23.捕捉じゃなくて顛末だから
首が痛くなるほど空を見上げた後の話だ。
光の柱は程なくして徐々に消えていき、世界は息を吹き返したように色鮮やかな景色を見せた。
「ミヤビ、行くぞ!」
人々の歓声をBGMに、その光景をぼーっと見ていたら突然ロードに抱き上げられ、まるでジェットコースターのようなスピードで走り出された時は、心臓が止まるかと思った。
「師団長!! 一体何が起こって……!?」
途中どこからともなくやってきた男性が、ジェットコースター並みのスピードに追いつき、混乱しながらも並走してロードに話し掛けてきた。
「エルクッ生きてたか!!」
「はっ!! 何とか生き長らえました!! なぜか突然体調が良くなり、この大歓声で隊舎から出てまいりましたところ、師団長がいらしたので追い掛けてきましたが、一体何が…!?」
「テメェもついて来い!! 陛下がダンジョー公爵に幽閉された!!」
「なんですと!!?」
「ダンジョー公爵は拘束した! 陛下は離れの塔だ!!」
いやいや、このスピードの中でよくそんなに会話できるな。
彼らは走るスピードを落とすこともなく、簡単に状況を確認しあう。
そこへどんどんロードの部下っぽい人達が合流した事で、髭公爵の方へ行くチームとロードに付いてくるチームに分かれたのだ。
この城の持ち主である王様は、幽閉されていた場所からロード達に助け出された。
王様というから、立派な髭が生えた風格のある初老の男性かと思いきや、まだ20代前半くらいの青年だったことには驚いた。
助け出された後すぐに、城の周りに集まって来ていた数万もの国民の前で、堂々とスピーチしていたのでさすが王様だと納得したものだ。
どんどん集まってくる人々に、まるで人がゴミのようだと口に出しそうになったが、なんとか押し止めたばるす。
騎士達はどこから湧いて出たのかと思ったら、一部の隊舎が城壁内にあったらしく、そこに病に侵された騎士達が療養していたらしい。
王様のスピーチに湧くに湧きまくった国民は、今までの鬱憤を晴らすかのように騒ぎまくり、この日から三日三晩お祭りが繰り広げられた。
後にこの日は祝祭日とされ、国を挙げてのフェスティバルが行われる事になるが、それはまた別のお話。
転生してからずっと森に引き込もっているわけで、この世界の事情をよく知らない私が色々教えてもらえたのは、ゴタゴタした事が粗方片付いた後だった。
まず“魔法”、これは魔素が満ちていた時代には日常的に使用する位、市井の生活に根付いていたものだったらしいが、魔素が枯渇してからは誰も使えなくなり、魔法という概念はあるものの実際に目にした事があるのは長寿な種族の中でもごく一部の年寄だけだそうだ。
ちなみに精霊や神々に関しては魔素ではなく、“別のもの”を源とし力を行使しているのか、問題なく魔法のようなものが使えるんだとか。
だからロードは私を精霊だと勘違いしていたらしい。
精霊も神々も殆ど会えないレア種族(?)らしいが、神より、その使いである精霊の方が会う確率が高いそうで、それも勘違いされた要因かもしれない。
そもそも、神様である私には使いだといわれる精霊などいないが、これはどういう事なのだろうか。
『神王であるミヤビ様に近付ける精霊などおりません。むしろ我々神族であっても畏れ多いお方。
ミヤビ様のおそばに侍る事が出来るのは例え神でもごく一部の者だけです』
精霊の事を考えていたら、いつもの中型犬に戻ったヴェリウスにそんな風に言われた。
そう。ヴェリウスは光の柱が消えた後、ほどなくして元の大きさに戻ったのだ。
勿論発光していた毛も普段通り艶やかな黒色でほっとした。
それでも元の姿は3メートル位のビッグサイズなものだから目立つし、それを見た皆がひれ伏してしまって大変だった。
さながら例の印籠を見せた後のような状況に、まさかのヴェリウスがちりめん問屋のご隠居様だったとは…!! と予想外の展開に悔しい思いをするのであった。
次に文明の発展だ。魔法がなければ科学が発達するのでは…と安易に考えてしまいがちだが、魔素が枯渇すると生き物は短命になり、病にかかりやすくなる。
この世界では魔素が生命の源なのだから、そうなるのも当たり前だ。
文明の発展には、人が多く集まり互いに切磋琢磨出来る環境が欠かせないのだと聞いた事がある。
寿命や病気で人の数が減り、生きるのに手一杯で切磋琢磨もないような世の中では難しいといえる。
その為、地球の中世ヨーロッパ並みの技術力なのだろう。とはいえそこまで発展させる事が出来たこの世界の人々はすごい。
私のような奴らばかりなら、きっと未だに葉っぱが服や皿だった事だろう。
そんなわけがないからこの世界の服は、粗い縫い目の単純なものでも葉っぱではないのだ。皿だってきちんと陶器で出来ている。
勿論木製もあるが、金や銀で出来ているものもある。
しかし古着が主流なのは、作り手が圧倒的に少ない事と材料が不足している事が原因なのだろう。
まぁ王様や貴族の服は立派なものだから、縫い子を囲っているのかもしれない。
食事に関しては、食糧難で発展するしない以前の問題だった。
美味しい食事を作れるロードは稀な才能を持つ料理の達人だったらしい。
騎士を辞めて料理人になった方が世の為かもしれない。
「昔っから、材料さえありゃパッと見ただけで、どう調理すればいいか何となくわかるんだよなぁ」
等と飄々とした態度で言われるとムカつくのは何でだろう。
それは良いとして、金髪青年の話だ。
彼はダリ髭公爵との関与を疑われ投獄された。
罪を犯してでも救いたかったという奥さんは、病気も完治し元気になったと牢獄で聞かされたそうだ。
その際涙を流して喜んでいたらしい。
その後は自身の罪をただただ反省し、今は静かに処罰される事を待っているそうだ。
処罰とはいっても、何もしていないも同然なので騎士を解雇され王都を追われる程度で済むらしい。
何もしていないのに処罰が重すぎると思うかもしれないが、反逆者の一味にこの処罰はかなり軽いといえる。
王都を追われた後は、ロードの知り合いがいるギルドで冒険者として働かせるとロード本人が言っていた。
「あいつがあんな事をしたのは俺の責任だ」
と自分を責めながら。
直属の部下という事もあるがそれだけでなく、金髪青年はロードの親友の息子らしいのだ。
実は金髪青年、ロードに憧れて騎士になったらしい。
産まれた時からの付き合いだけあって、もはや自分の息子のように思っているのだろう。
そんなわけで金髪青年の今後はロードがフォローしていくようだ。
そしてダリ髭公爵改め、ダンジョー公爵は…………




