261.貴族の思惑と世界会議
ロード視点
ミヤビと神々が帰っていった後、捕らえたバカ共を取り敢えず騎士団の地下牢に放り込み、逃げられないよう結界を張った後にお偉いさんさん方(貴族)の開いた緊急会議に呼び出され、神王との関係を追及される事となった。
「ロード・ディーク第3師団長。貴方が神王様と面識があるとは存じ上げなかったのだが、どういった関係だね?」
「それは私も是非お聞かせ願いたい」
興奮で顔を赤くした貴族共が一斉に視線を向けてくる。
高位貴族か何か知らねぇが、俺がそれに答える義務はあんのかよと無視していれば、陛下が目に見えて狼狽えている様が視界に飛び込んできた。
少し落ち着け。
「ロード・ディーク第3師団長のつがいは精霊様。神王様と面識があったとしてもおかしくはないと思うがね」
意外にもルーテル宰相が高位貴族に意見した事に少なからず驚いた。
それに陛下がフォローらしきものを入れギスギスした雰囲気を和ますが、高位貴族達は以前にも増して、俺とどう繋ぎをとるかという獲物を狙ったような瞳を向けるだけだった。
「それよりも私は、第3師団長がいつから魔法もお使いになられるようになったのかが知りたいですなぁ」
集まった面子の中でも最年長であろう爺さんが、穏やかながらも皆に聞こえるような声で発言する。
……確かこのジジィは魔法研究を専門に行っている機関の所長だったか? 侯爵だか公爵だかの地位だったはずだ。
「魔法は魔素が満ちてから使えるようになった奴は多く居る。そんなに珍しい事例じゃねぇはずだ」
ジジィを睨めば、フォッフォと笑い口を開く。
「黒いもやを操る魔法など聞いた事がない。是非間近で見せてはもらえないだろうか?」
さっきからどいつもこいつも教会の問題とは関係無ぇ事ばかり言いやがってとイラついていれば、突如会議室の真ん中辺りが光り、氷の結晶が弾けるように舞い散ったのだ。
室内はざわつき、皆がその光景に息を飲む。
光と氷の結晶が降り注ぐ中から現れたのは……
漆黒の獣、ヴェリウスだった。
「神獣様ァ!?」
ドタバタと慌てて椅子から降り、土下座する陛下の素早さに一国の王が土下座に慣れすぎじゃねぇかと少し心配になる。
陛下にならって他の貴族も土下座し、ヴェリウスの言葉を待つ。勿論俺は土下座はしねぇ。
ヴェリウスから呆れた目で、他の者を見習えと言われたが鼻で笑ってやったらみぞおちを蹴られたのは予想外だった。
『ルマンド国王よ、もうじき“世界会議”がこの国で開催される予定だったな』
厳かな声が水を打ったような静けさの中響く。
この場に居る者達はその言葉を聞き漏らさないよう
ヴェリウスの一挙一動に注視し、緊張感を漂わせていた。
「は、はい! しかし聖女との顔合わせが主な目的でしたから、教会無き今…」
ヴェリウスと陛下の会話に、そういやぁそんなもんも予定していたなと思い出す。
その準備やらのせいで忙殺され、ミヤビとの時間があまり取れなかったのだ。思い出すだけで腹が立つ。
『いや、“世界会議”はそのまま開催するのだ。
そこで、教会の取り潰しについて世界中に周知せよ』
「は、はい! あ、あの…っ」
『何だ』
「“世界会議”に神々、もしくは神王様はご出席いただけ…る訳無いですよね~。言ってみただけだったり…ハハハ」
乾いた笑いをもらす陛下に、さすがにそれはねぇわと皆が思ったに違いねぇ。が、
『成る程、確かに貴様だけでは信用されぬかもしれぬか…』
陛下をジロジロ見てその結論に至ったヴェリウスは、よし分かった。ならば私が直々に出席し、周知させよう。と言い放ったのだ。
その発言に驚いたのは貴族達だけではない。俺も、ルーテル宰相も、開いた口が塞がらなかった。
◇◇◇
“世界会議”まであと1週間という頃、ヴェリウスの予期せぬ出席という事実に頭を悩ませているのが宰相と各師団長である。
世界中の王だけでなく、神まで来るとあっては何か起きては大変だと、警備問題から何から全て見直す羽目になったのだ。
本当に傍迷惑な神様だよ。
高位貴族は、自分達の国が神獣に守られている事を国外にアピール出来ると喜んでいやがったがな。
俺ぁミヤビにはどんだけ迷惑かけられてもいいが、それ以外の奴はごめん被る。
「ふざっけんなよ!! 蜜月も終わってねぇのにつがいに会えねぇとかあり得ねぇだろ!!」
「馬鹿を言うのも大概にしたまえ。蜜月などとっくに終わっているはずではないかね」
「終わっていねぇよ!! 蜜月中も仕事、仕事で結局半年以上経っていてもこちとら“蜜月休暇”すらもらってねぇからな!!」
つがいに会えない事と仕事の忙しさでイライラしてんのに、陛下の部屋でさらにイラつく面(ルーテル宰相)を見るはめになり、更にイライラする。
「ロード、後1週間の我慢だよ」
「1週間じゃねぇだろっ “世界会議”は3日も続くだろうが!」
陛下の適当なフォローにもイラつき八つ当たりすると、宰相が八つ当たりは止めろと言ってくるのでまたイラついた。完全にイラつきのループにはまってしまっている。
「そんなに会いたいのなら、いつものようにミヤビ殿に来てもらえばいいだろう」
ルーテル宰相の言葉に、ハッとした。
俺とした事が、どうして思い付かなかったんだ。と急いで深淵の森へ戻る為に踵を返したのだ。
「ちょっとォォ!? 仕事ーーー!!!!」
背後から陛下の叫び声が聞こえたが、まぁ無視して大丈夫だろう。




