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あまいろパステル 〜紡がれる恋の1ページ〜  作者: 神御田
2年生

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27/32

21時間目 文化祭とこもれび生と歌姫の声

文化祭でやる内容を考えていた時にSNSの意見を見て白銀の女騎士と王国の歌姫をやることにした2年1組。

しかしクラス替えと交換交流のせいで去年演じた人が全然いないことが発覚。

どうするか悩んでいた矢先、2年1組のみんなは小林先生に歌姫である愛野みゆきが歌うことを禁止されてしまった。しかし、どこからかその話が漏れてSNSで拡散された結果、こもれび高校は大炎上。

その結果こもれび高校は条件付きで許可してきたのだった。


※この話は、22時間目まで話が跨っています。

後書きも22時間目の方にまとめて書きますのでご容赦下さい。

2037年10月5日

今日から文化祭の集中準備期間が始まった

俺たちのクラスは演劇で「白銀の女騎士と王国の歌姫」をやることになっている

実は9月に文化祭の出し物を決める時、たまたまSNSを見ていたら今年もやってほしいという声が上がっていた

他のクラスもやることを検討していたが、実はこれには2つ問題があった

まずは女騎士役だ

去年女騎士役をやった飯田さんは今年は2組にいる

あの騎士のポジションはかなり重要で、誰でもいいというわけではない

そして次が歌姫だ

もしまた歌姫の歌をみゆきに歌ってもらうとなると大変なことになるのは目に見えていた

だからといって他の人がやってもあのクオリティを再現するのは無理だ

言ってしまえばあれは飯田さんとみゆきの2人が揃ったからこその出来だったと言っても過言じゃない

飯田さんの代役はすぐに見つかったが、歌はなんとかできないかと学校側からも言われている

俺と立花、飯島は職員室に行き、小林先生に交渉した


「お願いします。歌の方、今年も歌姫様に依頼させて下さい」

「うーん…でもまた去年みたいなことが起こる可能性が高い以上、学校側としては許可するのは難しいわね…」

「ですからそこは…」

「先生たちだって文化祭の間は不審者とかの見回りをしなきゃいけないから、1組だけを見てるわけにはいかないの」

「それは分かっています。でもこの演目は歌姫様の歌があったからこそ…」

「それって果たしてどうなのかしら?」

「え?」

「それってあなたたちの実力じゃなくて歌姫様の歌のおかげで盛り上がったってことじゃないかしら?」

「それは…」

「いい?クラスの出し物はあくまでもクラスみんなで作り上げなければ意味が無いの」

「でも彼女も…」

「無理なものは無理です。諦めなさい」


俺たちはとぼとぼと職員室をあとにした


「何もあんな言い方しなくても…。愛野さんだって立派な1組のメンバーなのに…」

「まあそれ以上にみゆきの場合は歌姫ってステータスがあまりにもでかいんだろうな…」

「佐藤君、立花君、今回は私が歌うよ」

「飯島が?」

「こう見えて私だって中1の時、みゆきちゃんと同じ期間歌姫候補生として厳しいレッスンを重ねてきたから。といっても私は歌姫候補生までで終わっちゃってるから完全な代役とまでは行かないけど、ある程度のレベルまではどうにかできると思うよ」

「………。背に腹はかえられないか…。飯島、頼んでもいいか?」

「任せて」


俺たちは教室に戻り、飯島が代わりを務めること、飯島もみゆきと同じ歌姫になるためのレッスンを同じだけ受けたことがあることを話した


「100%代役が務まるとは思えないけど、出来る限りのことは…」

「ちょっと待って」

「ん?」


突如、田中が遮ってきた


「俺たち、お前らが職員室に行った後、どうやったら認めてもらえるかを考えてたんだ」


そう言うと田中は黒板に大きな図を書いて説明を始めた


「実は去年の演劇の動画見返してて気付いたことがあるんだ。それは歌がCDの時も、来てた人みんなが愛野さんが生で歌ってると思ってたってことなんだ。おそらくは愛野さんが園芸部の方に行ってて外で見かけなかったのが理由だと思う。そこで考えたんだけど、あえて愛野さんには桜女子学園の制服を着て受付にいてもらうんだ。そうすれば愛野さんは常に外にいるから中で歌ってるなんて誰も思わないだろ?」

「確かにそうかもしれないけど、そんな単純なやり方で欺けるほど来場者の耳は誤魔化せないと思うぞ。結局CD使うなら歌姫の歌を収録したCDがあるんだろってなってみんなから売れって騒がれたりしないか?」

「それに歌姫に歌じゃなくて受付依頼してるって騒がれたらそれこそ大騒ぎだぞ」

「た、確かに…」


その時、小林先生が慌てて教室に入ってきた


「あなたたち、歌姫様への依頼を許可することになったわ」

クラスメイトたち「え?」


小林先生の話によると、SNS上に今回の俺たちの出し物のことと、歌に歌姫様の歌が起用されないことがリークされ、大炎上してしまったようだ

その結果、職員室の電話が鳴り止まず、大変なことになっているらしい

もちろん俺たちは誰一人として心当たりが無かった


「ただ、1つだけ条件があります。他の学年やクラスが依頼したいと言った場合は、可能な限り協力すること。独占は禁止します」


正直、歌をCDで流す予定なのでそんな条件はうちとしてはどっちでもいい

それにどうせみゆきは今年も園芸部の方があるのでうちのクラスで独占するどころか下手すりゃあうちのクラスにいない

でも、それでもみゆきに頼めるのはかなりでかかった

俺たちは何も言わずあっさり了承した


〜放課後〜

「佐藤、石川、聞いたよ。みゆきの歌の使用条件の話。本当にいいの?」

「別に教室にみゆきがいなきゃ成り立たないわけじゃないからな」

「そうじゃなくて勝てるのかって話」

「さあな。もしかしたら負けるかもな」

「随分弱気ね」

「去年の白銀の女騎士と王国の歌姫は、もちろんみゆきの歌のチカラもあるけど、飯島と飯田、上山の3人のチカラがかなりでかかったんだ。でも今年は、飯田は2組だし、上山は交換交流でいないからな…」

「主要メンバーが欠けてるから勝てる自信が無いってこと?」

「まあ端的に言えばそうだな。上山の穴はたぶん簡単に埋められるけど騎士役だった飯田がいない穴はでかいな…」

「ふーん。そういえばみゆきは?」

「桜女子に行ったよ。なんか昔の担任に用事があるとかなんとか」

「ふーん」


俺たちはその後、秋田さんと合流して帰宅した


〜翌日〜

俺と立花は桜女子学園に来た

目的は歌姫への歌唱依頼だ

去年はクラスメイトだからということで問題は無かったが、今年は桜女子学園の歌姫として依頼するように昨日の帰りのホームルームで通達されてしまったのだ

俺たちは校門で手続きをすると、会議室に通された

そこには二人の先生がいた


「ようこそ、桜女子学園へ。本日は私、御子柴と根岸でお話をお伺い致します」

「よろしくお願いします」

「佐藤です。よろしくお願いします」

「立花です。よろしくお願いします」

「どうぞお掛けください。それで、予め電話で用件は伺いましたけど、うちの歌姫に歌唱を依頼したいと?」

「はい」

「ちなみにどちらのか希望はありますか?」

「ソプラノの歌姫様の方にご依頼させていただければと思います」

「あら、ならなぜわざわざうちに?今代のソプラノの歌姫はこもれび高校の学生さん、それも佐藤さんと立花さんと同じ2年1組にいるとこもれび高校さんからはお話をうかがっておりますが?」

「学校の方より、歌姫様への依頼の機会の公平化を図るため、歌唱を依頼する場合は桜女子学園を経由して依頼をするよう通達がありまして…」

「うちにいるのは『愛野みゆき』という普通のイチ女子生徒であり、桜女子学園の歌姫の『愛野みゆき』ではない。そういう考え方のようです」


俺は学校で配布されたプリントを御子柴先生に渡した

御子柴先生と根岸先生はプリントを一通り読み、再び俺たちの方を見た


「なるほど、お話は分かりました。結論から言うと、何の問題もありません。彼女は確かにうちの歌姫ですが、今はあくまでもこもれび高校の生徒です。こもれび高校の行事で彼女が歌うというのは、こもれび高校の生徒である彼女がこもれび高校の行事に参加するということですので、それはごく普通のことであり、問題の発生する余地はありません。それが私たちの回答です」

「なるほど…」

「でも同じ件で頻繁に来られると大変ですね…。御子柴先生、こもれび高校の方には私の方から連絡をしておきます」

「お願いします」

「ではもし、歌姫様が交換交流生としてうちに来ている場合はどうなのでしょうか。今後の参考のためにご教示願えればと思います」

「その歌姫が桜女子学園に所属し、かつ交換交流で入ることになったクラスが依頼する分には問題はありませんが、それ以外の場合はうちを通すようにして下さい。このことも併せてこもれび高校さんの方にはこちらから連絡をしておきます」

「では現状の場合、もしアルトの歌姫様が歌えるようになることがあれば、我々2年1組が依頼する分には問題ないということでしょうか」

「そうですね。秋田さんはうちに所属していて、2年1組にいると聞いてますので、2年1組が依頼する分には一切問題はありません」

「分かりました」

「他に確認したいことはありますか?」

「いえ、以上で問題ございません」

「分かりました。ではら校門までお見送りさせていただきますね」

「あ、ありがとうございます」


俺たちは会議室を出て、先生方に見送られながら駅へ向かった


「なんか…来る意味なかったな」

「ああ…」


俺たちは電車に乗り、学校に戻った


「おかえり。何だって?」

「みゆきはこもれび高校の生徒だから、そもそもうちを通して依頼するのはおかしい。ただこもれび高校の生徒がこもれび高校の行事に参加してるだけなんだから問題の発生する余地なしだって」

「言われてみれば確かに…」

「まあそうよね…」

「ただ小林先生、愛野さんはうちのクラスのメンバーですし、彼女が歌姫であることについてはうちのクラスの中だけの極秘事項ですから、対面上はこもれび高校から桜女子に依頼するってことにして、先生方を経由して愛野さんに依頼する形の方が良いと思います」

「そうですね、分かりました」


小林先生は職員室に戻った


「というわけでみゆき、改めて歌の依頼をしたいんだけどいい?」

「………」

「みゆき?」

「私、アリア王女の役、やろうか?」

「へ?」

「今年は園芸部に行かなきゃいけない時間、かなり少ないからできるよ」

「でも…」

「またCDの曲が足りないから歌うってやるよりは初めから私が舞台に立って歌った方が良いと思うの。それに私が初めから立てば、アリア王女役の人が私だと思われて他の人が詰め寄られることも無いでしょ?」

「言われてみれば確かに…」

「私も賛成。去年みたいなことになると私もかなり大変だから…」

「まあ飯島さんが良いなら良いんじゃない?」

「おう。じゃあアリア王女役はみゆきで行こう。そしたら採寸しないといけないか…」

「それは大丈夫。ドレスならあるから」

「へ?そうなの?まああるならそれでもいっか…」


俺たちは準備を再開した

ただやはりお触れの影響は大きく、みゆきはちょくちょく抜ける羽目になり、練習も含めてかなり時間がギリギリになってしまった


2037年10月10日

俺と石川は少し早めに登校してきた

すると俺たちの教室の前にものすごい人だかりができていた


「な、何だ何だ?」

「ちょっと通してくれ」


俺たちは人混みを抜けて教室に入った

教室内にはみゆきと秋田さんの二人だけがいたが、なんとみゆきがクリスマスの時も着ていたドレスを着て発声練習をしていた

つまりこの人だかりは桜女子学園の歌姫様を一目見たくて集まった野次馬ということだ


「ドレス作らなくて良いってこういうことかよ…」

「まあ確かにこれなら改めて作る必要も無いな」


俺たちはみゆきの邪魔にならないように静かに準備を始めた

それから5分後、やっと発声練習が終わったようだ


「お疲れさん。ドレスあるってこれのことだったの?」

「うん。着慣れないドレスよりは着慣れたこっちの方が動きやすいし、声の出し方だって分かってるからね」

「服によって発声方法違うんだ…」

「大きく変化するかって言われるとそうでもないけど、このドレスは私が歌う時の細かな動きから大きな動きまで、全てに合わせて調節されてるから凄く歌いやすいの」

「このドレスは、初めて歌姫に選ばれた時に学園から渡される歌姫の三種のアイテム呼ばれるものの1つなんです」

「三種のアイテム?」

「楽譜、歌姫のティアラ、そしてこのドレスです。楽譜とティアラは代々受け継がれるものですが、ドレスばかりは体型差もあるので完全オーダーメイドなのです」

「秋田さんもその3つを持ってるの?」

「はい。ちなみに色も違うんですよ」

「色?」

「その歌姫に似合う色とかを吟味して決めるの。凛ちゃんのは確か白とピンクだったよね?」

「はい」

「で、みゆきは白と水色か…」

「白だけって案もあったんだけど、デザイナーさんが物足りないって言ってね」

「なるほど…」

「あ、そうそう。これを着るからには桜女子学園の歌姫として振る舞わないといけないから、普通に喋るのはここまで。これからこれを着てる間は桜女子学園の歌姫として接して。あと、この学校の施設についてもどこに何があるかも分からないってことにするから」

「かしこまりました、歌姫様」


自分で言っててかなりむず痒かった

幼なじみで、いつもタメで話してる女の子にこんな風に接するとか正直違和感が半端ない

でもあのドレスを着た以上、みゆきは桜女子学園のソプラノの歌姫様だ

俺は今だけは幼なじみの女の子だということを忘れ、歌姫様として接した

ただ、違和感が半端なかったのはみんなもそうらしく、初めは誰かすら分からなかった人もいた

ただ飯島はかなりすんなりと適応していた


「はい皆さん、おはようござ…」

「ごきげんよう、小林先生」

「ご、ごきげんよう?えっと…愛野さん、もう着替えたんですか?」

「このドレスは普通の服みたいにすんなり着れるものではないのです。ですので昨日、学年主任の先生から許可を頂いております」

「な、なるほど…。それでその喋り方は?」

「あ、それは俺が説明します」


俺はさっきみゆきに言われたことをそのまま話した


「なるほど…。でも非常に違和感がありますね…」

「気持ちはよく分かります。でも粗相をすれば歌姫様の評判を落とすことに繋がってしまいますし、やむを得ないと思います」

「そうですね、分かりました」


小林先生はいくつかの連絡事項をアナウンスして教室を出て行った


「歌姫様はこちらにお掛けになっていて下さい」

「ええ、分かりました」


俺たちはステージの準備を整えた

そしてステージの準備を終えると、桜井は俺と石川以外の男子にチラシを渡してきた

しかもチラシには桜女子学園の歌姫がスペシャルゲストで登場とまで書かれていた


「文化祭始まったらすぐ呼び込み回って。流石に愛野さんにここまでさせといて閑古鳥が鳴くのは許されないわよ」

「えっと…俺と石川は?」

「石川は受付。佐藤は飯島さんと一緒に一日愛野さんのサポート」

「マジか…」


俺は飯島と一緒にみゆきのそばに行った


「秋田さん、舞台前の歌姫様ってどんなふうに扱われるの?やっぱり良家のお嬢様と執事みたいな?」

「はい」

「冗談で言ったのにマジか…」

「私たちは発声練習や本番前の軽い練習等、ステージで歌うことに関することだけに専念できるようにしてもらっています。まあ…いつもかなり申し訳ない気持ちでいっぱいですけどね…」

「なるほどね。じゃあ今日はそういう対応にしなきゃダメか…。歌姫様のステージに関与したことある人に歌姫様が自分のことを全部してる姿見られたら大バッシングに繋がりかねないしな。みゆ…歌姫様、何かして欲しいことがございましたら私か飯島に何なりと仰って下さい」

「………」


みゆきは完全に困惑していた

そりゃクラスメイトからこんな待遇受けてたら困惑しか無いだろうな

そんなことを思っていると、文化祭が始まって数分後には教室にぞろぞろと人がやって来た

ちなみに今年はは予め視聴覚室を押さえており、教室はこもれび高校、桜女子学園、水萌女学園の人限定で、それ以外の人は視聴覚室と明確に分けてある

そして教室の方はこもれび高校、桜女子学園、水萌女学園でそれぞれ時間を区切っており、各々の時間以外には入れないように制限することで騒動防止を図ったのだ

ただ、今日はこもれび高校、桜女子学園、水萌女学園の3校の生徒しか入れないので、視聴覚室は教室に割り当てられた学校以外の生徒が見る用に開放している。

ちなみに第1回目はこもれび高校の人のみとなっている

さらに今回は1日6回を予定していて、前半3回はみゆき、後半3回は秋田さんがアリア王女の役をやる

これについては一昨日急にみゆきが提案してきたのだ


〜回想〜

2037年10月8日

「秋田さんがアリア王女の役を?」

「公演は午前3回、午後3回の合計6回でしょ?だから午後の3回は凛ちゃんにやってもらおうと思ってるの」

「でも秋田さん、歌えないんじゃ…」

「ダメだったら私がやる。だから安心して」

「はあ…」

〜回想終了〜


みゆきの考えとしては、この公演を秋田さん復活のお披露目の場としたいらしい

その目論見が上手くいくかは分からない

でもみゆきには何か考えがあるのだろう

それにダメだったとしてもみゆきがバックアップしてくれる

俺たちは俺たちにできることを精一杯やり、二人の歌姫のために最高の舞台を用意するだけだ

俺はステージに上がり、開演前のアナウンスをした

そして俺がステージから下がると、照明が消え、教室内が静寂に包まれた

しかし、舞台が進んでアリア王女が登場する場面になると、教室内は一気にざわついた

みんなステージにいるのが本物の歌姫様だと気付いたようだ

まあこんなあからさまなドレス着てたらバレるのも当たり前か


「………」

「どうしたの?秋田さん」

「やっぱりみゆきさん、凄いです…。歌姫になってからずっと近くで見てましたけど、やはり伝説の歌姫と呼ばれるだけのことはありますね…」

「え?まだ歌のシーンじゃないのに?」

「そこではありません。舞台の上であれだけ堂々と、そして凛々しく舞うことができているところが…」

「あー…。でもみゆきも普段はあんなじゃないんだよ」

「え?」

「本当は臆病でおどおどしてることが多いんだよ。舞台では見せない歌姫の本当の姿ってやつかな?」

「そうなんですか…」

「本当は今も怖いんじゃないかな…。でもあいつは昔から責任感が強いから、やらなきゃいけないってなったらどんなに怖くてもやり切るんだよ」

「………」


秋田さんはみゆきのことをじっと見ていた

歌姫として引っ掛かることがあるのか何なのかは俺には分からない

でもおそらく何か思うところがあるのだろう

そんなことを考えていると、みゆきが舞台袖に戻ってきた

みゆきは戻るなりすぐに椅子に座り、楽譜の確認を始めた


「秋田さん、歌姫のドレス着て舞台立つのってどれくらい疲れるの?」

「え?」

「いや、普段着や制服と違って頻繁に着る物じゃないだろうし、そうすると疲れるんじゃないかなって思って」

「そうですね。確かに使われる布の量は普段着ている服よりもかなり多いですけど、みゆきさんみたいに1年を超えて歌姫を務めている方であれば、1年目の歌姫と比べれば疲れは溜まらないんじゃないでしょうか」

「あー…これまでに着る機会が多かったから着慣れてるってこと?」

「そうですね。先日、元歌姫様たちの会合にみゆきさんと一緒に挨拶に行った時に教えていただいたんですけど、回数着てると普段着ていなくても着慣れてくるらしいんです」

「へーえ」


俺はちらっとみゆきの方を見た

様子を見る限りでは着慣れてないような様子は一切無かった

その時、みゆきが立ち上がった

舞台を見ると、ちょうどアリア王女を探している場面だった

そして、歌が聞こえてくる場面に突入すると、みゆきは小さな声で歌い出した


ーー今、歌が聞こえなかった?


ーー歌?何も聞こえないけど


ーーそうなの?でも確かに歌が…


ーー待って、アンジュ。確かに聞こえる


今回変わってないのはリン役の桜井だけで、他の奴等はみんな変わっている

だから正直今回の配役は上手く行くかは分からない

それほどに飯島、飯田、上山の3人の配役相性が良かったのだ

そして一番の問題はアリア王女役のみゆきだ

去年みゆきは歌っただけでアリア王女役をやってはいない

でも今回はアリア王女役までやっている

俺は上手く行くよう祈りながらみゆきの様子を見守った

そして舞台はクライマックスを迎えた

みゆきは全力で歌っている


ーーアリア王女が応援してくれてる…!こんなところで負けるわけにはいかないのよ!この剣、アリア王女のために捧げると決めたんだから!


「………!」


俺たちはステージから聞こえてきた台詞にびっくりしてしまった

まさか演劇部の奴でもないのにここまでできるとは思いもしなかった

それは観客のこもれび生も同じようだった

ただ、みゆきは動揺する様子を見せず、最後まで歌い切った

やはり歌姫ともなると違うのだろうか

そして、舞台は問題なく終わりを迎えた

会場内は拍手大喝采となった


「お疲れ様です」

「お疲れ様でした」


俺はみゆきに飲み物を渡した

しかし、みゆきは受け取らなかった


「どうかなさいましたか?」

「………」


みゆきの様子は少しおかしかった

しかし、その理由はすぐに分かった

みゆきは手でお腹よりも下のところを押さえていた

たぶんトイレに行きたいのだろう


「えっと…お手洗いでしょうか?」


俺がそう聞くとみゆきは小さく頷いた

客席を見ると、まだ人が残っていた

今の状態で出るのは流石にまずい


「そういえば秋田さん。歌姫のドレス着てる時ってトイレとかどうするの?」

「ステージの前でしたら、ドレスを着る前に済ませますけど、ステージの後でしたら脱いでから行きますね。ステージの時はだいたいこの衣装の下に制服のブラウスは着たままなので、脱いでスカートさえ穿けばすぐに行けますよ」

「ブラウスの上から着て暑くないの?」

「このドレス自体、ブラウスを着てその上から着ることも想定して作られているのでそこは問題ありません。ちなみにみゆきさん、ブラウスの上から着てるので脱いでスカートさえ穿けば行けますよ」

「じゃあ秋田さん、脱がせてあげて。俺、後ろ向いてるから」

「分かりました」


俺が背を向けると、後ろから布の擦れる音がし始めた

すると立花がこっちに向かって来ながら声をかけてきた


「佐藤、視聴覚室の方だけど…」

「来るな。今ここ女子が着替え中」

「じゃあなんでそこにいるんだよ…」

「流石に後ろ向いてるよ」

「まあ何でもいいや。それよりも視聴覚室の方、またチップの支払いめっちゃ来てるらしいぜ」

「またかよ…。こりゃ集計大変だな…」

「頑張れー。俺ちょっくら呼び込み行ってくる」


そう言うと立花は教室を出て行った

後ろからは相変わらず布の擦れる音がしている

着るのが大変とは聞いていたけど、その反面脱ぐのもかなり大変なようだ


「飯島、ちょっと」

「え?」


俺は飯島を呼び寄せた


「何?」

「歌姫様の着替え手伝ってあげて。トイレ行きたいらしいんだけど音からしてかなり手こずってるっぽいから」

「分かった」


飯島は俺の脇を通って後ろに行き、着替えの手伝いに参加してくれた

俺はみゆきたちに背を向けたまま、スケジュール表の確認をした

あれ?今日は午前だけしかステージの予定が無い?

何かあるのだろうか

15分後、ようやく音が静かになった


「もういい?」

「いいよ」


俺はみゆきたちの方を向いた

みゆきは桜女子の制服を着ていた


「こもれび高校の制服着りゃスムーズに抜け出せただろうに…」

「あ…」

「まあ今更か。じゃあ飯島、歌姫様をトイレにご案内して差し上げて」

「了解。では姫、こちらに」


飯島はみゆきをトイレに案内して行った

みゆきもこもれび高校の制服着てりゃただの連れションにしか見えないけど、今は桜女子の制服を着てるので、ゲストを案内してる図にしか見えなかった

もちろん二人が教室を出て行った後、廊下が騒がしくなったのは言うまでもなかった


「たかがトイレ行くだけでもこんなに大変なんだな…」

「まあドレスの構造上仕方ないですけどね」


3分後、二人が戻ってきた

飯島によると、二人が女子トイレに着いた瞬間、並んでいたこもれび生たちが一斉に列を空けてくれたらしい

その中には我慢限界が近い子もいたようだ

もちろんみゆきは遠慮したみたいだけど、みんな歌姫様にお漏らしなんてさせるわけにはいかないと言って、一歩も引く気が無かったらしい

そういやみゆきも脱ぐのに時間がかかったせいか、教室出る時はかなり我慢してる様子だったな

おそらくトイレに行った時もそんな感じだったのだろう

俺はなんとなくトイレで起きたことが想像できてしまい、苦笑いをした

そしてみゆきは再び秋田さんと飯島に手伝ってもらい、歌姫の衣装に着替えた


「そういや飯島、さっき歌姫様を案内する時に姫って言ってたのは?」

「桜女子の騎士道部の生徒は、歌姫様のことを姫って呼ぶことがあるの。歌姫様やディーバ様だと呼びづらい場面っていうのもあるからね。ちなみにだけど、歌姫様をお護りするのも一部の騎士道部の生徒の役割なんだ。だからそこいらの男と比べたら圧倒的に強いよ」

「へーえ。ちなみに飯島も騎士道部だったの?」

「まあね。ただ1年の時は歌姫候補生だったからあんまり活動にも参加できなかったからね…」

「ちなみに歌姫様に選ばれた後は騎士道部は?」

「自動的に退部になる。そもそもの役割が歌姫様をお護りすることなんだから、歌姫様になった後も続けてたらおかしいでしょ?」

「まあ…確かに」

「ちなみにみらいさんは騎士道部の中では一番強かったんですよ」

「マジか…」


こりゃ飯島を敵に回したらやばそうだな

ましてやこいつを彼女にして浮気とかした日にはその男はあっさりねじ伏せられるだろう

そんなことを話しているうちに、教室内にはたくさんの女の子たちの声が響いていた

ステージ脇から客席を見ると、桜女子学園の制服に身を包んだ女の子たちが座っていた


「マジか…」

「どうしたの…って、うわぁ…」


飯島もこの光景を見て驚いていた

そもそも桜女子も来週文化祭のはずなのにこんなに集まるとは思いもよらなかった

しかし、俺たちがそんなことを思っている反面、みゆきは全く動じる様子もなく楽譜を見ていた

歌のことになるとここまで人が変わるのか…


「佐藤君、そろそろアナウンスした方が…」

「いや、桜女子のお嬢様たちの前に出る勇気が…」

「何言ってるの。石川君だって受付で何人もの桜女子の子たちを相手したんだから泣き言言わないの」

「いや1回で対面する人数の差よ…」

「ホント変なとこでチキンなんだから…」


そう言うと飯島はステージに上がり、皆さんの前で挨拶をした

その時、客席からは「騎士団長」という聞き慣れないワードが聞こえてきた

どういうことかはよく分からないが、飯島も人のこと言えないレベルで目立つ立場にいたようだ

飯島はアナウンスを終えると、俺たちのところに戻ってきた

さすがはお嬢様と言ったところか、こもれび生の時よりもすぐに静かになった

ただ、公演が始まってみゆきがステージに出た時はかなりざわついていた

やはり歌姫様は桜女子の生徒からしたら特別な存在なのだろう

公演が終わると、桜女子の皆さんは静かに教室をあとにした

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