266.魔法研究所
「思い出した! 確かお嬢様が教会で属性を調べたって言ってたし、イアンさんも王都の教会で調べたって話してた気がする」
きっとこの水晶に魔力を流して調べたのだろう。となると、この水晶は今まで色んな人間の魔力を吸ってきた事になる。少量とはいえ、塵も積もればという。もしかしたら色んな魔力をかなりの量溜め込んでいるのではないか。
《ミヤビ様、水晶に溜め込んでいる魔力量はそう多くはありません。魔素の枯渇時に流出したのではないかと考えられます。それ故にルマンド王国だけは他国に比べ、食糧難や人口の減少も緩やかだったのだと推測されます》
ヴェリウスの念話に納得する。
何千年とこの水晶には人間の魔力が溜められて行き、魔素の枯渇時はこの水晶の魔力が魔素代わりとして働き、他国に比べて緩やかな衰退だったと。
ルマンド王国、なんと運の良い国だ!!
《しかもルマンド国内に位置する森に神王様の神域が出来た事を考えると…神王様のつがいがこの国に存在した事で起こった必然だったと考えられます》
成る程、ロードの存在がルマンド王国の存亡を決めたと。
「お嬢様…? 精霊様、お嬢様とはもしや聖女様の事でしょうか?」
「あ、そうです。ベルーナちゃんもこの水晶で属性を調べたような事を言っていたので」
「素晴らしい!! 聖女様の魔力がこの水晶に!!」
おじいちゃんが水晶を振り向き見ると、水晶は地に転がされ、それを持っていた者は腕をダラリと下げ、両膝をついてあしたのジョ○のように真っ白に燃え尽きていた。
「お、おお!? どうした!? 何があったんじゃ!? ジョナサン!! 大丈夫か!?」
どう考えても腕が限界を迎えていたのだろう。
おじいちゃんはジョナサンと呼ばれる骨と皮だけのひょろひょろに見える男性に近寄り声を掛けている。
水晶よりも人を心配する時点で良い人っぽい。
『ミヤビ様に比べるとあのひょろひょろに見える者もがっしりしているように見えますが?』
「この世界の人は大きくてムキムキな人が多いからね! 私は地球では平均的だと思うよ!?」
『ミヤビ様は痩せすぎだと思います。もっと生肉を召し上がった方が筋肉もつきますし大きくなれますよ』
その言葉に、私はそっとヴェリウスから目をそらしたのだ。
「あの水晶なら私が少し力を込めても壊れなさそうだね」
わざとらしく話を変えると、ヴェリウスは溜息を吐きながらも返事をしてくれた。
『ミヤビ様がほんの少し力を込められた結婚指輪の魔石は、純度の高い魔石の中でも最高級のもの。あの水晶は大きさはあれどそれより質は劣りますので止めた方が良いと思いますよ』
「そうなんだ。あ、じゃあヴェリウスが神力を込めてみてよ。氷の神力ならきっと綺麗な水晶になるよ~」
青銀色の水晶になるかもと想像してうっとりする。
「何と!? 神獣様が協力して下さるのですか!?」
横から話を聞いていたおじいちゃんが、ジョナサンさんを支えながら輝く笑顔をこちらに向けたのだ。
『ふむ、ミヤビ様がそこまで仰るのならばやってみせましょう』
まんざらでもないのかヴェリウスは胸を張り、鼻をフンッと鳴らした。
◇◇◇
廊下では何なので、と魔法研究所があるという王宮の離れ(先程行ったイアンさんの閉じ込められている場所とはまた別)に案内される。
渡り廊下を進み、歩く事20分。見えてきたのは空に向かって伸びる塔。
ここは前から気になっていた場所だ。何だかワクワクしてきた。
「こちらへお入り下さい」
塔の中へ入り、やたらと階段を登らされ、たどり着いた先は古びた石造りの、何とも雰囲気のある部屋だった。
まさにハリーポッタ○の教諭が居そうな内装で、棚には上から下まで本やら薬草やら、ガラクタ等一貫性のない物がびっしり並んでいる。
「ここの階が魔法研究所が使用しておる階でして、他にも様々な研究室が各階にございます」
成る程、白いローブはここでいう白衣なのかと行き交う白ローブに納得する。
『ほう、つまりここはルマンドの頭脳が集まる場所という事か』
「神獣様から頭脳と評されるとは、このように嬉しい事はございませんな!」
ジョナサンに代わり水晶を運んでいたおじいちゃんは、ヴェリウスと楽しくお喋りしながら、軽々と片手でもって置き台の上に乗せたのだ。
「さぁ、神獣様。準備は宜しいでしょうか」
『うむ。いつでも良い』
「では、こちらへ力を注いでいただけますかな」
ヴェリウスの前に置き台ごと差し出された水晶へ、片方前足を置いて神力を注ぎ始めたヴェリウス。それを興奮気味に見ているおじいちゃんと、紙と羽ペンを震える手で持ったジョナサンさん。
徐々に青銀色に染まっていく水晶の美しい事といったら!! しかも小さな氷の結晶がキラキラと水晶の中を舞っているではないか。
「何という神秘的な……っ」
おじいちゃんの感動が漏れ出た呟きに、うんうんと頷く。これは凄いインテリアグッズが出来てしまった。
帰ったら小さい魔石を研磨して、ヴェリウスに神力を込めてもらおう。それをアクセサリーにしたら絶対可愛い!!
私はそう心に決めてその光景を見ていたのだ。




