26.ピンクの髪って異世界じゃあ定番なの?
「あ、おおっロード、丁度良かった!! ミヤビ殿に話があるから出て来てもらいたいと君から伝えてくれないか」
「あ゛? 話ってなんだ。テメェ俺のつがいだって分かって言ってんのかあ゛ぁ゛?」
国王だぞォォ!? ソレお前の国の国王だぞォ!!
なんつー態度とってんのロードさーん!!
「す、すまない。けれどロードがなかなか会わせてくれないから…」
「テメェ、自分のつがいを他の野郎に会わせる奴が居ると思ってんのか」
「せめて薬をもらったお礼を言わせてもらう位良いだろう!?」
「良いわけあるかクソボケ。大体最初に会った時礼は言っただろうが」
「俺国王ォォ!! あの時もお前が邪魔してきて、きちんと礼すら出来てないわ!!」
何だこの会話。
ロードの態度は悪すぎるわ、国王はヘタレだわ。
『ミヤビ様、ここを開けていただけますか?』
ヴェリウスの可愛らしい声が聞こえ、恐る恐る扉を開けると隙間からヴェリウスが入ってきた。
「お帰り。今日は早かったね」
『ミヤビ様のお部屋の前に不審人物を感知しましたので』
そんな事を言いながらお座りして、後ろ足で耳の裏側を掻いている。
ノミかダニでもいるのだろうか。ノミとりしてやるべきか。
「とにかく帰れ。後、俺ぁ騎士団辞めるから処理しとけよ」
「バカなの!? 君師団長だよ!? そんな簡単に辞められるわけないだろ!! 大体ウチの騎士団常に人材不足だからね!!」
「知るかボケ。国王なら何とかしろよ。大体“第1”、“第2”のバカ共はまだ復帰してねぇがどうした。奴ら絶対サボってんぞ。俺の前に引きずって来い」
「あの二人は領地の事もあるから、そっちが落ち着いたら復帰予定なんだよ……」
「あ゛ぁ゛? 王の側近がんな悠長な事言ってていいのかコラァ」
「そ、そんな事僕…、俺に言われても……っ」
私の借りている部屋の前でずっと話している二人だが、会話の内容からは一体どっちが王様なのか分からなくなる程ロードが上から目線だ。
これ、ツッコんだ方が良いのだろうか?
少しだけ開けた扉の隙間から様子を窺っていると、王様と目が合った。
一度だけ王宮で見たことがある顔だったので、本当に王様だと驚いた。
人の顔は一度見ただけでは覚えられない脳ミソだが、王様は特徴があるので覚えている。
何しろ王様の髪の色……ピンクなのだ。
桜の中でも、染井吉野のピンクが鮮やかな花と同じような色合いをしていた。
何とも可愛らしい色で、それに合った端正な顔立ちをしている20代前半だと思われる男性だった。
どちらかというと、髪の色に気を取られて顔の方はあまり覚えていないが…。
王宮で働いている人でピンクは見た事がない。皆黒、茶、栗色、金髪、白髪(老人)、濃紺という、わりと大人しい色合いが多かったように思う。
まぁ、滞在1日目のお城見学の時以外部屋から出ていないから一部の人しか見ていないが。
そんな王様と目が合ったのだ。扉を閉じたくなるだろう。珍しい色でなくてもこの状況だと扉を閉じたくなる。
「あーっ 待って!! 閉めないでぇ!!」
大声で叫ばれ、びっくりして逆に閉めちゃったからね。
普通こういう時の小説の主人公は閉めずに固まるでしょ。じゃないと話が続かないしね。もしくは恋愛ジャンルだと扉を閉めて、取っ手を握ったままチワワのように震えるとか。そろそろ帰ったかしら…なんて扉を開けてみたらまだ居た。みたいな?
ないから。何なら鍵までかけちゃうから。そしてソファに寝転がるからね!
「突然来て悪かったと思ってる。でも使いをやっても手紙を出しても全部ロードに握り潰されてしまうから、こうやって直接来るしかなかったんだ」
「テメェ馴れ馴れしく俺のつがいに話しかけるんじゃねぇ!」
「だから謝ってるだろっ けど、命の恩人には直接お礼が言いたいじゃないか」
王様がここに来たのはロードが原因だったらしい。何やってんだか。
「ねぇヴェリウス~」
『何でしょうかミヤビ様』
トトトっと軽い足取りでこっちにくるヴェリウスの頭を撫でながら、ちょっと聞いてみる。
「王様がわざわざ来てくれてるし、会った方がいいのかなぁ」
『ミヤビ様のお好きになされたらいいかと』
尻尾をブンブン振りながら答えてくれるヴェリウスの言葉は意外と素っ気ない。
「う~ん…王様って立場の人に会うのが面倒臭いんだよね」
待てよ…いっそ会って話した方が堂々と帰れるじゃないか!
「よし会おう。ロードさーん、王様…国王陛下とお話したいんですけど~」
扉の鍵を開けて取っ手に手をかけたが開かない。
全力で扉を押すが全く動かずギシギシいうだけだ。
立て付けが悪いなこの扉。
部屋の奥まで後退し、勢いをつけて飛び上がり扉を蹴った。
「どっせーい!!」
その際掛け声が出てヴェリウスに吹き出されたが気にしない。
しかしそれでもびくともしない。ボロい扉のクセしてなかなかやるな…これは強敵だ。
額から汗が流れた。
ふー…
目を閉じ息を大きく吐いて、心を落ち着かせる。
明鏡止水の心だ。
カッ
見切った!
「せいィィッ!!!」
拳を繰り出し扉へ向けて正拳突きが炸裂した。
ゴッっと鈍い音が響き……
私の拳が破壊され崩れ落ちた。
『ミヤビ様!?』
ヴェリウスが崩れ落ちた私に慌てて駆け寄ってくる。
「ヴェ、ヴェリーちゃん…すまない…私が不甲斐ないばかりに…っ 敵はまだ閉じたままだ…奴を開けられるのは、うぐっ ぐはぁ…っ」
『ミヤビ様ァ!! そんな事言ってる余裕があるなら早くその拳を治して下さい!!』
そんな事をしていると扉がバターンッ と開いてロードが現れた。
「どうした!?」
「だから言っただろう。ドンドン音をたててたんだから開けてやれって」
倒れて、拳の破壊された痛さに泣き呻いている私を抱き上げたロードは、「何があった!?」と慌てている。
恥ずかしくなったので傷をサッと治し、何食わぬ顔で王様を見た。これは君に会うためにうった芝居だぞ、と。
「あの、お話があるとお聞きしましたがどういった…」
「いや、何計画通り、みたいな顔してるの? さっきまで手が見たこともない位ぶらぶらしてたからね」
国王にツッコまれたァァ!!!?




