76.閑話 ~珍獣の弟子入り2~
侍女長フィエルテ視点
神獣様にご紹介いただきました眷属様は、それはもう美しいかんばせをなさった200名でございました。
神獣様、多すぎではございませんか? なるほど、これが罰という事なのですね。
神獣様が出された条件は3つ。
一つは使用人の仕事を完璧に習得させること。
二つ目は、この王宮内で勤務させること。
そして三つ目は……2週間で神々の御前に立てるようにすること。
このように無茶な条件は初めてでございます。
勿論仕事に誇りを持っておりますし、自信もございますが、私自身、神々の御前に立てる侍女であるかと問われれば、そのような畏れ多い事は考えた事もございませんので、どうしたら良いのか……。
眷属様に私の仕事をお教えできる栄誉を与えていただいたと、浮かれていた事を反省いたします。
『勿論、そなた一人で全てを担えとは言わぬ。執事長、各責任者にも協力してもらうのでな』
と神獣様は仰られておりましたが、そのお言葉を伝えられた者は皆青ざめておりました。無理もありません。
しかし、200名もいる眷属様に、2週間で仕事を完璧に習得させるなど、どのようにお教えしたら良いのか……。
先程からため息ばかりが出てしまいます。
このような姿他の方にはお見せするわけにはいきませんので、気持ちを切り替えましょう。
さて、200名の内、約半数が侍女、80名弱が執事補助、庭師、御者、そして10数名を執事と分け、私を含め、各責任者が受け持つ事にしたのです。
眷属様方はその内訳に不満をおっしゃる事もなく、快く応じてくださいました。
こうして始まった、眷属様への教育という緊張感溢れる生活ですが、初日で眷属様方の能力の高さが発覚したのでございます。
まず、私がご教授させていただいております眷属様方は、何年も勤めているのに、お世話ひとつまともにできないあの愚かな娘達より、はるかに侍女としての仕事を完璧にこなしておられました。
お馬鹿過ぎる……ゴホンッ 愚かな娘達は、前回の事を何も学習していないのか、眷属様を平民だと侮り接しておりました。
「貴女方、家名が無いという事は平民ですのね」
「いやねぇ、侍女長が平民出だと。人手不足とはいえ、王宮に平民を入れるなんて信じられないわ」
「本当に。臨時とはいえ、陛下はどうしてお許しになったのかしら」
このように聞こえよがしに話す彼女らに、私は口を酸っぱくして言い聞かせました。しかし、貴族のプライドだかなんだかしりませんが、彼女らの耳に届く事はございませんでした。
きっとあの耳は飾りなのでしょう。いっそ切り落としてしまいたい。ついでに貴族という金にもならないお粗末なプライドもドブに流してしまいたい衝動にかられました。
「私、二度も過ちを犯す程愚かではございませんのよ」
等と私がブチギレ……いえ、怒りを滾らせていた時でした。
「諸先輩方、申し訳ございませんがそこに居られると仕事の邪魔になりますので、よろしければ王宮を出て外でおくつろぎ下さい」
「ご安心を。すでにお荷物は全て王宮外へと運ばせていただきました」
「そのまま二度と戻ってこられなくてよろしいかと」
常に3人ご一緒に行動されております眷属様が、三者三様に愚かな小娘達に声をかけ、ほうきでゴミのように掃きはじめたではありませんか。
勿論愚か者共は怒り狂い喚いておりましたので、私が侍女長の権限を以て処罰いたしました。
王宮で喚くなどもってのほかです。
そのような侍女など、いくら人手不足の王宮とはいえ必要ございません。
正直スッキリいたしました。
そこから眷属様方の怒涛の清掃(という名の愚か者退治)が始まったのです。
先程の事は序章に過ぎなかったのだと理解するまでに、そう時間はかかりませんでした。
「私共は王宮の清掃を命じられております」
「生ゴミ共は焼却処分が妥当でしょうか」
等と笑みを浮かべ、口ばかり達者な小娘達を次々と片付けていくではありませんか。
小娘達の反応は真っ青な顔で竦み上がるか、真っ赤な顔で怒鳴り散らすかのどちらかでございました。
なにしろ、反撃しようと手を上げた小娘達はことごとく叩き潰されるのです。その様が何とも華麗でした。
ある時は掃除道具でボコボコに、またある時はシルバー(銀製品のナイフやフォーク)で壁に磔にされ。眷属様方は初日で見事に自らのお立場を確立されたのですから。
『ふんっ ミヤビ様を貶めた者共など生きる価値もない。しかしあの御方はやつらの死など望んでおらぬからな。後はそなたらの采配に任せるとしよう。今後は私の手を煩わせるでないぞ』
いつの間にか私の隣に居られた神獣様が、眷属様方の行動を眺めながら仰せになりました。
やはり、眷属様方に清掃を指示されていたのは神獣様だったようです。
後始末を私共にお任せくださったのは、最後のチャンスという事なのだと理解いたしました。
あの愚かな小娘達に見合った処罰を与えなければ、私達……いえ、陛下までもが神獣様に罰せられるのでしょう。
「かしこまりました」
ミヤビ様……私はお目にかかった事はございませんが、かの御方は精霊様ではなく、神々の尊い御方なのでございましょう。
もしかしたら、この世界を救ってくださったのは……。
「彼女らは身分を剥奪後、下女として再教育いたします」
私は深々と頭を下げ、そう申し上げたのです。




