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異世界で神様になってたらしい私のズボラライフ  作者: トール
第5章

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219.ロードと教会


「ロードは教会に対してあまり良い印象がないの?」


先程の冷たい対応といい、この間の「教会ねぇ…」のあの表情といい何かあったのだろうかと訊ねてみると、少し逡巡した後にあー…と言い淀み、言ってなかったか? と言いづらそうに頭をかいて眉尻を下げたのだ。


「俺ぁ元々孤児でなぁ…赤ん坊の頃から教会に世話になってたんだよ」


私を抱き上げたままソファに座ると、そうポツリポツリと語り出す。


「世話っつっても残飯みてぇなクズ飯与えられて後は放置されててな、元々身体が丈夫だったからなんとか育ったが、4つぐれぇの時から教会にいた大人達のストレス発散に殴られ蹴られで、いつも身体の何処かしらに怪我してたよ。で、もうここにゃ居られねぇって飛び出して…でも魔素が尽きかけてた世界はどこも同じようなもんだった。結局雨風が凌げる屋根があるだけでもマシだったって教会に戻ってよぉ」


あまり私には聞かせたくない話だったのだろう。少し躊躇いがちに話すロードは痛々しかった。

途中頭を撫でたりしながら話を促せば、抱き締める力も強くなるのだ。


「10になる前だったか、飯もほとんど貰えなくなった頃に神父達の晩餐を覗き見してな。パンにスープ、メインに肉料理。どこにあったんだよってなもん食ってやがった。俺達にゃ枯れた野菜の根っこか葉っぱしか回ってこねぇのによ…後々分かった話だが、教会へ祈りに来た奴から巻き上げてたんだよ」


そんなだからガキだけで森に入ったり、盗んだりしながら暮らしてたんだ。と教えてくれた。

10になった頃には結局教会からも追い出され、路地裏のボロボロの空き家を見つけて子供達が集まって暮らしていたのだとか。

その後森で狩りをしていたらいつの間にか腕っぷしも上がっていて、たまたま巡回していた騎士に目を付けられ騎士団に見習いとして入隊しそのまま順調に騎士となって貴族の養子になり今がある。と大雑把に説明されたのだが、それ、初めて知ったんですけど…。

ロードって貴族だったの? よく考えると私、ロードの家族に紹介された事もないんですけど? 何かこの扱い…愛人とかそういう感じでは?


「そんな顔すんじゃねぇよ。オメェを家族に会わせなかったのには理由があんだよ!」


いえいえ良いんですよ? 今まで気づかなかった私が悪いんだし? 私はご家族に紹介できないような、そんな関係だったということなんでしょうし? 結婚って何だ。所詮遊びか。指輪なんぞくそくらえか?


「ちげぇって!! 正真正銘オメェは俺のつがいで妻だから!! 指輪投げようとしてんじゃねぇよっ 悪かった! オメェに説明してなかった俺が悪かった!! だからそんな可愛い顔してむくれんなって。な?」


謝っている割にはデレッとした顔なんだけど。


「オメェを紹介出来なかったのはな、俺が養子に入った家が貴族ってのが問題なんだよ」


言っている意味がわからず首を傾げると、ロードは私の頭を撫でて指輪を私の指にはめ直しながら答えた。


「問題はオメェの立場だ」


曰く、私が“神王”である事は絶対言えない事で、それでもロードのつがいが精霊であるとすでに知れ渡ってしまっている。しかし、貴族として精霊を妻に迎え入れるという事はその家の権力が強くなる事を示し、王の立場が揺らぐという事であった。

ルマンド王国の国王はただでさえ若く気弱で古参の貴族連中になめられているというのに、精霊を家族に迎えた貴族がいれば、下手するとその血筋を王にという話になり内乱が起こる可能性もあるのだとか。

だからロードはその家の養子から外れたのだと話した。


「え!? 養子から外れたの!?」

「おう。だからもう赤の他人だな」


何でもない事のように言うが、大事件だと思う。

だってロードを養子にしたのも何かメリットがあっての事だろうし…。


「良いんだよ。師団長にまで出世して今までかかった金も返したし、別に縁が切れたわけでもねぇ。ただ養子じゃなくなっただけの話だ」


縁が切れたわけではないという言葉にはホッとしたが、何だか自分がロードと家族を離別させてしまったようで悲しくなった。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



ロード視点



ミヤビに自分の貧しかった過去を話したが、こんなつまんねぇ話を本当なら聞かせたくなかったってのが本音だ。

だって格好悪ぃだろ。大人達に暴力をふるわれて手も足も出なかったガキの頃の話なんてよぉ。

愛するつがいの前では格好良くありてぇんだよ。男ってのはそんなもんだろ。

それに、俺の過去の話で優しいミヤビの心を曇らせたくはない。


ああ…やっぱり辛そうな顔をさせちまった。でもな、俺ぁオメェに出会ってから幸せな事しかねぇんだ。だからんな顔しなくていい。

そんな事を思いながらミヤビを抱き寄せる。


ミヤビの良い匂いと柔らかな身体を堪能しながらふと昔言われた事を思い出した。



━━…ロードよ、つがいは良いぞ。どんなに辛く苦しい事があっても、つがいの顔を見ればそんなもん飛んでいっちまう。いつかお前にもそんな存在が現れるだろうよ━━…



あれはいつだっただろうか……


そうだ、確か俺が14の頃だ。

あの頃騎士見習いから騎士になって、親父の養子になったんだったか。


親父との出会いは12の時。

当時の第3師団長をしていたあの人に拾われて騎士見習いとして入隊した俺は、鬼のようにしごかれて最年少で騎士となった。

親父は伯爵位で、騎士でもない庶民を養子にする事を周りに反対されていたらしく、やっとお前を息子に出来ると嬉しそうに笑っていたっけか。親父には俺より10も上の息子がすでにいたってのに物好きだと当時は思っていた。


トントン拍子で伯爵家に迎えられ、親父の本当の息子との仲も悪くはなかった。人族だけあって家族仲は比較的良く特に不満もなかった。教会で暮らしていた時とは比べ物にならねぇ位穏やかな生活だったさ。けど、俺だけがこの家族の中で異物なんだという思いは抜けきらなかったんだ。

せめてつがいでも現れりゃ違うんだろうとは思っていたが、残念な事に俺には10年経っても20年経ってもつがいは現れなかった。


35も過ぎた頃にゃ俺はずっと独りなんだろうと諦めてたね。本当の“家族”なんて俺にゃあ手に入れられねぇもんなんだってよ。

まぁ、親父が師団長を引退して俺が後釜に入ってからは忙しくて、現れやしねぇつがいなんぞより仕事が大事だなんてバカな事考えてたが、あの時にも親父は“つがいに出会えば世界が変わる”なんて言ってやがって、変わるかよ。バカじゃねぇのって思ってた。


第4師団長だった俺の親友にすら既に子供も居て、しかもそのガキが俺に憧れて騎士になっていて、酒盛りん時に幸せそうにその事を語るもんだから、それを見ていたら正直羨ましくて妬ましかったりしたのも事実だ。んな事認められずに悶々としてたけどな。


そんな日々の中でも、魔素の枯渇は酷くなる一方で…親友は息子と嫁を残して呆気なく逝っちまった。

そん時ぁさすがに、神々は何で助けてくれねぇんだ。神王様は何でこの世界を捨てちまったんだって恨みもしたさ。

教会はクズ共の集まりだし。神王なんてクソくれぇだって。

今考えると逆恨みもいい所だけどな。しかもその神王様が俺のつがいだったなんて思いもしなかったけど。

実際はクソなんてとんでもねぇ。可憐な一輪の花だよ。いや、花よりもっと綺麗で可愛くて甘くてふわふわな俺だけの天使ちゃんだったんだけどな。



話は逸れたが、親友が病気にかかっちまった時から、俺ぁ何か良い方法はねぇかって必死に探した。

それこそ世界中駆けずり回ったが、結局そんな都合の良い方法は見つからねぇ。親友も死んじまった。それでも親父達がいつ病で倒れるかも分からねぇってんで、どんな情報でも希望があればそこへ飛んで行った。

そうしてある日、深淵の森の事を知ったんだ。


木々が生い茂っているだの魔物が出没しただのと俄には信じがたい情報がもたらされたあの日。


森に入った俺は、ミヤビと出会った。


親父の言う通り、世界が一変した日だった。

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