75. 閑話 ~珍獣の弟子入り1~
王宮の侍女長視点
王宮の侍女ともあろう者達が、国の来賓を軽視するなどあってはならない事!!
私の復帰が遅れてしまったが為に、このような愚かな事態が起こるとは!!
神獣様のお連れ様で、ロード・ディーク・ロヴィンゴッドウェル第3師団長のつがい様でもあらせられる御方を、平民と侮りお世話もしないなど、なんという恥さらしでしょう。
それが、精霊様だと分かった途端にあのように態度を変えて……ッ
私は憤りと、かの御方に謝罪すら出来なかった不甲斐なさで唇を噛みしめました。
なぜもっと早くに仕事へ復帰しなかったのでしょう!!
この数日、そればかりが頭を占めて、自身を省みることもできないお馬鹿な小娘……ゴホンッ愚かな侍女達を目に入れるだけでイライラしておりました。
勿論、それを表には出しません。
私はこの仕事に誇りを持っておりますもの。
そんなある日、畏れ多くも陛下からお呼び出しを受けたのです。
いえ、普段から私は陛下や王族の皆様のお世話をさせていただいておりますが、このように正式にお呼び出しを受けることは滅多にございませんから、正直緊張しております。
陛下の執務室をノックする手は微かに震えておりました。
「やぁフィエルテ。よく来てくれたね」
入室致しますと、陛下が引きつったお顔で私の名を呼びました。
様子のおかしな陛下に、私の身体も固くなります。
「失礼致します。私をお呼びだと伺い参りました」
粗相をしてしまったのかと、頭を下げている間も気が気ではございませんでした。
「頭を上げてくれ」
そう陛下がおっしゃるので、私は暫く後、恐る恐る面を上げました。
すると、入室した時にはいらっしゃらなかった神獣様の姿があるではないですか!!
これは侍女(部下)の愚かな行動の責任を問われるのだろうと覚悟いたしました。
「陛下、発言をお許しいただけますでしょうか?」
「え? あ、ああ。うん。許可する」
陛下に発言の許可をいただき、神獣様へご挨拶と謝罪をさせていただきました。
「神獣様、御前失礼致します。私はこの王宮の侍女を統括しておりますフィエルテと申します。私の部下が、あなた様のお連れ様に無礼な態度をとってしまった事……誠に、申し訳ございませんでした」
全ては不甲斐ない私の責任です。と誠心誠意お伝えいたしました。
ここで殺されても文句は言えません。その覚悟で謝罪したのですから。
しかし、出来ることならば、あの愚かな娘達を躾し直してから死にたかったと思います。
『……ふむ。確かそなたは、ミヤビ様が城を去る間際に仕事へ復帰したと王から聞いたが?』
耳心地の良い美しい、けれども冷え冷えとした鋭利な声音で話しかけられ、つい聞き惚れてしまいました。
「私は侍女を統括する身。部下がしでかした事は上司の責任。それは変わりない事でございます」
『それは、そなたが全ての責任を取って罰を受けると言っているのか』
「はい」
頭を下げたまま、強く目を閉じました。
このまま噛み殺されてもおかしくはないのですから。
『……成る程。お主がすすめるだけはある』
「あ、はい! そうなんです!! フィエルテは優秀な侍女ですから、神獣様の頼みも彼女にお任せいただければ大丈夫です!!」
先程まで、全身が凍るように冷たい声音だったのが、鋭さがとれたような声に変わり、陛下とお話されている事に驚きました。
『フィエルテ……と言ったな』
「は、はいっ」
神獣様のお声がこちらに向けられ、身体に力が入ります。
王族の皆様とお言葉を交わす機会は他よりもありますが、やはり、神様とお言葉を交わすというのは緊張するものです。
『ミヤビ様は私達の大切な御方。貴様の部下はそんな御方を平民と蔑み、心無い言葉を投げ掛けた。それを許す事など到底出来ぬ』
神獣様のこの様子から、私だけでなく、部下達も処刑されるのではないかと、口をつぐむしかありませんでした。
『上司であるそなたが責任を負うのであれば、当然そなたの上司である国王にも責任を問わねばならんな』
「「えぇ!!!?」」
神獣様のお言葉に、無礼ながらもつい面を上げてしまいました。
私とした事が、動揺してしまったのです。
『お主が驚くな。バカ者』と陛下が罵られておりますが……その通りでございますね。
陛下は昔から……いえ、ここではこの発言は控えさせていただきます。
『国王は知らぬが、覚悟のできておるそなたに罰を与えよう』
「はっ」
「ぅえぇ~~!?」
陛下、少し黙っていてくださいませ。
『そなたには、私の眷属である者達の教育係になってもらう』
え? き、教育係!?
『うむ。これは極秘だが、近々神々を迎えての重要なパーティーを催す予定でな。人手が足りぬのだ。よって、我が眷属をどこにだしても恥ずかしくないよう教育を施してほしい』
神獣様、それは…………それは、
罰ではなくご褒美ですが!!!!??




