4時間目 体育祭で玉砕
2036年6月2日
〜1〜6時間目【体育祭練習】〜
体育祭を2週間後に控え、学年単位での練習も盛んになってきた
こもれび高校の1年生の体育祭は、高校の体育祭としては珍しい形を取っている
まず、男女がペアを組む
そしてそのどちらかが競技に参加し、もう一方が専属マネージャーを務める
さらに、このマネージャーの献身度も点数に反映されるのでマネージャーだからと気は抜けない
この男女ペアの決め方はクラスごとに異なる
ちなみにうちのクラスは、まず希望制で行い、パートナーが見つからなかった人だけ女子が男子の名前が書かれたくじを引くというものだった
俺は真っ先に愛野を希望した
彼女なら俺のことを熟知しているからだ
しかし、彼女を望む男子はかなり多く、彼女の意思で決めることになった
その結果、彼女は俺を指名してくれた
もちろん男子たちからは不平不満がかなり上がった
しかし、俺たちがお互いのことを熟知していること、献身度点を取るにはそれが鍵になるかもしれないことを話したところ、全員が納得した
「ふぅ…」
「よう。お疲れさん」
「おう。お疲れ。ん?石川、お前マネなの?」
「まーね。男子全体で見た時の俺より女子全体で見た時の牧野のほうが上だからな。お前は競技者か」
「当たり前だろ。走ることも厳しい奴が出られるわけないだろ」
「ん?もしかしてお前のマネって、愛野?」
「ああ」
「やべーな…。考えることは同じか…」
どうやら石川も献身度点を取るために牧野と組んだようだった
「負けねえぞ」
「いや俺の相手はマネの方だから」
「あ、そっか…うひゃっ!」
「どうした…って噂をすれば…」
振り返るとそこには冷たい飲み物を入れたボトルを持った愛野がいた
さらにもう一方の手にはバスケットを2つ持っていた
「どうしたの?」
「そろそろお昼だから準備してきたよ」
「へ?」
俺たちは時計を見た
時計の針は12時を指していた
「やべー!昼飯用意しないと牧野に怒られるー」
石川はダッシュで校庭をあとにした
「………」
「あっちも苦労してんだな…。さて、そんなことより飯だ。これ食って午後も…うぇ!?」
バスケットを開けると、俺が苦手なものがいくつか入っていた
嫌がらせのつもりかとも思ったが、彼女が嫌がらせ目的で作る時は全てが俺の苦手なもので構成される
しかし、今回は別にそうではない
おそらく栄養バランスを考えての結果なのだろう
よし、まずは苦手なものから片付けてしまおう
「いただきます。………。………!?」
何これめっちゃ美味い
それが俺が真っ先に思ったことだった
まさか俺が苦手なものをここまで良い意味での味の暴力で食べさせてくるとは思いもしなかった
その後、俺は他の苦手な物も食べてみたが、愛野は予想以上に美味く作ってくれていたので全て食べることができた
「ふぅ…。ごちそうさま」
「相変わらずだね」
「へ?」
「佐藤君、嫌いな物から食べるでしょ?ということはまだピーマン苦手なんだね」
「まあ…あんなことがあればな…」
そう。実は俺はピーマンが大の苦手だ
小学生の頃、給食に入っていたピーマンに火が通り切っていないものがあったことがあったのだ
その時のピーマンの苦さが今でも忘れられないでいた
「でも愛野が今日作ったのなら食べられるよ。てかめっちゃ美味かった」
「それなら良かった。これでもピーマン苦手な佐藤君でも食べられる調理法無いか結構考えたんだよ」
「そうだったんだ…。でもどうして愛野はこんなに料理できるの?女子高生のレベルというより母親やばあちゃんレベルだよね?」
「うちはおばあちゃんが厳しい人でね…。家事ができなくて何が女かって…。そんな感じでね、ただ性別が女なだけの女じゃなくて、真の意味での女になれってね…」
「つまり愛野のおばあちゃんにとっては、真の女は家事全般を完璧にこなせる女なんだね」
「うん…。ちなみに男の子は…」
おばあちゃん理論によれば、男は家をしっかり守るだけのチカラと、家族全員を養えるだけ稼ぐ能力を持ち合わせていなければならないらしい
俺は愛野の家に生まれなくて良かったと思ってしまった
「じゃあ…あかりちゃんと遼太君も?」
「うーん…遼太はおばあちゃんの教えを忠実に守ろうと、必死に勉強して資格も取得してるけど、あいは今時の女子高生って感じかなぁ…」
ちなみにあかりちゃんと遼太君というのは愛野の妹と弟だ
遼太君は愛野と同じく全国1位の常連となっているが、あいちゃんは平均くらいで落ち着いてる
「ちなみに今、愛野は何の資格持ってるの?」
「私?漢検1級と英検1級、日商簿記1級の3つかな…」
何だそりゃ
それ彼女にするのハードル高すぎないか?
というか日商簿記1級とか税理士でも目指してるのか?
「でも取ったところで進路のことを考えると意味は無いんだけどね…」
「進路?愛野ってどういう系に進むの?」
「えっと…」
キーンコーンカーンコーン…
「…っと、時間か。行かないとな」
「うん。頑張ってね」
「サンキュー」
俺はグラウンドに向かった
ところが、俺が愛野とお喋りしていた様子はバッチリみんなに見られており、クラスメイトの男子たちから話の内容について質問攻めに遭ってしまった
「(あ、そういえば全部食っちゃったけど愛野は昼飯どうすんだろう…)」
一方、当の本人は…
「お疲れ様、愛野さん」
「ありがとう、桜井さん」
「お昼もう済んだの?」
「ううん、これか…ら…」
「どうしたの?」
「佐藤君に全部食べられた…」
「あらら…」
その日の帰り、俺は牧野と一緒に帰ることになった
石川と愛野はマネージャーの集会に出るため今日は遅いらしい
俺は昼ご飯の話を牧野にした
「佐藤、ピーマン食べられたんだね」
「いやあれ食えないはずがないって。めっちゃ美味かったんだから」
「なるほどね…。というかみゆき、大丈夫?お昼食べずに午後過ごしたんでしょ?」
「分からない。ただ知らなかったとはいえ、全部食べてしまったのは申し訳なかったと思って金は渡してきたけど全く口利いてくれないから…」
そう。実はあれの中には愛野の昼ご飯も入っていたらしく、俺は愛野のご飯まで食べた上に記録を出せなかったため、愛野が口を利いてくれなくなったのだ
話によると、待っている間、愛野は低血糖に陥り、保健室に運ばれ、そこで昼ご飯を食べさせてもらったらしい
「まあ100%俺に非があるから何も言えないんだけどな」
「確かにね」
「否定しないんだな…」
「まあ実際にみゆきが倒れてるからね」
俺たちはそんな話をしながら帰宅した
翌日、俺は愛野に必死に謝り、ようやく許してもらうことができた
しかし、やはりまだ少し怒っていたのか、それから3日間くらいは昼食はピーマン料理だった
しかし、その代わりなのかは分からないが、俺は毎日いつも以上のチカラを発揮できていた
2036年6月7日
今日は待ちに待った体育祭だ
俺のコンディションは愛野の徹底的なマネージメントのおかげで最高だ
これなら最高のパフォーマンスを発揮できそうだ
「あれ?佐藤じゃん」
「ん?あ、牧野か。早いな」
普段俺たち三人は一緒に登校するのだが、牧野はほぼ俺たちより遅い
そんな牧野が俺とほぼ一緒に出てきたのだ
「まだまだ。みゆきはもっと早いんだから」
そう。愛野はもっと早いのだ
はるかぜ市の住宅街からこもれび高校まではかなりある
だからはるかぜ市から通うこもれび生はほぼ特急を使う
俺たちは特急だが愛野は特急を使わない
だから愛野は俺たちより早く出ているのだ
「おはよう…」
「ん?愛野じゃん。こんな遅いなんて珍しい…って何そのバスケットの数…」
なんと愛野は6つものバスケットを台車に乗せてきたのだ
「俺、1つ持つよ」
「あ、佐藤君…」
「うおっ!?何だこの重さ!」
バスケットは持ち上がらない重さではないが、なかなか重量があった
こんな量をあの細い腕で押してきたのかと俺は感心してしまった
「大丈夫?」
「よくこんな重いの持てたね…」
「お父さんと遼太に乗せてもらったの…」
「でも台車はみゆきが押してきたんだよね?」
「うん。流石に電動補助付きだけど…」
「それにしてもこれ、見た目はめっちゃ軽そうなのに実際持つとかなり重いんだな…」
「今日手を抜いたらみんなから大バッシングだよ…」
「いやそれでもガチ過ぎるよ…」
「おーい、そろそろ行かないと特急乗り遅れんぞ」
「あ、やっべ」
俺たちは急いで駅に向かった
ーーーまもなく、2番線に、各駅停車 こもれび高校行きが到着致します。白線の内側でお待ち下さい。この電車は、特急しろつめくさ6号 こもれび高校行きとの待ち合わせを致します
「あぶねー」
「乗り遅れたら遅刻だからな…って愛野、今から各駅停車だと遅刻するぞ」
「え?あ、そっか」
「おいおい…」
ーーーはるかぜニュータウン、はるかぜニュータウンです。2番線の電車は、各駅停車 こもれび高校行きです。当駅で、特急しろつめくさ6号 こもれび高校行きとの待ち合わせを致します。
ーーーまもなく、1番線を、列車が通過致します。白線の内側でお待ち下さい
「通過?」
「貨物だよ」
「へーえ」
1番線に貨物列車が差しかかると、風が吹き始めた
こもれび高速鉄道は全線で最高速度が240キロ以上に設定されている
もちろん貨物列車も例外ではない
貨物列車が通過すると、かなり強い風が吹いた
そのせいで愛野と牧野のスカートが思いっきり捲れ上がった
二人は捲れ上がったスカートの前と後ろを必死に押さえるが、横は守りきれていなかった
「(水色と黒か…)」
俺たちは二人の下着をバッチリ見てしまった
やがて貨物列車が通過し、風も収まった
「見た?見たわよね!?」
牧野はそう言いながら俺たちに襲いかかった
「いや、見てないよ」
「そうだよ。黒のパンツなんて見てないよ」
「バッチリ見てるじゃない!今すぐ忘れなさい!」
「黒なんだ…(とぼけとこ)」
余程恥ずかしかったのか、牧野は今までに見たことないくらい怒り、石川に襲いかかった
「あ、愛野、ちょっといい?」
「な、何?」
「その…愛野のパンツだけは見えちゃったから…その…ごめん…」
「し、仕方ないよ。あれだけの強い風が吹いたんだから…」
「こ、こんなこと言うのもなんだけど…その…かわいかったよ」
「あ、ありがとう?」
俺たちは気まずい空気の中、列車が来るのを待った
ーーーまもなく、1番線に、特急しろつめくさ6号 こもれび高校行きが到着致します。白線の内側でお待ち下さい。この列車は、12両です。この列車は、途中、はるかぜ空港、こもれび学園都市入口に停まります。ご乗車には、特急券が必要です
「おーい、そこの二人。来るぞー」
「………」
二人は喧嘩を止め、俺たちの後ろに並んだ
「てか駅で争うなよ…」
「そ、それもそうね…」
ーーーはるかぜニュータウン、はるかぜニュータウンです。1番線の列車は、特急しろつめくさ6号 こもれび高校行きです。次は、はるかぜ空港に停まります
俺たちは特急に乗り込んだ
「初めて乗ったけど、結構綺麗なんだね」
「あ、そっか。みゆきはいつも各駅停車とかに乗ってるもんね」
「てか荷物どうするん?」
「俺に考えがある」
そう言った瞬間、列車が緊急停車した
幸い立つ前だったから良かったけど立ってたらやばかっただろう
俺は列車が停まった後、座席の後ろのスペースに荷物を運んだ
「お待たせをしております。この列車、次の駅まで動きます。お立ちのお客様は、お近くの手すりにお掴まり下さい」
「次の駅までは動くのか…」
そう言った次の瞬間、列車は次の駅まで動き出した
そして次の駅に到着すると、運転見合わせとなってしまった
アナウンスによると、先行電車で急病人が複数人出て救護活動をしているそうだ
それから俺たちは30分遅れで学校に着いた
もちろん遅延証明書は出したが、どうなるかは分からない
俺たちは教室に向かった
その途中、女子トイレから体育着に着替えた愛野が出てきた
「いつの間にトイレに…。てかなんでもう着替えたの?」
「10年前の件のがあるから…」
「あー、見られたくないよね」
愛野が言っているのは、手術の傷のことだ
愛野は10年前、俺を助けようとしてトラックに突っ込まれている
その時、愛野は誰もが助からないと言うほど重傷だった
しかし、二人のゴッドハンドによる38時間にも及ぶ大手術により、奇跡的に命を取り留めた
当時を知る医者や看護師は、口々に「まさに神が降りてきた」と言う
反面、愛野の体には沢山の手術の跡が残った
愛野が隠したかったのはこれだ
女子としては見られたくないものだ
「さて、教室行こう。ぼやぼやしてたらまた文句言われるかもだし」
「うん」
俺たちは教室に向かった
教室では既に騎馬戦やリレー等、各競技の作戦会議が行われていた
ちらっと見たが、かなり本格的な作戦だった
「佐藤、お前みんなを差し置いて愛野さんにパートナーになってもらってんだから負けたら承知しねえぞ」
「いや何だよその理屈!」
俺がツッコミを入れると、クラスメイトたちは大爆笑し出した
正直、いくら愛野がパートナーでもそこまで約束するのは到底無理だ
「ちなみに俺は何走?」
「それなんだけど、佐藤を1走にするかアンカーにするかで悩んでんだよ…」
「うーん…」
俺がちらりと愛野の方を見ると、愛野はニコニコしていた
この様子なら、どっちでも対応できそうだ
「ちなみに2走と14走、どっちの方が遅いんだ?」
「どっちもそれなりに速いけど、11走で失速するかもな…」
「じゃあアンカーやるよ」
「すごい自信だな…」
「任せとけって」
「お、おう…」
そんな話をしていると、教室に小林先生が入ってきた
「はい皆さん、席に着いて下さい」
俺たちが各々の席に戻ると、小林先生は説明を始めた
特にやり方等に変更は無く、このままやるそうだ
しかし、今日は気温が高いため、自分が出る競技の時以外は極力教室にいるようにということだ
「以上になります。なお、体育祭の様子は教室のスクリーンに映し出されますのでなるべくそれを見るようにして下さい」
小林先生の説明が終わると、スクリーンに開会式の様子が映し出された
こもれび高校の体育祭は各学年各クラスで赤、白、黄、緑、青の5チームに分かれ、同じ色のクラス同士で協力し合って戦う
ちなみに俺たちは白組で、2年生は3組、3年生は2組が同じチームだ
1組は体育祭の練習の過程で一番運動が苦手な子が集まっていることが分かっている
対して2年3組と3年2組はスポーツにはかなり強い
だからせめて足を引っ張ることだけはしたくない
そんなことを考えていたら、あっという間に選手宣誓が終わっていた
「緊張するなぁ…」
「深呼吸してみたら?」
「ああ」
俺は愛野に促されるまま、深呼吸をした
そのおかげか、俺は少し落ち着いてきた
「愛野、ちょっと来て」
「え?」
俺は愛野の手を引き、屋上まで行った
「どうしたの?」
「お願いがあるんだけど、いい?」
「お願い?」
「そこに座ってもらえる?」
「?」
俺は愛野に座ってもらい、太腿の上に横になった
「急に何?」
「いや、みゆ…愛野にこうしてもらうの、4年ぶりだなって」
「『みゆき』でいいよ。無理して私のこと名字で呼んでるけど」
「気付いてたんだ…」
「ずっと幼なじみやってるんだから気付かないわけ無いでしょ」
「鋭いなぁ…みゆき…ちゃん」
「くすっ」
「な、何だよ」
「ううん、佐藤君の恥ずかしがる顔がかわいくてね」
「なっ…!」
「小学生の頃はあんなに私のこと下の名前で呼び捨てにしてたのにね」
「いや、歳を考えろよ。この歳で呼び捨てにしてたら噂されるから」
「幼なじみって先に布石を打ってしまえば周りも呼び捨てにしたって何も言わないと思うよ」
「そんなもんかねぇ…」
でも、よくよく考えてみれば少なくともこれまで名前で呼んでいたのに急に名字で呼ぶのは違和感が強い
とはいえ、この歳で名前で呼び捨てにするのは恥ずかしい
ただ、彼女の言う通り、幼なじみであることを予めみんなに明かしてしまえば周囲からすれば普通だと思われる可能性は高い
「それもそうだな、みゆき」
「やっぱりこっちの方が佐藤君って感じがするね」
「けどみゆきは『佐藤君』なんだな」
「女子はその辺りは色々とあるからね」
「まあそれならどうにもできんな」
俺は数分間、膝枕を堪能した
「よし、行くか」
「頑張ってね」
「おう」
俺は意気揚々と校庭に向かった
校庭に着くと、そこにはリレーの選手たちが集まっていた
ーーー俺、リレーでカッコいいとこ見せて、絶対愛野さんに告白してやる
ーーーは?ずるいぞ。俺こそやってやる。愛野さんは俺のもんだ」
「な、なんだこの殺伐とした空気は…」
「さしずめ、1組のメンバーが愛野を彼女にしたいって意気込んでんだろ」
「あー…確かにみゆきだけは誰と組むのかでめっちゃ揉めてたな…」
「みゆき?」
「あ、その…無理に名字呼びしてたのバレてたみたいで、名前で呼んでいいって言われたから…」
「なるほどな…っと、そろそろじゃね?」
「ああ。行ってくる」
「行ってらっしゃい」
俺はスタッフの誘導に従い、コースの内側に移動した
誘導が終わると、第1走者がレーンに入る
例年、このリレーはデッドヒートするらしく、この体育祭の見所の一つのようだ
ただ、問題が1つある
1組は1年生の全クラスの中でも50m走の平均が低いということだ
速い奴はもちろん速いが、クラスの半分より少し多いくらいの人数が遅いのだ
だから今回のリレーでもうちのクラスは遅い奴が入っている
さて、俺の番が来た時にどうなるのか
もちろん魔法は使わない
魔法を使うのは正々堂々とは言えない
それに魔法を使うというのはみゆきの努力を否定することになる
それは俺がなってほしい結果ではない
ーーーそういえば、愛野さんの下の名前何だっけ?
ーーー自己紹介で言ってたろ。確か…『ミクリ』!
ーーーいや、『ミズホ』だろ
ーーーいや、『ミナト』じゃなかったっけ?
(『みゆき』だよ!『み』と文字数しか合ってねえよ!)
俺は心の中で全力でツッコミを入れた
こいつら、告白する気なのに名前も知らねえのか
ーーーこうなったら数打ちゃ当たるでやろう!
(それは無いだろ!みゆきに限らず名前も把握してくれてない男子と付き合いたい女子なんていないだろ!)
俺は三人の会話に心の中でツッコミを入れ続けながら順番を待ち続けた
1組は前半で他のクラスに大きく差をつけたが、中盤で大きく失速してしまった
そのため、前半でのリードも一気に詰められ、2位に落ちてしまった
しかし、三井、田中、加藤の三人はそれを挽回して再び1組が1位となった
ところが、加藤の次の走者が途中で転び、これにより1組は4位まで落ちてしまった
そして、ついにアンカーの順番になった
「佐藤、悪い!ギリギリ抜けなかった!」
「…ったくしゃあねえな!」
俺は中村からバトンを受け取ると、全速力で走り出した
アンカー以外は1周だが、アンカーは3周だ
トラック1周が200mなので、アンカーは600m走らないといけない
しかし、今回ばかりは好都合だ
(これは…体が軽い!練習の時とは比べ物にならないくらい軽い!流石だぜ、みゆき!)
ーーーおっと1組のアンカー、凄い速さだ!前の3人に凄い勢いで迫っている!
ーーーおおー!
俺はそのまま2人を抜き去った
ーーーおおっと!1組のアンカー、2組と5組をあっさり抜き去った!残るは3組のみ!この勢いのまま3組まで抜き去ってしまうのか!?
(くそっ、息が…!)
俺はペースを落とそうと考えた
その時、俺の視界の左端に見知った人影が見えた
(あれは…みゆき!?)
それは、俺の勝利を祈るみゆきだった
そうだ。これは俺だけの戦いじゃない
クラス全員の戦いだ
そして俺とみゆき、二人の戦いだ
「俺のハラは決まった。このまま全速力で…突っ走る!おりゃあああ!」
ーーーおっとここで3組アンカー失速か?いや、違う!1組のアンカーがさらにペースを上げている!凄い勢いで3組のアンカーに迫る!一体どうなる!?
「負けるかあああ!」
俺は3組のアンカーと一緒にゴールへと飛び込んだ
ーーーおおっと、1組と3組が同時ゴール!審判の先生方によるビデオ判定が行われます!
俺たちの同時ゴールに、会場はざわめき出した
1分後、小林先生が朝礼台に上がった
「お二人のゴールはほぼ同時でした。しかし、ほんのごく僅かにですが、1組のアンカーの方が先にゴールテープに触れていました。よってこの勝負は1組の勝利とします」
「くっ…」
「………」
俺は3組のアンカーの荻野に近づいた
「笑いに来たのかよ」
「いいや、笑わねえよ。むしろ凄いよ」
「………」
「俺も正直勝てるとは思ってもみなかった。そのくらい手強かったぜ。お前と走れて、最高だった」
「………。ふっ…俺もだぜ。結局は負けちまったけど、正直お前の速さには俺もやべーと思ってた。いい勝負だったぜ。でも、次は負けないぜ」
「おう」
俺は荻野と握手をした
ーーーここで1組と3組のアンカー同士が握手だ。皆さん、二人にもう一度盛大な拍手を
会場は凄い拍手に包まれた
俺たちは拍手の中、退場した
そこには石川がいた
「お疲れさん」
「ああ。それにしてもマジでギリギリだよ…」
「いやそれでも4位から一人で全員抜くとか奇跡としか言いようがねえよ」
「不思議と体がいつもより軽く感じたんだ」
「軽く?体重減ったんか?」
「いや、減ってないけどまるで自分が風になったかのような軽さだったよ」
「不思議なこともあるもんだな。あ、でも愛野の完璧な管理下だったなら不思議でもないか」
「それは思った。みゆきが何かしたんじゃないかってね」
「魔法で?」
「食事面でだよ。魔法とか不正もいいとこだろ」
「分かってるよ。こりゃ俺たちの負けかな…」
俺たちはそんな話をしながら教室に戻った
しかし、石川の予想は大きく外れ、1組は俺が出た競技は1位を取っていたが、それ以外の競技では散々な結果となった
その結果、献身度点では他の人たちを出し抜き、俺とみゆきが手に入れたが、クラスは学年3位となってしまった
「やっぱり3組には敵わなかったわね…」
「まああんだけ強ければ仕方ないだろ……ん?」
「ん?どうしたのよ」
俺は校舎脇を指した
そこには5人の男子に囲まれたみゆきがいた
「みくりちゃん」
「みずほちゃん」
「みなとちゃん」
「みなみちゃん」
「みりあちゃん」
「俺と付き合って下さい!」
(全員名前間違えてる!?しかも全員バラバラな上に『み』しか合ってない!?何の奇跡だよ!)
俺と牧野は顔を見合わせて驚いた
まさかマジで当たって砕けろで行くとは思いもしなかった
「皆さん…ごめんなさい!」
「え…」
「その…私の名前を間違える人と付き合うのはちょっと…」
そりゃそうだ
自分の名前もちゃんと知らない男と付き合いたい女の子なんて普通いないだろう
「え?待って。誰が合ってるの?」
「………全員間違えてます…」
「え…」
「アホかよお前ら…。そもそも教室の裏に自己紹介カードだって貼ってあるだろ…。それで全員で間違えるとか、もはや奇跡だろ…」
「え?じゃあ正しくは…って佐藤、待てよ」
「用事あるんだよ。あ、そうだ。あの時、応援ありがとな、みゆき」
「う、うん…」
「へ?『みゆき』?」
「『み』しか合ってなかったんか…。それも全員…」
「どんなミラクルだよ…」
五人を見ると、全員膝から崩れ落ちていた
そして、この五人がみゆきにフラれたこととフラれた原因は月曜日には瞬く間にクラス全体に伝わったのだった
6月の定番行事って何だろうって考えた時、やっぱり体育祭しか思いつきませんでした
ただ、ありきたりな体育祭だとなんというか…面白味に欠けるなって思ったんですね
そんな時に思い浮かんだのが部活のマネージャーだったんです
そうだ。これを体育祭に組み込んだら新しい体育祭になるんじゃないかって思ったんです
ただまぁ…事例として見たことも聞いたこともないからぶっちゃけこんなんでいいのかっていう部分はありますけどね…
うちの学校にはこんな変わった競技や慣習があったよってのがあったらぜひ教えて下さい




