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異世界で神様になってたらしい私のズボラライフ  作者: トール
第2章

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30/303

30.侵略者? いいえ、変質者です


しかしドラゴンって大きいなぁ。ずっと見上げてるから首が痛くなってきた。


そういえば、あれだけ舞っていた葉っぱや木が全然飛んでないなと思ったら、強風はドラゴンの羽ばたきによるものだったらしい。

そりゃあ5階建てマンション位大きければ一回羽ばたいただけで台風が起こるよ。


「ミヤビ、どうするんだ?」


急にロードがそんな事を言ってくるので何の事だと首を傾げる。


『あのドラゴンの移住の話です。深淵の(ここ)はミヤビ様の“神域”ですから、アレを棲ませるかどうかはミヤビ様次第です』

「そうなの? ここは森だし動物や魔獣は勝手に棲んでるけど」

『それは元々この森に棲んでいた者達です。ミヤビ様の神域になってからは主はミヤビ様なのですから、勝手に移住してくる者はきちんと取り締まらなくてはなりませんよ』


私も勝手に住み着いたんだけど…。

あ、王様に望みを聞かれた時にこの森貰えば良かった。

今からじゃ無理だよね。


「ミヤビ、ちゃんと聞いてんのか」

「聞いてるよ。ドラゴンが移住してきたって言われてもさぁ…もう箱入りドラゴンに任せればいいんじゃないかなぁ」


野良ドラゴンに睨みをきかせている箱入りドラゴンを見る。


段々、紹介状もないのに雇ってもらえると思って貴族の屋敷に勝手にやって来た門番志望の冒険者が、そこにいたメイドに一目惚れして目的も忘れ口説き出し、キレたメイドにぶん殴られて屋敷を追い出されそう。今ココ。

みたいに見えてきたんだけど。


『ミヤビ様、面倒なのはわかりますがここは主が出ていかなければ、あのドラゴンは殺されてしまいますよ』


あーうん。箱入りドラゴン()る気満々だもんね…。


「じゃあ、ちょっと話を聞いてみるよ…」


ロードに下ろしてほしいと言えば、溜め息を吐かれた。


『本当にあのドラゴンの前に出て行こうとしないで下さい。そうではなく、ミヤビ様が一言“移住は認めない”と言ってくだされば私が追い出しますから』


口を出せって意味だったのね。それならそうと言って下さい。


「でも、野良ドラゴンがどんな子かわからないのにすぐ追い出すのはちょっと…」


可哀想な気がするんだけどなぁ。


「そうは言っても、アイツは侵略者みてぇなもんだぞ。他人の縄張りに勝手に入って来やがったんだしよぉ」

『人族の男の言う通りです。だからこそ水色のドラゴンはあんなにも怒っているのですから』


それはそうだが、何となく悪い奴には見えないんだよね。ただおバカなだけで。


「やっぱり直接話してみるよ」

『ミヤビ様!?』


ヴェリウスにぎょっとされるが、話してみないとわからない事もあるのだよ。


「オメェ話すっていってもドラゴンの言葉なんてわかんのか?」

「あー、まぁ私はほぼ何でも出来るからね」


ロードに答えてから、ドラゴンの言葉が理解できるよう願った。


《主様の縄張りに勝手に入って来たあげく、一目惚れですって? なめてるのかしら。殺すぞクソヤロー》

《ごめんなさいぃぃ!! でもでも、貴女にだったら何をされてもイイかも…》

《気色悪い!! 私の前から今すぐ消えなさい!!》

《あ~何だかそのキツイ言葉が快感に…》



「追い出そうか。今すぐに」


ドラゴン達の会話を聞いて即答した。

そうでしょうと頷くヴェリウスには、ドラゴン達の言葉が初めから理解できていたらしい。

だから追い出す選択一択だったのか。


「何て言ってたんだ?」

「野良ドラゴンが変態だって事がわかったよ」


ドラゴンの会話を知りたがるロードにそう答えて口をつぐむ。


《ああっ 貴女にだったら踏まれてもイイっ》

《気持ち悪すぎるわ!! ヴェリウス様っ このドラゴン、早く処分させて下さい!!》

《処分!? ご褒美をくれるんですか!?》

《近付かないで!! ご褒美じゃないわよっ》


本気で気持ち悪がっている箱入りドラゴンにジリジリ近付いている野良…変態ドラゴン。


《イヤァ!! 主様っ 助けて下さいーッッ》


そう叫びながら自身の尻尾で変態ドラゴンを殴りつけ、氷のブレスを吐いている箱入りドラゴンの姿はシュールだ。

それを極上の笑顔で受け入れている変態ドラゴンが気持ち悪すぎる。


「助けを呼ばれたから行って来るわ」

『「ミヤビ(様)!!」』


ドラゴン達の近くに転移する。

間近でみるとますます巨大で迫力がある。

しかし先程の会話で恐怖は薄れたのも事実。


「水色のドラゴンちゃん、落ち着いて」


未だ氷の像でも作る気でいるのか、ブレスを吐き続ける箱入りドラゴンに声をかける。

変態ドラゴンはすでに意識を失っているのか、幸せそうな顔のまま凍りついていた。


《あ…主様ぁ~》


私に気づいた箱入りドラゴンは、巨体を丸めてすがりついてきた。


「うぐ…っ あ~よしよし」


手加減はしてくれているが、私からすれば結構勢いをつけて子供に体当たりされた位の力が、身体にのしかかってきた。


すり寄ってくる鼻先を撫でてやると、硬いのは硬いが、無機質の硬さではなく、皮膚なんだなぁと思わせる軟らかさも兼ね合わせていて不思議な感触だ。中身の詰まったワニ革のバッグをコタツに入れて取り出し、少し置いてから触ったみたいな感じと言えばわかるだろうか。

つまり人肌のワニ革バッグだ。


《主様ぁ~気持ち悪かったですぅ~》

「そうだね。変態に出会っちゃったね」


さっきまで凛としていた面影はまるでなく、可愛らしい子猫のように甘えてくる姿にキュンとする。


「おいっ 俺のミヤビに甘えるんじゃねぇ! そうやって抱きついていいのは俺だけだ!!」

『ミヤビ様、お怪我はありませんか?』


追ってきた1人と1匹が間に割り込んできて、ロードにベリッと剥がされた。

またもや抱き上げられ、ふと思う。


コイツは私専用の神輿か、と…。


《うぅ…初めて撫でていただいたのにぃ》


うなだれた箱入りドラゴンは、それでもロードやヴェリウスに文句を言うでもなく、すごすごと後ろへ下がる。

何という出来た子なのだろうか。



「しっかし見事に凍りついてんなぁ~」

『さすが私の眷属だけある』


前面が凍りついて固まっている変態ドラゴンを興味深そうに見て、ロードとヴェリウスがそれぞれ感想を口にした。

前面だけ見れば確かに見事な氷像だ。



……ん? ちょっと待てよ。今ヴェリウスは何て言った?

ドラゴンが眷属って言わなかったか?



「ドラゴンは竜神の眷属になるんじゃないの?」


ヴェリウスの言葉に引っ掛かり聞いてみる。


少し前に、ドラゴンが竜神の眷属だと言っていた本人の口から出た言葉とは思えない。


『通常であればそうですが、彼女の場合は変異になるので誰が何と言おうと私の眷属です。それに、私前々からドラゴン種の眷属が欲しかったんですよ』


最後本音がチラついたよ。

要は、本当は竜神の眷属になるかもだけど、元は自分の眷属なんだからそのまま自分のもんだよ。渡さないよって言ってるんだよね。


「んな事よりコイツどうすんだ。森の外に捨てても帰ってくんのがオチだぜ?」


確かに。元の場所に転移させてもまた来そうだ。


この変態ドラゴン…一体どうするべきか。

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