92.告白3 ~ロードside~
ロード視点
2人で話をしようとミヤビに言われ、辛かったが了承し、今の時間帯は誰もいないであろう騎士寮の自身の部屋へと連れ込んだ。
あんな風に怯えた顔で見られた後に、どうやってつがいと接したら良いのかわからなくなっていた俺は、ミヤビと2人きりになった今も距離をとっていた。
こんな事は初めてで、あの怯えた表情が目に焼き付いて消えなくて、ミヤビを直視する事も辛かった。
しばらく沈黙が続いたが、ラチがあかないので俺から話を始める。
「……あのガキ、そんなに気に入ったのか?」
思ったよりも冷めた声が出てしまい、自分でも驚いた。
ミヤビは俯いていた顔を上げて俺を見る。
「今まで、誰に会っても興味を示さなかったオメェが、あのガキには随分と積極的だよな」
「そんな事ないでしょ。いつもと同じだよ?」
遠くから見たが、あの男はミヤビと同じ位の年齢だった。
並んだ時も俺よりは違和感がないだろう。むしろ……。
だけど、
「オメェは俺の唯一無二のつがいだ」
いつもと同じにはとても見えねぇよ。
今まであった誰よりも、俺よりも、興味を持ってんじゃねぇか。
心は冷えていくのに、ミヤビを離す事は考えられねぇ。
コイツを好きだっつー気持ちも、一切変わらねぇ。
ミヤビは、他の男に興味を持ってるっていうのに……っ
「俺にゃあ、オメェを諦める事は出来ねぇ。絶対に」
無理だ。
ミヤビを手離す位なら、
「ロード?」
「オメェが俺じゃなく、あのガキを選ぶってんなら……」
オメェの目の前で、
「奴を殺す」
本気でそう言えば、ミヤビは慌ててソファから立ち上がる。
「いや、ちょっと待って。落ち着いて。リンを選ぶなんて事はないから!! むしろどうしてそうなった!?」
そんなに、慌てて止める程あの男が好きなのか!?
もう止めてくれ。
俺の前であの男の名を呼ばないでくれ。
あの男の話をしないでくれっ
「話は終わりだ」
「終わりじゃないよ! 何でそんな話になるのっ」
「っ……オメェが、俺の所に来てからずっと、リン、リンってあのガキの話しかしねぇ」
「それはっ」
オメェの口から、これ以上は聞きたくねぇんだ。
「分かってる! あのガキが問題を抱えてんのは。けど、オメェがアイツに興味を持ってる事も分かるんだよ!! 俺はっ オメェをずっと見てるから……っ 好きだから……」
もう、耐えられねぇんだよ…っ
「っ悪ぃ…独りにしてくれ」
ミヤビを部屋から追い出し、勝手に目から溢れてきたものを拭う。
格好悪ぃ。
自分が情けなくて、不甲斐なくて、そりゃ、こんな男じゃミヤビも好きにならねぇよな。なんて、余計に落ち込んだ。
あまりの事に、ソファに座ったまま暫く立ち上がれなかった。
ボーッと天井を見つめていたら、扉の外から微かに音がして、なんとなく扉の方を見ていた。すると━━…
「っふ……ぅえ……っ ろ、どが、苦しい、なら……っ しゅ、しゅぞく…っ 変えて、つがい、っく、止めてもい……から、泣かないで……っ」
俺のミヤビが泣いている……ッ
しかも、とんでもない事を口走って!!
「!? っ……何でッ そうなるんだ!!」
今まで立ち上がる気力さえなかったが、つがいの泣き声と話す内容に慌てて立ち上がり勢いよく扉を開けた。
「ぎゃっ」という声とともに、ミヤビが転がっていった時にはどうしようかと思った。
◇◇◇
「大丈夫か?」
「お手数をおかけしてスミマセン……」
膝の上に乗っけて、涙と鼻水でどろどろになった顔を濡らしたタオルで拭ってやる。
「オメェは本当に、ろくな事考えねぇなぁ」
「スミマセン」
スミマセンじゃねぇよ。
オメェが種族変えるっつったら本当に変わるんだぞ!?
それに、種族が変わったぐれぇで俺のオメェへの想いが消えるわけねぇだろうが!! ふざけてんのか!!
種族変えて、ミヤビを忘れろなんて酷すぎんだろっ
「俺ぁ種族を変える気はねぇし、つがいはオメェだけだからな。大体、そんな事言うって事ぁフラれたって事か?」
もうミヤビは俺を好きにはならないって言われたみてぇで、辛くてたまらねぇよ……っ
「……す、きです」
「あ゛ぁ゛?」
今、なんつった?
「ロードが好きだから、えっと……泣かないでほしくて?」
「…………」
幻聴が聞こえたぞ……。
こりゃあ、都合のいい夢か何かか?
好き? ミヤビが俺の事を? 泣かないでほしいだぁ?
「また、芝居か何かか?」
また冗談で終わらせる気なのか?
今それをやられたら、俺ぁもう立ち上がれねぇぞ。
「違うから! さっき、ロードが泣いたから……」
「……同情か」
同情もキツイな。泣いたからかよ。
くそっ 情けねぇなぁ。
こんな不甲斐ない所をミヤビに見せるなんざ、男失格だ。
「違うっ だから、あの、ですね、その……」
「ミヤビ?」
さっきからミヤビの様子がどうもおかしい。
顔も赤くなったり青くなったりしているし、もしかして……
「っさっき! 自分の気持ちに気付きましたーーー!!」
「ミヤビ?」
嘘だろう? 本当に?
目の前のミヤビの顔を見れば、目をぎゅっとつむり、顔を真っ赤にして微かに震えていた。
それはまるで、いつか見た記憶のある表情で━━…
昔、たまたま見てしまったカルロへの告白場面。
あの時の、返事を待っていた侍女の行動がミヤビと重なった。
勿論ミヤビの方が比べ物にならないぐれぇ可愛らしいが。
それを思い出した瞬間、俺の愛しい愛しいつがいが、本気で告白してくれた事に気付いたのだ。
「ミヤビィ!! ミヤビッ ミヤビッ ミヤビィィ!!!!」
「ぅぐ、ぐるじぃ……っ」
俺のミヤビが、俺を好きだと言ってくれた!
こんなに可愛い表情で、仕草で、俺に愛の告白をしてくれた!! まるで夢のようだ。
まてよ……もしかしてこれは本当に夢なのかもしれない。
ミヤビを追い出した後寝落ちしてしまったのかも。
そんな事を思いながらも、やはり嬉しすぎて力の加減も考えずに抱き締めていたらしい。
この時の俺は舞い上がりすぎて何も考えられなかったのだ。まさに頭の中がお花畑とはこの事だろう。
「ギブ……っ ギブ、アップ…」
「本当に?」
「ほ、んと…ギブ…」
「本当に、俺を好きだって……っ」
「お、はな、きれぃ……」
「あ゛? 花だぁ?」
俺の質問には答えてくれず、ミヤビは何故か花が綺麗だという。
ちぐはぐな答えに益々夢の線が濃厚になる。
白昼夢……いや、明晰夢でも見ているのだろうかと本気で不安になった。
「…………ガクッ」
花をプレゼントして欲しいのか? と聞こうとすれば、ミヤビの身体から突然力が抜け、顔を見ると意識を失っていた。
「……おい、ミヤビ? ミヤビ!? 何寝てやがんだ!? ミヤビィィィ!!!?」
◇◇◇
「悪かった……」
本当に、バカな事をしたと反省している。
まさかつがいを締め落としてしまうとは……。
この反応から、夢でない事は確かだと分かったが。
最近急激に力がついたせいか、コントロールが上手く出来ない時がある。
すまないとは思いつつも、どうしても確認したいのはさっきの告白だ。
「なぁミヤビ、さっきの、もう一度言ってくれないか?」
「嫌だ」
完全にへそを曲げている。
いや、俺が悪いのは分かっているんだ。けど、もう一度この可愛いつがいからさっきの言葉が聞きたいと思うのは仕様のない事だと思わねぇか?
「そんな事言わずに。な?」
膝の間に座らせて、後ろから抱き込み頬擦りしながらしつこくねだるが、なかなか言ってくれない。
ミヤビは照れ屋だしなぁ。
「なぁ、本当に俺の事好きか?」
「…さっき言った通りデス」
頼むから言ってくれと再度同じ事を聞けば、やっと答えてくれた。
「ただの好意じゃなく、恋愛感情で好きか?」
この質問にコクンと首を縦に振ったミヤビが可愛くて、可愛くて、鼻血がでそうになり、つい片手で顔を覆ったのだ。
「ロードは、私みたいなのでいいの?」
オメェなんつー可愛い事言ってんだ。
良いに決まってんだろ。オメェしかいねぇよ。俺ぁミヤビだからこんなに好きなんだっての!
「ずっと言ってんだろ。オメェが好きだって」
死ぬほど好きだって。
ほんのり赤くなった頬が、嬉しくて、耳まで赤く染めている様が愛しくて、思わずその頬に、耳に、キスしてしまいたくなる。
「いつもソファでゴロゴロしてようが、腹出して、足を開いて寝てようが、料理が下手だろうが、何するにしても面倒くさがろうが、全部が愛しくて仕方ねぇよ」
あの腹出してソファに転がってる時に、何度覆い被さって襲ってやろうと思った事か。
ありゃ誘われてると最初の頃は思ってたからな。足開いてるしよぉ。
「ミヤビ」
赤く染まった耳に甘噛み出来るような距離で、唯一無二のつがいの名を囁く。
「ロード、耳元で喋られたら腰が砕ける」
クソッ 可愛すぎんだろ。
何だよこの可愛さ。絶対誘ってんだろ。間違いねぇよ。
俺はこの可愛すぎるつがいを、今度は気絶しないよう注意しながら抱き締めて、その可憐な唇を奪ったのだ。




