23時間目 修学旅行でハプニング
※今回の話は通常の4倍くらいの文字数あります
待ちに待った修学旅行。しかし、初日からとんでもないトラブルが発生し、その後もトラブルやハプニングに巻き込まれる佐藤幸二たち。
果たして、無事に修学旅行を終えることができるのか?
今日からこもれび高校の修学旅行だ
こもれび高校の修学旅行は毎年行き先が違うらしく、今年は福岡、熊本、長崎、広島だ
ちなみに荷物は先にホテルへ送られているので案外身軽ではある
俺はみゆきと一緒に東京駅の東海道新幹線のホームでしおりを再確認しながらみんなを待っていた
「みゆきと修学旅行、小6の時以来だな」
「中学の時は、行き先と日程は同じだったけどお互いに学校違ったからね」
俺が通ってた虹ヶ丘中学校とみゆきが通ってた桜女子の中等部はスケジュールの関係で修学旅行の日程がものすごく近く、たまに完全に被ることもある
実際、2年前に俺たちが行った時も日程が完全に被っており、奈良と京都で桜女子の子たちと何度も会っていた
もちろん他校の生徒同士だったので関わりを持つことはなかったが、中には桜女子の生徒に声をかけて怒られてた男子もいた
「佐藤君は桜女子の子に声かけたりはしたの?」
「えっとね、かなり困ってた子がいて助けたりはしたよ。でも本当にそれだけでナンパとかそういうことは一切してない」
「何してあげたの?」
「えーっと確か…集団とはぐれちゃってどこに行けばいいか分からなくてあたふたしてる子がいて、桜女子に電話して先生呼んでもらって引き渡したんだったかな?」
「あー…もしかしてめぐみちゃんのことかな…」
「は?」
「髪が肩くらいまであって、ふんわりした感じの子じゃなかった?」
「あーそうそう。確かそんな感じだった」
「その子、私の班の子だったんだけど、途中ではぐれて探し回ってたんだよね…」
「マジか。じゃあその子のグループ探してあげてたらワンチャンみゆきにも会えてたのか」
「まあ結果的にはそうなるね。ちなみに私たち、その後かなり怒られたけどね…」
「ありゃりゃ」
そんな思い出話をしていると、続々とこもれび生たちが集まってきた
そして集合時間になる頃にはダッシュしてくる奴もちらほらいた
今日俺たちが乗るのは、8:30発の東海道新幹線のぞみ17号博多行きだ
しかも12号車から16号車を実質貸し切りになっている
俺たちはこれで博多まで行ってバスに乗ることになる
小林先生は俺たちに特急券を配布した
しかもよく混ぜて渡してきてるので、誰が隣になるかは完全に運だ
俺は特急券を受け取り、新幹線に乗り込んだ
そして自分の席に行くとそこにはみゆきと石川、さらに飯島、上山、桜井がいて椅子の向きを向かい合わせにしていた
なんだかんだで俺の周囲はいつもの面子が揃っていたようだ
俺が窓側の自分の席に座ると、隣に上山、向かいにみゆきが座った
「考えてみたら俺、飯島の私服姿初めて見たかも」
「え?」
「だってSkipeで話す時、いつも制服じゃん」
「あー確かに。どうかな?」
「うーん…悪くはないけどなんかちょっともったいないというか何というか…。飯島だって十分かわいいんだからもっとおしゃれしてもいいんじゃないかなって思う」
「ほらね?言った通りでしょ?」
「そう言う桜井はちょっとやり過ぎ」
「相変わらず佐藤は辛口だねー」
「上山は…まあ無難な線を攻めたって感じか?」
「うーん…修学旅行だからあんまり派手なのはなって思って自重したんだけど…」
「なるほどな。まあでももうちょい攻めても怒られないんじゃね?」
「じゃあ明日の服はちょっと考えてみよっかな…」
「選択肢そんなにあるんかい…」
「で、待ち合わせた時から気になってたんだけど、みゆきはなぜ制服?」
「昨日お洗濯したんだけど乾かなくて…」
「ありゃま」
そういえば昨日、昼くらいから雨が降り出してたな
おそらくそのせいで服が乾かなくて制服しか残っていなかったのだろう
いや、もしかしたら服自体はあるけど修学旅行に着て行くようなものではなかったのかもしれない
「でもさ、流石にブレザーとリボンまで着用してると浮くし、せめてそれは脱いだら?」
「うん…」
みゆきはブレザーを脱いで畳んでリボンを外し、鞄からカーディガンを出してからブレザーをしまった
そして取り出したカーディガンをブラウスの上から着た
見た感じ、最初よりはかなり私服感が出ていた
「まあ悪くないんじゃない?」
「確かに」
その時、新幹線が動き出した
どうやらそこそこ時間が経っていたようだ
こうして俺たちの5時間にわたる新幹線の旅が始まった
列車が動き出してしばらくすると、周りの奴等が騒ぎ出した
普通なら怒られるが、この車両にはこもれび生しかいないので怒られることはない
そこで桜井さんがみゆきたちに質問をした
「桜女子って修学旅行の移動中はどんなことしてたの?」
「貸切列車での移動だったけど、私語厳禁だったよね」
「うん…。必要ない会話をしたらすぐに怒られてたよね」
飯島と上山の答えに俺たちは驚いた
どうりで三人とも静かなわけだ
そんな俺たちをよそに上山はさらに言葉を続けた
「スマホについても班長のみ、しかも貸与品限定だったし、余計な物持って行ったらすぐ没収されてたね。お目溢しされたのはお化粧くらいじゃないかな…」
上山の言葉に、俺たちは「うわー…」としか言いようがなかった
「さらに言うとルームメイトは学校指定だったし、点呼時はベッドの上で正座。就寝前点呼終了後は起床後点呼まではトイレであっても部屋から出ることは禁止だったよ。だから朝とかは部屋のトイレがかなり混雑してたね」
「じゃあ部屋に戻っても仲良い子ともお喋りもできなかったってこと?」
「そうだね。ただ、私とみゆきちゃんは同じ部屋だったよ。お互いの立場が立場なだけにね」
飯島が言った立場というのは、おそらく歌姫と騎士団員の関係のことだろう
それを知らない石川と桜井はどういう意味か分かっていなさそうな様子だった
教えてあげたいところではあるが、俺も上山も飯島から他言無用と言われているので教えられない
「まあでも、今はそんな制限無いんだし、存分に楽しんだら?」
「そうだね」
桜井の提案に、上山は笑顔で賛同した
しかし、みゆきはあんまり乗り気な様子ではなかった
もしかして静かに過ごしたい派なのだろうか
「もしかしてみゆきちゃんは静かに過ごしたい派?」
上山がそう聞くと、みゆきは首を横に振った
「そうじゃなくて、私の立場的に大丈夫かなって心配で…」
「あー…そういえば冬桜の会に出たらソプラノの歌姫候補生が全員辞退したから続行って言われたんだっけ?」
「え!?」
飯島の一言に石川、桜井、上山の三人は驚いていた
「まあ…候補生がいないのは7月には分かっていたんだけどね…」
「もうその地点でいなかったんだ…」
「アルトも最初は過去最多の70人くらいいたんだけど、冬桜の会の地点で3人しか残ってなかったからね…」
みゆきの話だと、例年ソプラノもアルトも数百人も候補生選考に応募するらしいが、実際に候補生になるのはソプラノとアルトを合わせても100人は行かず、そしてさらに第1回目のレッスンで大量に辞退して、夏休みが始まる頃には例年10人前後しか残っていないらしい
そして特にソプラノの歌姫候補生は、主旋律を担当することの多さからレッスンが非常に厳しく、夏休み前に候補生が全員辞退なんてことも珍しくはないらしい
「そういえば飯島さんはいつまで歌姫候補生やってたの?」
「私はみゆきちゃんと一緒に冬桜の会に出たよ。まあ…みゆきちゃんの歌唱力が圧倒的過ぎて満場一致でみゆきちゃんの勝ちだったけど…あはは」
桜井の問いに飯島は笑って答えていたが、どこか悲しそうな様子が感じられた
まあ…せっかく必死にレッスン受けたのに結果は誰一人として見向きもしてくれなかったのだから無理もないだろう
「ごめん、ちょっとトイレ」
そう言うと飯島はデッキの方へ歩いて行った
「ごめん、私も」
そう言うとみゆきも飯島を追いかけて行ってしまった
「もしかして私、まずいこと聞いちゃったかな…」
「どうだろう…。もし飯島にまだ歌姫に対する未練があるならまずいかもしれないけど…」
それから5分後、二人が一緒に戻ってきた
どうやら本当にトイレに行きたかっただけで、みゆきも早とちりで追いかけただけだったようだ
まあ飯島にも泣いたような様子は無いので本当のことなのだろう
それから俺たちは桜井が持ってきたトランプで遊びながら時間を過ごした
新幹線が新大阪を発車した頃、お弁当が配られた
俺たちはトランプを中断し、早めの昼食を摂り始めた
中身は男子と女子で違っており、男子のは意外とガッツリ系だった
「みゆき、ふと気になったんだけど、女子ってなんでそんな軽くて少ない量でもつの?」
「その辺りは人による。元々少食な子もいれば、間食のことを考えて食べる量を減らしてる子もいるからね」
「食べる量の加減って、やっぱり体重気にしてるから?」
「だいたいの理由はそうだけど、その日のおやつが楽しみでわざとお腹を空かせるって子もいるね」
「みゆきちゃんはどれ派?」
「私はお昼と夜の食べる量を調整して一日の摂取カロリーを調整してるよ」
「ちなみに体重って…ってちょっと待って最後まで聞いて!?」
女子たちは俺に鋭い視線を向けていた
まあ体重教えたい女子なんていないもんな
でも俺が聞きたかったのはそこじゃない
「俺が聞きたいのは、体重どのくらい増えるのまでは許容範囲なのかと思って」
「それは人によって違うよ。例えばアスリートなんかだと今後の選手生命に関わるからとかそういうのだってあるからね」
「あー…確かに。その辺の事情は男子と同じか…」
俺はちらっと桜井の方を見た
「何よ…」
どうやら桜井に気付かれていたようだ
「桜井って水泳やってるからそういうの大変なのかなって」
「まあ…コンディションが乱れればタイムにも影響してくるからね。だから毎日の食事だってしっかり管理されてるんだから。とはいっても修学旅行中はどうにもできないから帰ったらまた整え直さないといけないけど」
「水泳部の奴等みんなそうなの?」
「ある程度は管理されてるけど、私みたいにプロ目指してる子だとプロクラスの管理されてるね」
「へー」
俺が感心していると、上山が割って入ってきた
「私だって食事管理こそされてないけど大変なんだよ?」
「どういうこと?」
「私、これでも女優だから体型は維持しなくちゃいけないの。女優はビジュアルが命だからね」
「そういう意味ではみゆきも?」
「まあ…歌えさえすれば良いんだけど、やっぱりビジュアルは大事かな…。あと太り過ぎたり痩せ過ぎたりするとドレスが着れなくなっちゃうから…」
「でも成長期だし、長くやってれば成長に合わせて作り直しとかするんじゃないの?」
「最初からそこを考慮した上で少し大きめに作って調整してるの。お店の方もこれまで200を超えるドレスを作ってきた老舗だからどれくらい大きく作るかの加減はよく分かってるみたい」
そう言うとみゆきはスマホで店のサイトを見せてくれた
店の外観からはすごく歴史を感じられた
どうやら女の子の衣類を専門で扱っている店のようで、桜女子の制服や体育着等もここで作っているようだ
「桜女子の購買にもこのお店の出張所があるんだよ」
「ホントに桜女子の生徒御用達ってことか」
「本店も桜女子から徒歩5分くらいのとこだからね」
「ちなみにいくらくらいするの?」
「普通にデパートとかで買うのと遜色ないかな…。もちろん制服や歌姫のドレスみたいにオーダーメイドとかになるといいお値段するけどね」
そんな話をしていると、小林先生が俺たちのところに来た
「お喋りもいいけどあんまり遅いとお弁当のゴミ、自分で持って行くことになりますよ」
「す、すいません…」
俺たちは昼食を済ませた
それから少しすると、新幹線は岡山駅に到着した
向かい側に目をやると、みゆきが何かを読んでいた
なんか凄く真剣に読み込んでるな
俺たちはみゆきの邪魔をしないように気をつけながら博多までお喋りをして時間を過ごした
博多駅に着くと、ホームには俺たちこもれび生以外にも女の子たちの大きな集団が降りてきた
制服を見たところ、水萌女学園の生徒たちのようだ
おそらく俺たちと同じく修学旅行に来ているのだろう
俺たちは改札を出ると、あらかじめ用意されていたバスに乗りこんだ
今日は団体行動で福岡市内を巡る予定だ
とはいえ、博多に着いたのが昼過ぎなのでそんなにあちこち回るわけではない
俺たちは4時間の団体行動を終えると、そのままバスでホテルに向かった
トイレに寄ってから部屋に行くと、石川、飯島、桜井の三人がいた
実は今回、急な部屋数変更が発生したせいで一部屋あたり10人になったのだ
どうやら議員が団体で泊まることになり、その関係で部屋を譲らざるを得なくなってしまったそうだ
しかし、部屋割りの過程で俺、石川、みゆき、飯島、桜井、上山の6人が余ってしまい、しかも残りは1部屋となってしまったのだ
そういう経緯により、今夜に限り俺たちの部屋だけ男女混合という事態になってしまったのだ
そして俺たちの部屋は大倉先生と小林先生が見張り役として常駐している
「なんか俺たち、女子部屋にいる気分なんだけど…」
「言い得て妙だな…」
でも確かに石川の言う通りだ
現状、女子が4人もいる部屋に男子が2人いる状況だ
こんなん女子部屋に閉じ込められたと言っても過言じゃねえだろ
とはいえ、先生が2人がかりで見張ってるともなれば、まあ間違いが起こるなんてことは無いだろう
それからしばらくしてみゆきと上山も部屋にやって来た
俺たちは写真を見せ合ってレポートの作成に取り掛かった
その後晩ご飯を済ませてから交代で入浴し、眠りに就いた
深夜、俺は目が覚めてしまった
辺りを見渡すと、先生たちも含めてみんな寝てしまっていた
しかし、ベッドが1つだけ空いていた
その時、部屋の中に風が吹き込んできた
窓の方を見ると、ベランダにみゆきが立っていた
俺はベランダに出てみゆきに声をかけた
「よう。寝れないのか?」
「うん…ちょっとね」
「何かあったの?」
「分からない。佐藤君もなぜか寝れないってこと、あるでしょ?」
「まあ…」
「それと同じようなものだよ」
「そっか」
俺たちが二人でお喋りしていると、小林先生が声をかけてきた
「あなたたち、何をしてるの?」
「あ、先生。お互い、なんか寝れなくて夜風に当たってるだけです」
「そう」
小林先生はそう返すとベランダに出てきた
「俺たちは気にしないで寝ていいですよ」
「そういうわけにはいかないのよ。もし二人が間違いを犯せば、私と大倉先生が責任を問われるのよ」
そう言いながら小林先生は俺の右側に立った
小林先生、普段は留めてるから分からなかったけどわりと髪長いんだな
「そういえば私も、高校の修学旅行で眠れなくて友人と一緒にお喋りしながらお庭を散歩したことあったなぁ…。あの時は先生にこっぴどく怒られたっけ」
「どんなことを話したんですか?」
「恋愛相談。松野さんって女の子がいたんだけど、彼女、とある男の子のことが凄く気になっててアタックしてたみたいなの。でもその男の子は彼女の気持ちにもアタックにも全く気付いてなくてね。どうしたら気付いてもらえるのかってずーっと悩んでたの」
「へぇ…」
「それで私が『その人のどこが好きなの?』って聞いたの。そうしたらその女の子、顔が赤くなってね。『全部』って答えたのよ。『見た目はもちろん、優しいところとか、たまに見せる男らしいところとか、勉強凄くできるところとか、他にもいろいろ…とにかく全部!』って」
「なるほど…」
「私はその子の恋路を応援したくて『だったらもっと積極的にアピールすれば良いんじゃない?』ってアドバイスしたの」
「おお…」
「それで彼女、さらに積極的にアピールしたみたいなんだけど、結局高校生活最後まで彼は気付いてなかったわ。ただね、卒業する少し前くらいから彼も彼女のことが好きになってたらしいわ。それで二人は卒業式の日、こもれび高校の伝説の桜の木に祝福されて、晴れて恋人同士になれたの」
「へーえ」
聞いてると、まるで今の俺とみゆきみたいな感じだった
みゆきは俺の気持ちにどれくらい気付いているのだろうか
それから俺たちと小林先生はしばらくお喋りをしてベッドに戻った
翌朝、俺たちは小林先生と大倉先生の声で目を覚ました
今日はバスで長崎に行って自由行動だ
俺たちは朝食後、荷物をまとめてチェックアウトすると、ホテルの駐車場に停めてあるバスに乗り込んだ
今日も天気に恵まれ、絶好の観光日よりだ
移動のバスの中は大盛り上がりだった
でも俺は昨夜、みゆきと小林先生と遅くまで話をしていたせいで少し眠かった
ちらっと右に座るみゆきの方を見ると、みゆきはスマホで何かを聴いているようだった
ただ、みゆきはほとんど寝かかっていた
寝不足に加えてご飯の後、しかもこんなポカポカしているので、寝落ちする条件が見事なまでに揃ってしまっている
すると石川が反対側から話しかけてきた
「お前ら二人してかなり眠そうだな。愛野に至っては寝落ち寸前じゃん」
「まあ…ちょっと眠れなくてな…」
次の瞬間、俺の右肩に何かが寄りかかってくる感触を覚えた
ふと右を見るとみゆきが俺に寄りかかって寝てしまっていた
「ありゃま。愛野、寝落ちしちまったな」
「ああ…。起こすのも悪いからこのままにしとくよ」
俺はみゆきのシートベルトを外し、自分の膝の上に寝かせた
高速道路を走ってるならまずいけど今は一般道だからシートベルトを外したままでも一応大丈夫だ
するとみゆきは軽く寝返りを打ち、顔を上に向けた
幼なじみということもあり、無防備な姿は幾度となく見てきた
でもこの歳でこんなの見せられたら、俺だって思春期の健全な男子なのでドキドキしてしまう
しかも相手は俺が好きな女の子
正直、理性を保つので精一杯だ
「石川、何か気が紛れる話してくれ」
「唐突に無茶振りしてきやがったなオイ」
俺は石川と雑談して時間を過ごした
それから30分後、道の駅に着いてちょっとしてからみゆきは目を覚ました
「おはよう。よく寝れた?」
「えーっと…これどういう状況?」
みゆきは今の自分の状況に完全に困惑していた
まあ幼なじみとはいえ、目が覚めたら同い年の男子に膝枕されてたともなれば当たり前だろう
「みゆき、寝落ちした時に俺の肩に倒れ込んできたんだよ。でもそのままにして首痛めたりするとなって思って膝に寝かせたんだよ」
「そうだったんだ…」
みゆきは体を起こした
「あ、そうだ。今、道の駅に着いてみんなトイレ行ったりしてるけどどうする?」
「私も一応行っておこうかな…」
「俺も行くか…」
「まさかついてくる気?」
「なんでだよ…。俺、みゆきが寝てたから行けなかったんだよ」
「あ、そっか…」
俺たちはバスを降りてトイレに行った
女子トイレには長い行列ができていた
学校行事だとこういう時、男子トイレの個室を女子に使わせるなんてのもあるけど、ここは一般のお客さんもいるのでそんなことはできない
俺はトイレを済ませ、トイレの近くでみゆきを待った
なにせ俺が先に戻ってもみゆきの方が奥の席なので結局どいたりしないといけないので、それなら一緒に戻った方がスムーズだ
15分後、みゆきがトイレから出てきた
行列の長さを考えれば、これだけかかるのも無理は無いだろう
「おかえり」
「待ってたの?」
「だってお前の方が席、奥だろ。それはそうと、何か買ってく?」
「え?私、お財布置いてきたんだけど…」
「とりあえず俺が出しとくから買いたいもんあったら買いな」
本当は完全に俺持ちにしたいところではあるけど、今日はデートじゃないし、予算だって決められている
もしそんなことすればみゆきが予算オーバーということで先生に注意されてしまう可能性が高い
とはいえ今から財布を取りに行ってたら時間が無い
だから一時的に立て替えという形をとることにしたのだ
俺たちは二人で道の駅で買い物をした
そしてバスに戻り、買い物の精算をした
それから5分後、バスは道の駅を出発し、お昼前に長崎に到着した
ここからは班行動で、17時にバスに集合しないといけない
今は11時半なので、昼飯を含めて5時間半はある
「佐藤、どう回るんだ?」
「一応スケジュールはこんな感じで組んでみたんだけどどうかな?」
俺は石川たちに行程表を渡した
「タクシー貸切にしたのか」
「でも上山さんのことを考えたら仕方ないと思うよ」
石川の言葉に桜井さんはそう返した
そう。俺たちの班は移動ペースがかなり遅いのだ
実は昨日、上山がホテルの風呂で足を捻挫してしまい、通常ペースでの移動ができないのだ
元々のスケジュールはそういうトラブルは一切想定されていないので、全て予定通りの順番で回るとなると到底時間が足りず、1箇所あたりの見学時間が大幅に短くなってしまう
そこで俺は昨日、上山の診断書を持って小林先生に特別予算申請をしてタクシーを貸切にしたのだ
俺たちはタクシーを使い、当初予定の通りのスケジュールで見学し、記録を取った
ただ、見学自体には少し余計に時間がかかってしまい、集合時間の17時に少し遅れてしまったため、小林先生に注意されてしまった
そして俺たちがバスに乗ると、バスは熊本のホテルへと向かった
深夜、俺と石川は桜井に呼ばれて桜井たちの部屋に行った
「あれ?飯島は?」
「先に寝たよ。今日かなり疲れたみたいで」
「じゃあ起きてるのは三人だけか」
「ところでなんで…」
そう言いかけた時、外から足音が近づいてくるのが聞こえてきた
「やばっ、先生だ!二人とも隠れて!」
「マジか!」
みゆきと上山は自分のベッドに潜り、石川と桜井は電気を消して桜井のベッドに隠れた
そして俺も慌てながらも咄嗟に近くのベッドに潜り込んだ
ただ、真っ暗な中で潜り込んだのでどのベッドに潜り込んだかは全く分からない
布団の中はすごくいい匂いがしていた
そして、やがて目が慣れてきて周りが見えるようになってくると、目の前にはみゆきがいた
「み、みゆき!?」
「しー。静かにしてないと…」
すると、ドアが開く音がした
そして、部屋に誰かが入ってくる音がした
おそらく見回りの先生だろう
俺はかなりドキドキしていた
先生に見つからないかというのもあるが、一番の理由は別にある
(やばい。こんな至近距離でみゆきと二人きりとか心臓破裂しそうなんだけど…)
今、俺はみゆきと体を密着させている
それでいて顔も10センチくらいしか離れていない
好きな女の子と体を密着させてこんな至近距離で見つめ合っていてドキドキしないはずがない
(それにしても、やっぱりみゆき、すごくかわいい。それに、こうして触れ合っているところが温かくて柔らかい…って俺は何を考えてるんだ!!ダメだ、意識したら余計ドキドキしてきた)
足音がどんどん近づいてくる
これは流石にまずいだろうか
しかし、俺の懸念とは裏腹に足音はどんどん遠ざかっていき、ドアが閉められた
ただ、これが罠の可能性も否めない
いかんせん、15年前にルールを破ったとある男子が女子の部屋に行って、一人の女子が妊娠するという事態が起きて以来、先生たちの警戒がより厳しくなり、中にはドアを閉めて出て行ったと思わせる罠を仕掛ける先生もいるそうだから
無論、俺はそんな過ちは犯さないが、この状況を見られでもしたらしゃれにならない
すると、外から上山と小林先生の声が聞こえてきた
やはり罠を仕掛けていたようだ
「あら、上山さん。まだ起きてたの?」
「いえ、お手洗い行きたくなって目が覚めただけです」
「そう。そういえば怪我の方はどう?」
「ゆっくりならなんとか歩けそうです」
「そう。それじゃあお手洗い済ませたら早く寝なさい」
「分かりました」
直後、ドアが開け閉めされる音が2回聞こえてきた
1回はおそらく上山がトイレに入った音なのだろうが、もう1回のは本当に小林先生が出て行った音だろうか
確認しようにも俺じゃ確認は無理だ
今は上山を信じて待つしかない
少しすると再びドアが開け閉めされる音がした
上山の声が聞こえてこないところからして、もう小林先生は部屋にいないだろう
ただ、油断はまだできない
そう思っていると、「もう大丈夫だよ」という上山の声が聞こえてきた
俺たちはベッドから出てきた
「ん?佐藤、愛野のベッドに隠れてたの?」
「いや、電気消されてから入ったから誰のベッドかなんて全然分からなくて…」
「それにただ一緒に隠れてただけにしては二人とも顔赤くないか?」
「だってベッドが狭かったからお互い密着状態で顔も鼻先がくっつくかくっつかないかってくらい近くて…」
「しかもどさくさに紛れてキスされて体まで触られて…」
「おおー…」
「いや、しれっと嘘つくなよ」
女子たちの視線が一気に向けられた
もちろんそんなことはしていないし、する度胸も無い
ただ、女子たちはみゆきの嘘を鵜呑みにして質問攻めしてきた
「はいはいストップ。お前らさ、愛野と手を繋ぐことだってできねえこいつにそんな度胸あると思うか?」
女子たちは「確かに」と頷いた
そこで納得されると俺の男としての沽券に関わるが、今何か反論すればさらに墓穴を掘りかねないので何も言わない方がいいだろう
「また先生来るといけないし、そろそろ戻った方がいいんじゃない?」
「それもそうだな」
俺たちはみゆきたちの部屋を出て、先生に見つからないようにこっそりと部屋に戻った
「ふう…危なかったな」
「………」
「佐藤、どうした?」
「いや、俺さっき隠れてた時、ずっとみゆきと密着してたからさ、その時の感触が蘇ってきてドキドキしちまって…」
「お前ホント変なとこで初心だよなぁ…」
「うるせえ」
俺たちは自分たちのベッドに入った
ただ、俺はみゆきと密着していた時の感覚が忘れられず、ドキドキしっぱなしで眠れなかった
------Miyuki's View------
佐藤君たちが部屋を出て行った後、私は詩織ちゃんに声をかけられた
「みゆきちゃん、さっき佐藤君と一緒に隠れてたみたいだけど、どうだった?」
「え?」
「ほら、佐藤君とべったりくっついてたんでしょ?しかも顔もすっごい近づいた状態だったんでしょ?やっぱり佐藤君のこと、男の子として意識しちゃった?」
「そ、それは…」
確かに意識しなかったといえばそれは嘘になってしまう
正直、佐藤君と密着している間、体格差から彼も男の子なんだなと強く意識させられ、ものすごくドキドキしていた
そして今もずっとドキドキしている
それと同時に私はこれまでに経験したことの無い感情を抱いていた
結局私はドキドキとよく分からない感情のせいで眠ることができなかった
------Koji's View------
翌朝、俺たちは朝食後、みゆきたちと合流した
ただ、俺とみゆきは昨夜の件もあり、朝食の時に会ってからずっと顔を合わせることができなかった
正直、昨日ほどみゆきを女の子として意識したことは無かった
「お前らさ、いつまでそんなふうにしてるつもりだよ」
石川が俺たちに声をかけてきた
確かにこのままでいても仕方ない
「あ、あのさ、みゆき」
「な、何?」
「昨日のことはお互い忘れよう」
「う、うん…」
それを聞いた飯島は首を傾げていた
そういえば昨日、飯島はさっさと寝てたっけ
歌姫様を護るのが役割と言ってた奴がその歌姫様より先に寝てたら意味ない気もするが、おそらく何か考えがあって先に寝たのだろう
すると桜井は飯島に耳打ちし出した
「ほーう」
飯島はニコニコした様子で俺の方を見てきた
ただ、その目は全然笑っているようには見えなかった
「い、飯島?すごく怖いんだけど…」
「別にー?私が寝た後にみゆきちゃんに手を出したことについてはぜーんぜん怒ってないからね」
「いや十分怒ってるだろ。それに手は出してないから」
「本当かなー?」
「飯島、愛野と手も繋げない佐藤にそんな度胸あると思うか?」
「それもそっか」
「いや飯島までそれで納得するのかよ。てか石川、お前そのフォローは俺の精神抉るからやめてくれ」
「まあまあ」
俺たちはバスに乗り込んだ
今日は団体行動で熊本城に行き、再び福岡に戻る予定だ
バスの中ではみんなトランプをしたり、スマホゲームをしていたりと自由に過ごしている
俺は昨日寝れなかったせいでちょっとうとうとしていた
すると、通路を挟んで隣にいた上山が俺の肩をつつき、小声で話しかけてきた
「佐藤君、ちょっといい?」
「なんだ?」
「実はみゆきちゃん、昨日全然寝てないから寄りかかって寝ちゃっても我慢してあげて」
「まあ…それはいいけど俺も実は結構眠いんだよ…」
そんな話をしていると、みゆきが俺の肩に寄りかかってきた
ちらっと見ると、彼女はすやすやと寝息を立てて眠っていた
そして少しして俺も強い眠気に襲われてしまい、そのまま眠ってしまった
------Miyuki's View------
気付くと私はなぜか佐藤君の肩にもたれかかっていた
どうやら寝てしまっていたみたいだ
「………!」
私は大慌てで起き上がった
しかし、佐藤君は全く動く様子は無かった
ちらっと見ると、彼は眠っているのか、目を閉じて静かに寝息を立てている
「よかった…」
ホッと胸を撫で下ろした
もしここで起きていたら、今よりかなり恥ずかしかったかもしれない
それからしばらく経った頃、バスが熊本城に着いた
しかし、佐藤君は一向に起きる気配が無かった
私は彼の体を揺すりながら声をかけた
「佐藤君、起きてー」
すると彼はゆっくりと目を開けた
「ああ、悪い。いつの間にか俺まで寝ちまったみたいだな…」
「大丈夫?」
「ん…俺は平気。みゆきはよく寝れた?」
「うん。ごめんね、寄りかかっちゃって」
「いや、気にしなくていいよ」
------Koji's View------
おもむろに通路の方を見ると、石川と飯島が俺たちのことを見てにやにやしていた
どうやらこいつら、俺たちの様子をずっと見ていたようだった
「お前ら仲良すぎだろ。もういっそ付き合っちまえよ」
「うんうん。お似合いだと思うよー」
「むしろ結婚しちまうってのもいいんじゃねえか?」
「お前ら、後で覚えてろよ」
俺たちはバスを降りて熊本城へと向かった
そして入場料を払って中に入り、天守閣を目指した
俺は歴史にはそこまで詳しいわけではないが、この城は安土桃山時代に作られたものだそうだ
それから西南戦争で消失したが、戦後に修繕されたそうだ
それにしても平日だというのにものすごい人がいるな
俺たちは3時間くらい観光し、お昼を済ませてから再びバスで福岡に戻ってきた
そして1時間だけ自由時間を過ごして再びバスに乗った
「次は広島か…」
「まあ実際観光すんのは明日だけどな」
今から広島に向かうと到着は意外と遅い時間になる
だからあっちに着いたらすぐに飯食って風呂入って寝ることになるだろう
俺たちが広島のホテルに着いたのは19時近くにだった
そして俺の予想通り、そのまま食堂へと通された
ただ、そこには先客がいた
見た感じ、俺たちと同じ修学旅行生のようだ
ただ、女子しかいないところを見ると、おそらく女子校の生徒なのだろう
すると小林先生が説明を始めた
「今日泊まるこのホテルには、桜女子学園の高等部の皆さんも修学旅行で泊まっていますので、ご迷惑をお掛けしないようにして下さい。また、桜女子学園の生徒さんたちが泊まっているフロアには立ち入らないようにして下さい」
小林先生の説明が終わると、全員のテーブルに食事が運ばれてきた
そして全員のが配膳されると、食事が始まった
みんながわいわいお喋りしながら食べる中、みゆき、飯島、上山の三人は静かに、かつ上品に食事をしていた
「あのさ、三人とも何してんの?わざわざそんなお嬢様みたいに…」
しかし、三人は一切何も話さず上品に食事をしていた
その様子に周りの奴等もびっくりし、見入っていた
そして、中にはそれを真似て食事をする奴も現れ出した
後でどうしてこんなことしてたのか理由を聞いてみるか
俺が食べ終わる頃になると、三人ともちょうど食事を終えたところだった
食事を終え、俺はみゆきたちをエントランスに連れて来た
「あのさ、三人してなんでいきなりあんなお嬢様みたいになったの?」
「んー…強いて言うなら反射的に?」
「御子柴先生の姿を見ると反射的にああなっちゃうんだよね…」
俺の問いに飯島と上山はそう答えた
そして続いてみゆきが口を開いた
「桜女子には作法の先生が6人いてね、その中で御子柴先生は特に厳しい先生なの」
なるほど、三人とも見ると条件反射的にそうなってしまうくらいに作法に厳しい先生ってわけか
そして桜女子が修学旅行で来てるならその先生が来てても何らおかしいとこは無い
でも桜女子を卒業した後までも怯える必要はあるのだろうか
いや、怯えてるとは違うか
おそらく桜女子での生活で身についた一種の習慣みたいなものなんだろう
そしてあの先生、そんなに怖い先生だったんだな
文化祭の時の歌姫様への歌唱依頼や冬桜の会で会った時なんかは物静かで穏やかで優しそうな印象だったんだけど、あれは対外的な顔だったんだろうな
そんなことを話していると、件の御子柴先生が姿を現した
「ごきげんよう、御子柴先生」
三人がスカートを軽くつまんで持ち上げて挨拶をすると、御子柴先生も同じように返していた
それにしても凄い反応速度だな
すると、小林先生がこっちにやって来た
「あなたたち、何を…あ、御子柴先生、ごきげんよう」
「小林先生まで!?」
もはや何が何だかという状況だ
俺はもはや唖然とするしかなかった
御子柴先生は小林先生に挨拶を返すと立ち去ってしまった
「えーっと、何がどうなって…。なんで小林先生も咄嗟に挨拶を?」
「なんでって、桜女子のOGで御子柴先生見て挨拶もしないでスルーできる人なんていませんよ」
話によると、小林先生は小中と桜女子に通っていたらしい
授業中や廊下ですれ違う時とか、とにかく所作が美しいなと思っていたけどそういうことだったのか
「それよりもあなたたち、もうすぐお風呂の時間よ。早くお部屋に戻って準備しなさい」
「はーい」
俺たちはそれぞれ自分たちの部屋に戻り、入浴の準備をして大浴場へと向かった
脱衣所に入ると、すでに石川たちが入る準備をしていた
「よう。お前も今からか?」
「そもそも1組の入浴時間自体が今からだろが」
「チッ。引っ掛からなかったか」
「何度も騙されりゃ慣れるだろ!」
俺たちは風呂に入った
「そういや奥に露天風呂あるらしいぜ」
「ふーん」
「ただ混浴なのがなぁ…」
「お前ってそんな恥ずかしがりだっけ?」
「まあ男にだって色々あるんだよ」
石川はかなり意味ありげなことを言いながらお湯を頭から被った
年頃の男子からすれば女子と一緒に入れるのは夢みたいなものとは聞くけど、男子にだって女子に見られたくないとこはある
まあそもそもこの年で自分から混浴行く女子とか普通にいなさそうだから実質男湯になりそうな気もしないでもないけどな
そんなことを考えながら俺は露天風呂に行った
案の定、女子は誰もいなかった
それどころか男子すらもいない
もちろん構造上、女子の方を覗くこともできなくなっている
俺が湯に浸かってのんびりしていると、女子の声が聞こえてきた
俺は声のする方に背を向けた
「ちょっ、男子いるの!?」
「その声、飯島か?」
「よく分かったね…って、佐藤君か」
どうやら予想通り、声の主は飯島らしい
「佐藤君って意外と紳士なんだね。男子なら女子の体とか興味あるものじゃないの?」
「無いと言ったら嘘になるけど、だからって欲望に忠実になるのは違うと思うからさ」
「まあ、見ないでいてくれるならそれはそれでありがたいけどね」
直後、お湯に人が入る音が聞こえた
たぶん飯島が入ったのだろう
「てかお前、みゆきと一緒にいなくて平気なのか?」
「みゆきちゃんは他の団員に任せてあるから大丈夫よ。私だってたまには休みたいもん」
「まあ…お前いつもみゆきのそばで護衛してるもんな」
「まあね。みゆきちゃんが歌姫様である以上は彼女を護衛するのが私たち歌姫護衛騎士団の役目だからね」
(そうか…こいつにとってはそれが当たり前なんだな…。でもこいつはそれで本当に幸せなんだろうか…)
その時、後ろから再び女子の声が聞こえてきた
「みらいちゃん、そろそろ出たら?」
「次はみゆきかい!」
「え?その声、佐藤君?」
どうやら当たりらしい
まあ、いつも聞いてる声だから聞き間違うはずもないが
無論、俺は一切振り返らなかった
「みゆきちゃん、佐藤君、後ろ向いてるから出てきても大丈夫だよ。もしこっち向いてきても私がすぐに制圧するから」
「お前が言うと冗談に聞こえないんだよなぁ…」
歌姫護衛騎士団の実力は冬桜の会の日に目の当たりにしている
彼女たちはどう見ても女子には勝ち目の無さそうなガタイの良い男を一人で制圧していた
飯島もそれだけの実力を持っているのだとしたら到底勝ち目は無い
「てかそんなこと言って、お前の立場、みゆきにバレたりしないの?」
「あはは…実は日曜日にみゆきちゃんが暴漢に襲われてるの助けたんだけど、その時に他の騎士団の子と一緒にそいつらを制圧しちゃったからもうみゆきちゃんには団員ってことはバレてんだよねー…」
「な、なるほど…」
その時、お湯に人が入る音が聞こえた
どうやらみゆきも入ったようだ
「あのさ、二人とも平然と入ってるけど俺も男だぞ?」
「分かってるけど、佐藤君なら信頼できるから」
「そうそう。みゆきちゃんと同じ布団に潜っても手を出さないし、今だって手を出すどころか私たちの方を見ようともしてないし」
「俺、そもそも小学生の時までみゆきや牧野と遊んでたのを最後に女子とほぼ関わってねえんだよ…」
「共学行ってて?」
「まあ…男女が犬猿の仲だったからな。そういうわけで実は意外と女子に免疫無い方なんだよ」
「でも今私たちとは普通に話せてるよね?」
「1年の時に散々女子と喋る機会あったから慣れたんだよ。みゆきの場合は幼なじみってのがでかいな」
「なるほどね」
「すごくどうでもいい話なんだけど、実は俺、最初はみゆきのこと、変わった名前の男子だと思ってたんだよね…」
「え?」
俺の一言に飯島は驚いていた
まあ飯島は小学生の時に編入してきてるから知らなかったのだろう
「みゆきって元々今の俺くらいしか髪の長さ無くて、男子に混じってわいわいやってたからみんな男子だと思ってたんだよ」
「何がきっかけで女の子って分かったの?」
「いやー、それは…」
言えない
外で遊んでた時にたまたま隅でおしっこしてたとこを見た時に気付いたなんて
言ったらたぶん睨まれる
そしてみゆきも話さないということは、みゆきも幼い頃の出来事とはいえかなり恥ずかしいのだろう
「でもまあそのくらいの年の子だと男女の区別がつかない子もいるから無理もないか」
飯島は勝手に納得してくれた
「そういえば佐藤君とみらいちゃん、私が来るより先に入ってたみたいだけど上がらなくて平気?」
「俺はまだいる。しっかりあったまった方がよく寝れるから」
「私はそろそろ出たいけどみゆきちゃんを一人にはできないから…」
「あ、そうだったんだ。じゃあ私も出ようか?」
「ううん、気にしなくて大丈夫だよ。ただ、トイレだけ行かせて。さっきからずっと我慢してて…」
「あ、うん」
お湯から人が出る音がした
話からして飯島がトイレに立った音だろう
「いっそここでしちゃおうかな…」
「御子柴先生に言うよ」
「やめて。冗談だから」
飯島はそう言うと大浴場の方へと戻って行った
「みゆきはトイレ平気?」
「私はたとえしたくなくてもお風呂の前には必ずお手洗いに行ってるから」
「へーえ」
直後、誰かがこちらにやって来る音がした
「むっ…不届き者!!」
そんな女の子の声がしたかと思うと、俺はいきなり拘束された
「ちょっ、何事!?」
「待って。彼は拘束しなくていいの」
「ですが…」
「こっちを向かない限りは問題ないって私もみらいちゃんも判断してるから」
「団長と歌姫様がそうお考えでしたら…」
俺は拘束を解かれた
みゆきや飯島への忠誠心があるということは歌姫護衛騎士団の団員の子だろう
それから少しして飯島が戻ってきて、俺を拘束した子は大浴場の方に戻ったようだ
「俺、そろそろ出るよ」
「じゃあちょっと待ってね」
飯島はそう言うと俺に目隠しを施した
そしてお湯から出ると目隠しを外された
たぶんみゆきの脇を通る間だけされてたのだろう
俺は大浴場に戻り、そのまま脱衣所に向かった
そこにはコーヒー牛乳を飲んでいた石川がいた
「おう。ずいぶん長風呂だったな」
「まあ色々あってな」
「なんか意味深な言い方だな。露天風呂で女子と鉢合わせたか?」
「じゃあなんで俺は無事なんだよ」
「それもそっか」
本当はみゆきと飯島と一緒に入っていたが、他にも男子がいる中でそんなこと言えばたぶんただでは済まないだろう
「そういやさっき聞いた話なんだけど、俺たちが入る前、3組の一部の奴等が露天風呂側から女湯覗いて大騒ぎになってたらしいぜ」
「いや度胸あるなオイ。定番ネタとして聞きはするけど実行に移すのは無いだろ」
「こんな中でお前と愛野が露天風呂に一緒に入ってたとかいう話があったらどうなってたんだろうな」
「まずあり得ねえ話だろうな。あいつの周りには歌姫護衛騎士団というめっちゃ強い護衛がついてるから裸で鉢合わせれば即刻拘束されるだろうな」
「何だそりゃ」
「みゆき曰く、桜女子学園の歌姫様を護衛する、桜女子学園の騎士道部の精鋭らしいよ」
「そんなのがいるのか」
まあ、俺はさっきその団長と歌姫様と一緒に入ってたわけなのだが、そんなこと言えるはずがない
俺は石川の話をかわしながら服を着て部屋に戻った
それから少しすると、石川とボロボロになったルームメイトたちが部屋に入ってきた
「いや、何があった?」
「露天風呂行ったら飯島がいてボコられたらしい」
「お、おう…」
じゃあみゆきもまだ入ってたのかもしれないな
じゃなきゃ飯島がここまでボコることは無いだろう
いや、あいつも女子だし、自分の体見られれば怒るか
「佐藤が入った時はいたのか?」
「いたはいたけど俺の方が先に入ってて飯島が後から来た形だからなぁ…」
「じゃあ飯島の裸見たのか?」
「んなわけあるか。俺、飯島には背を向けて入ってたんだし、もし見たりしてたらまず勝てねえよ。あいつ、ばか強いんだから」
歌姫護衛騎士団の団長だと話してしまえば一発で強さは表現できるが、飯島との約束でそれは言えない
正直、強さの話だけで言えば歌姫護衛騎士団の団員たちはその辺の屈強な男よりも遥かに強いのだ
そんな話をしていると、大倉先生が点呼に来た
俺たちは点呼を受け、眠りについた
翌朝、俺たちが食堂に行くとみんながざわついた
まあこんなボロボロの奴等が一緒じゃこうもなるか
一応先生には風呂で滑って怪我したとは言ったけど、どう見てもそんなもんじゃない見た目な気もするけどな
俺たちが席につくと、大倉先生がマイクを手にした
そのアナウンスは驚きのもので、なんと3組と4組は昨日の覗き騒動により今日で全員修学旅行打ち切りという話だった
どうやらやらかしたのは3組だけじゃなく4組もだったようだ
しかも4組に至っては桜女子の生徒の入浴時間にやってしまったとのことだから騒ぎも騒ぎだったらしい
ただ、俺たちの件については俺たち三人が内々に話を済ませてしまったのでバレてはいなかったようだ
朝食後、3組と4組のみんなはバスに乗り込み、そのままこもれび高校へ向けて出発して行った
その後、俺たちは広島観光へと出発した
俺たちはまず原爆ドームに行き、写真を撮ってから平和記念資料館に行った
そこで戦争の悲惨さや核兵器の恐ろしさなどを学び、戦争は絶対に起こしてはならないものだと再認識させられた
昼食は宮島で食べ、午後からは厳島神社と弥山を登った
夕方になり、ホテルに戻る前に宮島水族館に寄ってから戻った
時間はわりとギリギリになってしまったが、かなり有意義な時間を過ごせた
深夜、俺は眠れずベランダに出た
すると横にみゆきが立っていた
そういや他の団体客が入る関係で女子の部屋が移動になってみゆきたちの部屋が横に来たんだっけ
「よう。お前も寝れねえのか?」
「あ、佐藤君…。うん…なんとなくね」
「またそれかよ。それにしても修学旅行、あっという間だったな」
「そうだね」
「みゆき、ちょっとこっち向いて」
「どうしたの?」
俺はみゆきの髪に今日買ったヘアピンを着けてみた
そして俺はみゆきに鏡を見せた
「これ、どうしたの?」
「昼に土産の買い物で巡ってた時に欲しそうにしてたから買ってみた」
「予算大丈夫なの?」
「わりかしギリギリ」
「もう…。でもありがとう」
俺たちは再び外の方を向いた
「みゆき、明後日って空いてる?」
「突然何?」
「いや、一緒に出かけたいなって思って」
「疲れてなければね」
「それもそっか」
俺たちは少しお喋りをしてお互いの部屋に戻った
翌朝、俺たちは朝食を食べてバスに乗り込んだ
今日は午前中だけ自由行動で午後には新幹線で帰る予定になっている
みんなこの時間でお土産を買ったりと色々するが、俺たちの班は意外とスムーズに行ったため昨日買い物も済ませてしまっている
だから俺たちは時間まで資料整理をすることにした
ただ、朝からみゆきの様子が変だった
「みゆき、どうかしたか?」
「えっ?べ、別になんでもないよ?」
「はあ…」
かなり動揺しているところを見るとおそらく何かあるんだろうけど、もしかしたら女の子ならではの悩みとかそういうのかもしれないから深追いはしない方がいいだろう
「そういえばみゆきちゃん、いつもと雰囲気違わない?」
「うんうん。それにいつもに比べてかわいさ増し増しな気もするし」
飯島と上山がそんなことを言い出した
言われてみればいつもと違うような気がするな
「うーん…特別なことしたつもりは全く無いんだけどなぁ…」
この様子、本当に本人は自覚が無いようだ
気になりはするけど本人に自覚が無いんじゃこれ以上追求したところで何の答えも得られないだろう
それから俺たちは雑談しながらも2時間くらいで資料整理を終えた
俺は片付けた後、石川と一緒にぶらりと外に出た
すると石川が俺に疑問を投げかけてきた
「佐藤、お前愛野にちゃんと気持ち伝えないのか?なんだかんだでお前、自分で真正面から真面目に向き合って伝えたこと無いだろ。愛野の奴、佐藤の軽口としか思ってないような気がするぞ」
「伝えたいけど怖いんだよね…」
「怖い?」
「告白した結果、フラれるだけじゃなくて幼なじみとしての関係まで壊れてしまうと思うとな…」
「でもそんなこと言ってると他の男に取られちまうぞ。ただでさえあいつ、男子からかなり狙われてるのに」
「分かってるけどさ…」
石川から最近聞いた話によると、みゆきの下駄箱にラブレターを入れる男子が増えつつあるらしい
みゆきはなぜか律儀にお断りの手紙を一人一人に書いてるみたいだけど、それでもなおたくさんのラブレターが来ている
うかうかしてれば取られてしまうというのは理解しているつもりだ
でも今の関係が壊れて二度とみゆきと話せなくなってしまうのが一番怖い
そう考えるとなかなか踏み出せないのだ
そんなことを考えながら歩いていると、ふと後ろの方で誰かに呼ばれた
振り返ってみるとそこにはみゆきがいた
「佐藤君、大丈夫?様子が変だよ」
「あ、うん。大丈夫だから気にしないで…ってもうすぐ時間じゃん」
「え?あ、本当だ」
俺はみゆきと一緒にバスに乗った
そしてバスはみんなが乗り込んだ後、まっすぐ広島駅へ向かって行った
広島駅にはお昼過ぎくらいに着き、俺たちは新幹線に乗り込んだ
帰りの車内はみんな疲れ切って眠っていたためすごく静かだった
窓の外をぼんやりと見ていると、飯島が話しかけてきた
「修学旅行、終わったね」
「だな。でも帰ったらグループで資料まとめて発表しないといけないんだよなぁ…」
「そうだね」
「てか飯島さ、修学旅行中ずっとみゆきの護衛してたけど楽しめたの?」
「まあね。護衛してたとはいっても基本的には修学旅行を楽しむことを最優先にしてたからね。みゆきちゃんに言われてたんだ。『修学旅行中は私の護衛よりも自分が楽しむことを最優先に考えなさい』ってね」
「歌姫様のご意向ってやつか?」
「ご意向というよりは歌姫様として私に命じたって感じだったかな。私がみゆきちゃんの護衛の最後の砦だから修学旅行中もずっと張り詰めてたの。そしたらそれに気付いたみゆきちゃんにそう言われちゃったんだ」
「なるほどな」
「まあその配慮のおかげで私も修学旅行を楽しめたんだけどね。ありがとう、みゆきちゃん」
飯島は隣で寝てるみゆきの頭を撫でながらそう言った
俺たちが乗っている新幹線は遅れることなく東京駅に着いた
全員がホームに降りると、小林先生が前に出てきた
「本日はここで解散とします。寄り道せずにまっすぐ帰宅して下さい。以上です。5日間お疲れ様でした」
そう言うと先生たちはホームを降りて行った
その直後、みんなが次々とホームから降りて行った
俺は石川とみゆき、飯島に声をかけ、混雑が落ち着いてから牧野と合流して帰宅した
実はこのルート、自分の高校の修学旅行のルートをベースに作ったんですけど、もうかなり前でどこに行ったかとか全然覚えてなくて完全とはいかないルート設計になっちゃいました。
恋愛に触れれば良いといえば良い………わけないね。
そう考えたのが投稿日前日。で、これは間に合わないと思い、投稿を少し延期して練り直しました。
今回の話で一番の焦点は、幸二君とみゆきちゃんの恋愛の進展なので、ぶっちゃけ二人きりとかお約束のシーンとかだけであとは流す感じで書くって手法も無くはないんですよね。まあ実際、軽く流した部分もあるけど…。
皆さんは修学旅行にどんな思い出がありますか?
コメントで教えてくれると嬉しいです。




