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あまいろパステル 〜紡がれる恋の1ページ〜  作者: 神御田
2年生

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23/32

17時間目 体育祭で全力疾走

先に言っときます。調子に乗り過ぎて通常の約2倍の長さになっちゃいました。

2037年5月29日

「はぁ…はぁ…」

「はぁ…はぁ…」

「みゆき、タイムは?はぁ…はぁ…」

「佐藤君が9分55秒、石川君が8分41秒」

「マジか…」


俺たちは今、1500メートル走の練習をしていた

しかし、俺も石川もトップとかなり差があった


「1500メートルだから全力疾走するわけにもいかねえしな…」

「まあ最後の100メートルとかなら全力疾走もありだけどな。にしてもこもれび高校の体育祭、もう変わってるとかそんな域じゃねえだろ…。何だよ2年男子全員参加のハーフ駅伝って…」

「女子はクォーターで半分くらいの人数任意参加なのに男子はハーフで全員とかきついわ…」

「そういや愛野は何に出ることになってるの?」

「私はそこそこまだ制約が残ってるから未定。明日定期検診受けてどうかってお話だから」

「あー、なるほどね…って佐藤、何してんだ?」

「筋トレ。脚の筋肉つけてもっと速く走れるようにと思って」

「理には叶ってるかもだけど凄い脳筋思考…」

「いや、頭では色々と策は考えてるんだけど、それをするには筋力が足りないんだよ」

「ふーん」

「じゃあ佐藤君はお昼ご飯いらないの?」

「ちょっ、いるって!」


俺が筋トレしてる側で石川とみゆきはすでにお昼を食べ始めていた

俺は慌てて近くに座って一緒に食事し始めた


「それにしてもよくこんなに色々と作れるよな。しかもしっかり俺らとお前のは中身作り分けてるし」

「お前なぁ…。男子と女子の胃袋一緒にすんなよ」

「いや、そうじゃなくて俺らのを愛野のと一緒にしないで作り分けてる上にメニューが豊富だからさ」

「普段からやってる分、慣れてんじゃね?」

「普段から?」

「今も俺の弁当用意してくれてるからさ」

「は?」

「あの時の礼の有効期間、1年なんだよ…。俺は別に1回で良かったんだけど本人がどうしてもって言うから」

「何だそりゃ」


俺たちがそんな話をしている間、みゆきは無言で食事を続けていた

…と思っていたが、よく見るとみゆきは下を向いたまま手を止めていた


「あれ?みゆき?」


俺が顔を覗き込むと、みゆきは眠ってしまっていた


「すぅ…すぅ…」

「ありゃま…寝てるよ」

「よほど疲れてんだろうな」

「ただほっとくわけにもいかねえしな…」


俺はみゆきの肩を揺すった


「みゆき、起きて。こんなとこで寝てたら熱中症になるよ」

「うーん…あれ?私、寝てた?」

「うん」

「ご、ごめん!すぐ準備を…」

「いや、寝てたといってもほんの数分だからまだゆっくりしてていいよ。ただここで寝るのはまずいから起こしたんだよ」

「そうだったんだ…。ごめんね」

「とりあえず昼飯食っちまいな。それまで待つから」

「もとより、それくらい待たねえと十分な腹ごなしにならねえからな」

「う、うん」


俺たちはみゆきが昼飯を食べ終えたところで練習を再開した

それから何度か走っているうちに、俺たちはペース配分のコツを掴んでいた

それが分かったことで後半の減速も少しずつ小さくなっていき、タイムもだいぶ短くなってきた

…気がしていただけだった

それはラップタイムにはっきりと現れていた

測定記録を見ると、後半に行くにつれてかなり伸びていたのだ

走った距離が長くなっていくので疲れてスピードが落ちるのは当たり前なのだが、俺たちの場合は後半の伸び幅があまりにも大きかった


「どうにか平均化したいな…」

「平均化しつつタイムを縮めるってこと?」

「無茶か…。愛野、ちょっと計算してほしいんだけど、俺たちの各ラップの時間でペースをキープした時の最終タイムの理論値出してもらえる?」

「出してはあるけど参考になるの?」

「仕事はえーな…。見るだけ見てみたいんだよ」

「はあ…」


俺たちはみゆきに記録ボードを見せてもらった


「第4ラップのタイムを維持するようにやれるといいのか?」

「俺は第5ラップかな…」

「休憩したらこのラップタイムのペースがどんな感じか試してみようぜ。で、愛野はこのタイムを誤差が10秒以上になったらベル鳴らして」

「はあ…」


みゆきはまるで「意味あるの?」みたいな表情をしていた

確かに俺もこんな馬鹿げたやり方なんて上手くいくとは思ってない

ただ、やれることは1つでも多くトライしてみるのが最短の道のりかもしれない

俺たちは各々の課題に取り組み始めた

しかし、何度やっても俺も石川もみゆきにベルを鳴らされてしまった


〜放課後〜

「足がガクガクする…」

「俺も…」

「もう…普段全く走らないのに無理するからだよ…」

「みゆきは牧野と先に帰ってもいいよ」

「いや、早織は冷えと腹痛が酷くて今日は休んでる」

「じゃあさ、トイレ行ったり色々やることやって待ってて」

「もう…」


みゆきは大きなため息をつくと、教室を出て行った

そして30分後、再び教室に戻ってきた


「おかえり。ようやく歩けるくらいには回復したよ」

「何してたん?」

「図書室で本読んでただけ」

「そっか。じゃあ帰るか」


俺たちは連絡通路から駅に行き、電車で帰宅した

深夜、俺の家のインターホンが鳴った

俺が玄関から顔を出すと、そこには石川がいた


「何だよ。Skipeじゃダメ…って、ちょっ!」


石川は俺にでかい荷物を渡してきた


「わりい。お前の家宛の荷物がいくつか誤配されてたからさ」

「マジか」


俺は石川から荷物を受け取り、家の中に搬入した


「そういや佐藤、あの話知ってる?」

「あの話?」

「愛野、引っ越すって」

「は?そんなこと一言も聞いてないぞ」

「なんでも地震で家の壁やら基礎やらにヒビが入ったみたいで、次震度4以上の地震来たらヤバいから修繕工事するんだとさ」

「なるほどな。で、どこに引っ越すん?」

「知らん。本人に聞いてくれ」

「はあ…」


石川はそのまま家に帰ってしまった

俺は荷物を奥に運んだ後、部屋に戻ってSkipeを起動した

そこにはみゆきから引っ越しの件についてメッセージが書かれていた

俺はみゆきに電話をかけた


「あ、悪いな、いきなり。ちょっと聞きたいことがあるんだけど」

「聞きたいこと?」

「引っ越しの件と理由は分かったんだけど、いつどこに引っ越すの?」

「今度の日曜日に私だけ桜女子の高等部の寮に。今回の件が無かったとしても来週から1ヶ月間、桜女子に行かなきゃいけなかったからちょうど良かったんだよね…」

「え?だと戻りは期末試験ギリギリじゃん。こっちの勉強大丈夫?」

「そこは大丈夫。今回ばかりは行かないとうちと桜女子との関係がね…」

「あー…学校間の関係の話も出てくるわけか…。ダブルスクールってのも大変だな」


元々みゆきは桜女子には籍だけ置いとくという話になっていた

しかし、最近音楽関係の人が頻繁に来るようになったため、学園の看板とも言える桜女子の歌姫(ブロッサム・ディーバ)が学園に不在なのはまずいらしい

その関係でその人たちが来る時だけはみゆきを桜女子に来させてほしいとこもれび高校に要請が入り、そのせいでみゆきは度々桜女子に通っている

そんな話もあり、最初みゆきはこもれび高校を退学して桜女子に戻ることを考えたらしい

正直なことを言えば、桜女子はトップの成績ならこもれび高校の下位組とは肩を並べられるだけの実力はある

でも進学指導や授業の関係上、桜女子から医療系への進学はほぼ不可能とも言える難易度だ

桜女子側としても自分たちの都合でみゆきに夢を捨てさせるのは望んでないようで、完全に転校するのについてはこもれび高校の先生たちとともに止めたそうだ


「そういえばみゆき、桜女子の歌姫(ブロッサム・ディーバ)ってソプラノとアルトと1人ずついたよね?アルトの歌姫はどうしたの?」

「アルトの歌姫は………今いないの」

「へ?」

「………」


みゆきは黙り込んでしまった

何か事情があるんだろうけど突っ込んで聞いていいものではなさそうだった

その後、俺たちはとりとめのないことを話して通話を終えた


〜翌日〜

「よう。今日もガンガン走ろうぜ」

「おう」


俺たちは昨日と同じくグラウンドを走り続けた


「石川、お前だいぶ良くなってきたな」

「ペース維持のコツは昨日愛野が録画してくれたのを見て掴めたからな。ただ欲を言うならもう少しスピードは欲しいかもな」

「欲張りだなぁ…」


石川はペース配分の再計算をするかのようにスピードを変えながら走り始めた

その結果、石川はさらにタイムを縮めることに成功した

化学バカなこいつだけど、こういう時になると運動神経の良さを存分に発揮してくるのだ

その後、石川は俺にもコツを教えてくれた

俺が石川に言われた通りに走ると、確かに全体的なペースアップに繋がった

俺は走り方を覚えるため、昼休みまで何度も走り続けた


「石川、昼何食う?」

「んー…愛野の手作り弁当」

「いや今日は…」


石川は前を指差した

そこにはバスケットを持ってこちらに向かってくるみゆきの姿があった


「あれ?病院じゃなかったの?」

「そんなに長くはならないよ…」

「ふーん。ま、いっか」


俺たちは校庭の隅に座って昼食を食べながらみゆきに今日の成果を話した

みゆきは何も言わずに聞いていたが、記録ボードを見せると難しい顔をし出した

どうやら何か引っかかっているようだった

するとみゆきは俺にコンクリートの上に横になるように言ってきた

俺がコンクリートの上に仰向けになると、みゆきは俺の股関節の辺りを念入りに触り始めた


「みゆき、その…そこは流石に…いでででで!」


俺がみゆきに男の部分に手が当たってることを言おうとした瞬間、みゆきは俺の股関節の辺りを思いっきり押してきた


「やっぱり…」

「な、何が?」

「佐藤君、走るペースが上がってくるとこの辺りに負担がより掛かるように走る癖があるんだよ…」

「な、なるほど…。てかみゆき、お前強く押しすぎ」

「え?私、このくらいの強さで押してたんだよ」


そう言うとみゆきは俺の手のひらを押してきた

押す強さは大して強くなかった

この強さでこれだけ痛いということは、おそらくそういうことなのだろう


「石川君はフォルムが綺麗だから今のままペースアップしても大丈夫だけど、佐藤君はまず陸上部とかにフォルムを直してもらわないと、そのままペースアップしたら最悪座るのもかなりつらくなるよ」

「はい…」


俺は愕然としてしまった

もしみゆきが俺たちのことをよく観察してくれてなかったら俺は動けなくなってたかもしれない

これはもう好きじゃなかったとしてもみゆきに足を向けて寝るなんて到底できたもんじゃないだろう

俺は再び起き上がり、昼食を再開した

そして昼食後、俺は陸上部の知り合いにフォルムの調整を頼んだ


------Shoichi's View------

「にしてもよく見てたな」

「まあ…去年も佐藤君のマネージャーやってたからね」

「なあ、愛野って佐藤のことどう思ってるの?」

「え?」


愛野は完全にきょとんとしていた

どう見ても佐藤は脈無しって感じだった


「単に気になっただけだよ。好きでもない野郎のち○こ平気で触れるんだなって思ってさ」

「股関節に触ってたんだからそれは避けられないよ…。それにそんなこと気にして佐藤君が体を壊したらそれこそ大変だよ…」

「それもそっか。ただまぁ…それを抜きにしたとしても、お前らいっそ付き合っちゃえばとは思うけどな」

「うーん…佐藤君かぁ…」

「微妙?」

「まだ分からないかな…。まだ再会して1年ちょっとだし」

「なるほどな。ま、俺はお前ら、お似合いだと思うとだけ言っとくよ」

「はあ…」

「さて、走ってくる」

「行ってらっしゃい」


俺は再び走り出した

それから俺は体育祭に向けて着実にタイムを伸ばしていった


2037年6月6日

------Koji's View------

俺たちは徒歩で各スタート地点に連れて行かれた

俺はまさかのアンカーにされてしまった

つまり、うちのクラスの勝敗の全ては俺にかかってるということだ

対して石川は第一走者だ

ただ、その後に陸上部が控えてるので多少の遅れくらいなら簡単に取り戻してもらえるということだ

それに対して俺は、たとえ陸上部が前でも後がいないので責任はかなり重い

俺は支給されたタブレットで開会式の様子とレースのスタートを見守った

すると2組の第一走者がいきなり全力疾走し出した

一人あたり1400メートルもあるのにあんなに飛ばして大丈夫なのだろうか

ちなみに石川は2位を走っていたが、3位との差はほとんど無かった

とはいえ、ここで飛ばせば先で抜かれる可能性も十分ある

俺は石川が冷静な判断をしてくれると信じてその様子を見守り続けた


------Miyuki's View------

私は早織と一緒に男子のハーフ駅伝の様子を見ていた

どうやら2組の子がいきなり全力疾走し出したようだ


「あのバカ…。スタートからかっ飛ばしてどうすんのよ…」

「あのペースだと半分行く前に疲れて一気にペースダウンするかもね」

「当たり前よ。だからあれほどペースを守れって言ったのに…」

「あはは…」

「ただまぁ…石川と離したのはかなりでかいわ。あいついきなりどこからそんなポテンシャルを発揮できるのかって思うくらいの実力出してくるからね…」

「確かに…。私も練習の時の石川君を見てきてたからその気持ちはよく分かる」

「え?まさかみゆき、二人のマネージャーやってたの?」

「え?うん…」

「あー…これは負けたかも…」

「?」


なぜかは分からないけど早織は負けを確信してる様子だった

確かに私はマネージャーとして二人を徹底的にサポートしてきたけど、結局走るのは二人なので二人の調子が振るわなければ二人が負ける可能性は十分ある

それに私がサポートしたのはあくまでも二人だけなので、他の男子たちがボロボロなら負ける可能性はさらに高まる

私は早織にそのことを話してみた


「うーん…もうそこに賭けるしかないかぁ…」

「それにうちのクラス、運動部の男子少ないからむしろ2組にアドバンテージはあると思うよ」

「そうだといいけど」


------Koji's View------

20分後…


「佐藤、2組との差はちょっとだけど縮めた。だからあとは頼む!」

「…ったく無茶振りが過ぎるぜ!」


俺は田中からバトンを受け取り、走り出した

全力疾走するとさすがにバテてしまうからなるべく避けたいところだ

だけど残るは俺だけ

もしここで俺が負ければうちのクラスの負けだ

そして、もう1つ問題があった


「田中…こんなの差を縮めたとは言わねえよ…」


さっき田中がちょっとだけ縮めたとは言ってたけど、本当にちょっとだけだった

2組のアンカーはかなり遠くに見えている

あれを抜かすためには全力疾走しか無い

しかも相手は陸上部の長距離走のエース

もはや勝ち目は皆無と言っていいだろう


------Shoichi's View------

「佐藤の奴、完全に諦めてやがる…」

「諦めんなと言いたいけど言うには相手があまりにも悪過ぎるもんな…」

「2組め…第一走者に全力疾走させてアンカーは陸上部の長距離走のエースってもうわざととしか思えないぜ…」


俺たちは完全に負けを確信していた

こればかりは完全に2組の作戦勝ちだ


「ん?佐藤のペースが上がってきた?」

「は?あいつ一体何を…」


------Koji's View------

俺はせめて2位は取ろうと走っている

しかし、よりにもよって3位の4組も足の速い奴を配置してやがった

俺と4組の差は少しずつ詰まってきている

このままだと流石にまずい

とはいえダッシュする気力なんて俺には無い

俺は完全に諦めていた

その時、どこからともなく歌声が聞こえてきた


「これは…みゆきの?」


いや、そんなはずは無い

あいつは学校にいる

なのにここに歌声が聞こえてくるはずは無い


「てかこれ、後ろから聞こえて…!」


俺が一瞬後ろを振り返ると、4組の奴が近くまで迫って来ていた

それと共に音も近づいていた

どうやらあいつが流してるようだ

ただ、俺はその歌声に励まされていた

こんなとこみゆきに…惚れた女に見せるわけにはいかねえ!

そう思った瞬間、体にチカラがみなぎってきた

俺は一気にペースを上げて走り出した


「うおおおお!」


------Shoichi's View------

「あいつ…全力疾走してやがる!」

「は!?あいつあと1000メートルはあるのに何してやがるんだ!」

「佐藤のあの目…何かに突き動かされてない?」

「言われてみれば…。でもまだまだあるってのに今こんなペースで走ったら…」

「いや、その心配はいらないと思うぜ」

「は?」

「たぶんあいつの原動力は愛野さんだ」

「どういうことだよ」


田中は俺たちに4組のアンカーが自分を鼓舞するために去年の文化祭で愛野が歌ってた曲を流してることを教えてくれた

どうやら奴も愛野のことが好きらしく、声を聞くことでそれが原動力になってるらしい


「つまり佐藤も4組のアンカーも煩悩満載で走ってるんかい…」

「呆れるしかねえってまさにこのことを言うんだろうな…」

「でも今はその煩悩に賭けてみるしかねえな」


俺たちはタブレットで佐藤の様子を見守り続けた

すると佐藤は3位と差をつけていき、さらに1位との距離を着実に詰めていた

ただ、2組と4組のアンカーもそれを感じ取ったのか、一気にペースを上げてきた

もはや1位、2位、3位はみんな全力疾走状態だ


「おいおい、これやべーだろ」

「誰が最初にバテるかの勝負だな」

「だと最初に全力疾走し出した佐藤が一番不利だろ」

「どうかな。愛野の声に励まされた佐藤のポテンシャルに常識は通用しねーからな。しかも4組の奴がこの距離にいるなら佐藤にはずっと愛野の歌声が聞こえてることになる。となれば…」

「佐藤はずっと鼓舞されてる…?」

「ああ。となればもうどうなるかは神のみぞ知るってやつだな」


俺たちは三人の行く末を見守り続けた

そしてついに三人がこもれび高校のグラウンドに帰ってきた

完全に三つ巴状態だった

会場はこの状況に大盛り上がりとなっていた


「うおおおおおおお!」


そして三人は順位こそ変わらなかったが、ほぼ同時にゴールし、その場に倒れ込んだ

そして三人は救護班によってテントに運ばれていった


「あっぶな…」

「まあ…勝てねえと思ったよ。てか2位と3位はホントにバカだろ…」

「でも煩悩でもここまで熱い戦いを演出できてるなら十分じゃない?」

「果たしてそういう問題なんだろうか…」


------Koji's View------

「はぁ…はぁ…」

「全く…無理し過ぎ。てかよく1000メートル以上も全力疾走できたね…。4位以降、まだ全然来る気配無いよ…」

「もうヤケクソに近かったよ…。それと…」

「それと?」

「……いや、何でもない」

「みらいちゃん、買ってきたよ」

「ありがとう。ほら、これ飲みな」

「サンキュー」


俺は飯島からスポーツドリンクを受け取って飲んだ


「それにしてもお前ら、俺たちの救護、かなり手際良かったな。まあそのおかげで炎天下の中で倒れたまんまにならなくて済んだわけだがな」

「その件なら後でしっかりみゆきちゃんにお礼言っときなよ。もしみゆきちゃんがいなかったらこんな手早く救護できなかったんだから」

「え?」


飯島は俺たちが全力疾走し出した時のことを話してくれた

どうやらみゆきは中継映像から俺たちが熱中症で倒れる可能性を見抜いていたらしい


「三人の中継映像をみゆきちゃんが見て気付かなかったらどうなってたか…」

「そっか…。なら今度また大将のとこ連れてってやるか」

「え?いいなー。私も連れてってよ」

「嫌だと言いたいとこだけどお前も助けてくれたしな。いいぜ」

「やったぁ」


俺たちはしばらくの間救護班に助けられ、救急車で病院に運ばれた

幸いなことに熱中症は軽度で、さらに救護班が迅速な処置をしてくれたおかげで大事に至ることはなかった

しかし、俺たちは三人とも救急の担当の先生にこっぴどく怒られ、点滴を打つことになった

そして点滴を終えた後、再び学校に戻るとすでに午後の競技が始まっていた


「おかえり」

「おう。迷惑かけちまったな」

「もう…無茶し過ぎだよ…」

「いやー、後ろの奴がじわじわ迫ってきて、最終的に全力疾走で来たからやばいと思ってな」

「もう…。でも無事で良かった」

「みゆきたちが迅速に対処してくれたからだよ。それと担当の医者もみゆきたちの処置褒めてたよ」

「まあ…心臓マッサージや熱中症の処置に止血方法と、現場での対応が生死を分けるような処置は小学生の時から泣きながらもみっちりと叩き込まれたからね…」

「なるほどな。まあ俺もいくつかは叩き込まれたな。ずっと、医者でもないのに何の役に立つんだって思ってたけど、まさか自分が助けられるなんて皮肉もいいとこだよ…」


普通ならこんなに色々叩き込まれるなんてまず無い

そういう奴等は自分にできることが無いから傍観するしかない

そして目の前でその人が死んでしまうことがあれば、自分の無力さを恨む人だっている

そう考えると、医者の子として生まれ、医者から正しい処置方法を叩き込まれてる俺たちは恵まれてるのかもしれない


「まあ…私が医学部行きたいって言ってからは救命と応急処置の全てを徹底して叩き込まれてるんだけどね…。しかも忘れられないくらいに徹底的に…」

「お、おう…」

「もう救命講習で教わるレベルなんてとうに超えてるよ…」

「そこまでかよ…。法的に大丈夫なの?」

「かなりギリギリの線を突いてきてると思う」

「うわー…」


まあでも、法律ギリギリでもセーフならまだいい気がする

とはいえ、まさかみゆきがそこまでやってるとは思いもしなかった

そう考えると今回の救護の手際が良かったのも納得がいった

俺も今度基本的なことを改めて親父に教わろう


「あ、そうだ。みゆき、明日暇?」

「暇とは言わないけど空いてはいるよ」

「じゃあ明日ちょっと出掛けよう。今日の礼したいから」

「はあ…」


俺は再びモニターに目をやった

気付くと1組は2組に大差をつけられていた

やっぱりあの時負けたのが響いてるのだろう

とはいえ、今の俺にできることは見守ることだけだ

俺たちはモニターを見ながら静かに応援した

しかし最終的に1組は2組に恐ろしいくらいの大差をつけられて負けてしまった


「いやー、こりゃひでえな」

「見事なまでの惨敗だな。この後1年の貢献度ランキングとMVP発表とその分の加算をしても勝ち目なんて無いだろ…」

「ああ…」


しかし、悪いことは重なるというもので、MVPはデッドヒートを見せた俺たち三人が同率という結果だったが、1年の貢献度ポイントは2組に持って行かれ、さらに突き放されて終わってしまったのだった


〜体育祭終了後〜

「見事なまでの惨敗だったな」

「あんなに負けるなんて思いもしなかったぜ」

「ふふん。どうよ、あたしの作戦は。今年の2年2組の作戦、全部あたしが考えたんだから」

「いやマジかよ」


どうやら伏兵は俺たちのすぐそばにいたらしい

つまり2組に1組の作戦は、話してないとはいえ結果的に俺たちを通して筒抜けだったということだ

今年は牧野はほとんど競技に出てなかったから完全に油断していた


「まあ一番予想外だったのは佐藤たちかな」

「は?」

「2位とばかにならない大差をつけてMVP取ろうと狙ってたのにデッドヒートしてあんたたちまでMVP取るからさ…」

「お前の作戦、ホントにえげつないな…」

「あとあたしがどうしても読めなかった部分ってのもあってね…。それが…」


そう言うと牧野は席でみゆきの方を見た


「わ、私?」

「女子の作戦の司令塔がみゆきなのは知ってたんだけど、あまりにも考えが読めなくて女子は大敗したわ…」

「え?みゆきが司令塔?」

「上山じゃねえの?」

「なんで1組のあんたらが知らないのよ…」

「敵を欺くなら味方から。男子には詩織ちゃんが司令塔になってるって思わせてたの。2組の司令塔は男子も女子も早織っていうのはかなり早い段階で気付いてたから、早織の考えることの裏をかく作戦で行ってたの」

「見事に裏かかれたわよ…。それもぐうの音も出ないくらいに

「俺たち3人してみゆきの手のひらの上で踊らされてたのか…」

「まあそのおかげで女子は勝ててたわけだがな。ただ、男子が惨敗したせいで取り戻せなかったが…」

「女子たちからの視線、結構痛かったもんな…」

「そ、そう…」


俺たちは微妙な空気のまま家に帰った

1000メートル全力疾走とか正気の沙汰じゃないだろとか書いてて自分でも思ったんですけど、それと同じくらい人間の火事場での力ってのも恐ろしいもんなんですよね…。まあ…2位と3位は好きな子に良いとこ見せたいっていう全力で下心満載な感じになってますけどね。

男性諸君、もしあなたが好きな女の子が見てるって知ったら、かっこいいとこ見せるために無茶でも何でもしますか?

自分はそんな化けの皮被った自分を見せても仕方ないって考える派です。まあもちろん危険が迫ってるとかなら大切な人を守るためなら命を張る覚悟はありますよ。

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