牧野と合流し、学校へと向かった
列車内では、かなりピリピリした空気が流れていた
「みんな必死だな…」
「確かにな。ただ、あの鬼畜な制限時間を知らない奴等は結構苦しむんだろうな…」
「だな。あれは流石になぁ…」
こもれび高校は全校生徒のレベルが非常に高い
時間をきちんと与えれば模試でも上位の常連になる程だ
おそらくあの制限時間は、そんな俺たちの間での差を意図的に作り、個々の競争心を高めてさらに上の領域を目指させるためのものなのだろう
ーーーまもなく、こもれび高校、こもれび高校、終点です。お忘れ物なさいませんようご注意下さい。こもれび高速鉄道をご利用いただきまして、ありがとうございました。足元にご注意下さい。出口は、右側です
「…っと、もう到着か」
「やべー…緊張してきた…」
「いや、気が早いだろ!」
そんなツッコミを入れたが、実際のところ、俺も緊張はしている
いくら練習したとはいえ、昨日一日やっただけだ
そんな付け焼き刃が通用するとは思えない
そんな不安を抱えながら俺は列車を降りて教室へと向かった
教室ではさっきの列車内以上にピリピリとした空気が張り詰めていた
中学時代みたいに友達同士で教え合うといった光景は全く見られない
全員自分のことだけで精一杯のようだ
キーンコーンカーンコーン…
「はい、それではホームルームを始めます」
ホームルーム中も張り詰めた空気は変わらなかった
先生は色々と連絡事項を伝えてはいたが、耳に入っている生徒はあまりいないだろう
そんな状態でホームルームが終わると、いよいよ試験が始まった
試験は2日にわたって行われ、今日は国語、社会、英語、明日は数学、理科、芸術、体育だ
〜1時間目【社会】 試験時間:40分〜
試験が始まり、全員が一斉に問題用紙を開く
問題数は普通の1時間でやる試験とほとんど同じだ
ただ、さすがはこもれび高校の試験
選択問題はあまり無く、8割方記述だった
これで70点以上を取らなければならないのだからかなり大変だ
試験時間が30分過ぎた頃、俺は自分の解答用紙を全て埋め終わっていた
この量の問題であればいつもなら50分くらいはかかっていた
しかし、気付くとすでに終わっていたのだ
どうやら昨日の付け焼き刃は無駄ではなかったみたいだ
〜2時間目【国語】 試験時間:60分〜
俺は頭を抱えていた
現代文、古文、漢文で合わせて60分だと言うのだから
しかもこの試験も8割方記述だ
それでいて文章の長さは80分相当の量なのだ
もはや嫌がらせを疑うレベルだ
しかし、そんな試験でも俺は驚くべきスピードを見せた
とはいえ、やはり記述が多いと時間がかかってしまうもので、残り時間5分のところまでかかってしまった
しかし、その後の試験はかなり余裕を持って臨むことができた
人の慣れとは何とも恐ろしいものだ
全ての試験が終わると、教室内に流れていた張り詰めた空気はなくなった
しかし、この厳しい制限時間を知らず、解けなかった子もそこそこいたようだ
「お疲れ様、佐藤君」
「ああ…。ホントに疲れたよ…」
「聞いてはいたけどこんなに厳しいとは思わなかったよね…」
「昨日付け焼き刃でもやってて良かったよ…。でもさ、みゆきはなんで時間のこと知ってたの?」
「園芸部の先輩が言ってたの」
「なるほどなぁ…」
俺は自分も先輩から話を聞いておけばよかったと後悔した
「ホームルーム始めます」
ホームルームでの連絡事項は大したことは無かった
しかし、意外だったのは解答の返却方法だった
月曜日にトップ50の順位表と自分の順位が書かれた紙と共に担任から一括で返却されるそうだ
ホームルームが終了すると、部活組は教室でお弁当を食べ始め、帰宅組はお腹が空いているからか、さっさと帰ってしまった
今日は美術部の活動自体はあるが、任意出席なので今日は休むことにした
「あ、そういえばみゆきは今日部活あるの?」
「ううん、今日はお休み」
「じゃあ一緒に帰ろう」
「うん」
俺たちはまっすぐ駅に向かい、はるかぜ号で帰宅した
2036年7月14日
〜1時間目【ロングホームルーム】〜
担任「それでは試験を返却します」
先生の話だと、今回の試験はあまりにも赤点が多かったらしい
本来、赤点の生徒は補習なのだが、あまりにも人数が多いため、補修の代わりに課題が出ることになった
そもそもあの短い制限時間で赤点ボーダーも70点という高さなら赤点の人がたくさんいても不思議ではない
「ただその反面、今回学年トップが3人いるのですが、そのうち2人はうちのクラスからです」
教室内は一気にどよめき出した
あのきつい試験を乗り切り、学年トップとなった生徒がうちのクラスから2人も出たことに驚きを隠せない様子だった
そして口々に誰がトップだったのかを先生に聞いていた
「はいはい、静かにして下さい。じゃあトップだった二人を呼びますので前に出てきて下さい。まず1人目。出席番号1番、愛野みゆきさん。そして2人目が出席番号13番、佐藤幸二君です」
「俺!?」
俺は驚いてつい勢いよく立ち上がってしまった
全国模試1位常連のみゆきは納得がいった
しかし、俺が1位というのには驚きを隠せなかった
「ちなみに二人の点数ですが、二人とも1000点満点中1000点満点です。じゃあ二人とも前に出てきて下さい」
俺たちはみんなからの拍手の中、壇上に上がった
そして、その場で順位表と一緒に試験を返却された
1位のところには俺たちの名前の他に牧野の名前が載っていた
4位は1点差で石川だった
本人に聞いてみないと分からないが、おそらく1問ミスか減点かのどちらかだろう
その後、他のクラスメイトの試験が返却されていったが、反応は様々だった
しかし、過半数は赤点だったのか、かなり落ち込んでいた
「赤点の人の課題についてですが、これについては個別に教科担当の先生から配られます。以上でホームルームを終了します」
先生が教室を出ると、教室内は一気に騒がしくなった
俺のところには数人の男子たちが集まってきた
「お前やるな。あんな時間カツカツの試験で学年トップとか」
「いやいや、結構いっぱいいっぱいだったよ。とにかく時間内に書ききらないとって必死になってただけだよ」
「俺も書ききったけど赤点ギリギリだったぜ…」
「そもそもあの試験時間設定絶対間違えてるだろ…」
「いや、あれがうちの学校の標準らしいよ」
「マジかよ…」
「まあ慣れてくしかねえだろうな…」
正直、慣れられる自信はあまりない
しかし、ここでやっていく以上、慣れなければならない
「なあ、今日帰りにサ店寄って行こうぜ」
「いいね。佐藤も行くか?」
「うーん…たまにはいいか。付き合うぜ」
この先、色々不安はあるが、やっていくしかない
そして、何としてもみゆきと釣り合う男になってみせる
そんなことを思いながら、俺はみんなと一緒に喫茶店に向かった
今回は期末試験をテーマにしてみました
皆さんは期末試験にどんな思い出や黒歴史がありますか?
私はなぜか世界史が飛び抜けて苦手で、高校の期末試験で世界史Aが年間通して赤点ビリだったってことですね。もちろん再試になりました。ただ、東日本大震災でその再試が中止になり、再試対象者は進級はさせるけど試験は受けろとかいうよく分からないことになりました。そして極めつけはそこでなぜか70点台出すとかいうもう訳の分からない事態が起きました。あれ本当に何だったんだろう…
余談はさておき、実は今回の試験、全員点数低めにしちゃおうかなとも思ったんですが、そうしちゃうとキャラ設定が崩れることに気付きました。仕方ないから三人は満点、一人は何かしらがあって満点逃したみたいにした方がいいかなと考え、こうしました。
ちなみにこもれび高校の試験時間、実は今は名前が変わったけど、センター試験の試験時間から20分引いただけなんです。まあ調べてみたら共通テストも試験時間同じみたいですけどね。1年生の時から基礎問題はこれだけ速く解けるように訓練されてれば本試験でも余裕をもってできそうな気がしますね。根拠はないけど…
たぶんですけど、今後試験を小説のメインの中身にすることはほぼ無い気がします。それメインにしちゃうと今回みたいに話がわりと薄くなるし、そもそも恋愛小説(笑)な感じになるし。
もしこうすれば試験メインでも中身が濃くなるんじゃないかっていうのがありましたら教えて下さい。




