299.世界の加護と拒否
背信者は全部で122人。ほぼ、ルマンド王国の元大司教の息がかかった者であった。そのうちの半数以上が貴族だという話だ。
他国の背信者と言われる者も、元大司教と接した事のある教会でも上位の者や、貴族達らしい。
つまり、教会の上位と貴族の一部が癒着していた証に他ならない。
『やはり人間とは、少しでも権力や財力を持つと愚かになりますね』
ヴェリウスは吐き捨てるように呟くと、話を続けた。
『背信者の中で最も罪の軽い者であっても、神王様を排斥しようとした者に違いはありませんので、“世界の加護”はなくなりました』
“世界の加護”というのは、この世界の生きとし生きるもの全てが持つ、この世界で生きて良いという世界からのお許しとでも言おうか。
“世界の加護”が無くなるという事は、どんなに長寿な種族でも短命となり、天災の時には一身にそれを受け止めるはめになる。
つまり、この世界で生きていく事は実質難しくなるのだ。
『それ以上の罪を犯した者は、“世界に拒否”されます』
“世界の拒否”は、まぁこの世界を魂の状態で追い出されるという事だ。
運が良ければ他の創造主が見つけて、魂を創りかえてくれるかもしれないが……期待しない方が良い。
魂を創りかえてもらえないものは当然どの世界にもいけず漂い続ける事になる。世界に許されれば戻ってくる事も出来るが、それは気の遠くなる程の時間を要するだろう。
『そして元大司教ですが、あれはもう器も魂も消滅させる以外に選択肢はありません』
言葉通り、存在の消滅である。
転生する事も、他の世界に行く事も出来ず、消え去るのだ。
「……どの人間も罪が重すぎない?」
『何をおっしゃいますか!! 神王様の排斥は、神ですら人に堕とされる重罪。許される事ではありません!!』
確かにアーディンは人族に転生したけど…今思うと、大司教よりもアーディンの方が重罪なんじゃ…。
『神が人に堕ちる事は、魂が消滅するよりも辛い事なのです』
口に出してないのに、ヴェリウスは私の知りたい事を答えてくれる。恐ろしいほど有能だ。
『ミヤビ様、お顔に出ておりますよ』
そんな事よりも、お話の続きですが。と仕切り直す。
『人間の処罰は勿論別に受けるようですが、その辺りは興味がないので聞いておりません』
ツンとした言い様に、ヴェリウスらしいなと思うが、二重で罰を受ける人間達には、同情の余地があるだろう。
『背信者に関しては以上です。そういえば、教会を無くした人間達は、自宅に神王様の像と己の神を奉り祈りを捧げているようですね』
「へぇ。てっきり教会をまた建てるのかと思っていたけど」
『教会を消滅させてしまった事により、教会と名のつく建物をつくる事は忌避されているのでしょう。また消滅させられると考えているのやもしれません』
「成る程。だから自宅でかぁ」
それはそれで良いのかもしれない。
教会が出来るとまた同じ事が起きるかもしれないのだ。それならいっそ、教会のない世界の方が平和なのではないか…。
「今はそれで良いかもね。一応各国の王や代表者には、新たに教会を建てても消滅させる事はない事と、同じ過ちをくり返さないように…伝えてもらえるかな?」
『かしこまりました』
これで教会を建てるか建てないかは国次第となる。
その後、神王の神域が存在するルマンド王国では、教会ではなく、皆の“祈りの場”と言われる場所が、いくつも出来、その場所を全て巡ると良い事が起きると言い伝えられるようになったとか。
「お遍路か!?」
と突っ込む事になるのは、そう遠くない未来。
◇◇◇
「ぃた…ッ イタタタ…ッ」
その日の夜、急にお腹が張り出したと思ったら突如とんでもない痛みに襲われたのだ。
運の悪い事に誰もいない時間帯で、助けを呼ぼうにも痛みで頭が回らず、そのままリビングのラグマットの上に疼くまり、痛みに悶え苦しむ事となった━━━…




