281.夫婦模様
お城のような宿の中で、男性とも女性ともとれない絶世の美貌を持つエルフがお出迎えしてくれた。そんな夢のような出来事につがい持ち以外が全員見惚れ、頬を赤く染め上げている。
ロードは私を見てニコニコ…いや、ニヤニヤし、時折お腹を撫でているのでデリキャットさんの方を全然見ていない。
トリミーさんの旦那さんもトリミーさんに夢中なようだし、ヌードルさんもフルートさんとコリーちゃんばかりを見ている。
さすが人族。つがい狂いだ。
「ようこそおいでくださいました。私はこのエルフ街の代表相談役兼、こちらの宿のオーナーをしております、デリキャットと申します」
さすが元エルフの王様。気品に溢れた自己紹介で皆を魅了していた。
「━━━…皆様には快適に過ごしていただけるよう努めてまいります」
挨拶の後は朝晩の食事の場所と時間の説明等を行う。その後はトモコがしおりの内容をざっと説明して、それが終わると美男美女のエルフがやって来、それぞれ部屋へと案内してくれたのだ。
私とロードは最上階の、どう考えてもスイートルームだろうという部屋に案内された。
「え、あの、私はガイドなんだけど…」
「いいじゃねぇか。新婚旅行だと思って甘えようぜ」
「新婚旅行が自分の創った浮島かぁ…」
「どこに行ったってオメェの創った世界じゃねぇか。んな不満そうな声出すんじゃねぇよ」
部屋の説明をして早々に退室したエルフのお姉さんを見送り、そんな雑談をしながら部屋の中をキョロキョロと見る。
王宮の中に似た造りだが、アイランドキッチンやお風呂、トイレ等の水回りは地球の技術を参考にしているのでハイテクだ。
「オメェが創った建物だろうが。何初めて来たみてぇにキョロキョロしてんだ」
「実際こうして泊まるのは初めてだよ」
創る時にイギリスとファンタジーの中間みたいな街並みをイメージし、このホテルもイギリスの宮殿みたいなホテルをイメージして創ったが、実際全ての建物の中に入ってみたわけではないのでこんな風にじっくり見るのは初めてなのだ。
「ミヤビ、昼飯はどこで食うよ。朝晩は宿だろ?」
「朝晩はサービスで付いてるけど、無理してホテルでとらなくても大丈夫だよ。基本好きな所で食事していいし、行動も自由だからね」
昼御飯は虫以外なら何でも良いと言えば、ロードは高級ソファにどかりともたれたまま考えている。
「どうせならエルフ街にしか無いもん食いてぇよな?」
「うん!! 虫以外ねっ」
「っしゃ! なら街に繰り出してみるか。他のツアー客も行動し始める頃だろうしよぉ」
立ち上がったロードは私を抱き上げ、ニッと笑ったのだ。
◇◇◇
ロードの言う通り、荷物を部屋に置いたツアー客達が部屋の外へと出てロビーに集まってきているではないか。
皆様々で、ホテル内を散策している者も居れば、バーでお酒を飲もうとしている者もいる。
そう。エルフ街に繰り出そうと言った端からそれを忘れ、あのアル中ゴリラは自分の欲を優先させたのだ。
その部下であるリンはホテル内を見て周り、警備上の安全面を確認してバーに居るロードへと報告している生真面目っぷりを発揮しているというのに呆れてものも言えない。
私はというと、バーを見つけてしまったロードから離れて、ホテルのロビーでツアー客の行動を眺めている所だ。
ちなみにバーはロビーのそばにある。
「あら? ミヤビちゃん師団長様はどうしたんだい?」
旦那さんに腰を抱かれてロビーにやって来たトリミーさんに声を掛けられ、お酒に目の無いおっさんはバーから出て来ないのだと呆れを含んだ声で雑談する。
トリミーさんは豪快に笑い飛ばすと、「ウチの旦那もお酒には目が無いからね~。今の話でバーが気になってるんじゃないかねぇ」と旦那さんをチラリ見てから苦笑する。
案の定、旦那さんはバーが気になってチラチラ様子を伺っているのだ。
「全く。気になるなら行ってきたらいいじゃないか。アタシはミヤビちゃんとエルフ街に観光に行ってくるからね!」
トリミーさんの言葉に旦那さんが慌てて首を横に振り、トリミーさんのご機嫌をとろうとするので、妻の尻に敷かれてるなぁと笑ってしまった。
確かトリミーさんのご主人は有名な冒険者だったはずだ。
「トリミーさん、エルフ街も楽しいですが、駅から天空神殿行きの電車に乗ると絶景が見れますよ。夜はロマンチックなので旦那さんとのデートにはおすすめです。バーでワインでも貰って電車内で飲みながらデートっていうのもオシャレかも!!」
「そうなのかい? なら昼はエルフ街を観光して、晩御飯をホテルで食べたらバーでワインでも貰ってそのデンシャってのに乗ってみようかねぇ」
「良いと思います! ここは夜も安全ですし、楽しんできて下さい!! あ、明日は他の浮島に行っても楽しいかもです!!」
「良い事を聞いたよ! ありがとうね。ミヤビちゃん」
そう言って嬉しそうにホテルを出たトリミーさんと旦那さんを見送る。
ロードは一日中飲んでそうだし、トモコ達と合流しようかなぁと考えていると、今度はコリーちゃん一家と遭遇した。
「ミヤビお姉ちゃん!!」
両親と仲良く手を繋ぎ、「これからテーマパークの浮島に行くんだよ」と父親の持つパンフレットに注目するコリーちゃん。それを微笑ましそうに見る両親という、なんともほっこりする光景である。
「テーマパークの浮島は楽しいよ~!!」
「パンフレットにも楽しそうな事が書いてあったよ!!」
「そうだね。広いから1日じゃ回りきれないかもしれないね。夜にはショーやパレードもあるから思いっきり楽しんでおいで! あ、ご飯はパーク内にもレストランがあるから、早くホテルに帰らなきゃって思わなくても大丈夫だよ」
「うん!! 分かった。ありがとうミヤビお姉ちゃん!!」
コリーちゃん一家も見送り、いよいよロビーにも人が少なくなってきた。
「ミヤビ、お前は遊びに行かないのか?」
トモコの姿が見つけられずに探していれば、リンがバーから出て来て目が合った。
「ロードはバーに入り浸りだし、トモコ達と合流しようと思ってるんだけど見つからなくてね…」
「あ~…そこのバー、どうやら世界中の珍しい酒が飲めるみたいだからなぁ。酒好きにはたまらないんだろうぜ」
フォローにもなってないフォローを気まずそうにするリンに、渇いた笑いしか出ない。
「まぁロードとは何度も浮島に来た事あるし、いつでも来れるからいいんだけどね…」
「仕様がねぇなぁ。妊婦を一人にするわけにはいかねぇし、トモコを探すの手伝ってやるよ」
リンがそう言ってくれたので、お言葉に甘える事にしたのだ。




