58.主人公はダークサイド
そりゃあ、そんな鎧を着ていたら暑いにだろう。
しかし一体何があってそんな恐ろしい姿になったのだろうか…。
「違ぇよ。オメェが綺麗すぎて興奮したから体が熱くなったんだよ」
え゛…
「オメェ綺麗過ぎんだろ。勿論いつも可愛いけどよぉ、今日は神々しさもあいまって眩しいぜぇ」
禍々しい鎧を着たまま私を抱き上げるロードに顔が強ばる。
まさかさっきのコフー…コフー…という音は、興奮し過ぎてあららげた息の…?
「キャアァァーーー!! 神王様ぁ~っ 何ッッてお美しいのぉぉ!!」
突然上がった黄色い声にビクッと肩が揺れる。
何事かと声の上がった方向を向けば、ランタンさんがキラキラした目でこっちを見て「素敵ィィ!!」と、イケメン俳優を見たおば様のように騒いでいた。
相変わらず見事な偽メロンを、今日はきらびやかなドレスに収めている。
胸元が開いてウェストが絞られたプリンセスラインのドレスを着用している事から、この世界はバロック期直後のロココ時代辺りのドレスが主流なのかと推測出来る。
もしくはランタンさんが胸元を強調させたいだけなのかもしれないが…しかしこの人にはプリンセスラインよりマーメイドラインの方が似合う気がする。男性なので長身だし。
デコルテ部分はあえてレースで透け感を出して袖は無くし、マーメイドラインに変えて背中はパックリ開ける。
前面の膝辺りに柄を持ってきてそこからきりかえて裾が広がるようにすればよりゴージャスになるのになぁ…
等と思っていたら、ランタンさんのドレスがいつの間にか私が想像したドレスに変わってしまっていた。
「あら…?」
「うわっ ごめんなさい!! すぐ元に戻すから!!」
慌てて戻そうとすれば、フルフルと震えて顔を真っ赤にしたランタンさんの様子にギクリとする。
絶対怒っている!! 早く元に戻さないとマズイ事になる!!
そう思っていたのだが…
「何て…っ 何て素敵なドレスなのかしらぁ!!」
「え、あの…元に、」
「いいえ!! このドレスのままでいさせてくださいませっ お願いします!! こんな、アタクシの理想の遥か上を行くドレスに出会えるなんて…!!」
ウフフフ…とその場でクルクル回りだしたランタンさんに引きつる私の表情筋。
「ミヤビ、放っておけ」
『さっきの形のドレスよりはるかにあやつに似合っておりますゆえ、宜しいかと。流石ミヤビ様です』
ロードとヴェリウスにそう言われては放っておくしかない。
申し訳ないと思いながら、一応元々着ていたドレスを創って3人娘に預けておいた。
後でランタンさんに届けてもらおう。
「そうですわ! 神王様、ロードちゃんの鎧はどうでしょうか!!」
我にかえったようにハッとして話し出したランタンさんに首を傾げる。
「アタクシ、ロードちゃんが竜騎士だと知って急遽用意しましたの!!」
ロードちゃん……
「ドラゴンちゃんの鱗を加工して作った鎧、軽くて丈夫で、こう見えてとっても動き易いんですのよ~。そうそう、この大剣っ こちらもドラゴンちゃんの牙を加工して作っておりますの。攻撃力も前のものとは段違いですから、精霊程度であれば負けませんわ!!」
と通販番組のように紹介されたロードの鎧。
暗黒騎士を爆誕させたのはあなたの仕業か。
通販のノリでこんな禍々しい騎士を誕生させないで欲しい。敵襲かと思った。
しかしこの2人、いつの間に仲良くなったのか…。
ロードの肩に触れるランタンさんの手と、ちゃん付けにもやもやする。
「ちょうど暗黒竜の鱗が生え変わる時期でしたの!! 良かったですわ~。神王様の護衛の強化が出来て」
いや、もう護衛っていうか……これ護衛にしたら私達ダークサイドじゃないですかね?
この暗黒騎士が黒緑のドラゴンに乗ってみろ。もうラスボス感半端ないから。
“この世の全てを闇に変える。それが私の生きる意味だ━━…”
とか言い出しそうなんだけど。
コフー…コフー…が繰り返すと不幸…不幸…に聞こえてきそうな勢いだ。
想像してみてほしい。
今私達と敵対している神(であろう黒幕)の神殿は真っ白だった。あの神(であろう黒幕)が着ていた服も(裾しか見えなかったが)白かった。そして精霊は中性的な美人。
対してこちらは、黒い犬(牙をむくとかなり凶悪)に黒緑のドラゴン(見た目だけはちゃんとしたドラゴン)、2メートル超えの長身である暗黒騎士(禍々しいオーラを放つ)と美少女(人質に見える)である。
端から見ればどちらが正義でどちらが悪か。
こうなってくると私の立場は良くて、闇落ちした神王。悪くて前神王を殺し、取って変わろうとする偽神王である。
ヴェリウスとランタンさんの反応から見て、神々からは前者だと思われそうだが、精霊からは後者だと思われるだろう。
どっちみち悪者だ。
マズイ。マズイぞ…。その内勇者とか出張ってきたらどうしよう……。
「うぉーーー!!!! すっっげぇーーーー!!!!」
暗黒騎士のせいで色々考えていると、突然控えの間のカーテンの向こう側、ダンスホールからいかにも元気ハツラツな少年の声が響いた。
「…どうやら先走ったゴミが入り込んだようですわ」
『ミヤビ様、片付けて参りますので暫しお待ちを』
ゆらりと立ち上がると、どす黒いオーラを纏いながら悪鬼のような顔つきでカーテンの向こうへと消えて行ったランタンさんとヴェリウスに、ダークサイド妄想が着々と現実化されていっているこの事実に愕然としたのだ。




