65.ピアス
両サイドにショコラとロードを連れた状態で、ロードに手を引かれ降りてきた階段の下には、私より身体の大きな神々が行列を作って待っていた。
それはまるでアイドルの握手会のような熱気を感じさせ、変な汗が出てくる。
「神王様、“創世の第一神”としてご挨拶させていただける事、嬉しく思います」
先頭に居たランタンさんにそう言われ首を傾げる。
はて? “創世の第一神”とな?
よくわからず首を捻っていると、今度はヴェリウスから“創世の第二神”と挨拶され、続いて魔神の少年から“第三神”と挨拶された。
意味はよく分からないが神の中にも位があるのかもしれないと気づき始める。
つまりこの行列の前列に並ぶ神程、位が高いのだろう。
人族の貴族で例えれば、ランタンさんやヴェリウスは王族に連なる、公爵のような位を持っているのかもしれない。
それから獣人の神達とも言葉を交わした。
獣人の神に関してはヴェリウスが兼任していると思ったが、魔獣と獣人は全く異なる種族との事で、管理する神が別なのだと後にヴェリウスから聞く事となる。
第六神は人族の神だった。
プラチナブロンドの癖の無い髪を腰まで伸ばした、男性とも女性ともつかない中性的な容姿で、色白な絶世の美人であった。ヴェリウスいわく彼は男性だそうだ。
ランタンさんといい、神とは性別のわかりにくい生き物であるらしい。
ニコニコと女神のように微笑み、優しい声で自己紹介をしているが目の奥は冷え冷えとして笑ってはいない。
何と分かりやすいのだろうと思いつつ、こういう人にこそ愛想笑いを振り撒いてしまう。多分端から見ると第六神を気に入ったと思われているだろう。
その後も第七、第八と続き、徐々に精神がすり減ってくる。体力は服のおかげで何ともないが。
皆が皆、大好きなご主人に会えた子犬のような瞳をして見てくるのだから仕方ないだろう。
だから余計に第六神のあの瞳は目立つのだ。明け透け過ぎて逆に笑えてくる程に。
本人が笑みを崩さない事から、上手く隠せていると思っているようだが。
十中八九黒幕(仮)は彼だろうと目星はつくが、いまいち理由がわからない。
何しろ会った事も話したこともないのだ。あんな蔑んだ目で見られるような覚えはない。
もしかしたらどこかで会った事があるのかと考えたが、あんな容姿の人に出会っていれば絶対忘れないだろう。
1500人の神々との握手会も終わり、やっと食事を堪能出来るとビュッフェコーナーに目を向ければ、すでに人でごった返していた。
「な、何だ!! この美味すぎる料理は!?」
「こんな美味しい料理は初めてだ!!」
等と次々に声が上がっている。
神々は人間の食べ物を食べなくても生きていけるそうだが、皆それはもう嬉しそうにお皿に色んな料理をよそい、わいわいと談笑しながらソファに座って食べていたり、珍しそうに見ていたり、魔神の少年のように美味しかった料理をまた取りにいって行列が出来たりと思い思いに楽しんでいる。
握手会の最後の方の神々なんて、ソワソワとビュッフェコーナーを見て心ここにあらずだったしね。
私だって早くビュッフェコーナーに行きたかったさ!!
ヴェリウスやランタンさんまで私を置いて先に楽しんでいるなんて……っ。
「ロード、ショコラ、早くビュッフェコーナーに行こう!!」
勢いよく一歩を踏み出せば、ロードにガシッと腰を抱かれて止められた。
「ミヤビ、悪ぃがオメェはあっちだ」
指をさされたのは、階段の上にポツンとある王様椅子であった。
ズルズルと引きずられるように移動させられ、1人食事も出来ずに椅子へと座らされる。
絢爛豪華な椅子が、何故か今は孤島のように感じた。
2段下の左右にはやはりロードとショコラが立ち、無表情でダンスホールを見ている。
「2人共、お腹空かない?」
恐る恐る聞けば、
「ショコラはさっき控えの間でお菓子を一杯食べたので大丈夫です!」
と返ってきた。ロードは…と見れば、
「俺ぁショコラと違って腹一杯食えば動き辛くなるから食ってねぇけど、まぁこういうのにゃ慣れてるからなぁ」
と言われた。そういえばロードの職業は騎士だったなと改めて思う。
2人にそんな事を言われたら、お腹が空いたからビュッフェ行きたいなんて言えなくなるわけで……仕方なく目下の神々を観察する事にしたのだ。
主に人族の神をね。
サラサラ揺れるプラチナブロンドのスーパーストレートに、
へっ羨ましいこって。
等と思っていると、チラリとのぞいた耳にキラリと光る何かが見えて目を細める。
ピアスだろうか……?
この世界でピアスをしている人をあまり見かけなかったので珍しいなぁと注目したのだが、あれ? 何か見たことあるような……??
「っ!?」
ガタンッ と音を立てて立ち上がってしまい、ロードとショコラがぎょっとしてこちらを見ている。
幸いダンスホールへは、人々の声と音楽でかき消されたのか聞こえなかったようで注目はされなかった。
「ミヤビ、どうした?」
「主様? お腹空いたのですか??」
2人が声をかけてくるが、私はそれどころではなかった。
何せあの人族の神が付けているピアスは、私が昔ある人に作ってあげたものだったからだ。




