243.北野 雅
地球の引力に引っ張られるように落ちていく。こりゃだめじゃな…なんて思いながら、洗濯機の中のようにぐるぐる回って、地球上の生物達の輪廻へと混ざり、洗われていくのが分かる。
段々記憶すらも無くなっていき、我が子すらも忘れていくのだ。
そうして地球に産まれ落ちたのが私、“北野 雅”であった。
あの時“地球の”と話していた際、平凡な“器”に興味を示したからだろうか。
全てが平均的な人間へと生まれ変わった私は、平凡な家庭で育ち、平凡な学生生活を過ごした後、少しだけやる気を出して夢を見てやぶれるという、まぁありがちな人生を送って平凡とは言い難いコントのような死に方で神王へと戻ったのだ。
とはいえ、未だ“器”は平凡な“北野 雅”のままであるが。
変えようと思えば保管してある老人にも、絶世の美男美女にも変えられる。けれどわりとこの平凡の器を気に入ってしまったらしい。愛着があるのだ。
それに…ロードがこの外見を気に入ってくれている事も大きい。
そんな事よりも、“調味料の”奴め。今度会ったらアイツのお酒コレクションを全て没収してやる。
復讐に燃えながら意識が浮上していき、気付けば知らない天井……と思いきや、知ってる天井が目に入ってきた。
何度か瞬きして、ゆっくり頭を動かすと……
「ミヤビ!! 気が付いたのか!?」
ゴリラ…ロードと目が合い刹那、抱き締められたのだ。
「ぅ…苦しい」
相変わらず力が強い。
しかし何故ロードがここに居るのか?
天井からしてここは天空神殿だろう。確か神々の会議中に眠気に襲われて…多分そのまま眠ってしまったはず。
外はまだ明るいようだし、時間はそんなに経っていないようだが…誰かがロードに連絡したのだろうか?
「ミヤビっ 俺のミヤビ…っ 目が覚めてよかった…っ」
「そんな大袈裟な。少し居眠りしてただけでしょ」
「バカヤロウ!! 居眠りで一週間も起きねぇ奴がいるか!!」
「は?」
一週間? 何それ。
今にも泣きそうな声で怒鳴られたが、聞き捨てならない事を言われたぞ。
「もしかして……私、一週間も寝てた…とか?」
「もしかしてじゃねぇ!! ヴェリウスに話を聞いて目の前が真っ暗になったじゃねぇか!!」
ロードの声は震え、抱き締める腕の力は強くなっていく。
「あ~…ごめんね?」
「ミヤビが、倒れたって聞いて俺ぁ…っ」
ロードの背に腕を回して宥めれば、頭に頬を擦り寄せ、髪の毛に沢山キスされる。
「体調が悪いわけじゃないんだよ? 何というか…昔の記憶を一気に思い出しちゃったから、“器”がビックリして眠りについたんだと思う」
キャパオーバーでフリーズしてしまうPCのようなものだろう。
「昔の記憶だぁ?」
気になったのか、腕の力を緩めてくれたので少し身体を離して顔を見上げる。
「神王としてこの世界を創った時の記憶を思い出してね…何でこの世界から居なくなったのかその理由もはっきり思い出したよ」
「…どうして居なくなったのか、聞いてもいいか?」
いつになく真剣な表情の彼に頷けば、浴衣を着せられていた私の肩に、そっと羽織をかけてくれた。
お礼を言って説明しようと口を開いた所で、
『ミヤビ様、そのお話…我々もうかがっても宜しいでしょうか?』
とヴェリウスとランタンさんが部屋の外から声を掛けてきたのだ。
障子にヴェリウスのわんこな輪郭と、ランタンさんのメロンが映っており、その後ろにはトモコらしき姿とジュリアス君っぽい影が映っていた。
ロードをチラリと見れば、ムスッとした顔をして私の浴衣の合わせをしっかりとじつつ、羽織の袖に私の腕を通して整えている。
「大丈夫だから入っておいで」
そう返事をすれば、直ぐに障子が開き3人と1匹が入ってきたのだ。
『ミヤビ様、具合はいかがでしょうか?』
すっかり大人になり落ち着いた様子のヴェリウスだが、やはり尻尾で感情を表現する所は変わり無いようだ。
今は心配ですと言わんばかりに尻尾が垂れ、瞳が揺れている。
「元々体調が悪いわけではないから大丈夫だよ」
こちらへおいでと呼べば、垂らしていた尻尾を振りながらやって来る。
ランタンさんは…子供の頃の面影は皆無だ。
一体この子に何が起きてこうなったのか。
「やだぁ~そんなに見つめられるとアタクシ困ってしまうわ~」
身体をクネクネさせながら自分を抱き締めているランタンさんがとっても気持ち悪い。子供の頃とのギャップが…。
「みーちゃん前々世を思い出したんだって!? みーちゃんの前々世の話聞かせて~!!」
トモコはただの興味だけでここへ来たのか…さすがトモコである。
そしてジュリアス君。
自身の精霊を監督出来なかったと反省中であった彼は、どうやら反省を終えて天空神殿へやって来たようだ。
この子は昔から少年マンガの主人公のような感じだったなぁと目を細めて見てしまう。
皆を見て改めて思うのだ。
この子らの、成長過程を見られなかった事が残念でならないと。




