221.世界の理
ヴェリウス視点
「バイリン国とフォルプローム国の一件は神々が殺気立ったけれど、さすが神王様ね。誰にも文句を言わせない方法で見事に解決してしまったわ」
相変わらず水風船を胸に付け、クネクネと落ち着きのない動きで先日の事を話す竜神ランタンにフンッと鼻を鳴らす。
『当たり前だ。ミヤビ様は無意識に“世界の理”を理解しておられるのだからな』
「“魂”に刻みこまれた神王の記憶という事かしら……」
今回の件は、もう少しで神々が人間と敵対してしまう危機的状況にあったのだ。
ジュリアスの神域ならばいざ知らず、神王様の神域を侵そうなどとは考える事すら許されることではない。神々が殺気立つのも理解出来る。かくいう私も、今回ばかりは国ごと消してしまおうと思ったものだ。
しかしミヤビ様は、事件を起こした関係者だけを罰した。しかも罰の重さは人間達自身に決めさせたのだ。
この選択は人を信じるミヤビ様のお優しい心と、“世界の理”を守ろうとする神王としての記憶がそうさせたのだと私は理解している。
“世界の理”とは何か、トモコ辺りが聞けば疑問に思うだろう事だ。
今回ミヤビ様が選択した罰が良い例だが、分かりやすく言えば因果応報。そういった言葉が地球にあるだろう。良い行いも悪い行いも全て自身にかえってくるという意味であるが、それこそが“世界の理”である。
理から外れれば歯車が狂うように全てが狂っていく。
そうなれば世界はあっという間に崩壊してしまう。
我等神は各自の管轄している者等が“世界の理”から外れぬよう導く事が主な役割なのだ。まぁ他にも色々あるがな。
とにかく、今回はミヤビ様が上手く解決してくださらなければ“修正”するのに膨大な時間と労力を使う事となっただろう。
「結局フォルプローム国の首脳陣は国民の手によって奴隷に落とされ、死んだ方がマシっていう位の扱いを受けているわ。バイリン国の方はフォルプローム国が実質支配していたから、同じ目にあったのはフォルプローム国の関係者だったらしいわよ」
『そうであろうな。バイリン国は一度国王と王太子を処罰している。その後は金で雇われた傭兵や奴隷の兵がほとんどであったしな』
「一度神の怒りを買っているのに、同じ事を繰り返すなんて人間は愚かよねぇ」
ランタンはそう言って興味が失せたように茶菓子に手を伸ばした。
私はもう一度鼻を鳴らすと、人間共を管轄する神々の顔を思い浮かべる。奴等の気合いを入れ直さねばなるまいか、と。
「━━…それでどうなの? 神王様の記憶が戻る気配は?」
ランタンの言葉で鼻の頭にシワが寄った。
『以前のたった一度きりのアレ以来戻る気配はないようだ。しかし“前”の記憶が戻ろうと戻るまいと、神王様に御変わりはないのだ。変わらず付き従うまで』
「それはそうだけど、神王様が何故御隠れになったのか気になるじゃない。アタクシ達誰一人理由を知らないのよ」
ランタンは神王様が前に御隠れになった理由が判明せねば、また同じ事が起こるのではないかと心配しているのだ。
『心配はいらん。今回は神王様の“つがい”も“親友”もこの世界に居るのだ』
そう、“前”とは何もかもが違うのだ━━━…
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雅視点
「あ~~よく寝た。13時間も寝ると全っ然頭働かないや」
ベッドから降りて部屋を出ると、スリッパをはいた状態でパタンパタンと足音を鳴らしながら階段を降りる。
誰の気配もない静かな居間に入ると、何もする気が起きずにソファへとダイブしたのだ。
くぁ~っとあくびをしてしばらくボーッと天井を見てから、ソファから落ちた片足をぶらぶらさせつつまた一つあくびをする。
「テレビ…はDVDしか映らないし、マンガはもう読みきったしなぁ~」
等とゴロゴロしている内にお腹が鳴って、朝も昼も食べていない事に気が付いた。
昼御飯にしようと立ち上がりキッチンへ行けば、机の上にはラップのされたおかずが並んでいた。
昨日の残り物のコロッケとサラダだ。コンロに置かれた鍋の中にはコンソメスープ(ゴロゴロ野菜入り)が作られており、さすがロードだと一人頷きながら席へついて食べ始める。
食べ終わるとすこし頭がはっきりしてきたのか、ヴェリウスやトモコだけでなく帰って来たはずのショコラの姿も見えない事に気付き首を傾げた。
「おかしいなぁ。昨日はずっと私に引っ付いて離れなかったのに、今日はどこにも居ないや」
またマカロンと遊びに行ってるのかなぁと思いながら、久々にだらだらしていたら、いつの間にか眠りに落ちていたのだ。
13時間も寝たというのに。




