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異世界で神様になってたらしい私のズボラライフ  作者: トール
第3章

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76.冒険者ギルド


「ーー…ではこれで冒険者の登録を完了させて頂きます」


受付で恰幅の良いお姉さんが淡々と事務作業をこなし、私達にアメリカの軍人が持っているようなドッグタグを渡してから、やはり淡々と説明する。


ちなみに私達が渡されたドッグタグは赤色で、冒険者のランク(・・・・・・・)が上がる毎に色が変わるらしい。


薄汚れた3階建てのレンガ造りの建物内1階、40帖程の1フロアに受付が3ヵ所と、旅行会社や郵便局のようなイメージに近い場所へトモコとショコラ、そして私の3人でやって来たのはついさっき。


正面玄関の外側に、剣とモンスターの絵が描かれた看板を堂々と掲げているこの場所は、


そう。“冒険者ギルド”である。



ちなみに、先程いっていたランクとやらは受付のお姉さん曰く、


Gランク…赤色(←私達は今ココ)

Fランク…黄色

Eランク…緑色

Dランク…青色

Cランク…紫色

Bランク…白色

Aランク…ブロンズ

Sランク…シルバー

SSランク…ゴールド


というように変わっていくのだそうだ。上位3ランクについてはどこぞのセイントのようだと思ったが口にしない。


「成る程~。AランクはSSランクを凌ぐ力を持ってるかもしれないんだね」

「は? いえ、Aランクは一定数おりますが、SSランクは現在この世界でたった1名のみですので、かなりの力差があるかと」

「ブロンズをなめたらダメだよ。ブロンズはアテナの血でゴールドを超え…いたぁい!! みーちゃん何するのぉ!?」


何するはこっちの台詞ゥゥゥ!!


「お前が何やってんのぉぉ!? オタク丸出しでお姉さんに絡むんじゃありません!!」


トモコの頭にげんこつを入れてズルズル引っ張り受付から離れる。

「主様待って下さい~」と後ろをショコラも付いてきているが、目立って仕方がない。

さっきからジロジロと筋肉達磨みたいなムキムキの厳ついおじさん達に注目され、ここに居辛くてさっさとこの建物を立ち去りたいのだ。



そもそも、何故私達がそんな場所に居るかというと、トモコが人族の神に就任してから後にその原因がある。



◇◇◇



「何ここーーー!!! 何なのこの夢のような場所ーー!!!」


天空神殿のゴシック建築ゾーンの一角にあるバルコニーから浮島を見渡して叫ぶトモコに、ヴェリウスとランタンさんがドヤ顔で説明している。私は後ろで目を細めて心友の様子を眺めていた。ロードに抱き上げられてな。


「最っっっ高ォォォーーーーッッ」


両拳を高々と上げて吠える様は、まるで少年漫画の主人公のようだと1人ほのぼのする。


「下の浮島にある街にはどんな人が住んでるの!? やっぱりドラゴンとか竜人とか獣人!?」


キラキラした瞳でヴェリウスとランタンさんに聞いているトモコの顔が、その後の説明で固まった。いや、何やらプルプル震えている。どうしたのだろうか?


「みーちゃァァァん!!! 何っって勿体ない!!! 浮島に誰も住んでないってどういう事!?」

「え…いや、創ったばかりだし…これから住人を募集しようかなぁって……でも面倒になってきたからもう無人でもいいか……「みーちゃん!!!」ハイッ」


トモコの鬼気迫る顔に姿勢を正す。


「住人募集、私が付き合うよ!!」


またもやサムズアップされ(しかもウィンク付)、嫌な予感しかしなかった。


しかし、それからトモコの神としての勉強……主に力の制御に思ったより時間がかかり、教師陣として迎えたヴェリウス、ランタンさん、魔神の少年(名前を忘れた)が1ヶ月付きっきりでスパルタ教育を施しているらしかったのでトモコに余裕はなく、天空神殿の住人の事はすっかり頭の片隅に追いやられ、私は問題なくズボラライフを満喫していたのだ。


が、


今朝になってからそれは急変した。


1ヶ月前から深淵の森の家を増築し、一緒に暮らしだしたトモコに、早朝からたたき起こさてれあれよあれよという間に、ショコラと共に連れ出された先が“冒険者ギルド”であった。


ロードが居れば止めてくれたかもしれないが、偶々今日は早出だった為に不在であった。


勉強はどうしたと聞けば、やっと制御が出来るようになったから今日は久々の休みなんだとか。

つまりトモコから解放されたヴェリウスはこちらへは関わってこないわけで、誰にも止められる事なくここ、ルマンド王国の王都にある冒険者ギルドへと連れて来られたわけだ。

ちなみに何故ルマンド王国かといえば、単純に森から一番近いのがここだったからだとか。


そして冒頭の冒険者登録へと戻るわけだが……周りに居る、良く言えば筋肉達磨。悪く言えば破落戸が絡んでくる気満々で、異世界冒険者ギルドあるあるの結末しか見出だせないのだが、どなたか助けていただけませんかーーー?!





「よぉ、姉ちゃん達。こんな所で何してんだぁ?」


来たァァァ!!

噂をすれば何とやら(噂はしてはいないが)。


異世界あるあるその1、ギルドで絡まれる。


これは大概若い男女、もしくは子供が冒険者登録をしようとすると起こるあるあるの1つである。

「調子に乗ってるんじゃねぇぞ」「ここは女、子供の来る場所じゃねぇんだよ」等と絡まれ、金品を巻き上げたり辱しめられたりといった定番な事件が起きるモブイベントだ。


それが今、私達の身に降りかかってきたわけだが……


「ここは女、子供が来る場所じゃねぇぞ。こんな所に来る程困ってんのかぃ?」


ん?


「こんな若ぇ嬢ちゃん達が困ってんのか!? そりゃ大変だ。良かったら相談に乗るぜぇ。女、子供にゃもっと安全に働ける場所もあるしよぉ」


んん?


「何ならおっちゃんの知り合いの農家紹介してやろうか?」

「待て待て。それなら飯屋の方が良いだろ。まかない付くしよぉ」

「住み込みで働ける宿屋の方が良いんじゃねぇか?」


ぞろぞろとやって来た筋肉達磨の厳ついおじさん集団だが、話してる内容は近所で会合という名の宴会を昼間っから開いている、世話好きなおじさんと変わらない。

破落戸どころか寄り合いのおじさん達だ。


そんな人達に囲まれて仕事を紹介されているのだが…あれ? 受付の恰幅の良いお姉さんがうんうん頷き涙を拭っている様子が見えるんですけど?


「大丈夫だよおっちゃん達! 私達こう見えて結構強いし、魔物退治なんてちょちょいのちょいよ!!」


トモコォォォ!! お前魔物退治に行く気だったのかぁ!?


うはははと笑うトモコに開いた口が塞がらない。


「おいおい嬢ちゃん、魔物は退治なんかしたらいかんぞ。神獣様のお怒りに触れちまう」


おじさんの1人の言葉に「え!?」と驚きつつそうなの!? という表情でこっちを見るトモコに首を傾げる。


魔物……魔獣はヴェリウスが管理しているが、退治してもヴェリウスが怒って天罰を与える等と聞いた事がない。

トモコが今は人族の管理をしているが、魔獣に人を殺されても怒らないように、ヴェリウスだって人族に魔獣を殺されても怒らない。言ってしまえば自然の摂理である。


人族や魔獣が大増殖や大減少しない限り、そこへ神の介入は有り得ないのだ。


「そうだぜぇ。魔物はなぁ、世界を救って下さった神獣様の眷族様なんだ」

「俺ら冒険者が狩るのは“ヴェア”っちゅう凶暴な動物や、マカローっちゅう鹿の仲間だったり、“ニュル”っちゅう毒を持つワームの小っせぇのに似たやつが主だぜぇ」


おじさんの話に「何だってぇ!?」と愕然とするトモコを半目で見やる。


この世界の冒険者というのは、狩人に近いという事だろうか?


「まぁ魔物なんてDランク以上じゃねぇと相手にできねぇしなぁ」

「けど魔物以前に、嬢ちゃんらにゃ“ヴェア”を狩るのも難しいぞ~。何たって奴らは人間を食っちまう恐ろしい動物だ。一度人間の味を知っちまったら最後、どこまでも追ってくるデカい獣だぞ~」


おどろおどろしく話すおじさんに、それって熊? と思いながらも、どちらにしろ狩りに行く気はないと心の中で完全に否定する。


「主様ぁ、主様の森にも“ヴェア”は居ますけど、お魚ばかり川で取って食べてますよ~?」


とショコラが話に入ってきた。

熊が深淵の森にも居るの!? 怖っ


「小っせぇ嬢ちゃんはヴェアを見た事があんのかぃ? 危ねぇから絶対近付いたらダメだぞ。魚を食ってるうちは安全だが、人間を食うようになっちゃ終いだからな」


おじさんが真剣に注意してくるので大きく頷いておく。

人食い熊は怖いからね!!


「さっきも言ったが、Dランク以上になりゃ貴重な食料を手に入れる為に魔物と戦う事もあるぜ~」

「そうなの!?」


トモコの瞳が輝いた。


「“ハニービービー”っつー魔物の“蜜”は美味くてなぁ~。貴族がこぞって依頼を出すからよぉ。しっかしこれも大変だぜぇ。何しろハニービービーは数が少ない魔物だから殺したらだめだしなぁ」

「冒険者っぽい……っ」


格好良いと瞳を輝かせるトモコに、おじさん達は自身の冒険談を面白おかしく話してくれた。

話すうちに私達が困窮していないと分かると、安心したのか「お貴族様の道楽か」と、危険な事はしないようにと親切にアドバイスを色々としてくれたのだった。


異世界あるあるその1は不発に終わったが、その2である、“貴族と間違えられる”は発生したのだ。

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