241.蘇る記憶2
『ミヤビ様…っ 記憶が蘇ったのですか!?』
ヴェリウスの声にハッとして周りを見渡せば、ランタンさんは呆然と、他の神々は平伏しており、イアンさんだけがついていけずに目を泳がせていた。
「…………ああ、始まりの記憶だ━━━……」
『ミヤビ様……? っミヤビ様!!』
急激な眠気に襲われ身体に力が入らなくなる。
そして私は、そのまま倒れるように意識を失ったのだ。
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『神王様、アレはなに?』
『アレとは?』
小さな身体をぴょんぴょん跳ねさせて訊ねてくるヴェリウスに首を傾げる。
『前に教えてくれた、“海”の上にある“空”にうかんでるアレ!』
『ああ、アレは“雲”じゃな』
『くも……食べられる?』
キラキラした瞳で食べられるか聞いてくるヴェリウスに、お腹でも減ったのだろうかと苦笑する。
『雲は食べ物ではない。どれ、腹が減ったのかのぅ』
可愛い子犬を抱き上げ膝へ乗せれば、尻尾をぱたぱたと振り『違うっ ふわふわのもこもこしたのがおいしそうだったから…』と鳴くのでそれならばと、他の“創造主”に教えてもらった“綿菓子”というものを出してあげたのだ。
『くもだ!!』
『ふふっ これは“綿菓子”という甘い菓子じゃよ』
案の定雲だと食いついたヴェリウスに相好が崩れる。
『あまい!! わ、べたべたするっ』
黒い柔らかな毛に綿菓子がくっつきキャンキャン鳴き出した。
膝の上で暴れるのでおかしくてクスクス笑いながら綺麗にしてやると、またキャンキャンと吠える。
『神王様っ ひどい! この“くも”もういらないっ』
『おやおや、私の可愛い子が拗ねてしまったようじゃの』
頭から背中にかけてその柔らかな毛を堪能しながら撫でていると、私のいる空間に誰かが入ってくる気配がした。
暫くして「…神王様」と声をかけられ振り向けば、そこには静かに佇む子ランタンさんの姿があったのだ。
『ランタン、どうしたんじゃ? こちらへおいで』
呼んでやれば無表情のまま遠慮がちに近付いてくるこの子は、ヴェリウスと違って上手く甘える事が出来ないらしい。
他の神々に指示を出し、リーダーとして“世界”の世話をしてくれているのだ。
ヴェリウスは私の膝の上で服の端をガジガジ噛んで遊んでいるというのに。
「波が、少し落ち着いてきました。大地も出来て…森も出来ました」
『皆頑張っているようじゃの。ランタンや、お前もよう頑張っておる』
頭を撫でれば照れたように俯く様は普段のしっかりした様子と違い子供らしい。
『もうすぐお前の眷属も産まれるじゃろう。可愛がっておやり』
「……眷属。以前言われていた“竜”という生き物ですか?」
『そうじゃよ。とても格好良く強い生き物じゃ。きっとお前も気に入る』
「格好良い……」
ランタンは呟くとチラリとヴェリウスを見て私を見上げた。
「立派に育てます」
『ふふっ そう力まずとも、お前ならば良い子に育てるじゃろうて』
そんな会話をしてからどれだけ経っただろうか。
ヴェリウスも中型犬程の大きさに成長し、世界も落ち着き始めた頃、第1神であるランタンさんの眷属が産まれたのだ。
初めての眷属に戸惑っていたランタンさんだったが、すぐに夢中になり、乏しかった表情も徐々に感情が出てきたように思えほっとしたものだ。
しかしそれを見たヴェリウスが眷属を欲しがり、その内に10神全員が欲しがりだしたものだから大変だった。
それを叶えてやれば、どんどん生き物が増えて行き、世界はとても賑やかになっていったのだ。
やんちゃで賑やかな事が大好きな“世界”は、それを大層喜びその姿を変えていった。
動物や魔力を持った獣、ドラゴン、そして人間が産まれ、目まぐるしい速さで姿を変えていく世界を微笑ましく見守っていたある日、同じように世界を創造していた他の“創造主”に宴会に誘われたのだ。
その日は、私に綿菓子を教えてくれた創造主の世界を宴会場所とし向かう日であった。
確か今は“地球”という星を創造して観察している所だとか。綿菓子もその“地球”で産まれたというのだから楽しみに向かったのだ。
『ランタン、ヴェリウス、皆、少し留守にするからの。宜しく頼んだよ』
『はいっ 神王様。留守はお任せ下さい!』
「いってらっしゃいませ。お気をつけて」
「「「いってらっしゃいませ!!」」」
甘えん坊のヴェリウスは、声だけは元気良く、けれど尻尾は垂らしたまま。ランタンは丁寧に見送ってくれ、他の皆も笑顔で手を振ってくれた。
こうして宴会へと向かったのだが、これが皆との長い長い別れになろうとは思いもしなかったのだ。




