20時間目 声を失った歌姫
2年1組に訪れた桜女子学園からの交換交流生を見てびっくりする愛野みゆき。その交換交流生はなんと桜女子学園のアルト担当の歌姫様。しかし、彼女の歌声は失われてしまっていたのであった。
2037年9月29日
「今日から今日から2ヶ月ちょっとの間、桜女子学園から1名、交換交流生としてうちのクラスに来ます」
小林先生の一言に、教室内は一気にざわついた
交換交流生が来るのは知っていたが、去年同様どこのクラスに来るかまでは言われていなかった
交換交流生は計4人来るが、2年は文系と理系でクラスが分かれているため全員が同じクラスに来るわけではないらしい
それに1組は理系の特進クラスなので、理系でも一定のラインに成績が届いていないと来れないが、今年うちのクラスに来る子はギリギリではあるけど基準ラインに届いているらしい
桜女子でトップの成績でもうちの特進クラスの成績にはほとんどが届かないようなので、特進クラスに交換交流生が来るのはレアケースなのだろう
そんなことを考えていると、教室のドアが開いた
そして、桜女子の制服を身に纏った一人の女の子が入ってきた
「凛ちゃん!?」
その姿を見た瞬間、みゆきがいきなり立ち上がった
知り合いなのかな?
「あ、み、みゆきさん!?」
どうやら向こうもみゆきのことを知っているようだ
「あら、二人とも知り合い?」
「知り合いも何も、私の今のパートナーですよ」
「パートナー?」
「『パートナー・ディーバ』、ソプラノの歌姫からしたらアルトの歌姫、アルトの歌姫からしたらソプラノの歌姫がそれに当たります」
「え?じゃああなたも歌姫?」
さっきよりもさらに教室がざわついた
え?うちのクラスに歌姫が2人ってどういうこと?
「第179代ブロッサム・ディーバ、アルト担当を務めております、桜女子学園高等部2年の秋田凛と申します」
「ええー!?」
みゆき以外の全員が驚愕の声を上げた
そして、もはや昼休みかと思うくらい教室内がざわついた
「はい皆さん静かにして下さい。興奮する気持ちは分かりますけど、他のクラスの迷惑になりますので。えー…それじゃあ秋田さんの席は…」
「先生、愛野さんの横がいいんじゃないでしょうか。ちょうど上山さんが水萌に行ってて席が空いてますし、知り合いが隣の方がクラスに馴染みやすいでしょうから」
「そうね、そうしましょうか」
「はい」
秋田さんはみゆきを挟んで隣の席に座った
その時、みゆきは妙な表情をしていた
嫌というわけではなさそうだけどどうしたのだろうか
休み時間にでも聞いてみるか
〜1時間目終了後〜
秋田さんの周りにはクラスの女子たちが集まっていた
しかし、その中にみゆきの姿は無かった
------Miyuki's View------
お手洗いから戻ろうとした時、私のスマホが鳴った
画面には桜女子学園と出ていた
私は少し離れて電話に出た
「はい、愛野です」
「桜女子学園の御子柴です」
「あ、お久しぶりです、御子柴先生」
「急にごめんなさいね。今大丈夫かしら?」
「はい。どうかされましたか?」
「秋田さんのことで少しお話が」
「?」
御子柴先生は凛ちゃんのことについて話してきた
私はその内容に言葉を失ってしまった
------Koji's View------
休み時間が半分終わった頃、ようやくみゆきが戻ってきた
しかし、相変わらず様子が変なままだった
みゆきが席に座ると、秋田さんはみゆきの方に向き直った
「みゆきさん、私、歌姫を辞めようと思っています」
「え?」
それを聞いたみゆきは真剣な表情になった
「今のまま歌姫を続けていても仕方ないと思うんです。歌姫になりたい子は他にもたくさんいるのに、こんな私がいつまでも歌姫の座にいたら…」
「聞いたよ、話は」
「え?」
「さっき御子柴先生から電話があって、そこで教えてもらったの。今の凛ちゃんの状態を」
「………」
「みゆきちゃん、どういうこと?」
「凛ちゃん、今歌えないの」
「ええっ!?」
「6月頭にあったアルトの歌姫が襲われた事件。あの事件の被害者が彼女なの。その事件に巻き込まれて以来、彼女は歌おうとすると事件がフラッシュバックして声が出なくなるの」
「………」
「お笑い種ですよね。歌姫なんて呼ばれてるのに歌えないなんて」
そう言う秋田さんの目には涙が浮かんでいた
「つらいんです。歌えないのに歌姫様とかディーバ様って言われるのが…」
そう言いながら秋田さんは泣き出してしまった
それを見たみゆきは秋田さんをそっと抱きしめ、頭を撫でた
ブロッサム・ディーバって俺たちとは違うと思ってたけど、蓋を開けてみればやはり普通の女の子なんだなと改めて思わざるを得なかった
「みんな、2時間目始めますよ…って、どうかしたの?」
小林先生はみゆきに抱かれながら泣いている秋田さんを見て駆け寄ってきた
飯島は小林先生に事情を話した
どうやら小林先生は秋田さんの事情は知っていたみたいで、俺たちに秋田さんが交換交流生としてここに来た理由を話してくれた
ちなみにみゆきもさっき電話で同じことを聞いていたらしい
小林先生は秋田さんが泣き止むまで授業開始を待ってくれた
もちろん授業の進度は遅れてしまったが、あの状態では誰もまともに授業なんて聞けなかっただろう
〜昼休み〜
「佐藤、昼買いに行こうぜ」
俺はちらっとみゆきの方を見た
あの様子だとたぶん声をかけても弁当の受け取りは無理だろう
俺は立花と一緒に購買に行った
------Miyuki's View------
「ねえ凛ちゃん、事件の時のこと教えてくれる?」
「ちょっ、飯島さん、それは流石に…」
「私、少し考えたの。もしかしたら事件の中に凛ちゃんが今回のことを乗り越える鍵があるんじゃないかって。みゆきちゃんの男性恐怖症もそうだったし」
「私のと凛ちゃんのは流石に違うと思うけどなぁ…」
「もちろん無理にとは言わないよ。思い出すのがあまりにも怖いとかだったらむしろ逆効果だし」
「………」
凛ちゃんはゆっくりと事件の時のことを話してくれた
------Rin's View------
〜回想〜
2037年6月3日
「♪〜」
私はいつものようにステージの上で歌っていた
その時、最前列に座っていた男の人が急に立ち上がった
そして鞄の中からいきなり包丁を取り出し、ステージに上がってきた
「な、何ですか?」
私はじりじりと迫る男の人から逃げるように後ずさりして行った
しかし、その時私はドレスの裾に足を取られて倒れてしまった
男の人はそれを見逃さず、包丁を持ったまま私に馬乗りになってきた
そして、私の胸を目がけて包丁を振り下ろしてきた
私は恐怖のあまり、声を出すこともできなかった
しかし、駆けつけたスタッフさんたちによって制止され、私は間一髪刺されずに済んだ
そしてその男の人は、スタッフさんたちに包丁を取り上げられ、取り押さえられた
しかし、警察が来た瞬間、男の人は包丁を預かっているスタッフさんに体当たりして倒して包丁を取り戻すと、振り回しながら警察から逃げてしまった
〜回想終了〜
------Miyuki's View------
「あれ以来ステージに上がるだけで過呼吸を起こすようになって、そしてさらに…」
「歌おうとしても声が出なくなっちゃってたと…」
凛ちゃんは小さく頷いた
「なるほど…」
「それだけではなく、包丁やナイフなんかも見ること自体もダメになってしまって…それに男の人も…」
「………」
私たちは何も言うことができなかった
今の凛ちゃんは刃物と男性に対して強い恐怖心を持っている
そして、そのきっかけの事件がステージで、しかも歌姫として歌っている時に起きてしまい、ステージ自体にも恐怖心がある状態だ
するとみらいちゃんが私に問いかけてきた
「ねえ、みゆきちゃんはなんで男の人が怖くなったんだっけ?」
「私は小学6年生の時、学校でお手洗いに入ってる時に不審者にドアをこじ開けられて性的に襲われそうになったのがきっかけ。あの時は早織が急いで先生を呼んできてくれたから助かったけど一人だったらやばかったと思う…」
「そ、それは確かに男性恐怖症になってもおかしくないような…」
桜井さんは困惑した様子でそう言ってきた
「まあそれも花鈴様と晶様のおかげでかなり落ち着いたけどね」
「花鈴様?晶様?」
「第99代ブロッサム・ディーバ、ソプラノ担当の松本花鈴様と第177代ブロッサム・ディーバ、アルト担当の篠田晶様。桜女子ではお姉様方…先輩を呼ぶ時は『様』をつけるっていう慣習があるの」
「そうなのね。というかソプラノとアルトで随分と代に差があるのね」
「ソプラノは代々アルトに比べるとハイレベルなのでなかなか後任が決まらないんです」
「確かみゆきちゃんももうすぐ4年になるよね?」
「うん。中等部1年の11月の冬桜の会で花鈴様の後任として認められて、それ以来ずっとやってるからね」
「じゃあ愛野さんはちょうど100代目のソプラノの歌姫ってこと?」
「うん。…って私の話はどうでも良くて、今は凛ちゃんのことだよ」
「ですからみゆきさん、それは私が歌姫を辞めれば…」
「凛ちゃんはそれでいいの?」
「え?」
「あれだけ厳しいレッスンを乗り越えて、なかなか認めないことで有名だった晶様が認めたゆみなちゃんからバトンを受け継いだのに、そんな簡単に諦めていいの?」
「私だって諦めたくないです。でも、歌えない歌姫なんて何の意味も…」
「だったら一緒に考えようよ。どうしたらまた歌えるようになるかを。また歌いたいから、歌姫として活躍したいからわざわざ私のところに来たんでしょ?」
「みゆきさん…」
「大丈夫。私がついてるから。だって私たち、パートナーなんだから」
「………。……はい」
凛ちゃんは涙を流しながら頷いた
------Koji's View------
「………」
「どうした?女子たちの方なんか見て」
みゆきたちの方を見ていると、立花が俺に声をかけてきた
「いや、みゆきがあんなに感情的になったことなんて今まで無かったからびっくりして…」
「確かにな。でも愛野さんが感情的になるってことは、歌姫の立場ってそれだけ重いものなんじゃないか?聴くだけの側からしたらよく分からんが」
「まあ…それはそうなんだろうけどさ…」
そんな話をしていると、飯島がこっちを見てきた
「佐藤君、ちょっとこっち来て」
「へ?」
「呼ばれてんだから早く行ってやれよ」
「あ、ああ…」
俺は飯島たちのところに行った
すると秋田さんが凄く怖がり出した
「飯島、俺なんで呼ばれたわけ?」
「まあ黙ってそこにいて」
「何だかなぁ…」
「凛ちゃん、大丈夫だよ。彼は怖くないよ」
「そうだよ。だって同じ男性恐怖症のみゆきちゃんが怖いって思ってないんだから」
「大丈夫。こいつに秋田さんに手を出す度胸は無いよ。だってこいつ、愛野さんが横で無防備に寝てても手を出せないヘタレなんだから」
「そうそう。誘っても手も出せないチキンだから」
飯島たちが秋田さんをフォローしてくれてるのは良いけど、その際にかけてる言葉で俺の心はどんどん抉られていた
その様子を見て立花は大爆笑していた
お前ら、後で覚えとけよ
そんなことを思っていると、秋田さんが少し落ち着いてきた
そんな言葉をかけられて落ち着かれると俺の男としての沽券に関わるんだが…
俺がしょげてると、みゆきが声をかけてきた
「ごめんね。お詫びに明日のお弁当は好きな物たくさん入れてあげるから許して」
「………」
俺は頷くことができなかった
ここで頷いてしまうと女子たちの間での俺のキャラがそれで決まってしまいそうで怖かったからだ
「あ、あの…」
「え?」
秋田さんが俺に話しかけてきた
どうやら飯島たちのフォローが功を奏したようだ
ただ、俺のプライドはズタボロだが…
「ほら佐藤、自己紹介くらいしなさいよ」
桜井が俺の背中を叩きながら言ってきた
「あ、ああ…。俺、佐藤幸二。よろしく」
「よ、よろしくお願いします」
「ね、怖くないでしょ?」
「は、はい…」
「あ、飯島と桜井は後で話があるから」
二人は笑って誤魔化そうとした
俺は二人を責めようと思ったけど、落ち着いたばかりの秋田さんの前でそんなことするわけにはいかない
俺はなんとかぐっと堪えた
「うーん…ほい」
「ちょっ!」
飯島は何の前触れもなく俺の前で桜井のスカートを捲った
「ちょっと飯島さん!?」
「なーにしてんだよ…」
「ね?ヘタレでしょ?こんなあからさまな据え膳だって食わないんだから」
「アホかいな…」
「じゃあこっちはどうかな?」
「きゃっ!」
飯島は今度はみゆきのスカートを捲った
「みらいちゃん!」
「だから何してんだよ…」
「ほらね?何もしないでしょ?」
「珍しい男子もいるんですね。私、中学は共学でしたけど女子の下着を見て無反応な男子はいませんでしたよ」
「なんならこいつ、みゆきちゃんのこと好きだからね。なのにこんな反応なんだよ」
「飯島、放課後校舎裏な」
「塾あるのに困ったなー」
その時、桜井が飯島のスカートを捲った
「ちょっ!美緒ちゃん!?」
「飯島さんだって佐藤君の前で私と愛野さんのスカート捲ったんだからこれでおあいこよ」
「うぐっ…。でも凛ちゃん、これで佐藤君が安全ってよく分かったでしょ?」
「はい。お三方が体を張って証明してくださったのでとても良く」
「私は体を張ったつもりは無いんだけど…」
「私も。単に飯島さんにスカート捲られただけだし」
「まあまあいいじゃん。減るもんじゃないんだし」
「そういう問題じゃないから」
「で、俺はもう戻っていい?まだ昼飯食ってる途中なんだけど」
「あ、もういいよ。用済んだから」
俺は立花のところに戻った
「佐藤、愛野さんたちのパンツ、何色だった?」
「言うかボケ。てか立花、さっき大爆笑してた件について放課後校舎裏な」
「あ、ハイ…」
俺は昼食の続きを食べ始めた
ただ、すでにかなり時間が経っており、食べ終わったのは予鈴ギリギリだった
もちろん放課後には立花と飯島には校舎裏できついお灸を据えた
〜下校中〜
「あれ?秋田さん、桜女子に戻らないの?」
「交換交流の間、私のお部屋は交換交流生が使うので戻れないんです。ただ、私の実家、北海道なので帰省もできないので、交換交流の間はみゆきさんのお家に泊めてもらうことになったんです」
「ホテルとか取ってもいいんだけど、そうするとかなりお金がかかっちゃうからね」
「なるほどな。じゃあ明日からはみゆきと登校?」
「そうだね。ただ、私のいつもの時間だと男の人もかなり多いから、しばらくはしろつめくさ号かな…」
「しろつめくさ号?」
「特急しろつめくさ号。これから乗るはるかぜ線の速達型の特急で、朝の時間帯はこもれび高校の生徒専用車両も設けられてるんだ」
「そんな遠くから来てるんですか?」
「まあ…こもれび高校から50キロはあるからね…。でも特急で来ればあっという間だから」
「そうなんですね…」
俺たちはいつも通り、電車に乗って帰宅した
こもれび高校、桜女子学園、水萌女学園と3校で交換交流やるくらいならもっと色々やってみても面白いかなと思ってはいるんですけど、いかんせん2校は女子校なので、女子キャラを上手く活用できるイベントでないと意味が無いということもあって意外と考えるのが難しいんですよね…。だからってわけじゃないですけど意外と交換交流期間中の話ってネタ回になりやすいんですよ…。まあ今回は前の話で出した歌姫が襲われる事件の真相なんかを書いた話ではあるんですけどね…。
愚痴はさておき、女の子が大の男に馬乗りになられるとかもはや恐怖なんて言葉で片付けるのは無理な気がします。そうなってしまえば女の子に抵抗する手段は無く、男の方は性的に襲うなり命を奪うなりやりたい放題できてしまいますからね…。だからってわけではないんですが、私は女の子を苦しめてそれに性的興奮を覚える人の頭の中が理解できませんし、無理矢理っていうのも好きではありません。まあそもそもエッチな内容自体、R-18設定してないこの小説でやったら間違いなく消されますけどね。
今回、アルトの歌姫がステージの上で襲われたということで書きました。みゆきちゃんの場合は性的に襲われそうになり、凛ちゃんは男に命を奪われかけたと、どっちも共通して男が恐怖の対象となっていますが、これも引きずると大変だと思います。だって社会に出れば、職場によっては周りがほとんど男なんてことだってありますからね。
皆さんは何か怖いこととかってありますか?私は怖いってわけではないんですが、中学時代と高校時代に女子の集団いじめを受けて以来、同年代の女子が大の苦手です。じゃあ結婚なんて無理じゃんって?そうですね。まあ無理なら無理でもう一生独身でもしょうがないんじゃないですかね?もし私が結婚することになるんだとしたら、その時の思い出を払拭してくれるような子に出会った時なんじゃないかなと思います。




