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あまいろパステル 〜紡がれる恋の1ページ〜  作者: 神御田
2年生

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31/32

24時間目 自分の気持ち

クリスマスパーティーを翌週に控えたこもれび高校。


しかしそんな時期にもなって実行委員は急に男子のプレゼントは女子に、女子のプレゼントは男子に必ず行くようにすると宣言。

しかし、これまで愛野みゆきに一筋だった佐藤幸二にはみゆきの喜ぶ物は分かるが女子が一般的に喜ぶ物が分からず、仕方なくみゆきに助けてもらうことになったのだった

2037年12月17日

授業が終わり、俺は桜女子学園までみゆきを迎えに来ていた

今日はみゆきと出掛ける約束をしている

ただ、みゆきは12月に入ってからずっと桜女子学園に通っているせいで、いつもなら学校終わりに一緒に行けるのにわざわざこうしてここまで迎えに来ないといけないのだ

学園の門の近くまで来た時、チャイムの音が聞こえてきた

それからしばらくすると、桜女子学園の制服を身に纏った女の子たちが出てきた

女の子たちは俺を見るなりざわつき出した


「あら、彼って確か…」

「ええ。歌姫様と踊っていた方ですわね」


ここに来ると毎回こんなふうに言われている

いかんせん、誰とも踊ろうとしなかったみゆきと、みんなの前で踊ってしまったせいで桜女子学園の生徒の中では俺がみゆきの彼氏の最有力候補になってしまっているのだから

響きは悪くないけど毎回こんなふうに噂されるのは流石に恥ずかしい


「騒がしいと思ったら、やっぱり佐藤君だったんだね」

「へ?」


声のする方に振り返ってみると、鞄を2つ持ったまま腕組みしている飯島がいた

こいつよく鞄2つ持ったまま腕組みできるな

そして、その後ろには手に何も持っていないみゆきが立っていた

なるほど、もう1つはみゆきのか

大方、歌姫様に荷物持たせてたらとかそういう系なんだろうな


「それで、今日は何の用でここに?」

「いや、用があるのは…」


俺はみゆきの方を見た


「なるほど、歌姫様をデートに誘いに来たわけね」


飯島はわざわざ大きめの声で言った

その瞬間、周りの女の子たちが一斉に俺の方を見てきた

こいつ、わざとやりやがったな


「いや、デートというかただの買い物というか…」

「お買い物デート?」

「何でもデートに結びつけるなよ。何ならお前も来たっていいよ」

「いやー、流石にデートにまで押しかける気は…」

「飯島さん」

「………!」


飯島を呼ぶ声に、桜女子学園の生徒全員がビクッとした

いや、呼ばれたの飯島だけじゃなかったか?

声のした方を見ると、初老の女性が歩いてきていた

確か、御子柴先生だったかな?

そういえば修学旅行の時、みゆきたちが御子柴先生は桜女子の生徒やOGなら誰だって怖いみたいなこと言ってたっけ

なるほど、みんなが反応したのはそういうことだったか

御子柴先生は飯島に説教を始めた

するとみゆきは飯島の手から自分の鞄を回収して俺のところに来た

そして急に俺の手首を掴んで駅まで引っ張って行き、手を離した


「急に何だよ」

「私、申し上げたはずですよ。デパートで待っていてほしいと」


みゆきはお嬢様言葉で詰め寄ってきた

みゆき、いや、桜女子の生徒たちは制服で外にいる時は、生まれとか一切関係なくみんなお嬢様言葉で話している

最初は俺も慣れなかったけど、最近は桜女子の生徒と話すきっかけがかなり多く、今ではかなり慣れている


「そういえばみゆき、髪型変えたの?」

「ええ。ルームメイトに勧められて試しにですけどね」


普段のみゆきはツーサイドアップという髪型だ

しかし、今のみゆきはワンサイドアップという髪型だった


「先程から視線を逸らされていますけれど、どこか変ですか?」

「いや、かわいくて直視できないだけ」

「か、かわっ…」


みゆきは顔を真っ赤にして目を逸らした

やっぱり、みゆきの照れた顔かわいいな


「その髪型、すごく似合っててすごくかわいいよ」


俺がそう言うと、みゆきは一気に顔を赤くして後ろに倒れた


「ちょっ!!」


俺はみゆきを後ろから抱き止めた

今のみゆきをアニメで描くならたぶん、頭から湯気が出て目がぐるぐる回っているような絵になるだろう

俺はみゆきのスカートの中が見えないようにお姫様抱っこをして駅のベンチまで運んで寝かせ、飲み物を飲みながら時間を潰した

そして5分後、みゆきが起き上がった


「みゆき、大丈夫?」

「ええ、何とか…」


俺は起き上がったみゆきに水を渡した


「さて、そろそろ出発しないと遅くなっちまうな」

「そうですね」


俺たちは電車に乗り、桜木市のデパートに来た

辺りを見渡すと、ちらほらと桜女子の制服を着た女の子たちが歩いていた

どうやらここは、桜女子の生徒御用達の場所のようだ

俺たちが今日ここに来たのは、こもれび高校のクリスマスパーティーのプレゼント交換用のプレゼントを買うためだ

しかも今回は実行委員がハードルを上げていて、男子のプレゼントは女子に、女子のプレゼントは男子に必ず渡るようにするらしい

つまり、あまり変なのを選ぶと女子にドン引きされたりなんてこともある

そういえば去年は3組の男子がネタがてらプレゼントにグラビア雑誌を入れ、それを女子が引いて男子全員が白い目で見られるという惨事があったらしい

ちなみに男子は女子に、女子は男子にプレゼントを何にしたか知られてはいけないというルールがある

しかし、みゆきは今年のクリスマスは桜女子の方のに参加してほしいと言われているらしく、今回は出ないらしい

だからプレゼントの中身を知っていようが何の関係も無いのだ


「あ、そうだ。その前にこれ、頼まれてたやつ」

「ありがとうございます」


みゆきは俺から紙袋を受け取ると、近くの女子トイレへと入って行った

ちなみにみゆきに渡したのは、みゆきのこもれび高校の制服だ

みゆきは桜女子の制服を着ている時はまさにお嬢様といった感じだが、こもれび高校の制服の時は、どこにでもいる普通の女子高生といった感じだ

正直、慣れてるとはいえ、やはりお嬢様モードだと言葉遣いや立ち振る舞いが凄く堅苦しくてどこかむず痒さがある

そのことをみゆきに話したら、こもれび高校の制服をみゆきの家から持って来るように言われたのだ

少しして、みゆきが着替えずにトイレから出てきた


「あれ?着替えに行ったんじゃないの?」

「佐藤さん、こちら、スカートが夏服のものですわ…」


みゆきはそう言って紙袋を渡してきた

中を見ると、確かに夏服のスカートが入っていた


「ありゃま…。みゆきのお母さん、間違えちゃったんだ…。まあしゃあないか」


俺たちはそのまま店を回り始めた


「無難な線で行くなら小物系や文具系なんだろうけど何が良いんだろう…」

「その辺りでしたら女子向けの物であれば大きく外すことはありませんけど、年齢に分不相応な物には気をつけないといけませんね」

「というと?」

「例えばこちらですね」


そう言うとみゆきは1つの商品を手に取って見せてきた

その商品は確かに女子向けではあるけど、明らかに小学生をターゲットにしている物だった


「こちらを高校生が使っていたらどう思いますか?」

「確かに…言っちゃ悪いけど幼いというかなんというか…」

「要するにそういうことです」

「なるほど…」


それから俺たちは3時間くらいいろんなところを見て回ったが、結局プレゼントは決まらなかった

なにせ、良さそうなのが見つかっても値段が張って手を出せなかったり、そもそも桜女子に通うようなお嬢様向けみたいな印象の商品であまりにも分不相応になりそうな物だったりしたのだ

桜女子の生徒御用達の商業施設だからある程度はと思っていたが、まさかこれほどとは思わなかった


「みゆき、明日は空いてる?」

「明日ですか?スケジュールは特に入っておりませんけどどうかされました?」

「明日はこもれび百貨店行ってみない?」

「分かりました。では明日は空けておきますね」

「ありがとう」


俺はみゆきを桜女子まで送り届け、帰宅した

ちなみに飯島はあれから会議室に連れて行かれてお説教されていたらしい

しかも御子柴先生があのタイミングで来たのも、飯島が俺を弄ってる最中にみゆきがこっそり御子柴先生に電話で報告したからだったようだ

やっぱりみゆきだけは怒らせちゃいけない気がするな


翌朝、俺は早起きして桜女子学園駅に向かった

そしてみゆきにメッセージを送り、駅前の喫茶店で朝ご飯を食べながら待つことにした


「ここの朝メニュー、結構美味いんだな」


この店は最近できた女子高生に人気のチェーン店で、高校の近くや学園都市を中心に展開されている

特にこもれび高校のあるこもれび学園都市とここ桜木学園都市は、学校の数の多さから多くの店舗が出店している

店の中を軽く見渡すと、スーツを着た人がかなりいた

この時間帯だと、いるのはおそらく桜女子学園を中心に、近辺にある学校の先生や事務員さんだろう

俺はスマホに目をやった

時計はまだ9時半を指していた

桜女子学園の寮は、確か休日は学園に行く以外の用では午前10時以降でないと外出ができないって飯島が言ってたっけ

となるとまだあと30分は待たないといけないだろう

まあ、のんびり朝食食べてればそのくらいの時間は経つだろう

俺はのんびりと朝食を済ませ、店を出た

時計はもうすぐ10時になろうとしていた

とはいえ、みゆきだって10時によーいどんで出てくることはおそらくできないだろうからそこから多少は待たないといけないだろう

スマホを眺めながら駅前広場で待っていると、誰かが俺に声を掛けてきた


「お待たせ致しました」


顔を上げると、桜女子の制服を着たみゆきと飯島がいた


「お前ら、なんで制服?」

「先程、少々学園に用事がありまして」

「なるほどな。にしても飯島がお嬢様モードってなんか違和感しかないな」

「あら、私だって桜女子学園のイチ生徒ですのよ」


するとみゆきが背伸びして俺の耳元で小さい声で話しかけてきた


「実は昨日、御子柴先生にこっぴどく叱られたみたいで、昨日、私が寮に帰った時からずっとこんななの」

「あー…なるほど」


そういえば昨日、飯島がお説教受けてる時も淑女たるものなんちゃらかんちゃらって言ってたな

聞き耳立ててたわけじゃないから詳しくは分からないけど


「それでは、参りましょうか」

「いや、相変わらず切り替え早いな」


俺は三人で電車でこもれび百貨店に行った

ただ、周りの視線がかなり痛かった

それもそのはずだ

今、俺は桜女子の制服を着た二人の女の子と一緒に行動してる

つまり、単に両手に花というわけではなく、見方によっては二人のお嬢様を侍らせてるようにも見えるわけだ

この状況で周りからの視線を集めない方がおかしいというものだ


「飯島、申し訳ないんだけどしばらく一人で行動してもらえる?桜女子の制服着た女子を二人も連れてると視線が痛くて…」

「そんなことを言われましても、私は彼女から離れるわけにはいきませんので」

「なんでだよ…」


すると飯島は事情を話してくれた

なんでもここ最近、この近辺でひったくりが多発しているらしく、特に若い女性がターゲットになっているらしい

しかも今、みゆきは桜女子の制服を着ているため、周囲から見ればみゆきは桜女子学園に通うお嬢様ということになり、被害に遭う確率が高い

つまり、飯島はみゆきをひったくり犯から護衛するためについて来てるということだ

飯島の荷物がほとんど無く、逆にみゆきの荷物がちょっと多そうに見えるのも、自身がひったくりに遭ってみゆきから離れないようにするために荷物は基本的にみゆきに持たせているからのようだ

みゆきが自分の鞄から飯島の財布を出して現金を渡していたから変だなと思っていたけどそういうことだったのか

俺は飯島の同行を認めざるを得なかった


「そういや飯島はクリスマスパーティーどうすんの?」

「私は参加致しますわ。みゆきさんからたまには羽を伸ばしてらっしゃいと言われましたので」

「あ、そうなんだ。じゃあプレゼント選びももうしたの?」

「ええ。一昨日買いに行きましたわ」

「だと見てたらまずくないか?見てたらプレゼントが予め何なのか分かっちゃうんだから」

「それに関してはご心配なく。売り場では離れたところで見ていますので」

「なるほど…」


俺はみゆきと一緒に売り場に入って行った

そして飯島は宣言通り、遠目に俺たちの様子を見ていた

ちょっと落ち着かないけど、みゆきを護衛しつつプレゼントを見ないようにするとなるとこうするしかないのだろう


「みゆき、これとかどうかな?」

「わりと無難な線ではないでしょうか」

「無難か…。逆に今の女子が好みそうなのってどういう物なの?」

「誰から貰うかによりますね。ご家族、ご友人、恋人…どのような方からのプレゼントであるかによってプレゼントに込められる想いというものも変わりますので、共通解というものは存在しないのです。今回はクリスマスパーティーのプレゼント交換用の物ですので、そのプレゼントが誰に渡るかは分かりません。また、受け取る側も誰からのプレゼントなのかは分かりませんので、仮に特別な気持ちを込めたとしても意味が無いという結果に終わることも十分考えられます。ですので無難な線で行くのが最善だと私は考えますわ」


言われてみれば確かにそうだ

今回のプレゼント交換では、あくまで異性に渡ることが確定してるに過ぎない

となると、誰かへの想いを込めたプレゼントを用意したところでそのプレゼントが確実にその子に渡るとは限らない

もしその想いが「あなたが好きです」とかいう物であれば、下手をすれば誤解を与えてしまうこともある

となるとやはりみゆきの言う通り、無難な線で行くのが最適解なのだろう

俺はプレゼントを決め、レジに向かった

レジに着いた時、俺はみゆきが何かを手にしているのに気付いた


「あれ?みゆきもプレゼント買うの?」

「あ、こちらは私用の物ですので」

「なるほどね」


俺は先に会計を済ませ、みゆきを待った

ところが、みゆきが財布を出したその時、近くにいた男がみゆきの手から財布を奪って行った


「あっ」


みゆきと店員さんは揃って声を上げた

俺は慌てて犯人を追いかけた

しかし、犯人は思ったより足が速く、なかなか距離を詰められなかった

すると視界の端に飯島が入ってきた


「飯島!こいつ捕まえるの手伝って!こいつみゆきの財布盗みやがった!」

「了解」


犯人は階段を駆け降りて行った

それに対して飯島は吹き抜けから犯人のところへ飛び降りた

いや、スカートでよくそんな動きできるな

そして飯島は、ものの数秒で犯人を拘束してしまった


「おおー…」


飯島の逮捕劇に、周囲の人たちは感激していた


「いって!なんだって桜女子のお嬢様にこんなチカラが…」

「歌姫護衛騎士団のチカラを侮ってもらっては困ります。我らが歌姫様に害をなす者よ。その罪、償っていただきます!」


犯人のぼやきに、飯島はそう返した


「う、歌姫様!?マジかよ…。歌姫護衛騎士団のチカラはばかにならないから歌姫様には手を出すなとボスに言われてたのにまさか手を出しちまうなんて…。しかも歌姫護衛騎士団に捕まるとか運悪過ぎだろ…」


犯人は飯島に財布を回収され、後ろ手に縛られた

しかも飯島は回収時、ちゃんと自分の指紋が付かないようにビニール袋越しに手にしていた

そして数分後、飯島は店の人が呼んだ警察官に犯人を引き渡し、さらに財布の指紋採取までやってもらっていた

何というか、言い逃れさせまいという執念を感じた

そして飯島は、証拠収集を終えた警察官から財布を受け取り、後から来たみゆきに財布を手渡した

みゆきは飯島にお礼を言って財布を受け取ると、中身を確認してから再びレジへ戻って行った


「俺が捕まえられなかった犯人をあんなあっさり捕まえるなんて凄いな…」

「あれくらいは余裕よ。単純な強さを比較するなら、その辺の男より歌姫護衛騎士団の方が圧倒的に強いからね。じゃないと歌姫様を護るなんて到底無理だからね」

「飯島、話し方戻ってるぞ」

「あら、これは失礼しましたわ」


その後、俺たちはみゆきと合流し、近くのファミレスで昼食を摂ってから桜女子へと戻った


「二人とも、今日はありがとな」

「お気をつけてお帰り下さいね」

「ああ」


俺はみゆきたちと別れ、電車で帰宅した


2037年12月24日

授業の後、俺は家に帰って着替え、プレゼントを持ってクリスマスパーティー会場に行った

会場で受付を済ませると、プレゼントは受付で回収され、俺は中に通された

中にはクラスメイトたちがかなり集まっていた

辺りを見渡してみるが、やはりみゆきも飯島もいない

淡い期待を抱いていたが、やはりダメだったようだ


「よう。楽しんでるか?」


石川が後ろから話しかけてきた


「まだ始まってすぐだろよ…」

「ちなみに今日は誰かと踊るのか?」

「いや、踊らないと思う」

「愛野がいないからか?」

「まあな。あいつほど俺とダンスで息が合う奴いないからな…」


去年のクリスマスの後もこもれび高校ではダンスの授業が何度もあった

しかし、結局誰とやっても全然ダメだった

もちろんみゆきの言った通り、女子とも踊ってみた

しかし、俺の技量が高過ぎて女子側がついて行けず、結局ダメだったのだ

あと一緒に踊ってないのは飯島と上山くらいだ

理由は分からないが、あの二人はなぜか誰とも踊りたがらない


「やはり誰とも踊っていらっしゃらなかったのですね」

「え?」


俺は声のする方を振り返った

そこにはドレスを着たみゆきと飯島がいた


「は?なんでここに?みゆき、今日は桜女子のクリスマスパーティーに行くんじゃなかったの?」

「桜女子のパーティー会場、この隣のホールなんだって」


俺の問いに、飯島はそう返してきた


「何その偶然…」

「で、私は今来たんだけど、トイレから隣の会場に入ってくみゆきちゃんを見かけたから声かけて連れて来たってわけ」

「なるほどな…」

「では、私はこれで失礼致します」


そう言ってみゆきは会場をあとにした

すると飯島が俺に寄ってきた


「佐藤君、一緒に踊る?」

「へ?急にどうしたんだ?」

「みゆきちゃんに言われたの。佐藤君、もしかしたら踊る相手見つからなくて途方に暮れてると思うから踊ってあげてって」

「全く…みゆきには敵わないな」


俺は姿勢を正し、飯島に手を差し出した


「踊って頂けますか?」

「よろしくお願いします」


飯島は俺の手に自分の手を乗せてきた

曲が始まり、俺たちは踊り始めた

飯島のダンスはものすごく上手く、俺も全力を出すことができた


「お前、こんな上手いのになんで誰とも踊らないの?」

「強いて言うならみゆきちゃんがいるからかな…」

「どういうこと?」

「佐藤君、みゆきちゃんがどれくらいダンス上手いか知ってる?」

「え?今の飯島くらいじゃないの?去年踊った時もこれくらいだったはずだよ」

「それはみゆきちゃんが佐藤君のレベルに合わせてただけ。正直、今のみゆきちゃんの本気のレベルに合わせられる人なんて、こもれび高校はおろか、水城学園にだっていないからね」

「マジかよ…」


水城学園は財閥や大手企業の社長の御曹司なんかが通う超有名な男子校だ

そんな学園だからこそ社交界で困らないようにとダンスの授業には半端なくチカラを入れていると聞いたことがある

そんな学園に通う奴等ですら後れを取る程って、どんだけレベルが高いんだよ


「つまりみゆきと比べられたくないから踊らないってこと?」

「まあ…簡単に言えばそうだね。ちなみに詩織ちゃんが踊らないのも同じ理由。詩織ちゃんも今の私と同じくらいの実力だからね」

「そうなんだ…。でもなんでみゆき、そんなにダンス上手いんだろう…。歌姫とダンスって関連性あるの?」

「無い。ブロッサム・ディーバはあくまでも歌のプロだから、ダンスができなくても歌と作法が完璧なら、あとは冬桜の会で選ばれさえすれば誰でもなれるから」

「じゃあなんでそんなに?」

「みゆきちゃんは教わったことを吸収するチカラが飛び抜けて高いの。それと、これは完全にみゆきちゃんの真面目な性格ゆえのことではあるけど、教わったことは常に完璧にこなせるようにしないと相手に失礼って考えなの。だから桜女子に通ってる時も、普通の授業はもちろんのこと、作法もダンスも歌姫候補生のレッスンも、予習、復習に一切の余念が無かったんだよ」

「じゃあ…」

「そう。みゆきちゃんの真面目な性格からの並外れた努力の結果。みゆきちゃんに勝つならそれをさらに上回る努力をしないと到底無理ってこと」


飯島がそう言い終えた直後、曲が終わった

俺たちは再び壁際に移動した


「佐藤君。もし今後みゆきちゃんが全力で踊れる相手が現れるとしたら、うちではたぶん佐藤君が有力候補だよ。だから、来年のクリスマスパーティーまで頑張ってね」

「お、おう…」


俺は困惑しながら返事をした

あれがみゆきの全力じゃないとしたらどれだけ頑張ればみゆきに追いつけるのだろうか

そんなことを考えていると、上山が俺のところに歩いてきた


「お疲れー。あ、これ差し入れ」

「お、サンキュー」


そう言って俺は上山から飲み物を受け取った


「佐藤君、かなりダンス上達したよね」

「まあ…そのせいで全力出して踊れる奴がお前ら桜女子OG三人衆だけなんだけどな」

「そんな呼ばれ方したの初めてなんだけど。というか私、佐藤君と踊ったこと無いのになんで私の実力知ってるの?」

「飯島が言ってたんだよ。上山の実力は今の飯島くらいだって」

「なるほどね」


俺は上山から受け取った飲み物を飲みながら上山としばらく話し込んだ


「あ、そろそろ行かないと」

「誰かと待ち合わせしてるの?」

「みらいちゃんとクリスマスのミサ行く約束してるの」

「ミサ?」

「ほら、去年みゆきちゃんが歌ってた教会の」

「あー、あそこか。今年もあいつ歌うの?」

「今年は歌わないみたい。普通に聖歌隊だけだって。そもそも去年は100周年記念っていうのもあって呼ばれただけだったみたいだしね。毎年呼ぶのは流石に無理だよ。ブロッサム・ディーバへの出演依頼ってかなりお金かかるからね」

「それってみゆきの言い値が高いから?」

「出演料は学園が決めてるからみゆきちゃんは関係ないよ」

「へーえ」

「じゃあそろそろ行くね」

「俺も行っていい?」

「私は構わないけどいいの?」

「何が?」

「桜女子のクリスマスパーティーもそろそろ終わるし、みゆきちゃんと合流して一緒に過ごさないの?」

「あー…。でも所詮俺の片想いでしかないのにそれはちょっとどうなんだろう…」

「思い切って真正面から告白してみたら?なんだかんだで好きだって呟く程度で面と向かって告白したことは無いでしょ?」

「まあ…できたらな」

「じゃあ、頑張ってね」


上山はそう言って行ってしまった

俺はプレゼント交換のプレゼントを受け取り、桜女子のクリスマスパーティーが終わるまで待った

桜女子のクリスマスパーティーは、上山が言った通り、わりとすぐ終わった

その数分後、みゆきがパーティー会場に入ってきた


「あ、佐藤君、まだ残ってたんだ」

「まあな。一応わりと人数残ってるし、予定も無いからな」

「そっか。そういえばみらいちゃんと踊ってみてどうだった?」

「うん。かなり上手かった。でもみゆきは本気でやるとそれ以上に上手いって聞いたんだけど本当?」

「そこは分からない。でもみんなからは飛び抜けて上手とは言われるね」

「じゃあ試しに本気で踊ってみて」


俺はみゆきに手を差し出した


「いいけど大丈夫?」

「知らん。でもみゆきの本気を見てみたいんだ」

「はあ…」


みゆきは困惑しながら俺の手に自分の手を乗せた

そして俺たちは二人でホールの真ん中に移動した

曲が始まり、俺たちは踊り始めた

最初は特に何も感じなかったが、曲が中盤に差し掛かる少し前くらいから違和感が出てきた


(あれ?俺、乗せられてる?)


そう。最初は俺がリードしていたはずが、気付くと俺がみゆきのリズムに乗せられて踊っていたのだ

普通、男性用のステップを踏む俺がリードし、女性用のステップを踏むみゆきがそれに合わせるような形になるはずなのだが、今となっては完全に男性用ステップの俺が女性用ステップのみゆきに合わせてリードしている状態となっている

こうなるとおそらく俺が1つミスをすればかなり目立つんじゃないだろうか

まあ、こんなことになったの自体が初めてだから何とも言えないが

それにしても、こんな異様な状況なのに周りからは何の声も上がる様子が無いのは何故なのだろうか

そんなことを考えていると、俺はうっかりステップを間違えてしまった

しかし、それでも誰からも声が上がらなかった

一体どうなっているのだろうか

そんなことを思っていると曲が終了した

それと同時にホール内に拍手が響き渡った

俺たちは再び端に戻った

すると飯島と上山が来て、その後クラスの数名がやって来た


「佐藤君、ステップ間違えてたね」


上山がそう言うと、飯島とみゆき以外はみんな「え?」という顔をしていた

あれ?もしかしてみんな気付いてなかった?

というかこいつら、いつの間に戻って来たんだ?


「考え事してたらステップ踏むの遅れてな。でもみゆきは一緒に踊ってたから別として、なんで飯島と上山は気付いててみんなは気付いてないの?」

「こればかりは桜女子のOGだからとしか言いようが無いかな。佐藤君がみゆきちゃんに合わせてる状態だったのも、ミスしたのも全くバレなかったのは全部みゆきちゃんの魔法みたいなものだからね」

「どういうこと?」


俺がそう問うと、上山は説明をしてくれた

どうやらみゆきは『ブロッサム・イリュージョン』というものを使っていたらしい

ブロッサム・イリュージョンというのは、男性の技術の低さやミスを周りから分からなくする、桜女子学園に伝わるダンスの秘法らしい

しかも中等部、高等部共にこの秘法をマスターすることが3年生への進級条件らしく、毎年これをマスターできずに留年する子が続出しているらしい

そして一発クリアするのはほぼ初等部や中等部からの内部進学生らしく、外部生はよほど努力しないと一発クリアはできないそうだ


「ちなみにそのイリュージョンを見抜く方法っていうのは桜女子の授業とかで教えてもらえるものなの?」

「教えてはもらえないけど、私たちはそれのやり方をマスターしてるから、イリュージョンやれば一目で分かるの。だからわざわざ教わる必要は全く無いの。ただ…」

「ただ?」

「みゆきちゃんがやったブロッサム・イリュージョンは、いくつかある技の中でも一番難易度が高いもので、やることによって自分の動きに現れる不自然さまでも見えなくするものなの」

「つまりみんな、みゆきのその技に目を欺かれてたってこと?」

「そういうこと。ちなみにこの技は女性用ステップに合わせて作られてるし、何より桜女子学園に入学した女子にしか教えることが許されていないものだから教えてと言われても教えることはできないからね」


上山がそう言うと、他の女子たちはしょぼくれてしまった

まあ、秘法って言うくらいだから簡単には教われないだろうなとは思っていた

とはいえ、俺は男だからそもそも教わったところで使えないけど


「あ、そろそろ時間だ。みらいちゃん、行こう」

「うん」


そう言って飯島と上山は会場をあとにした

それからすぐにみんなも元いた場所に戻って行った


「俺たちも出るか」

「そうだね。また去年みたいに終電終わって家にも桜女子にも行けなくなると大変だしね」


俺はみゆきと一緒に会場を出て駅に向かった


「みゆき。桜女子って俺みたいな作法も全く分からないような男子すらも立ててしまうテクって他にどのくらいあるの?」

「そこまで多くはないかな…。そもそもあそこの9割以上の生徒はお金持ちのお嬢様たちだから、そもそもそんなことをしないといけないような男子と結ばれる子がいないから教わる意味が無いっていうのはある」


言われてみれば確かにそうだ

冬桜の会の時も、この前みゆきを迎えに行った時も見たけど、あそこに通っている子のほとんどは育ちの良いお嬢様たちだった


「ブロッサム・ディーバに選ばれる子もだいたいはお嬢様で、幼少の時から歌を家庭教師に徹底的に教わってたり、あとは桜女子の初等部で鍛えられた子だから、そういった意味では私がブロッサム・ディーバに選ばれたのも珍しいといえば珍しいんだよね」

「へーえ」


そんな話をしながら歩いて行くと、駅が見えてきた

そして、駅の前には大きなクリスマスツリーがあり、その下には多くの男女が集まっていた


「わぁ…綺麗…」

「凄いな。はるかぜニュータウンのツリーよりでかいもんな…」

「うん…」


俺たちはそのままツリーの下まで行った


「あ、あのさ、みゆき」

「何?」


俺はみゆきの前に立った


「俺、ずっとみゆきのことが好きでした」

「え?知ってるよ」

「いや、まあそうなんだろうけど最後まで聞いてよ」

「はあ…」


なんかこういうノリで来られると調子狂うなぁ…


「みゆき、幼なじみじゃなくて、俺の彼女になって下さい!」

「え…」


みゆきは明らかに困惑していた


「ごめん。私、今はそういうこと考えられなくて…」

「それってやっぱり歌姫だから?」

「ううん、そういうことじゃないの。でも今は…」

「そっか…」


あぁ…完全にフラれちゃったな…

俺の恋もここまでってわけか…


「じゃあ、また年明けにね」


そう言ってみゆきは駅の中へと消えていってしまった


「はあ…」


俺はしばらくその場に立ち尽くしていた

すると、後ろから肩を叩かれた


「よう」

「あ…石川か」

「どうした?こんなとこで」

「いや、実は…」


俺は石川と一緒にベンチに座り、さっきの出来事を石川に話した


「そっか…。まさかフラれるとはな…」

「飯島からは脈ありって言われてたんだけど結局ダメだったよ…。なあ石川」

「ん?」

「こういう場合っていつかまた、リベンジしていいもんなんだろうか…」

「さあな。ただ、しつこい男は嫌われると思うぜ」

「それは分かってるけどさ…」


するとそこに飯島と牧野がやって来た


「おう。終わったのか?」

「間に合わなかったのよ。まあ今年は聖歌隊メンバーじゃなかったからいいけど。それよりあんたたちこそこんなとこで男二人で何してんのよ」


石川は飯島と牧野に俺がさっき話したことを話した


「なるほどね…」

「うーん…行けると思ったんだけどダメだったか…」

「飯島さん、それどういうこと?」

「みゆきちゃん、佐藤君のこと気にしてる様子が見受けられたからもしかしたら行けるかなって思ってたんだけど…」

「そんなことが…。まあ私たちよりもみゆきのそばにいる飯島さんだから気付けたことなのだろうけどね」

「佐藤君、ごめんね」

「いや、なんで飯島が謝るんだよ」

「だって思い切って告白しちゃえって背中押したの私だから…」

「飯島は悪くないよ。こればかりは俺の不甲斐なさが原因だから」

「それで、みゆきちゃんは?」

「一人で駅に行っちゃったよ。『また年明けにね』って言って」

「じゃあ桜女子に戻ったのか…。そしたらみゆきちゃんの方は私に任せて」

「何をか知らんけど頼む」

「うん。じゃあまた年明けに」


そう言うと飯島は駅の中へと消えていった


「さて、俺たちも帰るか。今夜はうち来いよ。一人で部屋でフラれたことでしょげてたって気がどんどん沈むだけだぜ」

「ああ…」


俺は石川と牧野と一緒に帰宅した

その後、俺は二人と石川の家でお泊まり会をして過ごした

投稿長く空けちゃってすいませんでした。

ただこの話、どうしてもクリスマスイブに出したくてあえて期間を空けさせていただきました。

そういえばクリスマスやクリスマスイブって告白なりプロポーズなりよくあるけどクリスマスにするようになったきっかけって何なんでしょうね。


さて、それはそうと、見事にフラれましたね。

まあ案外理由としてはあるあるな方な気もします。

好きって気持ちはあるけど今は自分の夢でいっぱいいっぱいで恋について考える余裕が無いという理由で恋人関係や結婚について考えるのを先送りにして、結局婚期を逃すってとこまでがセットっていうのをよく聞く気がします。まあみゆきちゃんの場合は医大志望だし、しかも2年生の冬だから余裕無くて当たり前な気もしないでもないですけどね。


皆さんはクリスマスに異性とどんな思い出がありますか?

ぜひコメントで教えて下さい。ただ、アッチの話はここではNGでお願いします。

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