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異世界で神様になってたらしい私のズボラライフ  作者: トール
第3章

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85.獣人族のリン


「体調はどうかな?」


美味しさにうっとりしていたにゃんこヤンキーは、私の声にハッとして自身の身体を見る。「え? え?」と言いながら、徐々に表情が驚愕に変わっていく。


「身体のダルさも重さもなくなってる!? えぇ!? 何これっ」


自身の身体から私達に目線を移し騒ぎだす。

しかし、グゥゥゥと先程よりも大きな音が鳴り「はら……へったぁ~……」と、空腹だけは体力回復薬ではどうにもならなかったのか、その場にへたりこんでしまった。


「元気そうだし、昼食にしようか」


そう声を掛けると、眉をハの字にして仰ぎ見られる。


「オレ、飯食う金持ってねぇから……」


言ってから俯き、耳を倒し空腹を耐える姿は健気で気の毒だ。


「(ロードが張り切って)作りすぎたお弁当だし、食べきれないから食べてって言ってるの。お金はいらないよ」


アイテムバッグから重箱5段重ねとヴェリウス用のお弁当を取り出し、にゃんこヤンキーの目の前に広げていく。


「お~美味しそう!! めちゃくちゃ気合い入ってるね。このお弁当」

『本当にな。あやつは昨夜帰ってきてからすこぶる機嫌が良かったからな……』


そんな話をしながら、1人と1匹が私をチラ見して目線をお弁当に移したので、心を無にする。


にゃんこヤンキーはヨダレを垂らしながら、並べたお弁当を凝視してお腹を鳴らした。


「みーちゃんお茶くださ~い」


トモコの声に、そういえば出してなかったなと思い出し、コップと冷えた麦茶の入ったポットを出す。


お弁当に夢中なにゃんこヤンキーは、アイテムバッグに注目していない為隠さずどんどん出せるから楽だ。


女子力が高いトモコは、取り皿やフォークをそれぞれの前に並べてコップにお茶を注いでいる。流石です。

勿論ヴェリウスには取り皿やフォークは無い。ワンちゃんだしね。


すっかりピクニック気分だが、実はここ、周りを家に囲まれた路地裏の一角である。人通りが無いのでまぁ良いかと落ち着いているのだ。


「それじゃあ食べようか」


決してピクニックするような環境ではないが、皆それには文句も言わずにただ一点(お弁当)を見つめている。


「ほ、本当に食べて良いのか? 後でお金を請求したりしないだろうな?!」


疑ってくるが、口からはヨダレが溢れているぞ。


「そんな事しないって」


1つだが自作薬の消費にも貢献してくれたしね。


「じゃ、いただきまーす」

『「いただきます」』


習慣が染み付いているのだろうか、食べ始めの挨拶をして手を合わせると、トモコとヴェリウスがそれを繰り返した。

にゃんこヤンキーが驚き、戸惑いながらも真似をするので素直だなぁと思いつつ食べ始めたのだ。


皆の様子を伺いつつ恐る恐る食べ始めた彼は、すぐにお弁当に夢中になった。「美味ぇ!!」と取り皿も使わずお弁当箱を持ってマンガのようにガツガツ食べているので、ロードのお弁当は美味しいよね~と誇らしくなる。


しかし喉に詰まらせそうでソワソワするな。




「はぁ~美味かったぁ!! こんな美味い飯、生まれて初めて食ったぜぇ~」


パンパンになったお腹をさすりながらそんな感想をこぼすにゃんこヤンキーに、そうだろう。そうだろうと頷く。

何しろ天才料理人(※騎士です)が気合いを入れて作った料理なのだ。そんじょそこらの料理とは格が違うのだよ。



「だよね~。やっぱりシェフ(※騎士です)のお弁当は最高だわ!」

『あやつの料理の腕だけは褒めるにあたいするな(※ヴェリウスのお弁当は生肉を並べてあっただけです)』


口々にウチのシェフ(※騎士です)を褒めるので深く頷く。するとにゃんこヤンキーが顔を青ざめさせて後退した。


「ま、さか……アンタら、人族の貴族、か…?」


今にも逃げ出しそうだったので貴族ではないと即否定したのだが、なかなか信じてもらえない。

何故なら……


「アンタはまぁ、貴族には見えねぇけど……そっちの姉ちゃんは、顔を隠していても分かる程美人だろ。しかも喋る魔獣を連れてるし……」


と、私を見た後トモコを見て言うのでイラッとした。


「美人ってのは貴族に多いし、シェフなんて一般人には雇えねぇからな」


彼の説明が私の心を抉るのだ。


「本当に貴族じゃないから安心して。シェフはみーちゃんの旦那さんだから、雇ったシェフじゃないんだよ」


トモコがでっち上げやがった。


「……そっちの姉ちゃんは一般人でも、アンタは絶対違うだろ」


やはりトモコを貴族だと思っているようだが、ちょっと私に失礼ではないか? そりゃ確かに平凡な顔した一般人だが、もうちょっとオブラートにさぁ。


「私達は本当に貴族じゃないよ。ただの冒険者」


トモコが証拠とばかりに、昨日手に入れた赤色のドッグタグを見せると、Gランクというのがまた怪しさを倍増させたようで、訝しげな表情をされた。

「金持ちの道楽?」とつぶやかれ非常に警戒されている。


確かにお供と魔獣を連れた美人の女性が、豪華なお弁当を持ってシェフだなんだと言っていれば、貴族じゃないにしてもお金持ちの家の変わったお嬢さんだと考えてしまうだろう。

更に、道楽で冒険者登録して獣人の国に遊びに来た時ににゃんこヤンキー(オモチャ)を見つけてお持ち帰りしてやろうと思っているのでは……という疑心暗鬼に囚われているのではないだろうか。


ならばここは話を進める為に、彼の想像に近い人物を演じた方が良いのではないかという結論に達した。


「実は、お嬢様(トモコ)は人族のとある商家のご令嬢なのです。私がこう言うのも何なんですが、大変変わった方でして……今回もお嬢様の我が儘でこちらの国を訪れたわけなのです。あ、騒ぎたてられるとお嬢様のご実家にご迷惑がかかるので、その事は黙っていていただけますか?」


突然の芝居にトモコとヴェリウスがギョッとしていたが、途中から私の意図に気付いてフォローに入ってきた。


「みーちゃんそれは内緒って言ったでしょ。お父様にバレたらまた怒られちゃうよ」

『怒られるのはいつもの事だろうが』


割りとノリの良い1人と1匹に感謝しつつ続ける。


「そんなわけで、貴方の力になれるかもしれません。……空腹で倒れた理由と、人族の貴族に怯える理由、良かったら聞かせていただけませんか? ついでに名前も」


さっさと吐露してくれないかとズバリ理由を聞いてみた。


「……やっぱりただの冒険者じゃなかったんだな」


信じたにゃんこヤンキーににっこり微笑むと、ポツリポツリと語りだしたのだ。




「━━…オレの名前は、リン。見ての通り猫の獣人だ」


と、シマシマの栗色尻尾をゆったりと揺らす。


「私はミヤビです。お嬢様はトモコお嬢様とお呼びください。魔獣はヴェリーです」


ヴェリウスという名に名字があるとは聞いた事がないので、名を縛られないように本名は教えなかった。

怖いよね。本名言っただけで奴隷扱いの名縛りって。(※未だに真名を知られると奴隷にされると思っています)


「わかった」


ペコリと頭を軽く下げたにゃんこヤンキーは案外育ちが良いのかもしれない。


「アンタらは、この国の獣人族が人族の国へ出稼ぎに出てる事を知ってるか?」

「……そういえば、ルマンド王国では獣人族を見かけましたね。そんなに多くはなかったですけど」


にゃんこヤンキー改め、リンにそう返事をすると意外そうな顔をされた。


「アンタらルマンド王国の出身かよ。てっきり隣の“グリッドアーデン”から来たのかと思ってた」


“グリッドアーデン”というのはどうやらこの国に隣接している人族の国の名前のようだ。

隣といっても砂漠を越えた所のようだが。


「ルマンド王国の奴ならお人好しも頷けるな」


ルマンド王国は国民性がお人好しなのだろうか? 確かにギルドではそんな感じだったが。


「あそこの騎士団の師団長は、皆強くて格好良くて優しいって有名だし、差別もないから王様が人族でも色んな種族が混在して暮らしてるって聞いた事がある。神獣様と人族の神様の加護もあるから皆安心して暮らせるらしいって」


は? 師団長……強くて格好良くて優しい? 神獣様の加護?? 人族の神の加護も?



えええぇぇぇェェェ!!!?

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