お昼休み2 あの日の悲劇
今回は9時間目でちらっと触れた、みゆきちゃんのトラウマとなっている事故のことについてです。
実はその事故は幸二君にとっても目の前で幼なじみがトラックにはねられるというトラウマな話でもありますが、二人のトラウマの現れ方は違うようです。
2036年12月1日
「うーん…うーん…」
「………」
バコッ!
「いって!」
「おはよう、佐藤君」
顔を上げると、そこには出席簿を持った小林先生がいた
「あ、おはようございます…」
「もう帰りのホームルーム始まってますよ」
「すいません…」
そのやり取りにクラスメイトたちがくすくすと笑い出した
「それではホームルームを再開します」
どうやら俺はまた眠ってしまったようだ
実は最近、悪夢にうなされてなかなか眠れないのだ
そのせいで時々授業中にもうたた寝することがよくあり、そのたびに先生に教科書で叩かれている
良くないのは分かっているが、なかなかどうにもならない
ホームルーム終了後、俺は進路指導室に呼び出された
「さて、なんで呼び出されたのか分かりますか?」
「はい…。授業中やホームルームでの居眠りの件ですよね?」
「そう。佐藤君、このまま行くといくら点数が良くても落第しますよ」
「それは分かっています…。ただ…」
「ただ?」
「最近酷い悪夢にうなされて眠りにつけないんです…」
「悪夢?」
「小林先生は8年前のはるかぜニュータウン駅前の大規模な交通事故知ってますか?」
「ええ。私もあの日は現場近くにいたから」
「実は…」
2028年12月1日
「雪、たくさん積もるかな…」
「何言ってんだよ。去年積もった時は滑って泣いてたくせに」
「き、去年の俺とは違…」
キキー!!!
「幸二、危ない!」
ドン!
「え…うわっ!」
「………!」
ガシャーン!
「いてて…」
「おい坊主、大丈夫か!?」
「なんとか…」
どうやら俺はガードレールに頭をぶつけていたようだ
ただ、それ以外は擦り傷程度で大きな怪我はしていなかった
しかし、大人の話だと、俺は少しの間意識を失っていたらしい
「はっ…!そういえばみゆきは!?」
「え?お前さん以外に誰かいたのか!?」
「俺くらいの背丈の女の子いませんでした!?」
「いや、あんたしかここには…」
「さっき俺、その子に突き飛ばされて、それから…!」
「じゃあまさか…!」
大人たちは建物に突っ込んだトラックのもとへ駆け寄った
そして、全員でトラックを押すと、地面に血が流れてきた
「おい!トラックと建物の間に女の子がいるぞ!まだ息してる!誰かレスキューと救急隊!」
「嘘…だろ…」
それからすぐにオレンジの服を着た大人たちがトラックの近くに集まり、トラックが押しのけられた
そして、瓦礫とトラックの間から血まみれになったみゆきが救出された
「こりゃ酷い…。生きてる方が奇跡だ…」
「ただこれだとどこの病院も…」
「いや、こもれび大なら…」
「そうか、愛野先生ならもしかしたら…!すぐドクターヘリを…」
「それでは間に合わないかもしれない。うちのヘリを使って下さい」
「ありがとうございます。急ぐぞ」
「はい」
「俺も乗せて下さい」
「え?君は?」
「その子は俺の友達です。それにこうなったのは俺のせいでもあるので」
「だが…」
「その子は頭打ってる。一緒に診てもらった方がいいんじゃないか?」
「それなら確かに…。じゃあ乗って」
「私も同乗しよう。これでも医者だ」
「お願いします」
俺たちは救急隊とレスキュー隊に案内され、ヘリコプターに乗った
「こもれび大学附属病院です。患者の情報をお願いします」
「えー、一人は7歳の男の子。外傷は擦り傷だけですが、通りがかった人の話によると頭部を強打しているもよう。もう一人は7歳の女の子。スリップしたトラックに押し潰されたことにより大量に出血しており、現在同乗している医師により輸血が行われています。呼吸もかなり弱く、いつ心肺停止してもおかしくない状況です。状況から判断し、愛野先生に処置をしてもらった方がよろしいかと思われます」
「了解しました。伝えます」
俺たちを乗せたヘリコプターは数分で病院に到着した
「この子たちですか?」
「はい」
「こっちの子だが、出血量は300ccといったところだ。輸血はしたがあまり追いついてなかった」
「分かりました。引き継ぎます」
そして、看護師さんたちによって俺とみゆきはストレッチャーに乗せられ、処置室まで運ばれた
「先生方、お願いします」
「ああ…って幸二!?」
「親父、みゆきが…みゆきが…」
「なっ…!」
「遅くなった」
「幸二は後で診るから大人しくしてろ。気分悪くなったりしたらすぐ看護師さんに言え」
「ああ」
「愛野、幸二の話だと運ばれてきた7歳の女の子ってのはみゆきちゃんらしい」
「そうか」
「大丈夫か?実の娘だろ」
「だから何だ?俺たちがやるべきことは変わらないだろ。実の子供だからって動揺したって治すことはできない。まずはやることやるぞ」
「流石だなぁ…」
二人は隣のみゆきのところに移動した
「こりゃ酷い…。…………………」
「ただ、ある意味…………………」
「確かにな。………………あとは普通に修復するだけだな」
「できるのか?」
「佐藤、できるできないじゃなくて…」
「『やる』か…。お前らしいな」
「親父、みゆきは助かるのか?」
「安心しろ。俺たちにかかれば余裕だ」
「さっきまで不安そうにしてたくせに…」
「うるせえ。とにかくオペの用意だ」
「はい」
みゆきは看護師さんたちによって別のところへと移動させられた
親父たちの言っていたことは全く理解できなかった
ただ、みゆきがかなり危ないということだけは分かった
「幸二君は気分悪かったりとかは無い?」
「はい」
「一応頭の検査だけするように言われてるから、今から一緒に検査に行こうね」
「分かりました」
俺は看護師さんに連れられて検査を受けに行った
そしてすぐにさっきまでいた処置室に戻ってきた
それから38時間後、親父が戻ってきた
「親父!みゆきは?」
「一命は取り留めた。ただ…」
「ただ?」
「開いてみたらあまりにも酷くて、手術はとりあえず最後までやったけど…」
「まさか…」
「命を救うという意味では成功だ。ただ、手術そのものは失敗と言っていいだろう。もしかしたらみゆきちゃんは、もう運動はできないかもしれない」
「そんな…。全部俺のせいだ…」
(現在に戻る)
「ということがあったんです…。あれ以来事件発生日が近づくとこれに関連した夢が良く出てくるんです…」
「なるほどね…。でも今、愛野さん普通に体育やってるけど?」
「できるように何度か手術を受けたんです」
「なるほどね」
「ただやっぱり、俺が飛び出したりしなければ巻き込まれることは無かったので…」
「なるほどね。でも、大切なのは過去を振り返ることよりも今どうするかよ。もちろん反省することは大事だけど、ずっとそればっかりっていうのは良くないわ。それは愛野さんも望んでないはずよ」
「………」
俺は小林先生の言葉に何も言えなかった
先生の言いたいことは頭では分かっていた
ただ、それでも俺が飛び出さなければ良かったという事実に変わりはない
「それに佐藤君、あなたは大事なことに気付いてない」
「大事なこと…ですか?」
「確かにあなたは愛野さんを事故に巻き込んでしまったかもしれない。でもあなたは愛野さんを助けたのよ」
「俺が…助けた?」
「周囲の大人たちは愛野さんの存在に気付いていなかった。でもあなたの一言があったから大人たちは彼女の存在に気付いたのよ。もしあなたが彼女のことを大人たちに気付かせることができなかったら、今頃彼女は死んでいたかもしれないのよ」
「………」
確かにそうだ
俺を助けてくれた大人たちはみゆきには気付いていなかった
あのまま放置されていれば、みゆきはこの世にいなかったかもしれない
そう考えると、俺は確かにみゆきの命を救ったと言えるだろう
「馬鹿だなぁ…俺は。こんな大事なことに気付いてなかったなんて…」
「後ろ向きにだけ捉えていると、大事なことに気付けない。だから時には前向きに捉えるようにしなさい。そうすれば絶対にプラスな一面も見えてくるから」
「はい」
「あ、そうそう。これ、明後日までの課題ね」
そう言うと小林先生は数枚のプリントを渡してきた
「いや、多くないですか?」
「授業の半分以上寝ていたのだから…ね」
「ぐっ…」
俺はプリントをカバンに入れ、小林先生に挨拶をして下校した
交通事故の原因って色々あるとは思いますけど、冬場だと路面凍結によるスリップが多い気がします。
大型トラックなんかだと最近は予めチェーン付けるなどの対策はされてますけど、一般車だとされてなかったりする気がします。
あと忘年会シーズンになると飲酒運転が多い気がします。飲んだら乗るな、乗るなら飲むなをしっかり守ってほしいものですね。
この話書く時に一番難しかったの、幸二君とみゆきちゃん、両名の親父の医師としての技量レベルの設定なんですよね…。
設定的には親が27歳の時に二人とも生まれてるので、医師としては10年目になるんです。10年目で手塚治虫の漫画に出てくる某無免許医クラスの技量持ちってどうなのかなとは思ったんですよ。でも世界的に有名な天才医師ってしてしまった以上はと割り切っちゃいました。
あと、怪我の度合いについては、幸二君はまだ小学生ってこともあり、医者の話は理解できてないってことで伏せる形にしてあります。もっとも、メタい話、怪我の度合いの表現って生々し過ぎるとR-18になりかねないってのもあるんですけどね…




