96.ステータスオープンって呪文ですか?
「怪人トンデモネーデスが現れたわ!!」
「皆っ変身よ!!」
「「「コマッタ・ラ・ナスーリ・ツケレッバ・イイーーー!!!!」」」
キラキラシャラ~ン
~!~!~♪♪♪(←ここ、変身のBGM)
的な変身とは明らかに違う。
黒い竜巻にゴゥッと包まれて、バリバリバチバチッと真っ黒な竜巻の中で雷が鳴る……何て禍々しい変身だ。
「……おい、何だこりゃあっ」
暗黒騎士がブルブル震えています。
「俺の執務室が……っ」
あ、はい。変身の影響で全部ぶっ飛んでマスネ。
「何て事してくれてんだァァァ!!!!」
悪鬼が出たぞぉぉぉ!!!! ギャーッ 雷が降ってきたァァァ!?
「隊長!! スキル、“怒りの雷撃”が発動しました!!」
「トモコ君!! 結界を張りたまへ!!」
それもそのはず。さっきの変身時の竜巻のお陰で部屋中がぐちゃぐちゃの上、雷で壁や天井に穴が開き放題。
したがってさっきまで頑張って処理していた書類は消失し、暗黒騎士の怒りはピークに達していたのだ。
ただでさえ苦手な事務処理のお仕事が全部パァとなっては、そりゃあ怒りもするだろう。
それもこれもトモコの暴走と私の好奇心が原因であった。
「隊長ーー!! 悪鬼の怒りを静めたまえぇぇ!!」
「ムリムリ。悪鬼だよ? 暗黒騎士化した悪鬼だよ?」
「それを静められるのはみーちゃんだけだから!! その証拠に雷はみーちゃんには降ってこないでしょ!!」
そうだけど、トモコもヴェリウスも結界張ってるから雷平気でしょ。
『音と光が喧しいので、ミヤビ様、どうかお願い致します』
喧しいからか……そうですね。いってきます。
「というか、どうやって止めたらいいの?」
「そんなの決まってるよ!! 抱きついて、ごめんなさいすればオールオッケー」
「……」
悪鬼の止め方。
1.抱きつきます。
2.「ごめんなさい」を言います。
3.全部綺麗に元通りにします。
「ミヤビぃ、愛してる!!」
完了です。
『やれやれ、やっと静かになったか』
「チョロいっスね!! 隊長!!」
多分抱きつかなくても、部屋を元に戻せば怒りは解けてたと思う。
「ミヤビ、今夜は寝かせねぇ」
「なら私はお邪魔にならないように天空神殿にお泊まりしようかな~」
よし。今夜は天空神殿に逃げ…ゴホンッ お泊まりしよう。たまには心友と語り合わないとね。
『しかし、ステータスとやらで装備が選べるのならば、我らもステータスを見る事が出来るのではないか?』
「そう思って、みーちゃんとロードさんが恋愛モードになってた間ずーっとステータスを見ようとしてたけど、無理だったよ!」
トモコよ……訓練所で待っていた間、そんな事をしていたのか。
『ふむ。お主は力のコントロールが下手だからな。ステータスを見る際に神力は込めたのか?』
「ハッ!? ただ呟いてただけだった!!」
呟いてただけかーーい!!
『はぁ……全く。お主は阿保か。神力を込めねば意味はあるまいに』
「となりゃあ、“ステータスオープン”って唱えながら神力を込めればそのステータスってのが見れるようになんのか」
ヴェリウスとトモコの会話にロードが興味を持った。
何だろう。この集まり、“新たな魔法を創る会”の様相を呈してきたぞ。
しかも私は蚊帳の外なのだが……別に寂しくないもの。
輪に入れないとか思ってないもの。
『“ステータスオープン”』
女性にしてはやや低めの美しい声がそう唱える。ヴェリウスだ。
『…やはりか。神力を込めればステータスとやらは現れる。が、ミヤビ様の見せて下さったものより称号やスキルは少ないようだ……』
ん? どういう事??
『ミヤビ様に見せていただいたスキルの部分で、空間魔法とあった箇所は“転移”に、バックキック、博識とやらはなくなっております。さらに称号では、氷の雌神、常識犬、もありませんね。ついでに“etc.”という文字もありません』
何で!? どういう事??
「“ステータスオープン”」
今度はバリトンボイスの良い声が聞こえてきてドキリとした。
どうやらロードが呪文(?)を唱えたらしい。
「……確かにミヤビの見せてくれたもんと違うな。俺のは、気配察知と騎竜、後は怒りの電撃とミヤビラブしかスキルが無い。料理は鬼才の文字はねぇしな。ヴェリウスの言うとおり“etc.”って文字もねぇな」
ずっと気になっていたが、“ミヤビラブ”ってどんなスキルだ。
「もしかして、自分で気づいてない能力は出ないんじゃないかなぁ。etc.の部分も、いずれ使用できるようになる能力が書いてあるとか……」
トモコの言葉に、1人と1匹が目を見開いた。
『ふむ…ミヤビ様の常識外れのお力だ。未来のスキルや気付いていない能力がうつし出されるというのはありえるかもしれぬ…』
「みーちゃん!! “etc.”を見せて!! 未来の能力見てみたい!!」
いや、未来の能力とは限らないからな。
トモコにキラキラとした瞳で見つめられながら、仕方ないとまずはトモコのステータスのetc.を▽のように押そうとした、その時、
コンコン、と執務室の扉をノックする音に邪魔された。
「師団長! リンを連れて参りました!!」
あのレッサーパンダ君の声が扉の外から聞こえて動きを止める。
これは執務室から転移した方が良いのだろうか? 仕事の邪魔はしたら駄目だよね。
「トモコ、ヴェリウス、執務室から出ようか」
そうだね、と転移する為にそばへ移動してきたトモコとヴェリウスの前で腰を引かれ、硬い胸板に顔を押し付けられた。
「ぅぐっ ちょ、ロード!?」
驚いて離れようとするが、抱き締めてくる腕の力はゆるまない。
「ここに居てくれて構わねぇよ。これからリンとかいうガキの話を聞くからな」
『それならば、我らもここに居た方が良いかもしれぬな』
ロードの言葉にヴェリウスがゆったりと腰を下ろす。とはいえ、犬なのでソファではなく床に伏せた方が楽なのか、ソファの足元に伏せてしまった。
「そっか。話に矛盾がないかも指摘できるし、確かに私達が居た方がいいかもね~」
等とトモコまでソファに座って寛ぎ始めたではないか。
ステータスの件はどうするんだ。
「なぁミヤビ、俺のそばに居てくれよ」
何だろう。これは甘い囁きなのか、それとも仕事の一貫としてなのか、どう受け止めれば良いのだろう。
正直な所、ヴェリウスかトモコが一緒に話を聞くなら私は帰って良い気もするが駄目なのだろうか?
チラリとロードの様子を伺えば、離してくれそうもなかったので、仕方なくここに残る事にした。
「入れ」
私が残る事を了承した後、重々しく外のリン達に声を掛けたロードは、確かに師団長の顔をしていた。
部下の前で見せる顔と、普段私達が見るおっさんの顔とでは全然違う事が知れる。
普段見ない表情というのは何かドキドキするな。
「失礼致します!!」
扉を開けて入ってきたのはレッサーパンダ君で、その後ろにリンが見えた。
「では、私はこれで失礼致します!」
リンを連れて来たレッサーパンダ君は、部屋の中へリンを誘導すると一礼して退室した。
ものすごく緊張しているように見えたが何故だろうか?
「失礼致します! ロヴィンゴッドウェル師団長!!」
ロヴィンゴッドウェルって誰ですっけ?
リンの掛けた声にキョロキョロと周りを見る。
聞き覚えがある気もするし、ない気もする。
「そう固くならなくてもいい。まぁそこにかけな」
と砕けた口調でソファに促すロードだが、トモコとヴェリウスが居る事に気付いたリンは、何故か萎縮している。
「滅相もありません! 俺…あっ 私ごときか神々と同じ席につくなど、畏れ多いです!!」
どうやらトモコとヴェリウスが神族だと誰かから聞いたらしいリンは、直立したまま扉の前から一歩も動かない。
王宮ではヴェリウスの事は知られているし、騎士団の誰かが噂を知っていてもおかしくはない。なのでその話にはたいして引っ掛かりもしなかった。
しかしロードはそれを聞いてピクリと片眉を上げると、
「余計な噂話が出回っているようだな」
とつぶやいた。
その声にビクリと身体を震わせたのはリンだけではなく、トモコや私もで、顔を引きつらせてしまった。
その声音が、恐ろしく感じたからだ。
『余計な話はいい、さっさと本題に入らぬか』
寛ぎ伏せていたヴェリウスが身体を起こし、お座りの体勢へと変える。
「……そうだな。とにかくそこに居ちゃ話もしづれぇ。ソファに腰を下ろせ」
上司からほぼ命令口調で言われたそれに遠慮するわけにもいかなくなったリンは、恐る恐るソファに座ったのだ。
「で、だ。俺が聞きてぇ事は大体予想出来てるとは思うが……」
「はい。俺が…私が見聞きした性奴隷の件かと思い参りました」
この顔ぶれで予想がついたのだろう。リンはロードの言葉に頷いて答えた。
「その通りだ。俺にも詳しく話してくれねぇか?」
「はい。あの、お話しても大丈夫でしょうか……?」
「ああ。構わねぇよ」
「え…いや、本当に大丈夫ですか?」
「あ゛ぁ゛? 何が言いてぇ」
「その、膝の上に……」
言いにくそうなリンから指摘されたのは、ロードの膝の上に乗っている私の存在であった。
だよね。真剣な話を上司にしようとしてるのに、その上司は膝の上に恋人を乗せてるとかツッコミたくなるよね。分かる。私もそう思うから。




