91.告白2 ~ロードside~
ロード視点
「入るぜぇ」
王宮の無駄に長い廊下を足早に通り過ぎ、陛下の執務室の扉をノックして返事がある前に開き入る。
扉の前にいる護衛騎士はいつもの事だからと特に気にしてねぇ。
「あのねぇ……ぼ、俺国王なんだけど。わかってる? 返事の前に入って来ちゃうとか結構不敬だからね?」
いつも通り阿保丸出しのピンク色の髪をなびかせ、椅子に腰掛けたままキャンキャン吠える陛下のそばに大股で歩いていけば、事前に知らせてから来いだのなんだのとまだブツブツ言ってやがる。
「火急の知らせだ。フォルプローム国とバイリン国の動きがキナ臭ぇ」
話を切り出すと、今まで引っさげていた阿保面を真面目な表情に戻し俺を見た。
「反乱でも起きそうとか?」
「……まだ想定でしかねぇが、フォルプローム国はその反乱をおさえる為に戦争を起こそうとしており、バイリン国はそれに便乗する形で手を組んだ事が推測される」
「バカな!? 戦争!?」
身を乗り出してきた陛下の頭を鷲掴みにして、椅子に押し返し話を続ける。
「もし戦争が起これば、グリッドアーデン国は両国から挟み撃ちに合いそう遠くない内に侵略されるだろう。そうなれば次はこのルマンド王国だ」
「っ…人口の減少が著しい中、フォルプローム国とバイリン国を相手に戦争なんて出来るわけがない!! ただでさえ復興に手一杯だというのにっ」
例え戦争になったとしても今なら俺1人で殺れるだろうが、普通に考えれば人手不足の今、民をも兵として徴集しなければならない。
「それにグリッドアーデンは母上の故郷だ……侵略させるわけにはいかない」
「……さっきも言ったが、これはまだ想定の域を出ねぇ」
「ロード、この情報は一体……まさか君のつがいの…?」
陛下の言葉に頷くと、今入団テストを受けている青年の話を伝える。その青年が今の話の情報を持って来た事、人身売買の件等も話せば悪かった顔色がさらに悪くなっていく。
「ねぇ。その話、戦争云々の前に話すべき内容じゃないかな?」
「最重要事項から話すべきだろうが」
深い溜め息を吐いた陛下は、その青年とミヤビに会って話が聞きたいというが、ミヤビに会わせるのは断った。
アイツをまた人間のゴタゴタに巻き込みたくはない。
青年と会う事も、俺が詳しく話を聞いてからの方が良いだろうと陛下の執務室を後にして訓練所へとやって来たのだが……。
「どうやって切り出そうか?」
「トモコが話すとかどうかな?」
「止めてよぉ!? ロードさんみーちゃんにしか甘くないんだから、みーちゃんが話して!」
「ロードが甘い!? あんなヤクザか鬼みたいな顔で睨んでくる男が甘い!?」
訓練所の入り口付近に何故かミヤビ達が居り、何やら俺に話さなければならない事があるらしく、どっちが話すのかで押し問答している。
しかし俺ぁミヤビに鬼みたいな顔で睨んだ事ぁねぇぞ。いつも甘やかしてんだろ。
「みーちゃん……」
トモコがこっちに気付きヤバイという顔で、俺の存在をミヤビに伝えようとしているが、ミヤビは全く気付いていない。
「もういっそのこと、黙っておくのはどうかな?」
俺に話さなければならない事を、ミヤビが黙っておくという選択肢を取った事にショックがでかかった。
俺はミヤビに信頼されてはいなかったのだろうか。
「誰に何を黙っておくって?」
「いや、だからロードにリンの……ん? トモコいつから声変わりした?」
リン……。ミヤビが気にしているあの男の事で、俺に言えない事があるのか?
何でだ? 俺ぁオメェのつがいだろう。信頼してくれてねぇのか? それとも……リンって野郎に惹かれてんのかっ
「俺に、何を、黙っておくって?」
俺の中で怒りなのか、絶望なのか、それとも嫉妬なのか、あるいはその全てなのか。
ぐるぐると渦巻いて、目の前がどす黒く染まっていく気がする。
「と、トモコさん……もしかして私の後ろに、ろ、ろ、ロードさんとかいないデスよね!? いないと言って! お願いだから!!」
「居るよォーーーー!!!!」
「!? 離せみーちゃん!! 1人で大人しく逝ってくれよォォォ」
「ふざけんなぁ!! 死なばもろともじゃあぁぁぁ!! 離さんぞっ」
「ギャアーーーッ みーちゃんの後ろに鬼がァァァ!!!」
何でこっちを見てくれない?
何で俺から逃げようとする?
なぁ、
「ミヤビぃ、オメェは俺に黙って何をしようとしてんだぁ」
「何もしようとしてません」
俺を見てくれ。
「ほぅ。ならまずは、黙っていようと思った事を一字一句もらさず答えてもらおうか」
ミヤビ、
俺だけが、お前をこんなにも愛してんのか?
「さて、どっちが素直に答えてくれるかねぇ」
俺だけが…………
「ハイ!! みーちゃんが、ステータスを見れるようになりました!!」
「ステータスだぁ? 何だそりゃあ」
「ハイ! ステータスとは、名前や年齢、さらにレベルやスキル、装備等の状態を数値化して表す事を言います!!」
「ほぅ、それがミヤビには見れるんだな」
「ハイであります!!」
「…で、そのステータスからあのガキの重要な何かが分かり、俺に黙っておこうとした、と?」
「そうであります!! さすがボス!! 理解が早い!!」
ステータスとかいうものが見れるようになったらしいミヤビは、リンという野郎の何かを俺に黙っているようだ。
「何がわかった?」
「え゛っと……」
トモコは答え辛いのか、ミヤビをチラリと見る。するとミヤビの口が開いた。
「リンが……」
こんな、無理矢理聞き出すような真似なんぞしたくねぇ。
俺は、こんな真似しなくてもすすんで頼ってもらえるようになりてぇんだ。
オメェが困ってるなら助けてやりてぇ……っ
オメェの為なら何でもしてやりてぇのに、なのにオメェは他の男を見てんのかっ
「お、怒ってらっしゃる?」
「怒ってねぇと思ってたのか?」
俺を見て欲しくて、ミヤビをこちらに向けたのが悪かったのか。
「何でそんなに怒ってるのか分からない……」
「……」
怯えたように、不安そうに俺を見てくる彼女の表情に心が凍りついていく気がした。




