260.慇懃無礼
これで彼等の罰は決まったし、大司教は……力を失って燃え尽きている。もう喚く力もないのだろう。
瘴気で拘束されているが、自分で立つ力も残っていないと思われる。
「ロードや、もうよいじゃろう。こやつを解放してやっておくれ」
「あ゛?」
いつものロードの態度に場がざわつく。
「やっちまったぁ!! 師団長いつものクセで神王様にすら慇懃無礼!!」
「ヤバイっすよ!! 師団長神々に殺される!!」
「神々より先に神王様の手で罰を受けるわ!!」
「神王様ァァ!! 師団長の命ばかりはお許し下さァァい!!」
「いや、それよりあの禍々しい瘴気、師団長の仕業なの!? あの人闇属性の魔法使えんの!?」
ロードを知る者達(騎士達)が大騒ぎしており、国王は真っ青になってあばばば言っている。王都の民に至っては、まるで恐ろしいものでも見たような顔でロードを見ていた。
「…お前、この混乱どうする気じゃ」
「あー…悪ぃ」
ついやっちまったと頭をかくロードに胡乱な目を向ける。
「分かったって。ちゃんとすっからそんな目で見んな」
ちゃんとするって何だ。
上の神々からも何やってんだというような威圧がロードにかかり、すっかり毒気(怒気)を抜かれたロードは、いつもの調子に戻りその状況に嘆息すると、私の前に跪いたのだ。
「神王様、奴の拘束を解き次第騎士団に引き渡す事をお許し下さい」
なかなか様になっているロードの姿に、はぁ~っとうっとりとしたような吐息が人々の間から漏れたが、どう考えても男の声(吐息)であったそれに心が騒いだ(腐った意味合いで)。
「良かろう」
「感謝致します」
ロードはそう言うと部下達に目配せして瘴気を解き、茫然自失の大司教を部下達に捕らえさせたのだ。
さすが師団長。鮮やかな采配である。
「うむ。神々も落ち着いたようじゃし、わしもウチに帰るとするかのぅ」
この一言にまたもや騒ぎだす人々。
「神王様の家!?」
「神王様ってどちらにお住まいなのかしら?」
「そりゃ天から来たんだから天上に住まわれてるんだろ」
「神々は各々に神域があって地上に住まわれているんでしょう? もしかしたら神王様も…」
等と私の住む場所が気になるようだ。その辺は個人情報なので教える事はできませんけどね。
等と心の中で返事をしてさっき創った階段へ移動する。ロードのエスコート付きで。
この事で第3師団長は一体神王とどんな関係だと後々問題になるのだが、この時の私は教会問題が解決した事で安心しきっており、そんな事は考えも及ばなかったのである。
階段前まで行くと神々が迎えに来ていたので、エスコートがロードから神々に変わる。
ロードは納得出来ない顔をしていたが、ヴェリウスに牽制され渋々下がったのでそのまま神々を引き連れて階段に足をかけた。するとエスカレーターのように階段が動きだし、「ではの」と挨拶すると、人々は驚愕の顔を咄嗟に引き締めて頭を垂れたのだ。
『…二度と同じ過ちを繰り返すでないぞ』
そう言い残したヴェリウスに、人間達の顔が引きつっていたとかいないとか、後にトモコから聞いた。
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「あーー疲れたぁ~。もう何もしたくない」
雅の器に戻って深淵の森の家のソファで伸びていると、ヴェリウスが寄って来てクゥンと鳴いた。
「ヴェリウスどうしたの? もしかして爺の器の方が良いとか? でもあれバキバキで大変なのよ」
『そうではありません。どちらの姿でも神王様には変わりありませんから』
「ん~? ならどうしたの」
寝転んだままヴェリウスの首から背中にかけてを撫で、フワサラの毛並みを堪能していると、教会の事ですが…と躊躇いながらも話し出した。
『ミヤビ様が人間達に教会の取り潰しという処罰を伝えられましたが、未だ教会は存在しており、いつ取り潰されるのかと…』
あ、忘れてた。
王都の教会はロードの雷で破壊されたからそのイメージが強過ぎて、私の中ではもう教会は無いものだと変換されていたわ。
「そ、そうだね。世界中の教会を取り潰すし? 急に消してしまうとびっくりされるだろうから、皆に伝わるまでは~…とか思ってまして?」
目を泳がせ変な汗をかいた私に訝しげな目を向けたヴェリウスは、分かりましたと頷くと、
『では、世界中の人間に今回の事を周知させます』
と言ってどこかへ行ってしまったのだ。




