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異世界で神様になってたらしい私のズボラライフ  作者: トール
第2章

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41.その頃…


ロード視点



「あ゛ーーー死ぬ…っ ドラゴンに乗る事がこんなに大変だとは思わなかったぜ…っ」

《僕も人間を乗せるのがこんなに大変だとは思わなかったし…》


何度か結界を纏いマカロンに乗る訓練を繰り返したが、体力の消耗(正確にいやぁ魔力の消耗)が激しく、手足がガクガクしてやがる。


立ち上がれず地面に大の字になっている俺を見下ろして遠い目をするマカロンに鼻を鳴らす。


「はっ オメェは人の事を考えずに飛ぶからなぁ。もうちっと背中を意識しやがれ」

《そんな事言われても~。人なんて乗せて飛んだことないし。ロードさんこそもうちょっと丁寧に乗ってくれないかなぁ。僕の背中殴るの止めてよ》

「バカか。そりゃオメェが俺の存在を忘れて回転したりするからだろうが」


大バカなドラゴンに文句を言いつつ、結界内の家に目を向ける。

結界外からは今まで見えなかった内側が、同棲を許してくれたからか見えるようになった幸せを噛みしめ、目を細める。


ミヤビを置いて王都に戻ったあの日を思い出すと、よく離れられたもんだと今となってはゾッとする。

確かに森へ戻って来る気満々で陛下を救いに王都へ行ったが、今なら何があってもミヤビを離さないだろう。一緒に行く選択しかない。


ああ…あの時にした初めての口付けは忘れられないな。


口付けといやぁこの間の口付けは最高だった。

何しろミヤビが酌をしてくれるってんでひどく興奮したんだよなぁ。

まるで夫婦の晩酌みてぇだろ。そりゃ俺的には夫婦のつもりだけどよぉ、ミヤビがまだ“夫婦”ってのを認めてねぇんだよ。勿論恋人期間も大切だけどな。


大体、あんな可愛く「お酌しようか?」なんて言われたら普通ムラッとすんだろ。

あまりの事に手酌で入れた分を一気飲みしたからな。


けど我慢したんだぜ。でもじっとあんな可愛い顔で見られたら理性の糸も切れるってもんだ。



くそっ ショコラとヴェリウスさえいなけりゃ今頃は…っ



《そういえば、ミヤビ様はいつ帰ってくるのかなぁ~》

「あ?」


このバカ、俺がミヤビとのラブラブな生活を思い出してた時に何て言いやがった?


《だって少し前にミヤビ様が出てきて、“ちょっと出掛けてくるね~”って》

「何だと!? 少し前っていつだよ!?」

《え~、ロードさんがヴェリウスさんに笑われて頑張るーって飛んでからちょっとして~?》

「っ一時間近く前じゃねぇか!! 何ですぐに言わねぇんだこのバカドラゴン!!!」


疲労感も忘れて飛び起きると結界内へと走る。


ミヤビが出掛けるなんてまずありえねぇ。

アイツは人に会いたくないだ、動きたくないだと外出を嫌っていた。アクティブな奴じゃねぇんだよ。

家が好きでゴロゴロしてるのも好きだしな。

そんなミヤビが外出だと? 何か余程の事があったんじゃねぇか…。


家に入ると人の気配は無く、ヴェリウスやショコラも居ない事を知った。


そりゃそうか。アイツらがミヤビを置いていくわけがない。

一体どこに行きやがったんだっ


いたる所に何か残していないか探すが何も出て来ず、またバカドラゴン…マカロンの所へと戻る。


「マカロンっミヤビはどこに行くって言ってた!?」

《ミヤビ様は目的地は言ってなかったけど、ヴェリウス様が西の山に帰ったみたいだから、それを追いかけて行ったんじゃないかなぁ?》


ヴェリウスが自身の神域に帰ったという話がマカロンの口から出た事に驚いたが、今はどうでもいいことだ。

それよりミヤビが追いかけて行ったってどういう事だ!? 一体何があったってんだ…っ


「マカロン!! 西の山まで飛べ!!」

《え? 何で??》

「何でじゃねぇよ!! テメェショコラが心配じゃねぇのかっ」


キョトンとしているマカロンに、本当にショコラに惚れてんのか!? と思いながら叫べば、


《ショコたんは強いし、神王様がそばにいるんだから大丈夫だよ~》


等とクソみてぇな事を言うので頭を殴って背に飛び乗った。

俺の結界が例え5分しかもたなかろうが、何もしねぇまま行かねぇ選択肢はねぇんだよ。


マカロンが渋々空へ上がって行く中、そんな事を思いながら気を引き締めたのだった。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



雅(主人公)視点




振り下ろされる刃と、男の動作がスローモーションのように見える。

事故に遭った時にスローモーションになる等とよくいうが、今まさにその状況に陥っていた。


《主様ァァァ!!》


ガアァァァーーーッッ


男の持つ剣が私の頭に触れるか触れないかのギリギリで、ショコラの“ブレス”が炸裂した。


ヴェリウス仕込みの氷のブレスは青白い光を放ち、空気中の水分や地面をパキパキと凍らせながら見る間に男を飲み込んだーー…


だが、


男は私に向けていた剣を、そのブレスに向け振り下ろす。


ヒュッ


空気を斬るような音がし、それと同時に氷のブレスが真っ二つに割れたのだ。


男を避けるように二つに分かれたブレスは、ジュウゥゥゥッとまるで肉を焼いているような音と煙をたてて、地面に氷の逆さ氷柱を作っている。



ギュアアァァァ!!!!



男に向かって怒りを滲ませた雄叫びをあげるショコラはかなりの迫力で、それに動じた様子を見せない男に不気味さを感じた。


「…氷竜か…ドラゴンの中でも珍しい種だ」


ブレス跡とショコラを観察し、あたりをつけたのか何やら呟いている。「もっとも、ドラゴン自体が珍しいのだがな」などと言いながらショコラの攻撃をかわし、剣を構え直した。


よく目を凝らして見ると、男の剣が銀色の光に包まれている事に気付く。もしかしたら剣に魔法を付与しているのだろうか?


いや、そんな事より男の動きを止めなければとハッとし、すぐに願う。

どうやら自分の能力を忘れる程動揺していたらしい。


あんなに間近で刃物を見て殺気をあてられたのだから動揺してしまうのは当然なのだが…。


結界を張っているから怪我をしないのは分かっている。が、怖いものは怖いのだ。

未だに手足の震えや心臓のドキドキが収まらないのは仕方がないだろう。



「!? 何だ…っ 身体が動かないっ」



そうこう考えている内に能力が発動したのか、男の動揺した声が聞こえてきた。



《主様に刃を向けるなんて…っ 殺す!!》

「ショコラ、待って」


動けない男に鋭い爪を光らせ、今にもドラゴンパンチをしようとしているショコラを止める。


《何故ですか!? 主様っ》

「この男、さっき“幻獣”がどうのって言ってた。多分ヴェリウスが帰った原因がこの男だと思うの」

《!?》


ショコラは爬虫類独特の有鱗目を見開き、男を凝視した。


男の見た目は中性的な美人で、銀色の髪に白灰の切れ長な瞳をしている。まるで鋼のような色合いで、男自身が鋭い切れ味の刃物みたいなイメージだ。


何というか、人間離れしているなぁとジロジロ見てしまう。


「く…っ 貴様が私に何か(・・)したのか…」


鋭い眼光に睨まれ、さらに殺気をとばされ滅茶苦茶怖い。ヤンキーが可愛く思えるほどだ。


ロードにも睨まれた事はあったけど、こんなに怖くはなかった。

ロードの瞳の奥にはあたたかい光があったから。


「ねぇ、“幻獣”を狩ったのは貴方かな?」


いくら怖くてもどうせコイツは動けないし、ヴェリウスの為にも私がやらなくては…っ

そう思い目の前の男に屹然とした態度で臨む。


「……」

「ねぇ、答えてくれない?」

「…………」

「…なら、貴方はどこの誰?」

「…………」

「何のために“幻獣”を狩ったの?」

「…………」

「そもそも“幻獣”って何?」

「…………は?」


おお! 黙りが「は?」って言ったよ!


《主様、“幻獣”とは神獣ヴェリウス様の眷属の中で最高位の獣の事ですよ》

「へぇ、じゃあこの人はその最高位の獣を狩っちゃったと?」

《そうみたいです》

「じゃあ、人間が最高位の獣を狩るって事出来るの?」

《う~ん…多分で…『人間に幻獣を狩るなど無理ですよ。ミヤビ様』》


突然、ショコラの言葉を遮って現れたのはーー…


「ヴェリウス」

『ミヤビ様…何故こちらにいらしたのですか…』


目を細め困ったような顔で私を見るヴェリウスの足下は薄い氷の膜が広がり、パキパキと音をたてて逆さ氷柱に成長している。ヴェリウスが一歩一歩近づく度にパラパラと結晶化し美しく散っていく。


「ヴェリウスが突然帰るなんて言い出すから、心配になってね…」

『全く、貴女という人は…』


目の前にやって来たヴェリウスの頭から背にかけてを撫でる。まるで氷に覆われているかのように冷たく、撫でる度にパラパラと結晶が散るので、実際氷魔法のようなもので自身を覆っているのだろう。

大きさもいつもの中型犬ではなく大型犬の中でも最大の、アイリッシュウルフハウンド位に変わっていて目の前の男を警戒している事がわかる。


《ヴェリウス様ごめんなさい。主様を止められなくて…》

『主様はこうと決めたら突き進むお方。そなたに止められなくとも無理はない』


ショコラとヴェリーちゃんの会話に目をそらす。

スイマセンね。猪突猛進で。


「…神獣……」


男の静かなつぶやきに耳を動かし、ゆるりとした動作で振り返るヴェリウスはかなり怒っている事が分かる。


『貴様は……“精霊”だな』

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