43.どんでん返し
「ハァ、ハァ……ッ ミヤビ、待ってろよ…っ いま、いく……」
えぇェェェ!!!? すでに瀕死ーーー!!!?
「ロード!? 何で瀕死なの!?」
ロードを召喚したら目は虚ろで汗を吹き出し、意識が朦朧として倒れてるんですけど!?
『…ミヤビ様、何てモノを召喚しているのですか…』
《ロード様、魔力の使いすぎですね~》
ああ…飛行訓練まだやってたんだね。
ロードを回復させながら偉い偉いと頭を撫でてやる。
こんな頑張り屋さんだから師団長になれたんだろうなぁと思いながら。
『何故ソレを召喚されたのですか?』
「だって2人が暴走していたから、止められる人を呼んだんだよ」
結果的に止める事が出来たわけだし。
『…申し訳ありません』
くぅ~んと鳴いてすり寄ってくるので可愛くて首や頭に顔を埋めれば、パタパタと尻尾を振っている音と風を感じる。
《主様ぁ~ごめんなさい》
ドラゴンの姿なので抱きついて来れないショコラは、鼻の頭だけを肩に寄せてきた。
「2人共怒ってくれてありがとうね」
両手に花状態でもふっていれば、地をはうような声で「おい」と聞こえそっちを見る。
「ミヤビは俺のつがいだぞ!!」
バリッという音がするんじゃないかという位の勢いで2人から剥がされた私は、あっという間にいつもの定位置へ。
「ロード、もう大丈夫?」
そうロードの腕の中である。
「ミヤビ、回復してくれてありがとうな……っじゃねぇよ!! 何で黙って出掛けやがったこのバカが!!」
「黙って出掛けてないよ。ちゃんと伝えたよ」
「アホか! マカロンにゃ伝わっても俺に伝わってなけりゃ意味ねぇんだよっ」
怒っているのにぎゅうぎゅう抱き締めてくるので苦しいんだけど。
「聞いてんのか!?」
「ハイ! 聞いてマス!」
鬼の形相で睨んできたので姿勢を正して即座に返事をする。
「っとに、オメェは目が離せねぇ」
「スミマセン…」
説教モードに入ったロードに、何か忘れてる気がするなぁと思うが、今目をそらすと大変な事になるので仕方なく怒られる事にする。
しかし最近ヴェリウスとロードによく怒られてるよなぁ。
『ロードよ、説教は帰ってからでも出来るであろう。そろそろこっちの問題に目を向けてやらねば、精霊が拗ねてしまうぞ』
「あ゛ぁ゛?」
ヴェリウスの声に振り返るロード。
良く言ってくれたヴェリーちゃん。しかし帰ってからも説教されるの? ご勘弁を~。
「…次から次へと忙しい奴らだ」
動けない間抜けな精霊男はそう呟くと召喚したロードを見た。
「召喚とは…貴女も神か」
等と言って私に目を移すので、ロードが視線を遮るようにさらに腕の中へと閉じ込める。
「テメェ……何人様のつがいを見てやがる。殺すぞ」
ヤンキー襲来ィィ!! 止めてっ何か恥ずかしいから!
「つがい…貴様人族か…まさか神をつがいだという人族がいるとは……」
少し驚いたように表情が動いたが、またすぐ無表情に戻るとじっとロードをみている精霊男。
「だから何だ」
警戒し始めたのか、私をヴェリウスとショコラの間に降ろすと剣を構えるロードは忘れがちだが騎士なのだ。
決してヤンキーやヤクザ、冒険者ではない。
「人族は弱い。私は人族に手を下す趣味はない」
動けないクセに格好をつける精霊男の方が騎士に見えてきた。
「弱いかどうかは試してからにしろや」
「止めろ。死ぬぞ」
お前がな。
と心の中で呟く。だってあの人動けないんだよ?
『ソレをただの人族だと思うなよ。ソレは私が一から鍛えた馬鹿弟子よ』
いつの間にかヴェリウスがロードの師匠になってたーー!!?
いや、師匠っぽいなぁとは思ってたけどね。
「っ神獣が人族を弟子にするだと!?」
驚愕しヴェリウスを凝視すると、冷静さを取り戻す為か一度目を閉じ「ならば相手をしよう」とロードを見た。
いや、貴方今動けないから。何言ってんの? すごいこっちを見てくるんだけど、拘束を解くわけないでしょうが。
「どこの神かはわからんが、空気を読んで解放してほしいのだが…」
お前が空気を読めェェェ!! 何言ってんのこの人!?
周りを見るとヴェリウスもショコラも呆れたような表情をしている。ロードは首を傾げているが、この反応は来たばかりだから仕方がないだろう。
『貴様は我らを馬鹿にしているのか』
「何だぁ? オメェ拘束されてんのか? なら俺の出番はねぇなぁ」
ガシガシと頭をかき私の腰を抱くロードに呆れる。
しかし、拘束されているというのにこの男の余裕は何だろうか…?
手の中にある幻獣の核を見れば、深い青が鈍く光った気がした。
「ーー…そろそろ遊びは終わりだ。どうやらドラゴンの核も手に入れたようだからな」
『ドラゴンの核だと!? 貴様何を…!?』
ヴェリウスがハッとして精霊男と幻獣の核を見比べた刹那、手の中の核が黒い炎に包まれた。
「ミヤビ!!」
反応が早かったロードに核を叩き落とされ、それが吸い込まれるようにコロコロと転がって男の足下で止まる。
「それでは神族の方々、失礼致します」
核を手に取ると、男はニヤリと笑いおどけた調子でそんな事を言って、まるでヨーロッパの紳士のようなお辞儀をするとそのまま黒い炎と共に消えてしまったのだ。




