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異世界で神様になってたらしい私のズボラライフ  作者: トール
第5章

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228.ドナドナ


こんにちは…? はおかしいか。昼過ぎから始まったパーティーは終盤にさしかかりすでに日が沈みかけている。ならこんばんは? いや、これも適切ではない気がする。どうも~などと声を掛けるのは怪しすぎやしないだろうか。


認識阻害魔法を解いたにもかかわらず、お嬢様に何と声を掛けたら良いのか分からず佇んでいると、息を飲む微かな音が耳に届き顔を上げた。


「っ…貴女は……」


結局お嬢様から声を掛けてもらったが、どうも~しか思い浮かばなくなった自身のヘッポコ脳が恨めしく、黙ったまま笑うしかなかったのだ。


「確か、“あの服屋”の……」


え? どうしてここにいるの? と瞳をまん丸にしたその顔はふっくらとした頬っぺたと合わさって可愛らしい。


「お嬢様にちょっと聞きたい事があって来ました」


ヘラリと笑えば、聞きたい事? とコテンと首を傾げる。それ以上頭を傾けるとコロコロと転がってしまいそうな所がまた可愛らしいお嬢様だ。


「あの日、お嬢様はウチの服が欲しいと来店されましたよね」

「え、ええ。そうよ」


私の質問に素直に頷くお嬢様に話を続ける。


「何故、ウチの服が欲しいと思われたのですか?」

「それは……」


お嬢様が答えようとした刹那、会場からキャーッという悲鳴が上がり、お嬢様も私も何だ!? と身構えたのだが、招待客も子爵も誰一人扉から出て来る気配はない。

ざわついている声がしていたが、徐々に収まってきているようで廊下側は静かなものだ。


「な、何があったのかしら?」


怖いのか私のドレスを掴んで震えているお嬢様に、誰も出てこないし誰かがドレスに飲み物でもこぼしたのだろう。と宥めていると、バターンッと大きな音をたてて、私達の居る側の廊下に続く扉が開いたのだ。


「きゃっ」


音に驚いたお嬢様が私の後ろに隠れる。

開いた扉を見ると、そこから出てきたのは大男……


「こんの…っ バカヤローが!!」


ロードだった。


「ろろろろろ、ロードォォォ!? どうしてここに!?」

「嫌な予感がして指輪の位置を調べりゃ家に居るってんで、一旦様子を見に帰りゃもぬけの殻だ。そりゃここしかねぇと思うだろうが!!」


激怒しているロードの後ろから、苦笑いしているカルロさんとトモコが出て来て、中の人達になにやら言ってから扉を閉めている。


「っとにテメェは…ッ んな格好他の奴に見せてんじゃねぇよ!!」


あっという間に引き寄せられてバサッと布を頭から被せられ抱き込まれる。


「ちょ、待って!! まだお嬢様に質問の答えを聞けてないっ」

「あ゛?」

「ヒィッ」


チンピラのような「あ゛?」に悲鳴を上げたのはお嬢様だ。どうやら怒ったロードが相当怖いらしい。

確かにあの顔じゃあ子供は腰を抜かすか逃げていくだろう。大人だってそうなんだから。

成る程、さっきの会場からの悲鳴はそれか。


「お嬢様、どうしてウチの服が欲しかったのか教えて!」


被せられた布を取りつつ聞けば、お嬢様は涙目でロードをチラチラ見ながら震えてお話にならない。

ロードに離れていて欲しいと言おうものなら般若と化してしまうだろう。

どうにかしなければと考えていれば、カルロさんが手を差し伸べてくれたのだ。


「ロード、ミヤビ殿はベルーナ嬢に聞きたい事があるようだよ。君もつがいならミヤビ殿のそんなささやかな願いを叶えてあげたいと思うだろう?」

「っそりゃそうだが」

「だったら叶えてあげればいいじゃないか」


簡単な話だよとカルロさんはニコリと微笑む。

それに頬を染めているのはお嬢様で、ロードへの恐怖より憧れの人(カルロ)の笑顔を目の前で見られた事が勝ったのだろう。


一方のロードは、ムッツリとした顔で私とお嬢様を見て黙ってしまったのでそのままお嬢様にさっきの質問の答えを聞いたのだ。



「私は…聖女になりたくなんてなかったから」



そう、お嬢様は答えた。





12歳の誕生日を迎える少し前、父親から魔法の適性検査を受けるように言われて教会へと行ったお嬢様は、そこで“聖魔法”の適性があると確認されたそうだ。

急に“聖女”だと言われて戸惑っていたというのに、さらに“聖女”は生涯教会から出られないと聞き恐怖したという。


父親である子爵には嫌だと伝えたようだが、名誉な事だと聞く耳もたず、教会側からはその日の内に聖女の従者となる者が派遣され、自由を奪われ家に軟禁状態だったのだとか。

その時に私達の服屋に行けば小さな幸せが手に入るという噂を思い出したお嬢様は、誕生日パーティーのドレスを仕立てるという名目で家から出る事を許されたらしい。

勿論従者の監視付きでだ。


私達の服屋で仕立てれば、“実は聖女ではなかった”とか、“つがいが現れる”といった事が起きるかもしれないと思ったそうなのだ。

結局は仕立屋ではなかったし断られたのだけど。とお嬢様は悲しそうに俯いた。


「“聖女”だぁ?」


そういえばロードは知らなかったなと振り返れば、カルロさんが事の次第を説明してくれていたので助かった。

さすが元王様。有能だ。


「ロードさん、そろそろ子爵達が様子を見に来るかも~」


トモコの声に反応したロードは、再度私に布(どうやら外套らしい)を被せると米俵のように抱えたのだ。


「ベルーナ嬢だったか? 悪ぃが今は(・・)あんたの処遇をどうこうする事ぁ出来ねぇ。だが、元の生活に戻れるようカルロが何とかすっからそう落ち込むんじゃねぇぞ」


後コイツに会った事は忘れてくれや。と言いながら移動するロードの後ろで、カルロさんがお嬢様に会場へ戻るようフォローしてくれている声が耳に届いた。


「う゛、ろ、ロードッこの抱え方、お腹が圧迫されて…ぐ、」

「少し我慢してくれ。オメェは今、この屋敷に入り込んだ不審者って事になってんだ」


何それ!?




実は私が勝手にヘルナンデス子爵邸へやって来て、暫く経った後ロードにそれが発覚したのだが、この男はあまりの事にここへ乗り込もうとしていたらしく、それを止めたのがルーベンスさんだったのだとか。

ロードがここへ乗り込んで私が彼のつがいであると知られるのはよくないとかで、不審者が侵入したとして屋敷に乗り込む事になったというのだ。


それもどうかと思うが、屋敷内にすぐ入るにはこれが一番だと自信満々の声で言うので、何度かそんな経験があるのかと遠い目になったものだ。


そしてその不審者として捕獲された私は、俵担ぎされて英雄の凱旋のように皆が見守る中ドナドナされたわけである。


「さすが第3師団の師団長だ」「迅速な対応だった」「何とも荒々しい登場だったが」「わたくし入って来られた時どこの盗賊かと思いましたわ」「本当に、お顔が恐ろしい魔物のようでしたわ」


途中そんな声が聞こえてきたが、あえて何も言わずに通り過ぎた。

それにしても盗賊って…と内心爆笑であった。


外に数人の騎士を待機させていたらしいが、貴族の屋敷には例え捕物であっても騎士が踏み入る事は難しいらしく、外での待機となったらしい。

そんな場所に何故ロードが入れたのかと言えば、王様からの許可と精霊(ワタシ)がつがいであるという事が背景にあるのだと後々ロード本人から教えてもらった。


しかし騎士達もカモフラージュの為に連れてこられたらしいので可哀想な事をしたと思ったが、ロードのそばに居られて嬉しいという感情が伝わってきたので同情も謝罪もしない事にする。


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