87.ステータス!!
リンの所にロードが部下をやってからしばらくして、
「おかしな遊びは終わりにして、そろそろ詳しく話を聞かせてくれるか?」
私を膝に乗せ、執務室のソファにデレデレした顔で座っていたロードが、突然真剣な顔をして切り出したのだ。
「あれ~今までノリノリだったのに、バレてたんだ~」
「役得だったぜぇ。なんせミヤビの口から“ダーリン大好き”って聞けたからなぁ」
ンノォォォォォァ!!!?
ニヤニヤしながらトモコと話すロードに演技がバレていた事を知る。
「んな、何で演技だって!?」
「オメェ普段そんな事言わねぇだろ。トモコも念話してるって丸わかりだしなぁ。最初は変な遊び始めやがったって思ってたが、オメェが可愛い事言うからよぉ」
デレッと相好をくずして頬を撫でてくるので、今までの気色悪い自分を思い出して顔から火を吹きそうになり俯いた。穴があったら入りたい。今すぐに。
「念話丸分かりだったか~。あれ無表情保ってられないし、念話中って他の人と話せないんだよね……」
変な所を反省しているトモコだが、お前ふざけんなよ。
「俺を騙そうとする気なら、念話を使いこなせるようになってから挑戦するこったな」
「くっ 私ではまだこの男には勝てないのか!!」
何の寸劇が始まった!?
「で、フォルプロームはどうだったよ」
「暑かったよー。ね、みーちゃん」
もう話しかけないで。あんな醜態を晒した私は穴に埋まるしかないんだ。
「あら~みーちゃんがヘソ曲げちゃった~。可愛いねぇ」
「ミヤビ、すげぇ可愛かったぜぇ。だから拗ねんな」
止めろ。ますますいたたまれんわ!!
「そんな事より、フォルプロームの事!!」
話を変えようと振れば、トモコとロードに笑われた。
「━━…というわけで、リン君の事をロードさんに頼みたいんだぁ」
「奴隷ねぇ……」
真剣な表情で何やら考察しているが、私を一向に膝の上から降ろそうとしてくれないのは何故だろうか。
しかも肩や腰をナチュラルに撫でられるんだが。
「普通、キャラバンの護衛がそんな機密事項を皆が眠っているような場で漏らすなんて考えられねぇが……リンって奴の話が本当なら、わざと話したんじゃねぇか? しかもキャンプ1日目に話すなんて逃げて国に知らせろって言ってるようなもんじゃねぇか」
「だよね~。ヴェリーさんはその護衛が人族じゃなくて、獣人族じゃないかって思ってるみたい」
やっぱりロードもトモコもそう思ったか。
『トモコよ、私は獣人族とは断言しておらんぞ』
突如部屋の温度が下がったと思ったら、執務室の真ん中にフワリと雪の結晶が舞い上がり、ふぁ~綺麗だぁと思った刹那、結晶が渦を巻き、パァンッと舞い散った後に現れたのはヴェリウスだった。
最近のヴェリウスは近場の転移であれば割りと簡単にやってのけるようになっている。前は神であっても転移は難しいと言っていたのに。
「断言してねぇって事ぁ、獣人族以外の可能性もあんのか」
特に驚く様子もないのは、普段からヴェリウスの転移を見慣れているからだろう。
『リンの話から、竜人という可能性も捨てきれぬと思ってな』
「成る程なぁ……ミヤビ、トモコ、この件、しばらくこっちで預からせてもらっていいか」
普段の不真面目ゴリラとは違い、真剣な様子でそんな事を言うので頷く他なかった。
「少し気になる事があってな」
そう言うと執務室を出ていってしまったロードに呆気に取られる。
もしかしたらルマンド王国に関係のある話だったのかもしれない。
「みーちゃん、とりあえずロードさんに任せて私達は騎士団の見学に行こう!!」
お前は本当に自由だな!!
◇◇◇
「おーっ あれが騎士団の訓練風景かぁ」
トモコと共にコソコソやってきた訓練場。
王宮内の近衛の訓練場ではなく、王宮近くにある騎士寮そばの訓練場だ。何しろリンはこっちで入団テストを受けているらしいのだ。
何故コソコソかというと、王宮に勤める人は前回の事で出会うと面倒だと学習しているからに他ならない。
一番面倒なのは侍女である。
女性は怖いのよ。
同じ職場で働いているからか、職場の男性は自分達のものという意識が強く、他所から入ってきた女性が少しでも職場の男性と親しくしていたら嫉妬してしまうというね。
「鎧着て訓練しないんだね~。騎士=鎧っていうイメージだったけど、何か割とラフな服装だ」
確かに皆白シャツにブラウンの綿のパンツをはいている。靴は黒いブーツだ。
「鎧を着て訓練もするだろうけど、常にはキツイんじゃない? 重いし」
皆が皆ロードみたいに怪力じゃないしね。
「そっか~……あ、ねぇねぇみーちゃん」
変な間を空けて、何かを思い付いたかのように呼んでくるトモコに嫌な予感しかしない。
「……何?」
ニッと笑ったトモコが口にしたのは……
「みーちゃん、“ステータス”って見たことある?」
ステータス? 確か能力や装備の状態を知る事だったっけ。
「見たことないけど……」
「みーちゃん!! 何でステータスを見ないの!? 私の場合、力を感じる事は出来るけどステータスは見れないよ。でもみーちゃんは違うでしょ!! 異世界に来てまずする事はステータスの確認!! これを怠っちゃダメよっ」
何故かトモコに説教されるが、私、異世界ものの小説とかは見るけどRPGとかのゲームした事ないからそういうのよく知らないんだよね。
「いい、みーちゃん。まず“ステータスオープン”って唱えて、自分や相手の状態が数値化されて分かるホログラムをイメージしてね。テレビ画面に数字が出てくる感じ」
「うん…。数値化って“ちから”とか“すばやさ”みたいな奴?」
「みーちゃん…それはファミ○ン時代の……合ってるけどね。今はこんな感じ」
と地面に小石を使って何やら書き始めたトモコ。
同じようにしゃがんでそれを見ると、
名前
年齢
種族
LV
HP
MP
装備
スキル
などと書かれてあった。
「とりあえずこんなもんかなぁ」
「へぇ…これを思い浮かべればいいの?」
「そうそう」
成る程。でもステータスオープンとか唱えるのは恥ずかしいな。
心の中で唱えれば出るように願えば……“ステータスオープン”。
名前: 井ノ上 知子
年齢: 2歳(前世38歳)
種族: 神族(人族の神)
LV: 15
HP:100(MAX)
MP(GP): 100(MAX)
装備: 神王の作った綿の服(効果: 防御力∞)
神王の作ったブーツ(効果: 脚力向上∞)
スキル: 自由奔放
暴走
魅了
異世界の知識
人族の管理 etc.
おい、ヤバイぞ。
ヤバイ奴を野に放ってしまったぞ。
スキルがおかしいから。自由奔放、暴走、魅了って恐すぎる!! 何そのスキル。
そもそも、それスキルなの? 異世界の知識って何!? etc.って他にもスキルあるって事!? GPって神力!? ゴッドパワー!?
「みーちゃん? どうかしたの??」
「な、な、な、な、何でもないよーーー!?」
落ち着け。落ち着くんだ。
コイツがおかしいのは昔からだ。そう、スキルもトモコらしいじゃないか。害がなければ全て良しだ。
「よし!! じゃあみーちゃん、あの騎士で試してみようよ!!」
トモコが指差すのは丁度こちらに向かって歩いてくる騎士の事だ。
「……わかった」
とりあえずトモコが歩いてくる騎士を足止めする為に話し掛けた。
「すいませーん。ちょっとお伺いしたいのですが~」
「え? あ、はい」
美人に話し掛けられた為か、すんなり足止めに成功。
これも魅了の力だろうか?
((みーちゃん、ステータスオープンだよ))
念話で話し掛けてきたが、上手く使えないのだから止めなさい。
話し掛けたのにいきなり黙りこんだ風に見えるぞ。
という事で、トモコの下手な念話の後にすぐ“ステータスオープン”と心の中で唱えたのだが……
名前: ギャレッド・ルーカス
年齢: 21(独身)
種族: 魔族
LV: 8
HP:20
MP:15
装備: 騎士の訓練着(支給品・効果: 防御力1)
騎士のブーツ(支給品・効果: 脚力向上1)
訓練用の剣(支給品・効果: 攻撃力3)
スキル: DIY
裁縫
掃除
オカン
ギャレッドォォォッ あんたもう騎士に向いてませんよぉ!? 向いてんの主夫ぅぅぅ!!
「どうもありがとうございました~」
ギャレッドから顔をそらしたので、ステータスの確認が終わったと思ったトモコが話を終わらせた。
「いえ、あの……良かったら案内しましょうか?」
「あ、もう見えてる所なので大丈夫です。ありがとうございましたー」
え? 何、見えてる場所の道をたずねてたの?
ギャレッドすっかりトモコに魅了されてるよ?
「みーちゃん行こっか~」
腕を掴まれ強制的に連れられてその場を離れた。
「で、どうだった?」
ギャレッドから離れた訓練場の裏側で、ワクワクした顔をしたトモコに迫られる。
「見れたよ。見れたけど、これって個人情報だからあまり見たらダメなんじゃ…」
「甘いよみーちゃん!! 弱肉強食の異世界で何言ってんの!! 個人情報保護法なんてこの世界には無いからね!! 自分の身を守る為ならステータスを見るだ、見られただ、言ってられないんだよ!!」
カッと目を見開いて力説されるので、その迫力に後退りした。
「さぁみーちゃん! さっきの騎士の情報カモーン!!」
お前それ、ただの興味本位だろ。
◇◇◇
「次!! 次はロードさんのステータス見てみよう!!」
ギャレッドのステータスを聞いて散々笑っていたトモコが、目に涙を溜めてそう言い出したので呆れる。
「それよりリンの様子を見に行こうよ。ロードは忙しそうだったし」
「あ、そうだった。リン君のテスト終わったかなぁ~」
私達はリンの様子を見に移動を開始したのだが、すぐにどこで入団テストをしているのか知らなかった事に気付いたのだ。
「トモコ、リンの入団テストしてる場所「さっきギャレッドさんから聞いたよ!!」」
聞いてたのはリンの場所だったのね。
さすがトモコ。偉い偉い。
褒めるとえっへんと胸を張るので、調子に乗らないと言いながらリンの所へと移動した。




