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異世界で神様になってたらしい私のズボラライフ  作者: トール
第5章

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259.己の為の土下座と他人の為の土下座


「そ、それではッ 神王様がお戻りになった今、亡くなった者は生まれ変わる、という事でしょうか?」


王都の民の一人が驚きと緊張を隠せない声を上げた。


「その通りじゃ。すでに幾人かは生まれ変わっておるし、これからもどんどん生まれてくるじゃろう」


とはいえ、魂は同じであっても姿形は違う上前世の記憶はないので同一人物とはいえない。生まれ変わりではあっても生き返っているわけではないのだ。それを間違ってはいけないと注意しておく。

まぁ人族に関しては外見ではなく魂に惹かれているので関係ないのだが。


「私の息子も…っ この世界のどこかに生まれているのですか…!?」


涙を堪えるようにそんな声が上がる。

息子を亡くしたのだろう。その女性はすがるように私を見て言うのだ。


「おぬしの息子だった(・・・)者はまだ世界に還ったばかりのようじゃが、魂を磨かれていずれまたこの世界に生まれるじゃろう」


そう話すと感極まったように涙を流し、ありがとうございますと何度もお礼を言われた。

私のおかげというわけではないので少し困ってしまうが、その気持ちは素直に受け取る事にした。


女性を皮切りに皆がはらはらと涙を流し拝まれるので、教会関係者への罰を言い出しにくくなる。

しかし神々に啖呵を切った手前、罰を与えないわけにはいかないのだ。


「さて…この男に協力した者達じゃが」


この言葉に今までしれっとその場に居た教会関係者や貴族の一部が顔を引きつらせる。

この人達の反応は、大司教と同じ位酷い気がする。

あわよくば何もなかったようにやり過ごそうとしていた事が丸分かりだ。


「どうやら教会関係者がかなりの割合を占めておるようじゃし、協力した者だけでなく見て見ぬフリをしておった者も多く居たようじゃからなぁ…」


大司教とは無関係の教会関係者まで顔色が真っ青になっていく。全く知らずこの一件に関わっていない者には申し訳ないが、ここまで大事にしてしまったのだから連帯責任は免れないだろう。



そうして私は大司教と協力関係にあった貴族と教会関係者に罰を与えたのだ。


「今この世界にある教会は全て取り潰す事にする」



これには上を下への大騒ぎになったのは言うまでもない。

イアンさんは仕方ないだろうと目を伏せ、ルーベンスさんは予想していたのだろう。いたって冷静だ。しかし、


「は、発言をお許し下さいっ」


必死の形相で声を上げたルマンド国王に意外だと目を丸くする。


「申してみよ」

「あ、あのっ 教会が取り潰しとなると、人々の祈る場所が無くなります! 心の支えが無くなってしまいます!! どうか我々から神々や貴方様への信仰を取り上げないで下さい!!」


一国の王が額を地面に擦り付けて必死に訴えてくる。

ロードは「陛下…」とその姿に子の成長を見守る親のように感銘を受けているのか、呟き見つめていた。

周りの人々も王様がそこまでして訴えている事に感動したのか、次々と同じように土下座してお願いしますと教会の取り潰しを止めようとしてくるのだ。


「……お前達から信仰を取り上げたつもりはない」

「どうか…っ……え?」


必死に願っていた声が静かになり、恐る恐る顔を上げたルマンド国王は、ポカンとした間抜けな表情で私を見ている。


「祈る場所など何処でも同じじゃ。おぬしらが心を込めて祈ってくれるのであれば、何処からでも神に届くのだからのぅ」


ただ皆が祈るから祈る。や、適当に祈る等は届かないが、本当に心を込めたものなら必ず神に届くのだ。

それを受け取って行動に移すかどうかはその神次第だが。


そんなわけで教会だろうと家だろうと、祈れるならどこでも同じなわけだ。





「わ、私はッ 神王様が御隠れになったと思っていたのです! だから教会の象徴を変える事に賛同しただけで、神王様が帰ってこられたと知っていれば賛同などしませんでした!!」

「私もです!! 大司教に騙されたのです!!」


顔色を青くしていた者達が次々と主張してくる。

その内容は自分勝手で、全てを他人のせいにするものだった。



「貴方達は、何をおっしゃっているのですか!!」



あの大人しいお嬢様、ベルーナちゃんが大声を張り上げた事に驚き見れば、彼女は怒り慣れてないのか猫のようにふーふー言いながら拳を握りしめている。


「っ例え神王様が御隠れになっていたとしても、この世界の創造神たる御方を排する等という不遜な考えを持つ事自体がおかしいとお考えにならないのですか!! それを大司教に騙されたと、人のせいにして…っ 一体あなた方は何をおっしゃっているのです!!」


まだ子供だというのに、大の男を怒鳴るのは勇気がいるだろうに、お嬢様は顔を真っ赤に染めて震えながらもはっきりと物を言うのだ。

だというのにこの男達は反省の色もなく、


「な!? そ、それは大司教に脅されたからで…っ」


なおも罪を認めようとはしない。


「おぬしらにとっては今回の罰は都合の良いものではないか? 何せわしを祀っておった教会は無くなるのじゃ。好きなものを信仰出来るではないか。何をそんなに焦っておる」


微笑んで言ってやればますます顔色を悪くする教会関係者と一部の貴族達。


「自身の好きな神なり、何なりを信仰すれば良かろうて。それが本来の宗教の在り方じゃ。まぁ身近な者を信仰するのはすすめんがのぅ」


自分で言っておいて何だが、そう考えると教会を取り潰す事は何の罰にもならない気がしてきた。


「ミヤビ…大司教に協力した奴らは、人々の信仰心を利用して暴利を貪ってきた奴らだ。教会が無くなれば破滅するのは目に見えてるから充分罰にはなってるぜ。…まぁ、俺がそれだけじゃ終わらせねぇけどよ」


ロードがこっそり教えてくれたので、罰はこれで良かったのだとホッとする。

お嬢様を見ると、まだ拳を握ったままでふるふると震えていた為そばに寄れば、お嬢様は私が近付いてきた事に驚きその瞳を瞬かせていた。


「ベルーナ、おぬしはよう勇気を出して怒ってくれたのぅ。大の男に立ち向かうのは恐ろしかったじゃろう」


頭を撫でてやると、握った拳は緩みその瞳が徐々に湿っていく。

お嬢様は顔をさっきとは違う意味で真っ赤に染め、唇をかんで涙を我慢している。それが何とも健気だ。


「わ、わたくしは、この世界を創って下さった神王様を蔑ろにする人達を許せなかったのです。それに…自分達の罪を人のせいにする事はダメな事ですもの」

「そうじゃの。自分が悪いのに人のせいにするというのは、幼子でもダメじゃと分かる事じゃな。

悪い事をしたら罪を償わんといかん。全ての行いは自身にはね返ってくるのじゃ。それが“世界の理”だからのぅ」


はいと返事をするお嬢様に目を細め、教会関係者や人々を見れば気まずそうに目をそらす者達が目立つ。


全く、大人が情けない。


「も、申し訳ありませんでした!!」


真っ青な顔で土下座する者を皮切りに、大司教の協力者が次々と土下座していく。

民の為に土下座した国王と違い、己の為に土下座する者の何と愚かしい事かと哀れに思う。


「お前達が謝らねばならんのはわしではない。今まで欺いてきた人々にじゃろう」


私は特に何もされていないしね。


「陛下」


ロードが国王に一声掛けると、それにハッとした国王は騎士達に向かって言い放つ。


「捕らえろ」


騎士達はその声にすぐ反応し、土下座している者や顔色の悪い貴族を拘束していく。


何か異世界っぽくて格好良い。


「神王様、御前をお騒がせしてしまい申し訳ありません。

おこがましいお願いではございますが、彼らは人の法で裁かせていただきたく…っ」


震えながらそう願いまたもや土下座してくる国王に、この人本当に人の為に行動出来る人だなぁと感心する。


「ふむ。なれど教会を取り潰す事は変わらんが良いのか?」

「はい。それは教会の暴走を止められなかった我等人間の罪。彼等には人が定めた罰を受けさせたく思います」


いつものおどおどした瞳ではなく、その真剣な眼差しに「よく分かった」と頷く。


「大司教を含め、この者らの処罰をルマンド国王に任せよう」

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