お昼休み1 お嬢様と伝説の歌姫
今回は「幼なじみのお嬢様と秘密の乙女」とのコラボ小説です。
まあ…向こうはエロ小説だけどこっちは健全です
「今日から2ヶ月ちょっとの間、桜女子学園と水萌女学園の生徒が2名ずつ、計4名が交換交流生としてうちのクラスに来ます」
小林先生の一言に、教室内は一気にざわついた
交換交流生が来るのは知っていたが、どこのクラスに来るかまでは言われていなかった
まさかうちのクラスに来るとは…
小林先生がドアを開け、外の人物に声をかける
その直後、こもれび高校の制服とは違う制服を見に纏った女の子が4人入ってきた
「では自己紹介をお願いします」
「皆様、ごきげんよう。桜女子学園から参りました、今川彩音と申します。2ヶ月間、よろしくお願い致します」
「同じく桜女子学園から参りました、三橋詩乃と申します。2ヶ月間、よろしくお願い致します」
「ごきげんよう。水萌女学園から参りました、篠森みさきと申します。2ヶ月という短い間ですが、よろしくお願い致します」
「同じく水萌女学園から参りました、神山春香と申します。よろしくお願い致します」
今川さんが「ごきげんよう」と言った瞬間から全員が自己紹介を終えるまで、クラスのみんなはついつい背筋が伸びてしまった
やはり本物のお嬢様は気品が違うからなのだろうか…
「それじゃあ四人の席は…佐藤君の近くが空いているので、そこに座って下さい。皆さんのサポートは愛野さんにお願いしてありますので、何かあったら彼女に声をかけて下さい」
そう言うと、みゆきは立ち上がり、軽くスカートの裾を持ち、挨拶をした
さすが、桜女子を出ているだけあって完璧な所作だった
「あら?もしかしてディーバ様では?」
「え?」
今川さんの一言に、全員の視線がみゆきへと注がれた
「人違いではありませんか?」
「いえ、見間違えるはずがありません。貴方様は我が桜女子学園中等部にご入学以来3年間、ブロッサム・ディーバをお務めになりました、愛野みゆき様ですよね?」
「ええー!?」
みゆき、もうこれは誤魔化せないよ
このクラス…いや、1年生で桜女子出身の愛野さんってみゆきしかいないんだから
「………はい…」
みゆきは言い訳ができないと悟り、恥ずかしそうにしながらあっさりと認めた
「やはりそうでしたか。ああ…再びディーバ様にお会いできるとは思いませんでしたわ」
「あの…慣習のことは存じておりますが、皆様が気を遣ってしまいますので本校においでになっている間はどうかお控えいただけますでしょうか」
「あら、それは失礼を致しました」
みゆきってこんな話し方もできるのか…
もうお嬢様同士の会話にしか見えなかった
…って、桜女子で3年間も過ごしてたんだから当たり前か
四人がそれぞれの席に着くと、小林先生と入れ替わりに近藤先生が入ってきた
休み時間になると、女子たちは四人の周りに集まった
どうやらみんな、二人のさっきの挨拶を教わってみたいようだ
しかし、四人とも教えることを躊躇していた
女子たちはなんで教えてもらえないのかと問い詰めようとしていると、みゆきがそこに割って入った
「みんな、そのスカート丈であの挨拶やると、下着を男子に見られちゃうよ」
その一言に半分以上の男子が女子たちの方を見た
その瞬間、「こら男子ー」や「見るなー」という言葉が飛び交った
「みゆきさん、ありがとうございます」
「いえ、お気になさらず」
「というか今川さんも三橋さんも固すぎ」
「そうそう。もっと気さくな感じで話そうよ」
「ですが…」
「彩音さんも詩乃さんも初等部から桜女子に通ってるから普段からお友達ともこういう話し方だし、もし桜女子に戻った後にうっかりボロが出ちゃうと根岸先生から怒られちゃうから許してあげて」
「そうだったんだ…。ごめんね」
桜井は申し訳なさそうに謝っていた
桜女子ってそんなに厳しいのだろうか
「いえいえ、お気になさらないで下さい」
「ですが、なるべく努力はさせていただきます。『郷に入っては郷に従え』とも言いますので」
「あの…愛野さん、お手洗いってどちらでしたっけ?」
「えっと…」
挨拶をされた時の堅苦しさから、俺は彼女たちがこのクラスに馴染むのは難しいのではと考えていた
しかし、こう見てるとみゆきがクラスメイトとの間のいい緩衝材になっているようだ
これならもしかしたらうちのクラスに馴染むのも時間の問題かもしれない
それにしても普段はおどおどしてて頼りなさそうなみゆきがまさかこんなに頼れる感じになるとは…
普通なら「お嬢様」ってだけで声をかけづらいと思うものなのだが、彼女はそんな素振りは全く見せていない
桜女子というお嬢様たちに囲まれた世界での影響なのだろうか…
俺は彼女のことはよく知ってると思っていた自分が恥ずかしくなった
キーンコーンカーンコーン…
「あら、皆様、授業が始まりますわ」
「残念。もっとお話したかったのに…」
「急いだ方がいいぞー。次は大倉先生だから立ってると当てられるぞー」
「うわ、やっば」
女子たちは慌てて自分の席に戻った
その直後、大倉先生が教室に入ってきた
〜2時間目【漢文】〜
「ちょっと今日は遅れ気味だから号令省略で早速授業始めるぞー。ちなみに今日は10月1日だから1番から順に指してくからなー」
「大倉先生、愛野さんから指すと2人後は交換交流生になります」
「あー、そっか。このクラス、交換交流生いるのか。じゃあ今日のところは交換交流生は避けて指すからなー」
そう言うと、大倉先生は黒板にスクリーンを貼り、板書を表示して授業を始めた
ちなみに大倉先生は宣言通り、三橋さんと篠森さんを飛ばして指した
大倉先生の授業では、他の先生なら指さないだろというようなポイントでも指してくる
しかも、言った出席番号から席順に指すと言っておきながらいきなり席順無視で指してくることもある
事実、今日は1番からと言っておきながら最初はみゆきではなく桜井を指してきたのだ
だから予習で手を抜くとかなりやばい
最初はみんなこの不意打ちに不満を漏らしていたが、今となっては日常茶飯事だ
キーンコーンカーンコーン…
大倉先生「よーし、今日はここまでだ」
全員「ありがとうございました」
大倉先生が去った後、今川さんが俺に話しかけてきた
「あちらの先生は普段からあのような指し方をなさるのですか?」
「あー、うん。順番って言っておきながら急に順番無視してくるね。だから指されないだろうって油断して予習しないでいると、指された時がやばいからみんなしっかり予習してくるんだよ」
「なるほど…」
「だから予習で手抜きはしない方がいいよ…ってそんなことはしないか」
「佐藤。次、音楽だぞ」
「…っとと、そうだった。四人とも音楽室の場所は分かる?」
「一度みゆきさんにご案内していただきましたけどまだきちんとは覚えられていませんのでお教えいただけますか?」
「かしこまりました。ではお嬢様方、こちらに」
俺たちが廊下まで出ると、ちょうどトイレから戻ったみゆきと鉢合わせた
「あ、トイレ行ってたんだ。てっきり先に行ったかと」
「先に行くわけないでしょ?まだ1回しか案内してないんだから」
「とりあえず行くか。では皆様、こちらに」
愛野と四人「ありがとうございます」
「いやみゆきまで乗るなよ!」
俺たちは音楽室に移動した
〜3時間目【音楽】〜
「今日もパートごとの練習になります。パートリーダーを中心に練習をお願いします。終了20分前になったら一度全体で合わせます。交流生の皆さんは自分の学校での所属パートのところへ行っていただければ大丈夫です」
今、俺たちが練習しているのは「流浪の民」だ
この曲は合唱コンクールの課題曲で、それと合わせて自由曲の「信じる」も練習をしないといけない
どちらもハードな曲なのは確かだが、幸運なことにうちにはソプラノとアルトにそれぞれ歌姫がおり、男子にもプロ並みの奴がいる
ちなみに交換交流生は、篠森さんはアルト、残る3人はソプラノに入った
「そういえば1組はまだソロパート誰が歌うか申告されていないのですがどうなってますか?」
「テノールは加藤君です」
「バスは俺が歌います」
「アルトは上山さんが歌います」
「ソプラノは誰ですか?」
「まだ話し合っています。一応候補は安藤さんか飯島さんなんですけど…」
「え?俺、愛野さん一択だと思ってたんだが」
「俺も」
「あー、そっか…。でもそれ、他のクラスからバッシング受けないかな…」
「どういうことですか?」
「実は愛野さん、桜女子学園の中等部で3年間、歌姫やってたんですよ」
「え?まさか今、桜女子学園に去年までいた『伝説のブロッサム・ディーバ』って語られてる歌姫って愛野さんだったんですか?」
「伝説のブロッサム・ディーバ!?」
クラスのみんなが口を揃えて叫ぶ
なんか壮絶な話になったな…
みゆき、桜女子でどんな偉業を達成してきたんだ…
「えっと…愛野さん、確か以前の歌唱テストの点数、平均点くらいでしたけど、まさか手を抜いていました?」
「はい…。ここに入ってからは歌姫の件は誰にも言わずに過ごしてきたので…」
「じゃあ今から『花』の伴奏を弾くので、前に出て手を抜かずに歌ってみて下さい」
「は、はい…。あの…その前に発声練習いいですか?」
「分かりました」
そう言うと宮島先生はピアノの前に座り、みゆきは前に立った
そして、発声練習をした後、みゆきは宮島先生の伴奏で歌い始めた
「え?何これ…。これが愛野さんの本気?」
「これが伝説のブロッサム・ディーバの実力…」
「おいおいマジかよ…。これ絶対合唱部より上手いだろ」
「ああ…再びみゆきさんの歌が聴けるなんて…」
「こもれび高校に来ることができて本当に良かったですわ」
曲が終わると、拍手だけでなく大歓声が挙がった
俺もブロッサム・ディーバをやっていたとは聞いていたが、まさかここまでとは思いもしなかった
こりゃ確かに3年連続で選ばれてもおかしくない
いや、むしろ選ばれない方がおかしいだろう
てかこんな素晴らしい歌を行事で聴いていた桜女子の生徒たちが羨まし過ぎる
「いやもうこれソプラノのソロは愛野さんで決定だろ」
「そうよ。もう愛野さん以外あり得ないわ」
「でも上山さん、私が歌ったらプレッシャーにならない?」
「うぐっ…。でも私、それでもソロパートは愛野さんと歌いたい」
「そこまで言うならいいけど…」
「じゃあ決まり。宮島先生、ソプラノは愛野さんで行きます」
「分かりました。では練習を始めて下さい。愛野さん、ちょっとお話があるのでこちらに来て下さい」
「はい…」
それから俺たちは予定通りパート練習をし、最後に実際に合わせてみた
しかし、やはり違和感は拭えず、宮島先生からはかなりたくさんの課題を提示されてしまった
授業終了後、俺はみゆきを呼んだ
「さっき何を話してたの?」
「合唱コンクールの最後にソロで歌ってみないかって言われて…」
「何て返事したの?」
「考えておくって言いはしたけど今のところは断ろうかなって考えてる」
「なんで?」
「授業の時にも言ったけど、歌姫の件はみんなには伏せてるから…」
「あー」
「みゆきさん」
俺たちが振り返ると、そこには篠森さんと神山さんがいた
「どうしました?」
「先ほど桜女子学園の皆様ともお話したのですが、本日一緒にお昼ご飯を頂きませんか?」
「では、ご相伴に預からせていただきます」
「ありがとうございます。それでは、失礼致します」
そう言うと、二人は先に行ってしまった
「咄嗟にお嬢様モードに切り替えできるのすげーな」
「桜女子ってガチガチのお嬢様学園ではあるけど、お友達同士だと今こうやって佐藤君と話してる時みたいな感じの子もいるよ」
「へー」
「ここだけの話、ごにょごにょ…」
「それマジ?」
「うん。なんだったら、ごにょごにょ…」
「おいおいマジかよ…」
「このことは周りに漏らしたり、本人にこの件について何か言ったりしたらダメだからね」
「ああ…。てかむしろ言えない…。言ったら大騒ぎになる」
なんというか…とてつもなくやばい話を聞いた気がする
今みゆきが言った話が本当なら大騒ぎだ
俺は絶対に誰にも言わないと誓いを立てた
4時間目終了後、俺たちは食堂に集まった
「ふーん。じゃあ愛野は今日はその交流生の案内でいないわけか…」
「そもそも先生に頼まれたって話だからしゃあないだろ」
「でもまさかみゆきが桜女子の伝説の歌姫だったなんて…」
「牧野は伝説の歌姫の話知ってたのか?」
「まあね。桜女子学園に中等部から入っていきなり選ばれてから3年間務め、歌姫の地位のまま姿を消し、ステージ以外には姿を見せない歌姫がいるって話。まさかみゆきがそうだとは夢にも思わなかったけどね」
「ん?そんな有名だったならその人物の名前くらい語り継がれてるもんじゃねえの?」
「普通はね。でも伝説の歌姫って言い出したの、みゆきとは違う学年ってこともあって名前までは知らなかったみたいよ」
「ふーん。でもそんなに有名人なら名前くらいは伝わると思うけどな…」
「行事で歌う時も『ブロッサム・ディーバ』としか呼ばれないからじゃない?」
「いやお前詳し過ぎだろ」
「だってあたしも最初、中学は桜女子志望だったもん。試験で落ちたから虹ヶ丘行っただけで…」
「あー…そうだったな」
そう。牧野はこれでも元々は桜女子に行こうとしていた
しかし、新しくなった制服のデザインの人気さから当時の桜女子の中等部は倍率が尋常じゃないほど高かったらしい
こればかりはもう仕方ないとしか言いようがない
「でも牧野の性格考えると、桜女子は合わなかったんじゃないかな?」
「どういう意味よ…」
「うーん…百聞は一見に如かずと言うし、五人の様子、見てみるか?」
「そうね」
俺たちはただ通り過ぎるだけのフリをしながらみゆきたちの後ろを通過しながら五人の様子を見て席に戻った
まあ…予想はしていたけどお嬢様の食事会って感じだった
「まあ…あんな感じだ」
「なんか…昔の愛野からは想像がつかない感じだったな」
「うん…あたし、あんな堅苦しいのは苦手かも」
「でも桜女子に行ってたらあれが日常らしいよ。まあ…人は置かれた環境によって変わるとは言うし、牧野も通ってればあんなだったかもな」
「1ヶ月耐えられるかしら…」
「いや忍耐力無いなオイ」
俺たちはそんな話をしながら食事を済ませ、教室に戻った
その数分後、みゆき、今川さん、三橋さんの3人が戻ってきた
「何の話をしてたの?」
「どうすればみんなに馴染めるかってことをね。家族と話す感じでって話をしたんだけど、二人とも生粋のお嬢様だったみたいでね…」
つまり学校だろうと家だろうと今の話し方ということだろう
そんな子に対して俺たちみたいな感じでというのは難しいだろう
あれ?でも篠森さんと神山さんはどうなんだろう…
俺がみゆきにそれを聞くと、二人の家はそこまでガチガチな家ではないみたいで、すぐにその話し方ができたようだ
ただ、今川さんと三橋さんの挨拶を聞いて、自分たちもお嬢様らしくしないとと思い、あんな感じだったらしい
そうすると、篠森さんと神山さんはともかく、今川さんと三橋さんは時間がかかるかもしれないな…
「まあ最悪、今のままでも良いんじゃないか?周りの女子たちも今のままでも受け入れてくれてるし、むしろ自分たちから作法を習いに来てるくらいだし」
「そこは本人と周り次第だと思うよ」
「ですが、今はこもれび高校に来ているのですからこちらの流儀に合わせるのが筋というものですわ」
「彩音さんも詩乃さんもそこまで堅く考えることはありませんよ。むしろ本学の女子生徒の方々もお二人からお嬢様としてのお作法を習いたいと申してるほどですので」
「てかまずみゆきが二人と話す時にその話し方に切り替えてるのを何とかするとこからじゃね?」
「あ…」
天然なのか何なのか、みゆきは二人と話す時にお嬢様モードになっている
崩せと言ってる傍らで一番身近な人物がそれだと意味ないだろ…
「そういえば篠森さんと神山さんは?」
「なんで今更…。お手洗い寄るって言ってたけど大丈夫かな…」
「まあ…しばらく待ってみて、戻らなければ様子見に行ってみたら?」
「うん…」
結局二人が戻ってきたのは、休み時間終了5分前だった
どうやらトイレがすごく混んでいたらしく、時間がかかってしまったらしい
これについては今川さんと三橋さんも気になっていたらしく、個室数が少ないんじゃないかと思っていたらしい
男の俺からすると、女子トイレはいつも混んでる場所というイメージしかない
しかし、お嬢様学園と外の世界を知るみゆきの意見は違った
どうもこもれび高校の女子トイレは公共機関の女子トイレに比べれば圧倒的に個室数は多いらしい
そして、女子校と共学とで比較すれば女子生徒の数もかなり差があるので個室数に差が生まれてもおかしくないとのことだ
ここと外の個室数差の事情は知らないが、女子校と共学との差については少し考えてみれば確かにそうだ
女子校と共学とで見れば女子の数は2倍近い差はある
いかんせん、共学なら女子は在校生の半分しかいないが、女子校では全員が女子なのだから
そうなればトイレや更衣室といった設備に差が生まれてもおかしくない
四人はみゆきの説明に納得したようだ
ただ、みゆきよ…。またお嬢様モードになってたぞ
放課後、俺はみゆきに一緒に帰ろうと誘った
「じゃあちょっと桜女子に寄ってもいい?」
「寄るって…そもそも乗る路線も違うんだから寄るって言うか?まあいいけどさ…」
「では私たちもご一緒によろしいでしょうか?」
「もちろん構いませんよ」
「だからお嬢様モード…」
「あー…またやっちゃった…」
桜女子学園は、こもれび市の北に隣接する桜木市にある桜木学園都市の端にある
それに対して俺たちの住むはるかぜ市はこもれび市の南だ
だから「寄る」と言うのは若干引っかかるものがあった
俺たちは桜女子学園に向かった
初めて来たが、非常に綺麗な校舎だ
そして、道行く生徒たちも非常にお淑やかで、まさに「お嬢様」といった感じだった
俺たちが門をくぐると、警備員さんに呼び止められた
「そちらのお二人さん、こっちで手続きしないと入れないよ」
「あ…そうでした…」
俺とみゆきは警備員のところで手続きをし、校舎内へと入って行った
中も外と同じく非常に綺麗で、俺は思わず見入ってしまった
その時、どこからともなく綺麗な歌声が聞こえてきた
「この歌声…」
「本年の歌姫候補生のお声ですわ」
「へーえ…」
そう言うと三人は歌声の聞こえてくる教室の前で止まった
そして、今川さんがノックをして扉を開け、俺たちは教室内へと入って行った
「練習中失礼します。高等部1年の今川です」
「同じく三橋です」
「あら、どうかしたの…って…」
「お久しぶりです、根岸先生」
「久しぶりね、みゆきさん」
「根岸先生、こちらの方は?」
「今代のブロッサム・ディーバ、愛野みゆきさんよ」
「これは失礼を致しました。私、本年度のブロッサム・ディーバ候補生の、渡辺舞花と申します」
「そういえばみゆきさんはなんでここに?」
「歌姫の歌の伝承に伺いました」
「え?」
「御子柴先生に事前にご連絡差し上げて、本日は直接ここに来るようにとのことだったのですが…」
「そう。分かりました」
そう言うと、根岸先生と呼ばれていた先生は俺たちのもとに来た
俺は根岸先生に歌の伝承について聞いてみた
話によると、歌姫の歌は代々、先代の歌姫によって歌詞や歌い方等を伝えていくらしい
歌詞については知っている生徒は多いが、歌い方については歌姫になった者のみが知ることができるようだ
そしてその歌を伝承し、11月の冬桜の会で全校生徒に認められて初めて、真の歌姫となれるらしい
ちなみにもっと早くに伝承が行われないのは、そんなすぐに伝承できるような歌ではなく、余程の才能が無い限り最低でも半年間の基礎練習が必要らしい
そして、伝承が終わるまでは、先代の歌姫が表舞台に歌姫として出るらしい
みゆきがたまに学校に来なかったのは、これが理由だったようだ
ちなみにこれについてはこもれび高校でも公欠扱いになっているらしい
「そういえば、こもれび高校さんの方で、彩音さんと詩乃さんは粗相はありませんでしたか?」
「ええ。ただ…」
俺は今日の二人の様子を話した
「そうでしたか。粗相が無かったのでしたら良いでしょう。ですがいけませんね、彩音さん、詩乃さん。『郷に入っては郷に従え』。今の貴女達は一時的とはいえこもれび高校の生徒なのですからそちらの皆さんに合わせないと」
「はい。申し訳ありません」
「申し訳ありません」
「いや、でも二人に影響されてお嬢様のような振る舞いを学びたいっていう女子生徒も何人かいますので今のままでも良いかなと…」
「それはなりません。作法を教えるのは構いませんが、場所が変わったのであればその場所のやり方に合わせる。それが常識というものです」
「はあ…」
そんな話をしていると、みゆきと渡辺さんがこちらにやって来た
どうやら今日の伝承は終わりのようだ
「あの…根岸先生」
「どうしました?」
「渡辺さんですが、伝承をするには少し早いかもしれません」
「どういうことですか?」
「それは実際にお聞きいただければ分かるかと」
そう言ってみゆきが渡辺さんに歌うように促すと、渡辺さんは歌い出した
俺からしてみれば十分な気もするが、一体何が問題なのだろうか…
そんなことを考えてる横で、根岸先生、今川さん、三橋さんの三人は納得していた
「確かにみゆきさんの仰る通りですね。ではもうしばらく基礎練習を続けましょうか」
「はい…」
「では、私はこれにて失礼致します」
俺たちが学園を出ると、今川さんと三橋さんは学園に車での迎えが来たのでそれで帰宅して行った
俺たちは駅に向かった
帰宅中、俺はみゆきに気になっていたことを聞いてみた
「さっきの、どういうこと?伝承するには少し早いって」
「うーん…」
みゆきによると、渡辺さんの歌はどうも音に微かな揺れがあるらしい
おそらく迷いとかそういうものみたいだ
歌姫の歌は、技術面だけでなく精神面でも重要なことがあるらしい
「じゃあもうしばらくみゆきが歌姫やるの?」
「うん…。ただ、冬桜の会に間に合わなければ彼女は歌姫になれずに終わることになっちゃうんだよね…。実際、次の歌姫になる人がいなくて、卒業しても歌姫やってた先輩もいるみたい」
「厳しいんだな…」
まあ…それだけ責任が重い役割なのだろう
こればかりは桜女子の慣習なので俺がどうこう言える話ではない
「そういえばみゆきの前の歌姫って今は何してるの?」
「今はつむぎの歌劇団の舞台に娘役として立ってるよ」
「ファッ!?」
いやいや、前の人どんだけレベル高いんだよ
確かにブロッサム・ディーバはレベルが高いとは聞くけどさ…
「今度お友達といらっしゃいってチケット2枚貰ってるんだけど、佐藤君も行く?」
「え?うん、ちょっと見てみたいかも」
「じゃあ月末の土曜日、授業終わりに」
「了解」
俺たちは電車を乗り継ぎ、帰宅した
ちなみにデート当日は電車遅延が発生し、最寄り駅からダッシュする羽目になったのだった
お嬢様の喋り方って今まで実際には聞いたことは無いからこれで合ってるのかな…
幼なじみのお嬢様と秘密の乙女の舞台「水萌女学園」はお嬢様ではあるけどそこまで堅苦しい感じはないっていう設定だけど、桜女子学園は挨拶は「ごきげんよう」で非常に厳しいって設定だから彩音ちゃんと詩乃ちゃんのセリフと、二人や学園関係者と話すみゆきちゃんのセリフって結構難易度高いんだよね…
余談だけど、リアルでも「ごきげんよう」って挨拶する女子校あるらしいですね。そのうちの1校は模試会場になって、模試受けるために行ったことあるけど凄く綺麗な場所で、共学だったら行きたかったなと思いました。男子校だったら…ちょっと嫌だなw




