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異世界で神様になってたらしい私のズボラライフ  作者: トール
第5章

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235.雅の我が儘


「あ~あ…まさかこの世界に大豆が無いなんて。しかもお米も原種米だなんて……あんなにふっくらツヤツヤの炊きたて白米と、お味噌汁と、焼き魚にお醤油、さらに納豆という定番のご飯を皆が食べられないなんてっ」


前神王は一体何を考えてこの世界を作ったんだ!!


「ほらほら、そんなに興奮するんじゃねぇよ。前神王も何も、神王はオメェ一人しか居ねぇんだから自分の魂に問い掛けるしか方法はねぇだろ」


仕事の合間に帰って来たロードに膝の上に乗っけられ、頭を撫でられながらそんな事を言われるが、魂に問い掛けるって何だ。神王は今代は私だが先代は違うだろうが。先代が私の魂に住んでるとでも言うのか。

後頭を撫でるのを止めてほしい。首がゴキゴキいってるから。


「ロードは良いの!? 味噌も醤油も無い世の中なんて、人族にとってはつがいの居ない世界、魔族にとっては魔法の無い事と一緒なんだよ!?」

「勿論つがい(ミヤビ)が居ねぇ世界なんて考えられねぇが、そうは言っても大豆が無ぇんだから仕方ねぇだろ。深淵の森(ココ)では食えるんだから良いじゃねぇか」


さすがのロードも呆れているのかこの言い様である。


「だったらロードは、深淵の森でしか私に会えなくなるとしたらどうなの!? 嫌じゃないの!?」


良く考えれば深淵の森だけであっても会える事に変わりはないので全く問題ないのだが、この時の私は興奮していた為自分でも何を言っているのか分からなくなっていたのだ。

ロードはそんな話に困ったような顔をして、ここでしか会えないなら全て捨ててここでずっと暮らすけどよぉと言っていたが、そういう事ではない。


「美味しいご飯を皆に食べてもらいたいの! あんな食材を冒涜するような調理を続けるなんて許せない!! 私は、異世界ならではの美味しいご飯を食べ歩きしたいんだーーー!!」

「それが本音か」


そう。大豆だけの問題ではない。

この世界、食材はあるのに調味料の種類がほとんどなく、ハーブ類ですら雑草扱いされているのだ。

食べるのは肉や魚、キノコや果物、一部の野菜位で他は放置されているのが現状である。しかも調理法は焼き一択。スープもあるが、出汁をとるという認識はなく水を入れて塩を入れたらそこへ焼いた魚や肉を入れるだけという大雑把さなのだ。

王宮の豪華な食事というのも塩や砂糖をふんだんに使っただけで、後は生花等で飾られているという微妙すぎるものだった。

だからチョコレートのお店が出来たと聞いた時は奇跡か!! と思ったが、甘過ぎる上にえぐみと苦味が消えておらず舌触りも荒くて、とても美味しいとは言えないもので消沈したものだ。


とにかくこの世界の食事は不味いとしか言い表せない。このままでは最初の犠牲者が出てしまう。


「最初の犠牲者だぁ? 誰の事言ってやがる」

「ルーベンスさんだよ!!」


晩餐会でのルーベンスさんの顔色は相当で、これからお弁当でも持って行ってあげようかと思っていた所なのだ。


『…ミヤビ様、それほどまでに憂いておいでならば、望むものを創ってはいかがですか?』


今までラグマットの上で眠っていたヴェリウスが、くぁ~っとアクビをしたかと思えばおもむろに立ち上がり言ったのだ。


「いや~他の植物に影響与えたりしても怖いでしょう?」

『何をおっしゃいますか。貴女様が望めば思い通りになるのですから、影響を与えぬよう願えば宜しいのです』


ぐぐっと身体をしならせてもう一度あくびをすると、ヴェリウスは少し出掛けてきますと言って外へ出ていったのだ。


成る程、ヴェリウスも何だか呆れて投げやりな感じではあったが、確かに無いものは創ってしまえば良いのか…。


「おい、ちょっと待て。その前にまずはどういったものをどういう風に創るか、そして場所やその後の事を書き出して俺に見せろ。じゃねぇと後々大変な事になりそうだからな」


えー面倒。と顔に出せば、ヤクザな顔で睨まれた。

この男は本当につがいなのだろうか。


「…分かりましたよ。書き出せたら渡すから」

「書き出す前に勝手に創るなよ」


信用ないなぁ…。


念押しされた私は、面倒な作業に肩を落としながらも犠牲者(ルーベンスさん)を出さない為に少し頑張る事にしたのだ。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



イアン・フェイ・コフトル視点




「クソ……っ 流石に王都には見張りがいるか」


ルマンド王国の南にある“トレイク”という町の教会。そこで私は神官として過ごしてきた。

司祭の息子であり聖人と崇められ、いい気になっていたのかもしれない。

魔素の枯渇寸前の世界で、良い服を着て豪華な食事をする事が当たり前だと思っていたあの時の自分は、今思い出しても恥ずかしいものだ。


そんな私が変われたきっかけは、町に住む同じ年の子供であった。


当時有頂天となっていた愚かな私は、教会があるというのに前を通り過ぎるだけで祈りを捧げないみすぼらしく痩せ細ったその子供に声を掛けたのだ。

何故教会で祈らないのか、と。

その子供は言った。


“祈りを捧げてお腹がいっぱいになるならいくらでも祈りを捧げるよ”


救いを求める人々から搾取したもので、当たり前のように良い暮らしをしていた私は、雷にうたれたような衝撃を受けたのだ。


一体私は何をしているのだ。こんな今にも死にそうな子供から、人々から奪っておいて、癒す力を持ちながら何もしていないではないか。

神の代わりに人々に施しを与え、神王様の、神々の教えを説き手を差しのべる事こそが教会の本当の役割だったはずなのに。

その為の“力”だというのに。


私はその時に自分の愚かさを知り、司教であった父の元を離れ世界中を巡る旅に出る事を決めた。

準備していた食料や資金はあっという間に尽きたが、食糧難で飢えているというのに人々は優しく、僅かな食料を分けてくれたりもしたものだ。

そんな人々に癒しの力を使い恩を返していく事が私の精一杯の誠意であった。

勿論その中で神々や神王様に祈りを捧げる事はかかしていない。




人族の神で在らせられるアーディン様のお声を聞いたのは、旅に出て10年後の事だった。


神との対話で私は聖人、聖女の本当の能力を知ったのだ。


神々と世界の意思を感じる能力。それが聖職者の条件であった。

そんな能力が自身に備わっていると教えられ、そこで初めて感じた世界の意思。

それはまるで親を亡くした赤子のようだった事を覚えている。

寂しい、悲しい、会いたい、帰って来て、と泣き叫んでいるようで……神々も同じような思いだったのだと思う。

全ては、神王様が御隠れになった事が発端だとアーディン様からお伺いした。

しかしアーディン様はもうすぐ神王様をこの世界に連れ戻す事が出来るとおっしゃっていたのだ。



その後また10年以上経ってから魔素が満ちた時は、アーディン様の言うとおり、神王様がお帰りになったのだと分かった。


魔素が満ちてからは世界中を巡る旅を終え、私はトレイクの教会に戻って再び神官として過ごしていたのだが……あの日、見てしまったのだ。


他の教会関係者が神王様の像を破壊している所を。


そして聞いてしまった。彼らが支持しているのが誰なのかを……っ


すぐ陛下にお知らせせねばとトレイクの教会を飛び出したが、すぐ追っ手がやって来てこれだけの時間がかかってしまった。

しかも王都に入ってからは教会関係者が街に溢れており、こうして路地裏で見つからないよう息を潜めているだけで精一杯だった。


時間が無いというのにッ



「おや、随分とボロボロになって……アンタ大丈夫かい?」


急に声を掛けられドキリとする。追っ手に見つかったのかと冷や汗がこめかみを流れていくのが分かった。

しかしどうも様子が違うらしい。


私に声を掛けてきたのは女性で、教会関係者ではないように思えた。

少し体の力が抜けたが油断大敵だ。


「良かったら休んで行くかい?」


ウチは目と鼻の先にあるからねと行った女性は、店舗らしき建物を指差して言ったのだ。

掲げられた看板にはこう書いてあった。



“トリミーの茶葉専門店”


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