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異世界で神様になってたらしい私のズボラライフ  作者: トール
第5章

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227.聖女


え? 私はダンスを踊らないのかって?

踊るわけないだろう。ダンスなどリズム感の欠片もない私がやってみろ。盛大に転けるか相手の足を踏む末路しかない。


トモコは昔からヒップホップから盆踊りまでダンスは得意だったから、カルロさんがリードしてくれるなら大丈夫かもしれないけれど。

それに、私にはパートナーがいないからダンスはしなくてもいいのだ。そう、ぼっちなのだ。



お嬢様と直接話したくてこのパーティーに参加したのはいいが、本日の主役はファーストダンスが終わっても招待客からのお祝いの挨拶で1人になる気配すらない。

このままでは壁の華として終わってしまう。せっかく来たのにそれでは困るのだ。


さっきからタイミングを見計らう為にお嬢様を観察しているのだが招待客の挨拶は途切れる事はない。

勿論“神王の力”を使えばすぐに解決する事だが、人間としてあのお嬢様に出会ったのだから人間として接するべきではないかと、私なりに考えているのだ。


楽団が音楽を奏で続けている中、年若い男女がホールで楽しそうに踊っているのを、視界の端に捉えながらお嬢様の動向を気にする。



しかし子爵とは貴族の中での地位はそんなに高くないはずなのだが、公爵家や侯爵家の人と繋がりがあるんだなぁと思いながら周りを観察する。

カルロさんはヘルナンデス子爵家というよりは、先代で嫁いだ豪商ムーア家の方との面識があるらしく招待されたのだとか。恐らくルーベンスさんの奥様もそうなのだろう。

“豪商”という位なので手広く商売もしているだろうし、貴族との繋がりも深いのかもしれない。


公爵家や侯爵家の面々はムーア家繋がりなのだろうかと憶測していると、ヘルナンデス子爵に動きがあった。


「さて皆様、本日は娘の12歳の誕生パーティーですが重大な発表を併せてさせていただきたく存じます」


ヘルナンデス子爵の言葉に招待客がざわつきだす。

お嬢様は諦めたような表情で父親を見つめ、俯いたのだ。


「皆様がご存知の通り、貴族は12歳になると皆魔力の適性検査を行います」


へぇ知らなかったなぁ。とヘルナンデス子爵の演説に耳を傾ける。

どうやら12歳で魔力量が安定するらしく、王都の教会で検査をするようなのだが実はこれ、魔素の枯渇が大々的に知られだした100年以上前から行っておらず、最近復活したのだとか。


「そこで娘は、“聖魔法”の適性があると認められたのです!!」


子爵の言葉にざわめきが大きくなる。

“聖魔法”とは一体なんだろうかと首を傾げていると、近くに居た貴族が、“聖魔法”についての知識を披露してくれた。さっきの検査の話もこの貴族が訳知り顔で得意気に披露してくれたのだ。


なんでも“聖魔法”とは光魔法の一種で、癒しの力や浄化の力に特化しているらしく、“聖魔法”の適性がある者は動植物や精霊等に好かれやすいのだそう。神に加護を貰っている者の中には“聖魔法”に適性がある者が多いとの事だ。


「娘はこれから“聖女”として教会へ参ります!! そして神にお仕えする誉れある一生を迎えることとなります!」


“聖女”って、ファンタジーによく出てくるあの? 勇者とかと一緒に行動したりする?


「なんと名誉な事でしょう!!」「神のお側に上がれるとはっ」「まさかルマンド王国から“聖女様”が!?」等と招待客側から感嘆の声が上がっている。

しかし当の本人は嫌がっているようにしか見えない。

もしかして、ウチの服を着てパーティーに出たら聖女にならなくてもよくなる! とか思ってたのだろうか。

確かに恋愛成就の他にプチ幸運がやってくるような噂もあったが…。


ロードから聞いた教会の話では良いイメージはないし、“神に御仕えする誉れある一生”と言う位だ。結婚せず、教会に閉じ込められるということなのかもしれない。




沸き起こる歓声と拍手に、この世界の人々の中で聖女の存在がいかに大きいものかを知る。

もしかしたら、聖女=精霊位の認識なのかもしれない。


よく見ればこのホールにカラフルな祭服を着ている人達が数人居るようだ。あれは教会関係者ではないだろうか。


キョロキョロしていると、トモコとカルロさんがこちらへとやって来たので声を掛ける。


「ダンスはどうだった?」

「足を踏む失敗はしなかったよ~でもヒップホップとは全然動きが違ったや~」


それはそうだろう。ヒップホップとワルツを一緒にしたらダメだ。


「なかなか斬新な踊りでね。素敵だったよ」


ニコニコ笑うカルロさんだが、斬新な踊りとは何だと聞くのが怖くなった。


「しかしベルーナ殿が“聖女”だったとはね……教会の権威がこれ以上増す事は避けたいんだが」


カルロさんの呟きに、教会は力を持ち過ぎているのかもしれない現状に気付く。

つまり、“聖女”という新たな“象徴”を手に入れた教会の“力”は更に増すわけで、“国”に口出ししてしてくる事も有り得るのだ。

もしかしたらすでにそんな状況なのかもしれない。


「みーちゃんがパーティーに潜入する位気になってたのは、彼女が“聖女”だったからなのかもね」

「え?」


トモコの言葉に小首を傾げれば、だって“聖魔法”の適正があるだけでは聖女や聖人とは言わないんだよ。

神々と波長の合う人間が聖女だったり聖人って言われるの。もしくは巫女とかね。あの子はそういった意味では本物の“聖女”みたいだし、だからみーちゃんも気になっちゃったのかも。と続けるので愕然とした。


「私があの子に惹かれてたって事?」

「えー違うよ~。惹かれてたっていうか、例えは悪いけど…普段なら気にもならない道端の小石がたまに目に付く事があるでしょ? そんな感じ?」


それが私達からすれば聖女とか聖人かなぁ。と話すので口の端が引きつった。

例え女の子であっても、惹かれたとか言ってたらロードさんにお仕置きされちゃうよ~という言葉は聞かなかった事にする。


「神々からしたら聖女という存在はそんな程度なんだね」


人間は教会の象徴のように大々的にまつりあげる存在だというのに。と苦笑いしているカルロさんにトモコは、人間と神の感覚の差ってやつですね~とよく分からない言葉を掛けていた。


パーティーも終盤を迎えると、お嬢様も諦めているのか聖女と分かった途端にすり寄りだした大人達を笑顔で相手し始めている。まだ12歳になったばかりだというのに、貴族というのも大変だと他人事のように思っていれば、お嬢様がお付きの人と共に会場から離れたのだ。


「トモコ、カルロさん。お嬢様が会場から出たから追いかけてくるね」


そう言い置き私もお嬢様を追って会場から抜け出した。チャンス到来である。



従者は例によって例のごとく、お店に来たあの失礼な態度の男だった。男もまたカラフルな祭服を着用している事から教会関係者である事が分かる。


「ベルーナ様、貴女は“聖女”様なのですよ。もう少し屹然とした態度で━━…」


なる程。彼は従者ではなくマネージャー的な役割の人なのかと、2人の会話に耳をすませているとお嬢様と目が合ったのだ。

おや? 認識阻害魔法をかけているはずだがと首を捻っていると、お嬢様も同じように首を傾げている。


「ベルーナ様、どうかされたのですか?」


従者…ではなく教会関係者(マネージャー)の男が訝しげな顔でこちらを振り向く。しかし見えていないのか何もありませんがと眉をひそめたのだ。


「……何も、ないわよね??」


成る程、認識阻害は効いているが違和感があると。これが“聖女”の力というやつなのだろうか。


「そんな事よりも、パーティーが終わり次第教会へと移動していただきますので━━…」


自分の言いたい事だけ言って、お嬢様を置いて会場へ戻って行った男に呆れた視線を送りつつもラッキーだと思う。

私は誰も居ない事を確認してから認識阻害魔法を解いたのだ。


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