213.拘束
リン視点
「第3師団5部隊所属のリン、ですね。少しお話がありますので宜しいですか?」
口調は穏やかだがその瞳はまったく正反対の冷たさを湛えてオレを見る優男…第1師団長レンメイ・シュー様。
5部隊はこれから他部隊と合流して深淵の森へと遠征に行く予定だった。それを1人拘束とは穏やかではない。
安全とは言い難い遠征で1人でも抜けてしまえば計算されて組まれていた戦闘バランスが崩れてしまうのだ。
「お待ち下さいっ 我々はこれから深淵の森へ遠征に参ります。そうでなくとも、正当な理由とロヴィンゴッドウェル師団長の許可がなくては我が部隊の騎士の拘束は認められません!」
部隊長が反論するのも無理はない。が、相手が悪かった。
「他師団ではありますが、私も同地位の師団長ですよ。勿論正当な理由もあります。ですので、遠征は中止し5部隊は通常勤務に戻りなさい」
「な…っ」
有無を言わさずオレを拘束した第1師団の部隊は、確か内部監査を担当する部隊である。
つまりオレは何かを違反して拘束された事になる。まったく身に覚えはないが。
「部隊長、ご迷惑をお掛けして申し訳ありません。ですが私は犯罪を犯した覚えはありませんので、きっちり話を付けてすぐ戻ってまいります!」
はっきり宣言して前を見据える。
第1師団長は少し驚いたようにオレを見たがそれも一瞬で、歩き出したのだ。
せっかく憧れの第3師団の騎士になれたのだ。何を誤解されているか知らないが、オレは騎士を辞めるつもりはない。
誤解を解いて必ず復帰してやる! そう心の中で気合いを入れた。
◇◇◇
「━━…そう堅くならなくても大丈夫ですよ。我々も君が犯罪を犯したとは考えていません」
地下の留置所ではなく、王宮の客室へ通されたオレはあまりの豪華さに呆然と突っ立っていた。
第1師団長は高そうなソファにゆったり座り、お茶を飲んでいる。
「あの…でしたら何故オレ…私が拘束(?)されたのでしょうか」
「……強いて言うなら君の立場に問題があるのですよ」
よく分からない事を言われたが、もしかしてフォルプローム出身というのが問題なのだろうか? いや、フォルプローム出身者なら他にも居るのだからそれは関係ないだろう。
なら何故…?
やはり落ち着き払ってお茶を飲んでいる第1師団長を訝しげに見遣れば、座りなさいと言われて恐る恐る対面へと腰を下ろした。
「いずれロード…ロヴィンゴッドウェル第3師団長も来るでしょうから、それまではお茶でもしていましょう」
オレの目の前に広がる見たこともない旨そうな菓子と、高級そうなお茶はとてもじゃないが一介の騎士であるオレには手の届きそうもない代物で……
「どうぞ。宰相閣下の菓子棚から拝借してきた菓子とお茶です」
堂々と言い切った第1師団長に眩暈がした。
「宰相様から盗ってきたのですか!?」
「盗ってきたとは心外ですね。頂き物です」
シレっと返してきた言葉にこの人には何を言っても無駄だと諦めた。
「言っておきますが、ロードやカルロもよくやっている事ですよ。宰相閣下はよく菓子を手土産にもらいますので食べきれず専用の菓子棚に放置しているんですよ」
フンッ と鼻を鳴らしてパクパクと菓子を食べる第1師団長にそうなんですか…と相槌を打ち、滅多に食べれる物じゃないしと折角なので頂く事にした。
見るからに高級そうな菓子を口に入れる。が、ミヤビからこの間貰った菓子の方が旨いな…とただ甘ったるいだけの菓子を睨む。まるでゴテゴテ着飾っただけの中身の無い令嬢のようだと思いながら。
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雅視点
「さて、俺ぁそろそろレンメイとリンの様子でも見てくるわ」
私を膝から下ろしたロードはそう言って立ち上がる。
ルーベンスさんはそれを見て柳眉をひそめた。
「ロヴィンゴッドウェル第3師団長、貴様…ゴホンッ 貴方は神王様のつがいでありながら今の生活を続けるのかね」
「あ? どういう意味だ」
「分かっているのかね。“神王様”はこの世界全てのものの頂点に立つ至極の御方。そのつがいである貴方はそれに連なる「俺はつがいの立場がどんだけ偉くても変わらねぇよ。俺は俺でしかねぇ。気持ち悪ぃ事言ってねぇでアンタはミヤビの正体が誰にもバレねぇように頑張ってくれや」」
ルーベンスさんの言葉を遮って何やら格好良い風な事を言っているロードは確かにゴリラ以上でも以下でもない。変わらずゴリラである。
「…善処しよう」
ゴリ…ロードの言葉にそう返したルーベンスさんを尻目に、彼は私の頭を撫でて、良い子にしてろよと囁くと部屋を出て行ったのだ。




