286.パンフレット
結局絶品煮込みハンバーグを食べた後、眠気に襲われて夕方までお昼寝してしまい、いつの間にかルーベンスさんに報告に行く時間になっていた。
「ミヤビは寝顔も可愛いなぁ」
とニコニコしているロードは放っておいて。
おかしい。午後からは浮島に繰り出す予定だったのに…。
最近はお昼まで寝て、ご飯食べたらまた寝てを繰り返していたからか、身体がそれに慣れてしまっていたのだろう。
「早く大きくなれよ~」
お腹を撫でてくるロードを見ながら思う。
晩御飯のビュッフェ、和食も出たらいいなと。
◇◇◇
「━━…ていう感じでした」
「ほぼ食って寝ていただけではないかね」
報告し終わった私に呆れた目を向けるルーベンスさん。
そんな事を言われても、ロードだって飲んでただけですよ。
「いやぁ妊娠すると眠気がね~」
「君の場合は普段の生活がダラけ過ぎているだけだと思うが」
その通りだが、そんなにはっきり言わなくても。
ルーベンスさんをねめつけながらブーブー言っていると、ロードがデレッとした顔で頭を撫でてくるので胡乱な目を向けてやった。
「しかし、“天空神殿見学”とは…少々やり過ぎではないかね」
ルーベンスさんはそんな私達を無視して淡々と話を続ける。
「そうですか? ルーベンスさんは天空神殿の見学はしたくないです?」
「無論興味はあるが。しかし神々が何と言うかが問題だろう」
「? 神々が?? でもあそこはウチの別荘だし、誰も何も言わないと思いますけど」
「別荘だと?」
眉をひそめ、成る程、そういう事か。と何やら思案した後、ルーベンスさんは分かったと頷き私を見たのだ。
「別荘だというのならば問題はないだろう。私もツアーを楽しみにしていよう」
「? あ、はい。ルーベンスさんは第3回目のツアーに参加でしたよね。良かったら先にこのパンフレットをお渡ししておきますので、行きたい所をピックアップしておいて下さいね」
何しろ2泊3日なので時間もあまりないですし。とトモコが作った浮島の写真と説明諸々が載っているパンフレットを渡す。
するとそれを受け取ったルーベンスさんはパラパラと中身を見ると眉間にシワを寄せ、
「…これはツアー客全員に配っているのかね」
と聞いてきたので頷くと、「最終日には必ず回収、もしくは破棄する事を徹底しなさい」と約束させられた。
パンフレットも旅行の良い思い出になるのに…と思ったが、怖い顔をされたので頷くことしか出来なかったのである。
ロードに助けを求めたが、酔っ払い気味なので、つがいが可愛い、好き、愛してると繰り返すだけで役には立たなかった。
ビュッフェ目当てで浮島のホテルに戻ると、レストランにはテーマパークに行った人達の姿はなく、約半数の人達が美味しそうにビュッフェを楽しんでいた。
テーマパークはやはりナイトパレードもあるし、パーク内のレストランで食べる人がほとんどなのだろう。
「ミヤビちゃん!!」
こっちこっちと呼ばれたトリミーさんの席では、旦那さんの分だろうか、色々な料理が机に所狭しと置いてあるではないか。
「トリミーさん」
トリミーさん夫婦の隣の席につくと、彼女は嬉しそうに笑って話し掛けてくる。
「このビュッフェとかいうの、面白いねぇ! 好きなものが好きなだけ食べられるなんて最高だよ!!」
「ですよね! 色んな料理があって目移りしちゃうし、楽しいですよね~」
「本当に!! そうだっ 今日行ってきたエルフ街も色んなものがあって楽しくてね~!」
キャッキャと今日あった出来事を話してくれるトリミーさんにこっちまで楽しくなる。
話し込んでいると、ロードがいつの間にか食べたかった和食を取ってきてくれていたから、ありがとうとお礼を言って食べながらトリミーさんと盛り上がっていたのだ。
ロードもトリミーさんの旦那さんも人族だったという事を忘れて。
「ミヤビ、部屋に帰んぞ」
若干目が据わっているロードにそう声を掛けられハッとする。トリミーさんも、そろそろバーでワインを貰って出掛けようかと旦那さんに急かされていた。
「おい、これ包んでくれや」
ロードがエルフに声を掛け、まだ食べきれていない料理を部屋に持って帰る事を伝えると、トリミーさんの旦那さんも同じように料理を包んでもらう事にしたらしい。一緒に伝えている。
あっという間に部屋に拐われ、トリミーさんも旦那さんに連れて行かれて呆然としていると、「つがいを放って盛り上がってんじゃねぇ」と注意されたのだ。
どうやら嫉妬されたらしい。
その後、私とトリミーさんがどうなったかは…お互いに聞いてはいけない事として話題には一切出さなかった。
翌日、ホテルのロビーに集まったツアー客にトモコから天空神殿見学の件が伝えられた。
皆行きたい所もあるだろうからと、希望者はロビーに残ってほしいと募った所、全員が希望したのは予想外であった。
興奮が抑えられないのか、ざわつくツアー客をなだめ駅へと向かうバスの中、トモコが神殿についての注意事項を周知させていた。
皆はそれを聞き逃さないように真剣な表情で聞いている。
5分程で駅へと着き、電車へと何の問題も無く乗り込む。
まぁ電車を初めて見た人達はかなり驚いてはいたが、バスや車で免疫もあったからか失神した人は居なかったので問題は無いだろう。
「うわぁ!! すっごくキレー!!」
車窓から見える景色にコリーちゃんが声を上げると、何故か緊張して黙り込んでいた人々も窓の外の絶景に息を飲む。
その光景にうんうんと頷きロードを見れば、ぐぉ~とイビキをかいて爆睡していたのだ。
恥ずかしくなって、イビキが周りに聞こえないように音声を遮断しておいたが、周りに座っていた人達…ごめんなさい。




