48.水風船と犬
「貴女のお顔は確かに綺麗だと思いますが…「やぁ~ん! 聞いた? ヴェリちゃん! アタクシ神王様にお顔を褒められちゃったわよ!」」
きゃーきゃー喜んでヴェリウスの方へメロンを揺らしながら駆けていったメロン閣下に、ヴェリウスはうんざりした様子で後退りしている。
2人は仲が良いのだろうか? ヴェリウスも極上の美獣なので美しい者同士気が合うのかもしれない。
『ミヤビ様、騙されてはなりません。こやつはこのような格好をしておりますが、実は男です』
「あはは。ヴェリウスってばそれはさすがに無理があるよ~」
ヴェリウスの衝撃的な言葉も、メロン閣下のメロンを見ればすぐに信憑性がなくなる。
だってあのメロン、服から3分の1程出てるからね。間違いなく本物だから。
「嫌だわ~。アタクシが男だなんておかしな事言うんじゃないわよ。この小娘」
ウフフフと笑うメロン閣下の目が笑ってないのは何故だろうか。
「ヴェリウス、まさか本当に…?」
『はい。間違いなくあやつは男です』
私のそばに逃げて来たヴェリウスがそう言って足元にすり寄った。
「ずるいわよヴェリちゃん!! 神王様にくっつくだなんて羨ましい!!」
ぎゃんぎゃん騒いでいるメロン閣下を観察する。
男性特有の喉仏も無いし、丸みを帯びた身体は女性そのものだ。たゆんたゆんと揺れるメロンも偽物には決して見えない。
「う~ん…男の要素が見当たらない」
『では証拠をお見せしましょう』
そう言って悠然とメロン閣下の方へ歩きだしたヴェリウスの牙がギラリと光る。
「な、何よ」
何かに感づいたのか、たじろぐメロン閣下に口をガバッと開き…
パアァァンッ!!!!
ヴェリウスがメロン閣下のメロンに噛みつき、まさかのグロ展開か!?
と思ったら、まるで風船が割れるような音がし、メロン閣下はまな板貧民へとジョブチェンジしていたのだ。
しかも水浸しになって。
まさかの水風船…
「嫌ァァァァァ!!!? アタクシの自慢のおっぱいがァァ!!」
まな板貧民となった竜神だが、顔が変化したわけではないのでやはり男性に見える事はない。どちらかというとスラリとしたモデル体型の美女になっている。
しかしヴェリウスは満足そうにしたり顔で戻ってきた。
『ミヤビ様、お分かり頂けましたでしょうか』
「う~ん…胸の無い女性もいるからなぁ…」
『それだけでない事はこれから分かります』
尻尾をゆったり振ってニヤリと笑う理由が、これから分かるらしい。
「ヴェェリウスゥゥゥ!!! アタクシのおっぱいに何しくさってんだゴラァァァ!!」
嘆き叫んでいた竜神の声が、低くなり、漢が顔を出した。
しかも身体の造りがボコンッボコンッと筋肉隆々に変化していき、顔は極上美女、身体は細マッチョと何ともアンバランスなものに変わって逃げ出したくなった。
『これが竜神ランタンの本当の姿です』
さして動揺もせずサラッと言う彼女は、もしかするとメロン割りをよく行っているのかもしれない。
「小娘ぇぇぇ!! 昔っからアンタはアタクシのおっぱいを見ればぱんぱん割りやがってぇ!!!」
仕方ない。犬だから。
「これ作るの結構大変だって言ってんだろうがぁぁぁ!!!」
まるで本物のようだったもんね。どうやって作るのかちょこっと知りたい…。
「ヴェリウス、オネエ…様のメロンは割らないようにね」
『どうしてですか? アレを割るのは面白いから好きなのですが…』
首を傾げてうるうるした目を向けてくるヴェリウスが可愛すぎる。
「オネエ、様にとってはお胸は大事なものだからだよ。そんなに水風船を割りたいなら私が出してあげるから」
『ミヤビ様っ』
キラキラと目が輝いているので、ふわっふわの首元に手を埋めてわしゃわしゃと揉むように撫で回す。
表面のサラサラな毛も気持ち良いが、内側のたんぽぽのようなふわふわとした毛の感触は格別だ。
と、まぁ我が家にやって来た竜神ランタンさんはオネエだったわけだが、彼女がやって来たのはお礼を言いに来ただけが理由ではなかったのだ。
「というのも、神王様にお知らせしたい事がございまして…」
私の力でメロンを元に戻してから機嫌が直ったランタンさんが、改めてキリッとした様子で話し出した。
ヴェリウスがメロンを見ていたので、なかなか割れない水風船を用意して遊ばせているが、話は聞かなくていいのだろうか。
「何かあったのですか?」
「実は、今回のような神族の眷族を狙った事件が他にも何件か起きているようなのです」
何とランタンさん、独自の情報ルートを駆使して調べてきてくれたらしい。
『普通に神族の井戸端会議で噂にのぼっただけでしょう』
ガジガジと水風船を甘噛みしながらボソッと突っ込んできたヴェリーちゃん。
井戸端会議って、神族そんな事してんの!?
「ヴェリウスからの情報で、今回神族がそれに関わっている事を知ったのですが…我らからそのような不忠者が出るとは許しがたい事です」
ヴェリウスも井戸端会議に参加したの!? いつの間に!?
『神族は念話で情報のやり取りをしておりますので』
驚きが顔に出ていたのか、疑問に答えてくれたヴェリウス。
全部顔に出ているとかでしょっちゅう考えを読まれている為、最近考えを読まれる事が当然になっている気がする。
「そこで畏れながら神王様にご提案があるのですが、お話させていただいてもよろしいでしょうか」
「あ、はい。お願いします」
ランタンさんの言葉に姿勢を正し、聞く体勢になる。
「近々に、神王様と神族との顔合わせをかねたパーティーを開かせていただきたいのです」




