229.貴族とは
「ったく、オメェはなんつー綺麗な格好してやがるッ」
あの後北斗の○のラ○ウが乗るようなデカい馬にロードと共に乗せられ(勿論外套を着たまま)、王宮へと連行されたのだが、そのままロードの執務室へと連れ込まれて最初の一言がコレだ。
目の前で鼻を押さえてハァハァ言っている変態が居る。
「おま、それ卑怯だぞっ 可愛すぎる!! そんな綺麗な格好してるつがいを説教出来るわけがねぇ!!」
悶絶し始めた変態から距離を取ろうとすれば、それに気付いたロードに腕を掴まれ引き寄せられた。
「ミヤビぃ、オメェのその姿を見た奴ら全員殺してぇ」
「怖い怖い!! ほぼ認識阻害魔法をかけてたから見られてないと思うよ!?」
認識阻害魔法かける位ならドレスアップして行く意味がないと思った人、仕方ないのだ。ただ単にドレスを着てみたくなったのだから。雰囲気は大事だと思う。
「カルロも子爵の娘も見ただろ」
そう唇を尖らすロードは子供っぽい。彼の頭を撫でながら「それは仕様がないデショ…」と言い訳するが、俺だけが見たかったとぶつぶつ言っているので困ってしまう。
「ねぇロード、お嬢様の事だけど……」
「あ゛?」
悪ガキからチンピラにランクアップした顔を向けてくるので、だから盗賊とか言われるんだと、あの時の淑女のヒソヒソ話と悲鳴を思い出す。
「力が無くなれば聖女じゃなくなるよね?」
「…止めとけ。突然力を失えば、あのガキは教会からも親からも捨てられるぜ」
親から捨てられるって、何で!?
「貴族ってなぁ体裁が大事なバカ共が多いんだよ。例え人族でもつがいにゃ滅法甘いが、大概がつがいの愛情が子供に向いてるってんで子供にも嫉妬しちまうもんだ。最悪なのはそんな子供が邪魔になって捨てちまうって奴だな。まぁ滅多にいねぇが。そんなだから、力のねぇ子供は貴族にゃ無用の長物って捨てられる可能性が高い」
「ロードも、子供が産まれたら邪魔になるの!?」
人族の怖い話を聞いてロードに確めると、ミヤビが子供にかかりきりになるとそう思っちまうかもなぁとサラッと言われたので青ざめる。それは…と引いていたら、言い方が悪かったと気まずそうに頭をかいたのだ。
「当たり前だが、人族はつがいが一番大切だ。何よりもな。だからつがいが産んだ自分の子も勿論二番目に大切にする。つがいに似てりゃあそりゃあもう溺愛するしな。だから、子供に嫉妬っつっても本来はそんなヤベェもんじゃねぇ。つがいに構ってくれってまとわりついたり、1日位ぇ独占したくなるとかそんなもんだ。普通はな」
それもどうかとは思うが、子供への愛情はあるらしいので少し安心する。
「貴族ってのは、元々の教育が違ってんだろうよ。プライドだけは高ぇもんだからつがいが貴族だったら最悪だ。子供にもおかしなプライドを求めちまう。そんなもんだから、男の方はつがいの思うままに子供を扱っちまうんだよ。ヘルナンデス子爵んとこはどっちもが生粋の貴族だからな…多分子供に聖魔法の適性が無くなれば躊躇い無く家を追い出すだろうよ」
確かにヘルナンデス子爵はパーティーでも自慢気に聖女について語っていた……貴族怖い。
「じゃあどうしたらいいの? 教会に入ってしまったら監禁されて出て来れないんでしょ?」
「監禁つっても“聖女”なんだから悪いようにはされねぇだろうが……金ヅル扱いはされるかもな」
良い金のなる木だからな。と表情も変えずに答えるので、何故お嬢様も一緒に連れて来なかったんだと後悔した。
「オメェは心配すんな。あのガキはカルロが何とかしてくれんだろ」
「カルロさんが何とかって…聖女認定された貴族のご令嬢を何とか出来るの?」
言えば目を逸らされたので頬っぺたをつねってやった。
この男は特に考えもなしにカルロさんへ丸投げしたようだ。
「仕方ねぇだろっ 貴族や教会のゴタゴタに貴族じゃねぇ俺が巻き込まれるわけにゃいかねぇんだし。カルロなら侯爵位を持ってるし、宰相も助けてくれんだろ」
「そんな適当な事言って…」
貴族や教会など権力を持つ者を相手にするのが嫌なのだろう。けれどバイリン国の王族を相手にボコボコにしたのはロードのはずだが? と首を傾げていれば、「ありゃオメェにちょっかい出して来たからだろ。大体オメェが首突っ込まなかったらあんな事にゃならねぇよ」とぶつぶつ言ってくるのでそっと目を逸らしたのだ。




