8. 身も心もピカピカですから
違った。
私が予想していた言葉とは全く違った。私が予想していたのは、
“ミヤビ、これを俺に寄越せ”
である。だってこのオッサン俺様暴走キングだし。
しかし予想に反して、何者か問われてしまった。何者かと言われてもいたって普通の異世界人なのだが。
「いたって普通の一般人デスけど?」
「一般人なめんなよ。俺みてぇなのを一般人っつーんだ」
こんな般若みたいな顔して凄んでくる、図々しくて態度も身体もデカイオッサンが一般人なわけがない。私が現実をみせてやらねばと、はっきり言ってやった。
「ハッ 変態っつーんだよ。あんたは」
「テメェッよりにもよって変態扱いしやがって! この国の王と一緒にするんじゃねぇ!!」
ちょっと待て。今聞き捨てならない言葉が聞こえたぞ。
この国の王様って変態なの? ここは変態の国なの? 国民全員変態なのぉ!?
「おい、それだとこの国に住んでるテメェも変態って事になるぞ」
「残念でした~。私は元々この国の国民じゃないから大丈夫ですぅ。しかも周りから変人扱いはされても変態扱いされた事はありませ~ん」
胸を張って宣言した。
「変人ってオメェ…んな事、よく胸張って宣言出来るな…」
オッサンが完全に引いた顔をしてこっちを見ている。
さっきとはうって変わって深刻さは皆無だ。じりじり距離を取られている気さえする。
距離を取られると逆に近付きたくなるのは何故だろうか?
お互いじりじり距離を広げたり狭めたりしていると、ふと疑問が湧いてきた。
この人の身長は2メートルを超えていると思われるが、この世界の人はこの大きさが普通なのだろうか?
気になってくると聞いてみたくなるのが人間の性である。
さっそく聞いてみると、ロードは訝しげな顔をして、片手を自身の顎に添えた。
「皆が皆ってわけじゃねぇが…種族にもよるしなぁ。俺の仕事場は比較的デカイ奴が多いぞ」
ロードの話からわかった事は、色々な種族がいるっぽい事と、ロードは比較的デカイ方に分類されるという事だった。
そして仕事…無職ではないらしい。
けれど冒険者でも宿屋の主人でもないと言っていた。しかも、ロードの仕事場はデカイ人が多いとも。
狩人とか木こり? 警備隊とか有力かも。
最有力はヤクザだけどな。
「仕事してるなら早く帰らないとクビになるよ」
まぁ首は突っ込まないけどね。
早く帰ってもらえるように話を進めなくては!
「この森に入ったのも仕事の一環みてぇなもんだ。1ヶ月やそこら帰らなくてもクビにゃならねぇよ」
1ヶ月!?
おいおい。一体どんな仕事してるんだ。
顎に生えた無精髭を撫でつけながら話すロードを見てハッとする。
「まさか、1ヶ月も居座る気じゃないだろうな!?」
さっきの話だとそういう事だよね!?
「いや、さすがにそこまではな…まぁ半月程度だ」
「大して変わんねぇよ!!」
アホかコイツ!! 何で年頃の娘さん(実際は38歳のおばさん)である私がガチムチマッチョでヤクザなオッサンの世話を半月もしなくてはならないのか!!
「オメェ言葉遣い悪いなぁ。そんなんじゃ嫁の貰い手もねぇぞ」
言葉遣い云々をコイツにだけは言われたくない。
この言葉遣いは、小さい頃よく遊んでくれた従兄弟達がヤンキーだった為に移ってしまったものなのだ。
普段人と接触する時は全て敬語で話していたので問題なかったんだよ。
大体結婚する気もないし、ずっとここで1人暮らすからいいんです!!
そう伝えると困ったような、怒っているような、眉間にシワを寄せた表情でじっとり睨まれた。
「そういうオッサンは、奥さんと子供を放置して若い(?)女の所へ転がりこむ気か!! あ~嫌だ。私が奥さんならそんな旦那とは即離婚シマスー」
「嫁も子もいねぇよ!! 勝手に想像して嫌がるんじゃねぇ!」
何と独身デシタ。
40代で独身とは…何か性癖に問題があるか離婚歴があるのだろうか?
「俺の結婚歴は真っ白だ!! それに何の問題もねぇし変態でもねぇよ!!」
あら? 口に出してました? ごめんなさいね~。
かくいう私もこの年で独身だが性癖に問題はない。と思う。
なぜ、“と思う”を付けたのかって? 恥ずかしながらわたくし、そういう経験が一切ございません。キスさえした事ありませんから。身も心もピッカピカの新品デス。