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異世界で神様になってたらしい私のズボラライフ  作者: トール
第2章

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67.親友と疑惑


「みーちゃん、聞いて!! 実は私ね、彼氏ができたんだ~!!」


高校の入学と同時に出会ったトモコとは、もう20年近く親友をやっていた。

地元でも評判の美人で、周りに人一倍気を使う優しい子だった。

10代から20代前半の頃は、トモコにも彼氏が出来たり別れたりと恋愛模様が少しは見え隠れしたが、社会人になってからはさっぱりだった。

理由は、熱中するものが別にあったという事だろう。

まぁ、一番の原因はオープン過ぎるオタクであった事か。

四六時中「萌え~」等と言ってハァハァしていれば男どころか女も寄って来ない。

部屋も年頃の女性にあるまじき雑然とした、フィギュアとアニメグッズだらけの汚部屋だったしな。



私達の夢は、アパレルショップを立ち上げて自分達のデザインした洋服を販売する事であった。

大学(経済学部専攻)卒業後に働きながらデザイン学校に通い、10年以上を費やして費用を貯め、35才の時にやっと店舗の場所も決まって、あと少しで開店にこぎつけるぞ! という時だった。



週末の仕事が休みの日、いつものように2人で出掛けた時言われたその言葉に、ドキリとしたのを覚えている。


「みーちゃんは私の一番仲の良い友達だから、一番に報告したくって」


と無邪気な笑顔で話すトモコは、本当にうれしそうだったのだ。

勿論親友に久しぶりに彼氏が出来たとあっては喜ばないわけにはいかない。しかも35才である。結婚も視野に入れているのだろう。

とはいえ、内心は複雑であった。

何しろ夢を叶える目前まできているのだ。一体店はどうするのだろうとか、自分本位な考えをしてしまっていた私は、心の底からは喜べないでいた。


毎日していたメールも日に日に減っていき、店舗の下見や布屋巡りで毎週のように出掛けていた事も嘘のようになくなり、それに比例して嫌な事を考えるようになっていたある日、半年前から約束していた年末の旅行が金欠で行けなくなったという連絡がきたのだ。


“そっか、残念だけど仕方ないね”


と返信してから2カ月後の年明け、彼氏と旅行に行って来ました~の文字と共に写真付きでアップされたSNSを見てしまい愕然とした。


それから1カ月後、トモコから久々に遊びに誘われノコノコと出掛けた日に言われたのがこれだった。


「アンタより彼氏の方が大事だし。友達なんかいらないから。夢? 彼氏と結婚の約束したから無理よ」


驚きとショックと、やっぱりなという気持ちでぐちゃぐちゃになった頭では、怒りに任せた自分本位な言葉しか吐けなかった。


「そんなんじゃ友達いなくなるよ」

「せっかく今まで頑張ってきたのに台無しだよ」


今でもその時自身の吐いた言葉は後悔している。私は自分の事しか考えていなかったと。

だからトモコが私を見限っても仕方なかったのだと。



それからしばらくして、私はこの世界へと転生したのだ。



***



「それで、オメェはどうしたい? 何でミヤビの作ったピアスを人族の神が付けてんだって締め上げるか?」


どうしたいって……私は一体どうしたいんだろう。

ロードに問われて、改めて考えてみる。


人族の神はトモコと接触しているのかもしれない。

ピアスを持っているのだからその可能性が高い。

接触しているという事は、この世界にトモコが居るかもしれない。人族の神が異世界を行ったり来たり出来るなら話は別だが。


となると、トモコと会いたいか会いたくないかという問題になってくるわけだ。


決別から2年経っているわけだし、トモコに対して特にどうこう思っているわけでもない。

急に態度が変わったのには驚いたが、もしかしたら元々トモコは私を親友だと思ってはいなかったのかもしれない。

自分本位の私に呆れてあんな風に言わせてしまった可能性もある。

どちらにしても過ぎた事なわけだから、それはそれで掘り返すのも面倒だなというのが本音だ。


会わないという選択が一番良いのだろう。

けれど20年の友人関係が、トモコが心配だと…そう訴える。


「ミヤビ、んな顔すんな。オメェにゃ俺が居んだろ」

「ロード……」


私、今どんな顔してますか?



◇◇◇



珍獣3人娘に先導され、ロードに抱き上げられて控えの間へと運ばれる。

私をソファに降ろすと当然のように隣に座ったロードは、何故かさっきからずっと頭を撫でてくるのだ。

正直、首がグキグキいってて痛いんだが。


「ロード、どうしたの?」


撫でるのを止めてもらおうと話し掛けたが、微妙な顔をして私を見るだけで続けられる。


「…あの、痛いんですケド…」

「…オメェ自分が今どんな顔してるか分かってねぇだろ」


呆れたように呟いて、頭を撫でるのを止めてくれたのだが、代わりと言わんばかりに膝の上に乗せられ抱きしめられた。


「顔? 変な顔になってる?」


自身の顔に手を当て確認するが、いつもののっぺりした凹凸の少ない感触である。


それを見て一層溜め息を吐くロードに、何だよと思うが口には出さなかった。


「オメェとその親友との間に何があったか知らねぇが…会うのが恐ぇって顔してんぞ」

「え…」


そう指摘されて頭がフリーズした。


恐い……私は、トモコに会うのが恐いのだろうか?


「なぁミヤビ……親友(そいつ)が、森に引きこもってる原因なのか?」


確かに、トモコの事は人間不信になった一因でもあるが、森に引きこもったのは会社の人間関係だったり、母の事だったり、ともかく色々な事が積み重なったせいなのだ。

全てがトモコのせいではない。


何が一番の原因かと言われたら、現代社会のストレスに耐えられない私の狭量な心と、このズボラ精神。これに尽きるだろう。


「違うよ。ただ私が臆病でズボラなだけ」


自身が情けなくて苦笑いが出るが、ロードはそれを笑ったりせず、ただ真っ直ぐに私を見ていた。


この人は強い人だ。

腕っぷしがとかそういう事ではなくて……勿論物理的にも強いのだろうが、心が強いという意味で、だ。


その上真っ直ぐで、だから……


だから私はロードを受け入れる事が出来ない。


自分に自信が無いから。

こんな素敵な人は、私のように弱い人間には釣り合わないだろう。

私には勿体ない人だと思う。


けれども、つがいだからというのをいいことに甘えている私は、本当に最低だろう。


離れて欲しいのに離したくないのだ。


「ロード、」

「何だぁ?」


視線をそらし俯いて、目の前の人の名前を呼ぶ。


「……ロード、」

「どうした、ミヤビ」


優しい声で囁くように応えてくれるロード。

しかし私はそれに溺れるわけにはいかないのだ。

男に甘やかされて流されるなど言語道断。


いや、甘やかされて流されるのがダメというわけではないのだ。


男性に甘やかされるのは、それだけ駆け引き上手で計算高い頭の良い女性だという事。

流されるというのは、それだけ相手を信頼していおり、相手にリードさせる事を許せる器のデカさを持っているという事なのだろう。


しかし私は頭も良くないし、そんな性分でもない。守られるより守りたい派である。そう、夫よりは嫁が欲しい!!


「人族の神と一対一(サシ)で話がしたい」


ロードの目を見てそう言えば、彼はニッと笑ってまた頭を撫でてきた。


「オメェは本当に手強いねぇ」


ニヤニヤ笑って意味がわからない事を言われ首を傾げる。


「良いぜぇ。ただし、サシは止めろ。話がしてぇなら俺とヴェリウスも一緒だ」


一対一は許してくれそうもないのでその条件で頷けば、人族の神との会談をセッティングしてくれる事となった。


表向きは、“創世の神”との交流という事でね。




ビュッフェスタイルのパーティーは好評のうちに終わった。


皆が口々に「またやって欲しい」「自分の管理する種族に広める」「レシピをウチの精霊に教えてほしい」だのと言って満足したように帰って行った。


しかも浮島に住みたいという者も何人かいたようだ。

その内リゾート地にする予定なのでまた遊びに来て欲しい。


『ミヤビ様、人族の神には改めて交流会の日時と場所を指定する旨を伝えました。しかし本当にあやつが例の事件と繋がっているのでしょうか?』


信じられないといった様子のヴェリウスに、もう一度説明する。


「十中八九そうだと思うよ。本人は隠しているつもりだったけど、こっちを蔑んだ目で見ていたしね。目は口ほどに物を言うとはよくいったものだよね」

『あやつは私の次に神王様に執心しておりました……一体何故っ』


苦しそうに言葉を吐くヴェリウスをゆっくりと撫でる。

もしかしたら、“創世の神”というのは兄弟のようなものなのかもしれない。


異界(・・)にまで行って神王様を探して居たというのに…っ』

「異界!? ヴェリウス、人族の神は異界に行く事が出来るの!?」

『え……? は、はい。我ら“創世の神”の中でも、異界に行く能力があるのはあやつだけですが……ミヤビ様は異界に興味がおありで?』


その言葉に確信した。

やはり人族の神はトモコに接触していたのだ。


人族の神は神王を探しに異界に行ってトモコを見つけたのだろうか?


となると、本当の神王はトモコだったとか?

それなら神王として崇められている私を見て、蔑むような目を向けたわけもわかる。


『ミヤビ様……?』


不安気な声で見上げてくるヴェリウスの顔をちゃんと見られないまま、交流会という名の対決の日を迎えたのだ。



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