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異世界で神様になってたらしい私のズボラライフ  作者: トール
第2章

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61.神王様の威厳を守れ!!


「……神、王様…?」


ヴェリウスの言葉で魔神が私に気付き息を飲んだ。

何故か耳まで真っ赤に染めて此方を凝視してくるので顔が引きつる。

しかも慌てて膝をつき頭を垂れ震えているので、怒られたと思って泣いているのかもしれないと動揺した。


ロードからは禍々しい空気が漂ってきているが、気にしてはいけない気がする。


「神王様、魔神ジュリアスは今すぐ天空神殿より退場させますゆえ、どうかお許し下さい」


ランタンさんまでそんな話し方!? しかもルールを守れない奴は殺す的な、残酷無比な神王像を作り上げようとしてないか!?

ここはそれを否定しないととんでもない闇落ち神王が誕生しそうだ。


こういう時は親しみやすくフレンドリーに話し掛ければ変なイメージもつかないだろう。


「大丈夫だ『ゴホンッ』顔を上げて「オホンッオホンッ」」


大丈夫だよ~。顔を上げてくれると嬉しいなぁ~。って言ったの伝わったかな? 途中でヴェリウスとランタンさんが咳してたけど…風邪でも流行ってる?


「神王様…っ」


私の言葉に顔を上げてくれた事で、フレンドリー作戦が成功したかとホッとした。

しかし魔神は瞳をうるうるさせ、未だ顔を真っ赤に染めて、めっちゃ怒られて泣きそうな子供の表情のままだった。


これ私が泣かしたみたいになってない?

ど、どうしよう……赤ちゃんや幼児なら抱っこしてあやせば泣き止むが、15、6の少年にそれをすればただのヤバイ女だ。


「すげぇっ すげぇ…っ やっぱり神王様の力、半端ねぇよ…ッ」


え? 何だって? ちょっと声が小さすぎて聞こえなかったんだけど。

涙目で震えている様子と、微かに聞こえた声で想像するに…


“やべぇっ やべぇ…っ やっぱり神王様の力で首をはねられるよ…っ”


と言っているのだと思われる。




はねねぇよぉぉ!? 不思議なトランプの国の女王じゃねぇから!! お前の中の神王どんだけ恐ろしい存在なんだよ!!


これはやはり抱き締めて、私は優しいんだよ~って伝えた方がいいのか? しかし下手をすると変態のレッテルを貼られる事になる。


ロードさんスミマセン。そんなに睨まないで下サイ。嘘です。抱き締めたりしませんから。その般若のような表情は止めて下さいお願いします。



……食べ物でつるしかないか。

丁度よくここにはビュッフェがある!! この日の為に考え抜かれた200種類の惣菜達とスイーツ達だ。泣く子も黙るに違いない!!


「待ちきれない『ゴホンッ』達もいるようだ「埃っぽいですわね」…開演時間を早めようか。君はここで待てばいい『ゲホッ』」


埃っぽかった!? だからヴェリウスもランタンさんも咳をしているのか。

空気清浄を願い、乾燥対策もしておく。



◇◇◇



「ちょっとヴェリちゃん、ただでさえ清々しい空気が清浄になりすぎて荘厳な空気に昇華しちゃったわよ!?」


『ふむ、ミヤビ様の尊さを演出するには丁度良いではないか』


「そうはいっても、あの話し方では可愛さアピールは出来るけれど、威厳や尊さをアピールするのは難しいんじゃないかとアタクシは思うわ」


『だからこそ我らの出番であろう』


「風邪もひいていないのに喉が潰れそうよ」


『ミヤビ様の可愛らしさはあの語尾にある。語尾さえ何とかすれば威厳は保たれるのだ』


「神王様なら威厳がなくともあのお力で皆をひれ伏させる事も簡単にできるわよ」


『馬鹿者。それでは力を感じ取れぬ精霊共になめられるではないか! それだけは我慢ならん!!』


「まぁアタクシもそれは我慢ならないけれど…何というか、神王様とジュリーちゃんとの間にどんどん誤解という名の壁が出来上がっていってる気がするわ」


『それはそれで好都合よ。神王様は特別なお方だ。近付く事はままならぬと刷り込めば馴れ馴れしく付きまとうような真似はすまい』


「アンタ…まるで娘に近付く虫を潰していく父親みたいだわ」


『フンッ そう捉えられても構わん。虫は潰す。例えそれが神であろうとな』


「…アタクシ、きっとアンタと性別を取り違えられたのだわ」



◇◇◇



パーティーの開演時間を早めようと言えば、ヴェリウスとランタンさんが相談し始めたのでその間にビュッフェの惣菜をチラ見する。


グラタンやパスタ、カレーにハンバーグ。そしてフライドポテトというお子様大好きメニューから、サンドイッチやハンバーガー、おにぎりのような軽食、野菜の煮物や炊き込みご飯、豚汁などの家庭料理も充実している。

もちろん高級レストランのような料理まで取り揃えてあるのだ。

保存魔法をかけているので全てが出来立てで美味しそうな上、盛り付けまでもが完璧な仕上がりである。


ヤバイ。魔神でなくても我慢出来ずに食べたくなってしまう。

ヨダレが止まらない。


『神王様、ご命令通り開演を早めるよう伝えておきました』

「もう間もなく神族がこちらに入室致します。神王様は控えの間にてお待ちいただくようお願い申し上げます」


相談し始めてからそれほど時も経たないうちにヴェリウスとランタンさんが頭を垂れた状態で答える。


その遊びいい加減止めませんか?


そう思うのに皆それが当然のような態度で居る事に居心地が悪くなりソワソワしてしまう。


「ミヤビ、控えの間へ戻ろう」


スッと立ち上がり、そばへやって来たロードが私を抱き上げて移動し始めた。

ショコラと3人娘が後ろへと続いている。


「神王様っ」


魔神に呼び止められたが、横抱きにされていて姿がみえない。

ロードに待ったをかけるが全然歩みを止めないのでバシバシと胸板を叩く。しかし硬い鎧に阻まれ手が痛むだけだった。


結局無視した形で階段をのぼりきり、控えの間に続くカーテンの扉を潜ってしまった。


「ロード、あの子何か言ってたけど…」


私をそっとソファへ降ろし兜を取り外したロードの形相は、悪鬼を通り越していた。


「ミヤビ…オメェそんなにあのガキが気に入ったのか?」


撲殺されるかもしれない。


そう思わせるようなどす黒いオーラを放ちながら問い詰めてくるロードに、3人娘は空気を読んでショコラを連れ退室してしまった。

ヴェリウスもランタンさんもダンスホールに残っている。

助けは来ない。


「何を言ってるのかなぁ? 気に入るとかそんなアレじゃなくてデスネ、あの、必死に声をかけられたら普通振り向きません、か……ヒィィィッ!!」


益々顔が凶悪になったァァ!! ゴメンナサイゴメンナサイ。殺さないで下さい。


「あのくそガキ……俺の(・・)つがいを自分のもん扱いしやがった…っっ」


ギリギリと歯を食い縛るので、段々と、若い男と浮気して夫に責められる妻の気分になってきた。


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