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異世界で神様になってたらしい私のズボラライフ  作者: トール
第5章

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302/303

300.陣痛


「ぅおおおお!! ふぁ、ファイトォォォ!! いっぱーーーッ、あ゛ーーーぃた、痛い!! ファイト一発しても痛いものは痛ィーー!!」


リビングで痛みにもがき、もんどりうつ私。

残念ながら誰も帰ってくる気配はない。


この痛みって、陣痛ってやつ? いや、まだ8ヶ月ですけど!? 出産は“とつきとおか”って言うじゃないか!! まさか早産!?


どうしよう…と痛むお腹を押さえて蒼白になる。

出産経験が皆無の私は、家にたった独りで不安しかない。


こうなったら…ッ


ラグマットの上でゴロゴロしていたが、ぐっと拳を握り決意した。


助けを求めよう!!



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



ルーベンス視点



集中して書類を捌く。この作業をはじめて9時間…そろそろ終わろうかと、眉間の辺りを摘まんでマッサージしていると、


「イタタタターーーー!!」


静かな執務室に、突然奇声が上がったのだ。


「なんなのだね、一体…」


どうせミヤビ殿が転移してきたのだろうと見れば、やはり想像通りで、しかし、床に転がったまま起き上がろうとしないのだ。


「ミヤビ殿…?」

「ぃた…ッ うぅ…お腹、痛いです…っ」


それを聞いた私は驚き、すぐさま駆け寄った。


ふくれた腹を触ると、かなり張っているようだった。


「いつから痛みがあるのかね」

「ぅ……さっきから…っ」

「ふむ…陣痛ならばいずれ痛みが引くだろうが…すぐに医師と第3師団長を呼ぶ。待っていなさい」


ミヤビ殿をソファに運び、外に居る者に声を掛ける。


「出産には早いだろうが、神王ともなると人間とは違うのかもしれんしな…」

「ぅ~~ッ」


額に浮かぶ玉のような汗をハンカチで拭ってやっていると、少し痛みが落ち着いてきたのか、きつく閉じていた瞳を薄く開いたのが見えた。


「痛みが引いたかね?」


私の言葉に頷くミヤビ殿は、少し楽になったのか身体を起こして、「突然すみませんでした。家に誰も居なくて…急に痛みだしたからびっくりして…」と謝るので、家に誰も居ないとはどういう事だとこちらが驚いたのだ。


「ミヤビ殿、神王様である貴女のそばに、使用人が誰も居ないとはどういう事だね」

「え?」

「いくらつがいの本能で他を寄せ付けたくはないといっても、留守にするならば使用人を置いておくのが常識。まして君は妊娠しているのだ」

「あ、いや~…」


いつもはトモコやショコラが家に居るのだと言うが、彼女らは友人で使用人ではないだろうと言えば、頷いて、使用人…? と首を傾げるので呆れるしかない。

もしかしたら本当に世話人が居ないのだろうか…?


「ミヤビ!!!!」


バチバチと雷のような音と光を散らし、またも突然私の部屋に転移してきた者が……。


「第3師団長、君はノックをして扉から入ってくる事は出来んのかね」

「るせぇ!! それよりミヤビは!?」

「今は痛みも治まっている。陣痛だろう」

「陣…!? ミヤビ!! 大丈夫か!? 産まれるのか!? ど、どうすりゃ…っ そうだっ医者!! すぐ医者に連れてってやるからな!!」


ミヤビ殿の姿を見つけ、駆け寄った第3師団長は目に見えて狼狽えている。


「初めての出産でパニックになる気持ちは分からんでもないが、医師はもうここに呼んであるので向かう必要はない。それよりも、神王様の出産は人間と同じように考えても良いのかね?」


それに、妊婦を家に一人にするとはどういう事だと募れば、師団長は慌てて神獣様の名前を叫び出したのだ。


「ヴェリウス!!!! すぐルーテル宰相の執務室に来てくれ!! ガキが産まれそうなんだ!!」


刹那、私の執務室の温度が急に下がり、美しい氷の結晶が舞ったかと思うと、


『ミヤビ様!! 御子が産まれそうとは誠ですか!?』


また増えた…。


「ルーベンスさんは陣痛だって…」


不安そうに私を見るミヤビ殿は、第3師団長の腕の中に大切そうに閉じ込められている。


『ルーベンスよ、誠か!?』

「医師に診せてはおりませんので断言は出来ませんが」

『ふむ…昼に診た時は多少活発化していたが、問題はなかったはず…』


神獣様が唸っているが、どうやら自らミヤビ殿の診察をしているらしい。


『ミヤビ様、失礼致します』


前足をミヤビ殿の腹の上に置くと、その前足が青白く光る。


魔力…いや、神力を流して腹の中を診ているのか…。


『ふむ…確かに今にも出てきそうな程御子様の神力が活性化しております…』

「じゃあ、あの痛みは陣痛? でも陣痛って破水してからくるものじゃ…??」


やはり出産間近のようだ。

ミヤビ殿は初めての出産に戸惑いが隠せないようだが、しかし、神獣様も初めてなのだろう。一見冷静そうに見えるが、戸惑いが見え隠れしている。


「ミヤビ殿、陣痛や破水の順番は人それぞれなのだよ」

「へぇ、さすがルーベンスさん!!」


痛みが引き、余裕が出たのだろう。いつもの笑顔を見せてくる。


「神獣様。神王様の御出産は人間と同じ方法なのですか? それとも…」

『…ミヤビ様の“器”自体は人の構造と変わりはないが、魂は神王様のそれである。正直こんな事は初めてなのでな……わからぬのだ。

しかし、神の出産も人と変わりないが、出産する時は神域からは出る事はない』

「…出産時は力が弱まるから危険という事でしょうか?」

『神の場合はな。ミヤビ様にそれが当てはまるとは思えぬが…』


どうやら手探り状態のようだ。

どう考えても私の執務室から移動した方が良い気がするのだが。


「神王様の神域に助産師はいらっしゃるのですか?」


ミヤビ殿には世話人すらいないような状態だと推測される。もしや助産師など居ないのではないかと確認すれば、神獣様は居ると答えられた。

それならば何故…?


「ミヤビ殿、何故助産師の所へ行かず、私の執務室に来たのだね」

「え? 助産師?? だって私の知り合いではルーベンスさんが一番出産の知識があるし、頼りになるから」

「待て。君はもしかして君専用の助産師が居る事を知らなかったのか」


ミヤビ殿の反応に、まさか…と聞けば、そのまさかのようだった。


「第3師団長! 妊婦に世話人を付けないどころか、助産師の存在も知らせんとはッ 君はつがいを殺す気でいるのか!?」

「はぁ!? んなわけあるか!! ミヤビの世話は俺が居ない時はヴェリウス、トモコ、ショコラが見ている!! 助産師は出産まで必要ねぇんだから、ミヤビにどこにいるか言う必要はねぇだろ」

「必要ないわけがないだろう!! 助産師は、妊婦に出産の知識を与えたり、悩みの相談を受けたりしてくれる存在でもあるのだ!! 出産間近のミヤビ殿の知識がここまで乏しいなど有り得ぬ事だぞ!!」


妊娠、出産に関する知識が無い状態は、どれ程不安だっただろうか。その不安がお腹の子供や母体を危険にさらす事もあるのだと第3師団長を叱れば、彼は意気消沈し、蒼白になっていた。


「とにかく、すぐにその助産師の元へ」


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