288.結婚の挨拶1
ロード視点
「━━━…だから、一度お前のつがいを連れて来い。父上も首を長くして待っているんだからな」
久々に登城したロヴィンゴッドウェル辺境伯、現当主に捕まりそう言われたのはミヤビの妊娠が発覚するひと月前の話だ。
その頃は例の神託で世界中がパニックに陥っていた事もあり、ロヴィンゴッドウェル辺境伯もその事で登城して来た程度には忙しい時期だった。
「ってもよぉ、俺ぁロヴィンゴッドウェルの籍からはもう外れてんだろ。大体このクソ忙しい時に無理言うなっての」
だからこう返すのも当然だろうに、
「誰も今すぐとは言ってないだろう。何れこの事態も収束する。その時で良いんだ。それに…」
ロヴィンゴッドウェルの籍からは外れたが、お前がウチの家族である事は変わりないんだからな。
元義兄である現ロヴィンゴッドウェル辺境伯はそう言い残して去って行ったが、俺はそれに対して苦笑するしか出来なかった。
それから何だかんだあって、元義兄の言うとおり例の騒ぎは収束しつつあり、ミヤビの浮島ツアーだのというよく分からない遊びに付き合わされたがそれも無事終わりをむかえて、つがいの腹が目立つようになった頃、元義兄が再び登城してきたのだ。
「ロード、そろそろ領地に顔を出したらどうだ」
「だから言ってんだろ。籍を抜けた俺が息子面してあの人に会いに行くわけにゃいかねぇって」
俺の執務室で話を切り出してきた元義兄は、俺が頷くまで帰らないつもりなのか、ソファに座って寛いでいる。
「我が家の籍を抜けたからといって、家族としての絆が無くなるのもおかしな話だろう」
何もお前のつがいが精霊様だから紹介しろと言っているわけではない。お前のつがいだから家族として紹介してもらいたいのだ。と言う義兄に、この人らしいと思うがそれでは他の貴族が納得しないだろう。
なんせミヤビは精霊として周知されている。もし籍を抜けたロヴィンゴッドウェル家に紹介に行けば他の貴族共がこぞって繋ぎをつけたいとやって来る事が目に見えている。
「悪ぃが…」
「他の貴族が気になるというなら誰にも知られぬように来れば良い。お前なら出来るだろう」
ニヤリと笑った義兄の顔はさすが親子だけあり、親父にそっくりだった。
◇◇◇
「ロードのご両親はここに居るの?」
頭からすっぽりとローブを被り、その愛らしさを隠しているミヤビが俺を不安そうに見上げてくる。
ここは王都から馬で2週間程かかるまさに辺境。街とは言えないようなのどかな風景で、商店や屋台が出ている場所でもゆったりとした時間が流れている緑豊かな田舎だ。
とはいえ、国境という事もあり街の周りは高い塀で囲まれている仰々しさだ。
伯爵位だったロヴィンゴッドウェル家が辺境伯の位を賜ったのは、俺が籍を外れた後だった。
精霊をつがいとする事で権力の偏りを危惧する国の思惑であった為に、ロヴィンゴッドウェル家に配慮した結果だと思われる。
ロヴィンゴッドウェル家は元々武勲をたてて伯爵位に就いていた家だったので、辺境伯には丁度良いというルーテル宰相の采配でもあったんだろう。
バイリン国やフォルプローム国の手前辺境を固めておきたかった事がありありと見てとれる。
「両親つっても、籍は外れてるし血も繋がってねぇけどな」
珍しく緊張しているのだろうか、ローブの下にのぞく可憐な顔が強張っているようだ。
「どうした。緊張してんのか?」
「そりゃ夫のご両親に初めて会うんだから、緊張もするよ!」
その膨れっ面を指でつまむとぷにぷに揉み、その感触を楽しむ。
「んな緊張しなくても大丈夫だ。あの人達は普通の貴族みてぇに固っ苦しくねぇからよぉ」
「そういう問題でもあるようなないような…」
己もまた同じようにローブを被り、抱き上げたミヤビと共に大通りを抜けてロヴィンゴッドウェル家に向かう。
「あ~…よりによって結婚の挨拶を妊娠してからする事になるなんて…」
そんな呟きを他所に、俺は気分良く屋敷へと向かったのだ。
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おまけ ~ 神々の転移についての考察(ミヤビ視点)~
いつの間にか転移が出来るようになった一部の神々。
今日は彼らの転移に見られる個性についてお伝えしたいと思う。
まず、先頭切って転移を習得した神獣ヴェリウスからだ。
彼女の転移は華麗の一言に尽きる。
キラキラと氷の結晶が舞い、フワリと音も無く現れる様はまるで妖精のごとく美しい。が、
寒い。
次に、魔神ジュリアス君。
彼は魔神というだけあり、全ての魔法を過不足なく扱える魔法のエキスパートである。中でも得意とするのが火の魔法だ。
だからか、彼の神力の色は赤が強い。
そして転移にもそれが顕著である。
ゴウッと上がる火柱は大胆で苛烈。少年マンガの主人公を思わせる派手さと、中二病さが際立つものだ。
一瞬目の前が赤に染まる様は見物である。が、
熱い。
続いて鬼神ロード。
彼もまた転移が扱えるようになった神の一人だ。
鬼神といえば雷だが、当然ロードの転移の特徴も雷である。
パチパチと火花が散ったかと思えばすぐに、パンッと弾ける雷。花火のように拡がっていく様は美しいと言えるのかもしれない。が、
うるさい。
そして静電気がすごい。
最後に人族の神トモコ。
トモコといえば得意魔法は光と魅了である。
したがって転移の特徴もキラキラ輝きながら現れるか、ハート、もしくは花びらを撒き散らしながら現れるかを想像してしまうが違う。
擬音で表すならば、“シュンッ”だ。
そう。あの有名な孫悟○の瞬間移動のごとき現れ方である。
シンプル!!!!
え? 私の転移での現れ方? フフフ…よくぞ聞いてくれました。
私のはこの中の誰よりもスタイリッシュなのだ。
まばたきをしたらそこに居る。
擬音で表すなら、“ぱっ”だ!
以上、転移にも個性がある。でした。
あなたはどの転移が好みかな?




